DTMスクールと独学、お金を払う価値があるのは「添削」の部分だけ

DTMの学び方を調べ始めると、無料の解説動画、数千円の動画講座、月1万円前後のマンツーマンレッスン、十数万円のコース型スクールまで、値段の幅が大きすぎて比べ方が分からなくなる。動画を見れば操作は覚えられるのに、なぜわざわざ人に習う必要があるのか。逆に、独学のまま何年も続けて、結局1曲も仕上がらないまま終わってしまうのはもったいない。 私の考えでは、この境目は「何を学ぶか」ではなく「自分の曲を誰かに聴いてもらう必要があるか」で決まる。DAWの操作や音楽理論の知識は動画と本で十分に身につく。お金を払う価値がはっきり出てくるのは、自分の曲のどこが悪いのかを指摘してもらう部分、つまり添削だ。この記事では、動画で足りる部分と人に見てもらわないと止まる部分を分けたうえで、国内のオンラインスクールの料金体系と添削の有無を軸に、独学との線の引き方を整理していく。 動画で足りるのは「操作」と「知識」 DAWの操作や書き出しの手順は、画面を見ながら覚えるのがいちばん早い。Photo: Marco Raaphorst from The Hague, The Netherlands / CC BY 2.0 DAWの基本操作は、動画との相性がとても良い分野だ。トラックの作り方、ピアノロールへの打ち込み、プラグインの挿し方、オーディオの書き出しといった手順は、画面の動きをそのまま真似できる動画のほうが文字の解説より圧倒的に分かりやすい。国内には無料で読める解説記事や動画が大量にあり、主要なDAWであれば操作で困ったときに答えが見つからないことはまずない。英語圏まで含めれば、ほぼすべての機能に誰かの解説がある。 音楽理論や用語の知識も同じで、コードの仕組み、スケール、リズムの基本、EQやコンプレッサーの各つまみの意味は、本と動画で順番に学べる。海外の動画講座は定額で見放題のサービスが多く、年間で1万円台から2万円台程度の出費で膨大な講座に触れられる。国内の動画講座も、セールの時期を選べば1本数千円で手に入ることが多い。この段階でマンツーマンのレッスンに月1万円以上払うのは、正直に言えばかなり割高だと思う。 ここまでの学習は「正解がある」ことが共通点だ。ボタンを押せば音が出る、設定を変えれば結果が変わる。自分で試して確かめられるので、先生がいなくても前に進める。独学で最初の数か月を過ごすのは、まったく遠回りではない。 独学が止まるのは、自分の曲の何が悪いか分からないとき 夜の自宅スタジオ。ひとりで作業していると、自分の音の欠点にはなかなか気づけない。Photo: Mooganic / CC BY 2.0 独学で手が止まる場面は、だいたい決まっている。ひとつは、ループは作れるのに曲として最後まで仕上がらないこと。もうひとつは、完成させた曲がなんとなく素人っぽく聴こえるのに、どこを直せばいいのか分からないことだ。動画を何本見ても、そこに映っているのは他人の曲であって自分の曲ではない。一般論としての「低音を整理しよう」は理解できても、自分の曲のどの楽器のどの帯域が濁っているのかは、教えてもらわないとなかなか分からない。 この状態になると、新しい動画を探してはまた見るという繰り返しに入りやすい。知識は増えているのに、完成した曲の数は増えない。始めた曲は何十個もあるのに、仕上がったのは1曲か2曲という話は珍しくない。締め切りも、聴いてくれる相手もいないので、少しでも気に入らない部分があると次の新しいアイデアに逃げてしまう。私自身も、ここで足踏みする時間がいちばん長かったと感じている。 ここから先は「正解がひとつではない」領域だ。アレンジの判断、ミックスのバランス、どこで曲を終わらせるかといった決め事は、経験のある人が自分の曲を聴いて「ここが原因」と指摘してくれると一気に進む。お金を払う意味が出てくるのは、まさにこの部分だと思う。逆に言えば、操作や知識の段階でつまずいているうちは、スクールに通っても動画と同じ内容を高い値段で教わることになりやすい。 国内オンラインスクールの料金は3つの型に分かれる 国内のオンラインDTMスクールは、料金の払い方で大きく3つに分けられる。2026年10月時点の各スクールの公式サイトの表記をもとに整理すると、次のようになる(価格やキャンペーンは変わることが多いので、申し込む前に必ず最新の表記を確かめてほしい)。 型 例 料金の目安 特徴 コース一括型 スリープフリークス 初級コース11回で118,800円、ミックス・マスタリング12回で151,800円など 全回マンツーマン、レッスンは録画して見返せる 月謝型 島村楽器 PCミュージックコース 月12,925円+施設費、入会金あり 45分の個人レッスン、年24回の固定 月謝型 JOY MUSIC SCHOOL 月2回13,980円、月4回24,980円 45分の個人レッスン、楽曲添削あり 1回払い型 ABCミュージックスクール 60分4,818円 Zoomで個人レッスン、録画を無料で受け取れる 1回払い型 笠目音楽教室 月1回5,580円から Zoomなどでの個人レッスン、30分の無料体験あり コース一括型は、総額は大きいが回数と内容が最初から決まっているので、ゴールまでの道筋が見えやすい。月謝型は、毎月決まった回数のレッスンが入るぶん、強制的に曲を進める締め切りができるのが利点だ。1回払い型は、必要なときにだけ予約できるので、独学をベースにしながら行き詰まったところだけ相談する使い方に向いている。 どの型でも、オンラインのレッスンはZoomなどの画面共有を使い、講師が自分のDAWの画面を見ながら説明してくれる形が主流になっている。録画を残してくれるスクールなら、レッスンの後に手元で繰り返し確認できるので、1回あたりの価値が大きく変わる。 比べるべきは値段より「添削があるか」と「録画が残るか」 スクールを選ぶとき、つい月謝の安さで比べたくなるが、私は値段より先に2つの点を確認したほうがいいと考えている。ひとつは、自分が作った曲を事前に提出して、講師に聴いてもらう仕組みがあるか。もうひとつは、レッスンの録画やメモが残るかどうかだ。 添削の仕組みがあるスクールでは、レッスンの時間を「自分の曲のどこを直すか」に使える。逆に、その場で操作を教わるだけのレッスンだと、内容が動画講座とあまり変わらなくなってしまう。同じ月1万円でも、毎回自分の曲を聴いてもらえるのか、決まった教材を順番にこなすのかで、得られるものはまったく違う。体験レッスンの段階で「自分の曲を持ち込んで聴いてもらえるか」を聞いてみると、そのスクールの性格がよく分かる。 録画が残るかどうかも、思っている以上に大事だ。ミックスの指摘は、その場では分かったつもりになっても、翌日には細かい数値や手順を忘れてしまう。録画があれば、自分の画面で同じ操作をなぞりながら確認できる。講師との相性も見逃せない。ジャンルの得意不得意は講師によって大きく違うので、自分の作りたい音楽を普段から手がけている人に当たるかどうかで満足度は変わる。多くのスクールに無料か低額の体験レッスンがあるので、契約の前にここを確かめておきたい。 海外では「動画の定額」と「単発の添削」を組み合わせる 機材の前で説明を受ける見学者。人から直接教わると、手順の理由まで伝わりやすい。Photo: W.carter / CC BY-SA 4.0 英語圏の音楽制作の学び方を見ると、知識と添削を分けて買う考え方がはっきりしている。大学レベルの講座をオンラインで無料聴講できる仕組みがあり、動画と読み物は無料で、課題の採点と修了証が欲しい人だけが1講座あたり数十ドルを払う、という形が定着している。大学のオンライン課程は、講師が課題に目を通してくれる代わりに、修了証の取得に数千ドル規模の費用がかかる。知識は安く、人の時間は高い、という値段の付き方がそのまま見える。 ...

2026年10月10日 · 1 分 · 96 文字 · kingsworksub-jpg

コード進行から1曲を仕上げる1か月、手が止まる場所を先に決める

DAWを開いて最初の4小節や8小節のコード進行を作ったものの、その先に進めずに画面を見つめたまま時間が過ぎてしまう。作曲を始めると誰もが一度はぶつかる壁が、この「ループからの脱出」だ。すべてを白紙から順番に作ろうとすると、構成のどこかで必ず手が止まり、そのままプロジェクトファイルを開かなくなってしまうという悪循環に陥る。 1か月という限られた期間で1曲を形にするには、あらかじめ「どこで手が止まりやすいか」を把握し、作業の順番を固定してしまうのが近道だ。白紙の恐怖を克服し、着実にゴールへ向かうための段取りを紐解いていく。 4小節のループから全体像を組み立てる 五線譜やピアノロールに向き合う前に、曲の骨組みをあらかじめ整理しておく。Photo: neurovelho / CC BY-SA 3.0 4小節の音が心地よく鳴り響くと、ついついその心地よさに浸ってしまいがちだ。しかし、そのままでは何分経っても展開が生まれない。まずは、その4小節を「サビ」にするのか「Aメロ」にするのかを最初に決めてしまう。 全体の構造を先に決めておけば、次に作るべきパートが自ずと見えてくる。イントロがあってAメロ、そしてサビへ抜ける。この大まかな地図がないまま音を重ねても、ただ音がうるさくなるだけで曲としてのまとまりが出ない。まずは「どこが一番盛り上がるのか」を最初に定めておくことが肝心だ。 曲全体の長さを3分から4分程度と仮定するならば、イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、間奏、アウトロという基本のテンプレートに当てはめて考えるのが最も安全である。最初は冒険をせず、王道の構成をなぞるだけでも十分にオリジナリティのある楽曲に仕上がる。 1週間ごとに区切る1か月のスケジュール 焦らずに1曲を仕上げるためには、1週間ごとの役割分担をあらかじめカレンダーに落とし込んでおくことが効果的だ。行き当たりばったりで制作を進めると、いつの間にか音の洪水に溺れてしまい、どこを修正すべきか分からなくなってしまう。 第1週: コード進行とリズムの基礎固め(4小節の核を作る) 第2週: メロディのせと全体の構成(A・B・サビの配置) 第3週: アレンジと音色選び(楽器のレイヤーを重ねる) 第4週: ミックスの微調整と仕上げ(全体のバランスを整える) 各週でやるべきことを一つに絞ることで、迷う時間を減らし、着実にゴールへ近づくことができる。第1週でいかに基礎となるループを固めるかが、後半の展開をスムーズにする最大の鍵になる。 手が止まる原因を先回りして潰す 作業が進まなくなる瞬間は、たいてい「どの音を重ねるべきか」「次の展開でどう変化をつけるべきか」で悩み始めたときだ。音色選びに何時間も費やすのは避けたほうがいい。 あらかじめお気に入りのドラムキットやピアノ音源をいくつか決めておき、迷ったらそこから選ぶルールにしておくと、制作のテンポが落ちにくい。完璧な音を目指すのは最後に回し、まずは全体の流れを一本の線で繋ぐことを優先したい。 プラグインの選択肢が多すぎると、音選びだけで1日が終わってしまう。だからこそ、普段から使い慣れたお気に入りのプリセットを数個に絞り込み、迷う余地を物理的にシャットアウトする環境作りが不可欠である。 楽曲のダイナミクスを生み出す工夫 4小節をそのまま並べるだけでは、リスナーは必ず飽きてしまう。サビに向かって盛り上がりを作るために、Aメロでは楽器の数を減らしたり、ベースの音域を低めに抑えたりといった「引き算の美学」を取り入れることが重要だ。 変化をつけるポイントをあらかじめスケジュールに組み込んでおけば、アレンジの段階でどこにどんな音を足せばいいかで迷わずに済む。例えば、Bメロの後半でスネアのロールを入ったり、フィルターを開閉させたりするだけでも、劇的なコントラストを生み出すことができる。 楽曲における緊張と緩和のバランスは、リスナーの耳を飽きさせないために極めて有効な手段である。常に全楽器がフルパワーで鳴り響いている状態は、かえってどの音も引き立たなくさせる原因となるため、パートごとの役割分担を明確に意識することが求められる。 DAW環境の最適化とテンプレート活用 制作をスムーズに進めるためのもう一つの秘訣が、DAWの「プロジェクトテンプレート」の活用である。毎回ゼロからトラックを作成し、バスルーティングやお気に入りのプラグインを立ち上げる作業は、それだけで貴重なエネルギーを消耗してしまう。 あらかじめキック、スネア、ハイハット、ベース、コード楽器、メロディ、リターンエフェクトなどが整理された状態のテンプレートを用意しておけば、DAWを起動した瞬間から迷うことなく作曲作業に没頭することができる。この小さな準備の積み重ねが、1か月での曲完成率を劇的に引き上げる。 また、トラック数が増えてきたときの整理整頓も重要である。色分けやグループ化を適切に行うことで、視覚的なストレスを軽減し、頭の中をクリアに保ったまま作業を続けることが可能になる。 メロディとコードの有機的な結びつき コード進行が決まったら、次はメロディの構築である。ここで大切なのは、コードの構成音(コードトーン)をメロディの要所にしっかりと着地させることだ。コードとメロディの相性がチグハグだと、どれだけ音色にこだわっても聴きづらい曲になってしまう。 スケール(音階)の基本を押さえつつ、時にはノン・コードトーンをスパイスとして挟むことで、メロディに心地よい浮遊感とストーリー性を持たせることができる。歌モノであってもインストであっても、リスナーが自然と口ずさめるようなフックを意識することが重要である。 オートメーションと音の空間演出 楽曲にプロっぽい質感を与えるための強力な武器が、オートメーション(時間経過に伴うパラメータの変化)の活用である。ボリューム、パン、フィルターのカットオフ、リバーブのセンド量などを丁寧に描き込むことで、楽曲全体に生き生きとした躍動感が生まれる。 特にサビの直前で一度音量を少しだけ下げたり、高域を削ったりする「ビルドアップ前の引き算」を仕込むと、サビに入ったときの開放感が何倍にも膨らむ。こうした細やかな演出の積み重ねが、リスナーの心を揺さぶる立体的なサウンドを作り上げる。 メンタル面のコントロールと小さな達成感 1か月の制作期間において、最も恐ろしい敵は「完璧主義」である。最初からプロの商業楽曲と同じクオリティを目指してしまうと、自分の作品の粗ばかりが目につき、筆が止まってしまう。 「今日はスネアの音色を1つ決めた」「Aメロのベースラインを4小節分打ち込んだ」といった、極めて小さな単位での達成感を積み重ねることが、モチベーションを維持するための秘訣である。完璧な1曲よりも、まずは完成した1曲の方が圧倒的に価値がある。 ミックスとマスタリングの心構え 1か月の最終週に差し掛かると、ついにミックスとマスタリングの工程が待っている。ここでやってしまいがちな失敗が、各トラックのエフェクトをいじりすぎて全体のバランスを崩してしまうことだ。 音圧を上げることばかりに気を取られず、まずはフェーダーのバランスだけで聴き心地の良い状態を作る「静的なミックス」を心がけたい。EQやコンプレッサーは、あくまで問題点を補正するための道具として控えめに使うのが、初心者から抜け出すための近道である。 リファレンスとなる市販の楽曲をDAWに取り込み、自分のMIXとこまめに聴き比べる習慣をつけることで、耳の客観性を保つことができる。空間系エフェクトのリバーブやディレイも、かけすぎると音像がぼやけてしまうため、センドリターンを活用してすっきりとした音場を構築しよう。 まとめ コード進行から1曲を仕上げることは、決して途方もない作業ではない。4小節の心地よいループを起点にしながら、全体の地図を描き、1週間ごとの小さな目標をクリアしていく。それだけで、途中で挫折せずに曲を完成させることができる。最初の一歩を踏み出し、まずは1か月のスケジュール通りに手を動かしてみよう。 音楽制作は特別な才能だけに頼るものではなく、日々の細やかなルーティンと、小さな意思決定の積み重ねによって支えられています。完璧を目指して立ち止まるよりも、まずは拙くても最後まで形にすること。その体験こそが、次の楽曲制作をよりスピーディーで楽しいものにしてくれる最高の糧となります。焦らず、自分のペースで楽しみながら1曲を完成させましょう。 関連記事 GitHub Pages で技術・理論記事を読む はてなブログ版はこちら note はこちら Amebaブログ版はこちら

2026年10月9日 · 1 分 · 59 文字 · kingsworksub-jpg

大人から鍵盤を始める、指より先に決めることがある

楽器未経験から大人になって鍵盤に触れようとするとき、多くの人が「とにかく指を早く動かせるようにならなければならない」と考え、クラシックの教則本や指のストレッチから始めようとする。しかし、もしその目的が純粋なピアニストへの道ではなく、DAWを使った作曲や打ち込み、あるいはコード感の習得にあるのであれば、最初に向き合うべき対象は「指の柔軟性」ではない。 鍵盤に向かう前に決めておくべき目標と、大人ならではの効率的な独習のアプローチについて整理していく。 鍵盤は「演奏する道具」ではなく「思考する道具」 鍵盤を前にしたとき、指を鍛えることよりもコードとスケールの関係を視覚的に理解することが優先される。Photo: zaui/Scott Catron / CC BY-SA 2.0 音楽制作を行う者にとって、鍵盤楽器はステージで華麗なソロを弾くための専用機材というよりも、頭の中にあるコード進行やメロディを素早く視覚化し、DAWのピアノロールに落とし込むためのインターフェースに近い。 一曲を完璧に弾きこなす高度な演奏技術と、自分が思い描いたコードを素早く押さえて打ち込む能力は、実は要求されるスキルセットがかなり異なる。大人が限られた練習時間の中で最大限の効果を得るためには、「指を動かす練習」よりも「和音とスケールの配置を体に覚え込ませる練習」にリソースを集中させるべきなのだ。 この割り切りができるかどうかが、途中で挫折せずに打ち込みの武器を手に入れられるかの分かれ道となる。 電子ピアノ選びで絶対に妥協してはいけない点 自宅での練習環境を整える際、どのモデルを選ぶべきかで迷う人は多い。ここで安価なミニ鍵盤やタッチレスポンスのないキーボードを選んでしまうと、後々の打ち込み作業で大きな遠回りをすることになる。 作曲や打ち込みを前提とする場合、最低限クリアしておきたい条件は以下の3点である。 88鍵盤のフルサイズ: 音域の制限を受けず、両手を使ったボイシングの確認ができること。 ハンマーアクション鍵盤: 本物のピアノに近い重みがあり、ベロシティ(強弱)のニュアンスを正確にDAWへ伝えられること。 USB/MIDI端子: パソコンやオーディオインターフェースと直結でき、打ち込みコントローラーとしても機能すること。 おもちゃのような鍵盤では、強弱のコントロールが身につかないだけでなく、DAW上でリアルタイム入力を行った際にかえってクタイズの修正手間が増えてしまう。最初からしっかりとしたタッチのモデルを選ぶことが、結果的に最も経済的な選択肢となる。 1日30分で進める独習のルーティン 忙しい日常の中で練習時間を確保するためには、長時間の練習を休日にまとめて行うよりも、毎日わずか30分だけでも触れ続ける方が圧倒的に効果が高い。 最初の10分: メジャースケールとマイナースケールの指慣らし(指番号の確認) 次の10分: 主要3和音(T・SD・D)のコードフォームを両手で鳴らす 最後の10分: 好きな楽曲のコード進行を実際に鍵盤で押さえてみる このシンプルなルーティンを毎日淡々と繰り返すだけで、数週間後にはコードを押さえる手が自然と迷わなくなってくる。派手さはないが、確実な土台を作るための王道である。 楽譜が読めなくても打ち込みはできるという事実 「ピアノを始めるには、まず五線譜をスラスラ読めるようにならなければならない」という思い込みに縛られている人は少なくない。しかし、現代の音楽制作においては、必ずしも伝統的な五線譜の読譜力が必須というわけではない。 もちろん、読譜ができれば既存の譜面からコードやアレンジを学ぶ際に大きな助けとなるが、DAWの作業画面の大部分は「ピアノロール(グリッド)」である。音の高さや長さ、タイミングを視覚的に捉えるピアノロールの仕組みと、鍵盤上の位置関係が頭の中で直結していれば、五線譜の壁に阻まれて音楽制作を諦める必要はまったくない。 むしろ、コードネーム(C, Am, F, G7など)を見て、瞬時に鍵盤上のポジションを割り出せる能力の方が、ポップスやトラックメイキングにおいてはるかに強力な武器となる。 コード理論の基礎と実践的な結びつき 鍵盤を学ぶ上で避けて通れないのがコード理論の基礎知識である。難解な音楽理論書を最初から読破しようとすると挫折の原因になるが、「メジャー」「マイナー」「セブンス」という基本的なトライアド(三和音)の仕組みだけでも理解しておくと、打ち込みのスピードが何倍にも跳ね上がる。 コードがどのように構成されているかを鍵盤上で視覚的に把握できれば、転回形を用いた滑らかなボイシングや、コード間のスムーズなボイスリーディングを直感的に構築できるようになる。理論は机上の勉強ではなく、鍵盤を鳴らすための実践的な地図として活用すべきである。 DAWとソフトウェア音源を組み合わせた実践演習 鍵盤演奏の基礎練習と並行して行いたいのが、DAW上でソフトシンセサイザーやピアノ音源を立ち上げ、実際にMIDIノートを打ち込む実践的な演習である。ただ単に生音を鳴らすだけでなく、エフェクトやフィルターのかかり具合の変化を感じながら演奏することで、音作りに対する感覚も同時に養うことができる。 特にポリフォニック(多音)でのコード弾きと、モノフォニック(単音)でのベースラインやリードメロディの打ち込みでは、指使いやタイミングの取り方が異なる。それぞれの楽器特性を理解しながら鍵盤に触れることで、楽曲アレンジ全体の引き出しが確実に広がっていく。 リズム感とグルーヴを鍛えるアプローチ 鍵盤楽器の練習というとどうしても音の高さや和音の正確さに目が行きがちだが、音楽制作においてそれと同等かそれ以上に重要なのが「タイミング」と「リズムのノリ」である。 メトロノームを鳴らしながら、あるいはDAWのドラムループをバックに流しながら鍵盤を叩く練習を習慣化することが極めて効果的だ。どれほど美しいコードを押さえても、タイミングがモタったりハネたりしてしまっては、トラック全体のグルーヴが台無しになってしまう。リズムキープの意識を常に持ちながら鍵盤に向き合おう。 録音と自己チェックによる上達の加速 自分の演奏を客観的に聴き直すことは、独習における最強の上達メソッドである。鍵盤を弾いている最中は耳と脳が演奏に集中しすぎてしまい、ミスタッチやリズムのヨレに気づきにくい。 DAWの録音ボタンを押して自分の演奏を一度キャプチャし、後から冷静に聴き返してみる。どこで音がもたついたか、どのコードのバランスが大きすぎたかを自分で発見し、修正するプロセスを繰り返すことで、上達のスピードは飛躍的に加速する。 挫折しないためのメンタルハックと記録の力 大人の独習で最も多い敗因は、自分の演奏と理想のギャップに耐えられなくなることだ。「こんなに指が動かないなんて自分には才能がない」と思い込んでしまう瞬間が必ず訪れる。 しかし、楽器の習得は筋トレやプログラミングの学習に似ており、脳の神経回路が新しく繋がるまでには一定の時間がかかる。今日できなくても、明日また触れば少しだけ指が覚えている。その緩やかな右肩上がりの成長を信じて、完璧主義を捨てて日々のルーティンを楽しむことが何よりも大切である。 また、継続する上で強力な支えとなるのが、日々の練習記録をつけることだ。どのコード進行が弾けたか、どのリズムでつまずいたかをノートやデジタルメモに書き留めておくだけで、自分の成長が可視化され、モチベーションの維持に大きく寄与する。小さな成功体験の積み重ねが、確実な技術向上へとつながっていく。 小さなコードの響きに耳を傾け、その心地よさを楽しむ余裕を持つこと。それこそが、大人が長く音楽を続けていくための最大の秘訣なのだ。 まとめ 大人から鍵盤を始めるにあたって大切なのは、ピアニストを目指すのではなく、音楽を構築するための「良き相棒」として鍵盤を使いこなすことだ。適切な機材選びを行い、コードとスケールに特化した効率的な練習を毎日少しずつ積み重ねていけば、必ず自分の思い描いたフレーズを形にできるようになる。楽器演奏の習得には時間がかかりますが、毎日少しずつ続けることで確実な変化が現れます。日々の小さな積み重ねこそが、未来の素晴らしい楽曲制作を力強く支えてくれる基盤となります。DAWの機能を補助的に使いながら、自分の指と耳で音楽を構築するプロセスを楽しんでいきましょう。焦らず、自分のペースで鍵盤に向き合っていこう。 関連記事 GitHub Pages で技術・理論記事を読む はてなブログ版はこちら note はこちら Amebaブログ版はこちら

2026年10月9日 · 1 分 · 66 文字 · kingsworksub-jpg

耳コピの1週間で伸びるのは速さで、届く範囲はまだ広がらない

耳コピを始めようとすると、最初に「音感がないから無理だ」という壁に当たる。好きな曲のベースラインを拾おうとしても、どの音なのか見当がつかない。鍵盤を一つずつ押して探すうちに、さっき聴いたはずのフレーズが頭から消えている。こういう経験を何度か繰り返すと、耳コピは生まれつき耳のいい人だけの技術に見えてくる。 ただ、耳コピに必要なのは、音名をいきなり言い当てる能力ではない。基準になる音から「どれだけ離れているか」を聴き取る力で、これは練習で伸びる。一方で、1週間で届く範囲には限りがあるのも確かだ。この記事では、1週間の反復で変わる部分と変わらない部分を切り分けたうえで、その1週間をどう使うかを順に書いていく。 1週間で変わるのは速さで、届く範囲はまだ広がらない 耳で拾った音を確かめる場所として、鍵盤は手元に一つあると話が早いPhoto: zaui/Scott Catron / CC BY-SA 2.0 聴覚の訓練については、音の高さの聞き分けを繰り返し練習すると、練習した課題そのものの成績は数日のうちに上がり、練習していない似た課題に効果が広がるのはそれより遅れて来る、という傾向がはっきりしている。耳コピに置き換えると、毎日練習している音程やフレーズの型は、1週間でかなり速く答えられるようになる。ところが、練習していない音程や、聴き慣れない和音の響きまで同じように分かるようになるには、もっと時間がかかる。 私はこの差を「速さ」と「範囲」と呼んで分けて考えている。1週間で伸びるのは速さのほうだ。同じ長3度を聴いたときに迷う時間が短くなり、ベースの動きを鍵盤で探すときの空振りが減る。ここは数日で手応えが出るので、続ける動機にもなる。 範囲のほうは、1週間ではほとんど広がらない。たとえば長3度と短3度の区別ができるようになっても、それがそのままセブンスやテンションの聞き分けにつながるわけではない。速いパッセージも、1週間後もまだ団子のように聴こえるはずだ。ここで「伸びていない」と判断してやめてしまうのが、いちばんもったいないと思う。範囲は週単位ではなく月単位で広がるものだと最初から決めておくと、気持ちが楽になる。 絶対音感についても触れておく。大人になってから音名を基準なしに当てられるようになるかを確かめた研究では、8週間にわたって合計で十数時間から二十数時間の訓練を続けた結果、6人のうち2人が、絶対音感を持つ人と見分けがつかない成績に届いたと報告されている。届いた人がいるという点は興味深いが、裏を返せば、2か月かけても大半の人は届かなかったということでもある。1週間の練習でこれを目標に置く理由はない。耳コピに必要なのは、次の節で書く相対音感のほうだ。 絶対音感ではなく、主音からの距離で聴く 19世紀の英国で広まった階名の手振り。どの調でも主音を「ド」と呼ぶ移動ドの考え方を、手の形で覚えさせたImage: John Curwen (1816-1880) / Public domain 相対音感は、基準になる音と比べて、もう一つの音がどれだけ離れているかを聴き取る力のことだ。耳コピで頼りになるのはこちらで、しかも大人になってからでも練習で身につく。 ここで一つ工夫したいのが、音と音の距離を「2音の間隔」として覚えるより、「その曲の主音から見て何番目の音か」として覚えるやり方だ。いわゆる移動ドの考え方で、ハ長調ならCをド、ヘ長調ならFをドと呼ぶ。どの調でも、主音に戻ったときの落ち着き方や、7番目の音が主音へ引っ張られる感じは同じように聴こえる。この「役割の響き」を覚えておくと、調が変わっても同じ耳がそのまま使える。 音程を一つずつ当てる練習は、最初はとっつきやすい。長2度、長3度、完全5度と順番に覚えていけば、問題集のように点数が上がるからだ。ただ、実際の曲では音が連続して流れていくので、2音ずつ間隔を計算していると、3音目あたりで最初の音を忘れてしまう。主音からの位置で聴く方法なら、一つひとつの音を同じ基準で測れるので、メロディが長くなっても崩れにくい。 このやり方は、練習の最初の手順もはっきりさせてくれる。曲を流しながら、いちばん落ち着く音、つまり「ここで終われる」と感じる音を声で探す。その音を鍵盤で確かめたら、それがドだ。最初の数日はこれだけで十分練習になる。ドが見つかれば、使われている音の候補がほぼ7つに絞られるので、あとの探索がずっと短くなる。 7日間の割り振り 1日の練習時間は15分から20分ほどで足りると考えている。長くやるより、毎日同じ時刻に続けるほうが効く。聴覚の訓練には、1日のうちに一定量をこなせばそれ以上増やしても伸びが変わらない、という性質もあるので、週末にまとめて2時間やる必要はない。私なら次のように割り振る。 1日目と2日目は、主音を探す練習と、アプリでの音程練習を半分ずつ。音程は長3度・完全5度・オクターブのように響きのはっきりしたものから始める。知っている曲の出だしを手がかりにして覚えるのも有効だ。 3日目と4日目は、移動ドでの聞き分けに切り替える。主音を鳴らしたあとに出てくる1音が、ド・ミ・ソのどれかを答えるところから始めて、レやラを足していく。ここで正解率が急に上がるのを感じられると思う。 5日目から7日目は、短いベースラインを1本だけ選んで耳コピする。8小節もあれば十分で、毎日同じ曲を続けてよい。7日目には、1日目に同じフレーズを聴いたときと比べて、探す時間がどれだけ縮んだかを振り返る。範囲はまだ狭くても、速さの変化は分かるはずだ。 アプリはここで記憶の受け皿として使う。無料で始めるならブラウザで動くmusictheory.netの練習問題が手軽で、音程・和音・音階の聞き分けを設定どおりに出題してくれる。teoria.comも同じく無料で、旋律の書き取りまで用意されている。スマートフォンなら、主音との関係で音を聴き分けるFunctional Ear Trainerが、移動ドの練習にそのまま合っている。ゲームのように段階を踏みたいならComplete Ear Trainer、体系的なコースまで欲しいならEarMasterがある。1週間の段階では一つに絞ったほうがよく、私は移動ドの練習ができるものを一つだけ入れておくのが無難だと思う。 耳コピはベースラインから始める ベースは1度に1音しか鳴らないことが多く、和音の土台も教えてくれるPhoto: Dejan Krsmanovic / CC BY 2.0 耳コピをどのパートから始めるかで、最初の1週間の手応えは大きく変わる。私はベースラインから始めるのをすすめたい。理由は三つある。 一つ目は、ベースはたいてい1度に1音しか鳴らさないことだ。和音のように複数の音を同時に聞き分ける必要がないので、相対音感の練習がそのまま生きる。二つ目は、ベースの音がその場の和音の根音であることが多い点だ。ベースラインを拾えば、コード進行の骨組みもかなり見えてくる。三つ目は、ポップスやロックでは同じ動きが何度も繰り返されることが多く、短いフレーズを一度拾えば曲全体に応用できることだ。 一方で、低い音は小さなスピーカーでは聴き取りにくい。ノートパソコンの内蔵スピーカーでは、ベースの音程そのものがほとんど出ていないこともある。ヘッドホンか、低音の出るスピーカーで聴くのが前提になる。 手順は次のようにしている。まず曲を2回か3回、何もせずに通して聴く。次に主音を声で探して鍵盤で確かめる。それから、拾いたいフレーズを4秒から5秒の長さで区切り、ループさせる。音を探すときは、いきなり鍵盤で探さずに、まず声に出して歌う。歌えた音は頭の中に残るので、鍵盤で探す間に消えにくい。歌えたら、主音から何番目の音かを考え、その候補から鍵盤で確かめる。1フレーズは3音から5音程度に収め、拾えたらその場で書き留める。 ベースが聴き取りにくい曲なら、メロディを先に拾ってもかまわない。メロディは高い音域にあって目立つので、ベースの次に聴き分けやすいパートだ。和音の中の内声は最後に回す。最初の1週間でここまで手を広げる必要はないと思う。 速度を落とせる道具を一つだけ持つ ベースの音程まで聴き取るには、低音の出るヘッドホンかスピーカーが前提になるPhoto: Jason Meredith / CC BY 2.0 耳コピの道具として、音の高さを変えずに再生速度を落とせるソフトは一つ持っておきたい。1週間目は、ほとんどのフレーズを原曲の50%から75%くらいの速さに落として聴くことになるからだ。速いフレーズはそのままでは音がつながって聴こえるが、速度を落とすと一つひとつの音の切れ目が見えてくる。 定番はパソコン用のTranscribe!で、区間のループ、高さを変えない減速、波形の表示がまとまっている。Macやスマートフォン中心ならAnytuneやAmazing Slow Downerも同じ目的で使える。最近は、曲をボーカル・ドラム・ベースなどに分けて再生できるMoisesのようなアプリもあり、ベースだけを大きくして聴くこともできる。これは便利だが、和音の判定まで自動で表示されるので、練習の段階では答えを先に見てしまわないよう、表示を隠して使うほうがよいと思う。 DAWを使っているなら、手持ちのDAWでも代わりになる。多くのDAWには、ループ再生と、高さを保ったまま速度を変える機能がある。新しいソフトを覚える時間を練習に回せるので、DAWに慣れている人はまずそちらで試すとよい。 道具を増やすと、それぞれの使い方を覚えるだけで1週間が終わってしまう。減速とループができるものを一つ選び、残りの時間は耳を使うことに回すのが、私はいちばん効率がよいと考えている。 1週間後に残るもの、残らないもの 1週間続けた時点で、手元に残るものは意外と多い。曲を聴いて主音を見つけるまでの時間は、初日と比べてずいぶん縮んでいるはずだ。響きのはっきりした音程なら迷わずに答えられるようになり、短いベースラインなら、減速とループを使って最後まで拾えるようになっている。 ...

2026年10月9日 · 1 分 · 74 文字 · kingsworksub-jpg

音楽理論を3か月で一周するなら、最初から読む本は1冊だけ

音楽理論の独学は、最初の一冊で止まりやすい。 意味そのものは分かる。 でも次へ進めない。 語彙は増えるのに、和音の機能は頭に入らない。 これは努力不足ではない。 最初から最後まで通読する、という目的そのものが途中で崩れるからだ。 三か月で一周させるには、目的を置き換える。 本を一冊だけ選ぶ。ただし通読するのをやめる。 必要なページだけ開き、残りは目次として使う。 記憶の判定はアプリに任せる。 記号を距離に変えるのは鍵盤の仕事。 こうすると三つの役割が分かれる。 本は説明のソース。わからないときの答え合わせ。 アプリは記憶の受け皿。判定と反復を担当する。 鍵盤は記号を距離に変える層。 通読をやめると、三か月で配れるようになる 三か月の割り方で私が迷ったのは、毎日何分やるかではなかった。 それは最後に述べる。 先に決めるべきは、途中で主教材を入れ替えるかどうかだ。 三か月とも同じ本を使うと、途中で息切れが起きる。 そのときに、本が厚すぎると感じる。 でも本を変えても同じところで止まるなら、それは本のせいではない。 やろうとしていることが通読だからです。 ここが今回の配分の出発点になる。 本の難易度は問題ではない。 最後まで読む、という目標が問題だ。 鍵盤は記号を距離に変える層。指が動く先がないと、本は読めても音にならないPhoto: Morn / CC BY-SA 4.0 三か月を順に割るとき、書もアプリも一つに固定する。 変えるのは三か月目の主教材だけ。 これが配分の要点だ。 第1か月:音程と度数 音程を飛ばして和音へ進むことがある。 結果は単純で、和音が聞き取れなくなる。 理由は和音の名称が、音程だけでは決まらないからだ。 同じ三音でも、調が変われば別の名前になる。 一か月目は音程と度数を両方やる。 順序はこうする。 先に指で位置を覚えて、そのあと本を読む。 逆順だと、読んでいても指が動く先を知らない。 鍵盤での練習はこうする。 すべての白鍵に指を置き、音名を対応づける。 次に黒鍵を加える。 音程は、指を何個飛ばすかで分かる。 度数も同じ。基音から指がどこにあるか、で決まる。 度数とは記号ではなく、鍵と鍵の距離のことPhoto: Gabriel Barletta / CC0 耳の訓練は musictheory.net だけで足りる。 音程、音階、和音、鍵盤の四つに分かれていて、ブラウザだけで動く。 繰り返しの回数に制限がない。アカウントも要らない。 ただ、このサイトは孤立した識別だけだ。 基音から何番目かを問われることはない。 一か月目の主題は度数なので、ここに隙間が残る。 その隙間を埋めるのが Functional Ear Trainer だ。 先に基音を鳴らし、次の音が基音の何番目かを問う。 度数という概念をそのまま問えるので、要る場所に合っている。 文字に頼らない訓練なので、画面が日本語でなくても使える。 iPhone と iPad と Mac と Android に出ている。 ...

2026年10月6日 · 2 分 · 240 文字 · kingsworksub-jpg

ミックス独学の1か月、同じ曲でEQ・コンプ・リバーブを1週ずつ

ミックスを独学で覚えようとすると、たいてい同じところで止まる。解説を読んで、言われたとおりにEQを挿して、低いところを削って、なんとなく良くなった気がして保存する。次の日に聴くと、良くなった気がしたところがどこだったか思い出せない。それで別の曲に移って、また最初からやる。 この繰り返しが効かないのは、根気の問題ではないと思っている。毎回ちがう曲を題材にしているせいで、自分の操作が何を変えたのかを比べる相手がいないだけだ。素材が変われば、良くなったのが処理のおかげなのか、もともとその音源が録りやすかっただけなのかが分からない。だから一か月のあいだ、題材を一曲に固定する。そのうえで、EQ・コンプレッサー・リバーブを一週ずつ順番に触る。ここではその組み立て方と、耳が題材に慣れきってしまう前に判断をリセットする仕組みを書く。 曲を変えないほうが、耳は早く育つ つまみの数より、同じ素材を何度も通すことのほうが効くPhoto: Prof. Pod / CC BY-SA 4.0 同じ曲を四週間扱うと決めると、最初に抵抗が出る。飽きるのではないか、という心配だ。実際には逆で、素材を覚えてしまったほうが変化がはっきり見える。ドラムの三拍目でスネアがどのくらい出ているか、ベースがどこで音程を外して聞こえるか、歌の「さ」行がどれだけ刺さるか。こうした細かい手がかりを覚えているから、処理を一つ挿したときに「どこが動いたか」が即座に分かる。初めて聴く曲を相手にすると、この比較がまるごと成立しない。 題材に選ぶ曲は、派手でないものがいい。トラック数は十前後、ドラム・ベース・ギターかピアノ・歌がそろっていて、打ち込みではなく生演奏が混ざっているものが扱いやすい。派手なシンセが中心の曲は、音作りの段階で完成していることが多く、ミックスで触れる余地が少ない。逆にトラック数が三十を超えると、一週目のうちに整理だけで力尽きる。 もう一つ大事なのは、毎週ゼロから作り直すことだ。一週目に作ったEQの設定を二週目に引き継がない。週の終わりに書き出した音源だけを残して、プロジェクトは新規で開き直す。引き継いでしまうと、先週の判断が前提になってしまい、その判断が正しかったのかを確かめる機会が永久に来ない。四週間で四つの独立した仕上がりが手元に残る形にしておくと、最後に並べて聴いたときに自分の変化がそのまま見える。 週あたりの時間は、合計で三時間もあれば足りる。一回四十五分を週に四回、くらいが現実的だと思う。長時間やるほうが上達しそうに思えるが、後で書くとおり、耳のほうが先に鈍る。 練習台になる音源は、無料で手に入る 題材の調達でつまずく人が多い。自分で録った曲があればそれが一番だが、録音の腕とミックスの腕を同時に鍛えようとすると、どちらの問題なのか切り分けられなくなる。最初は他人がきちんと録ったマルチトラックを借りるほうが早い。 よく使われているのが、エンジニアのマイク・シニアが運営する Cambridge Music Technology の無料マルチトラック・ライブラリだ(cambridge-mt.com)。生楽器のバンドからジャズ、オーケストラ、電子音楽まで、五百曲を超えるプロジェクトが分野別に並んでいて、ミックスの練習や授業の課題として自由に落として使える。このうち百二十五曲以上には、比較用のミックスも一緒に置かれている。自分の仕上がりと突き合わせられるので、独学ではここがありがたい。曲ごとにトラック数が書いてあるから、十トラック前後のものを選べばいい。 ほかにも、ウェザーヴェイン・ミュージックが続けている「Shaking Through」のシリーズは、一曲ごとに制作の過程を記録として残していて、素材と一緒に作り手の意図が追える。マイク本体のメーカーであるテレフンケンも、自社のスタジオで撮ったライブ演奏の素材を24ビット48kHzのまま無料で配っている。お題のマルチトラックが配られて参加者が仕上がりを持ち寄る Mix Challenge のような催しもあり、ミックス部門は隔月で開かれていて参加は無料だ。締め切りがあると手が動くタイプの人には、こちらのほうが合うかもしれない。 どれを選ぶにしても、落としたら最初にやることは一つだ。何も挿さずに、フェーダーだけで一度バランスを取る。パンも振っていい。この「素のバランス」を書き出して保存しておく。四週間のあいだ、これが比較の基準になる。プラグインを挿した結果が素のバランスに勝っていなければ、その処理は要らなかったということになる。 第1週:EQは、足すより先に削る 帯域を区切って上げ下げする道具。最初の週は下げる方向だけ使うPhoto: mytdx 4 / CC BY 2.0 一週目はEQだけを触る。コンプもリバーブも挿さない。禁じ手を決めておくと、EQで何ができて何ができないのかがはっきりする。 最初の三日は、ハイパスフィルターだけを使う。各トラックの低いほうを切って、その楽器が実際には使っていない帯域を落としていく作業だ。目安として、歌なら80〜120Hz、エレキギターなら80〜100Hz、アコースティックギターなら60〜80Hz、ハイハットやシンバルなら200〜400Hzあたりから始める。数字を暗記する必要はなく、切り始めてから音が痩せたと感じる手前で止めればいい。一本ずつでは変化がほとんど分からないのが普通で、全トラックに入れ終えてバイパスと切り替えたときに、低いところの濁りがまとめて減っているのが分かる。二十本以上あるセッションほど効果が大きい。 次の二日は、問題の周波数を探す練習にあてる。パラメトリックEQで帯域の幅を狭くし、+6〜10dBほど持ち上げた状態で、周波数をゆっくり下から上へ動かしていく。どこかで、明らかに嫌な音が飛び出す場所がある。鼻をつまんだような音、段ボールを叩いたような音、耳の奥が痛くなる音。その場所を見つけたら、今度は同じ周波数を下げる。持ち上げたまま放置しない。これを一トラックずつやると、同じ楽器でも録音ごとに嫌な場所が違うことが分かってくる。 残りの日は、帯域の地図を頭に入れる。20〜60Hzが体で感じる最低域、60〜250Hzが低音の重さ、200〜500Hzがこもりやすい場所で、特に250〜350Hzが濁りの中心になりやすい。500Hz〜2kHzが音の胴体、2〜6kHzが輪郭と存在感で、このうち2〜4kHzは人間の耳がいちばん敏感な帯域なので、上げすぎるとすぐ耳につく。5〜10kHzは歯擦音の領域、8〜14kHzが空気感だ。この区分を見ながら、さっき見つけた「嫌な音」がどの区分だったかを毎回メモしておく。三日も続けると、音を聴いただけで見当がつくようになる。 週の終わりに、EQだけで仕上げた状態を書き出す。素のバランスと並べて聴いて、勝っていなければ次の週に持ち越さず、潔く捨てる。 第2週:コンプレッサーは、やりすぎてから戻す つまみは四つしかない。効きが分からないうちは、わざと振り切って覚えるPhoto: The Midnite Wolf / CC0 二週目は、素のバランスから作り直してコンプレッサーだけを挿す。EQは使わない。コンプは変化が地味で、適量だと「何も変わっていない」としか感じられないので、独学でいちばん手応えを掴みにくい道具だと思う。 だから最初の二日は、わざと極端にかける。比率を20:1、スレッショルドを深く下げ、アタックを最速、リリースも最速にして、スネア一本に挿してみる。音は完全に壊れる。壊れた状態から、つまみを一つずつ戻していく。アタックを遅くすると、叩いた瞬間の芯が戻ってくる。リリースを長くすると、呼吸のような揺れが収まる。比率を下げると、音量差が元に戻っていく。どのつまみが何を担当しているのかは、この壊し方を一度やると体で分かる。 そこから先は、まともな設定の範囲で練習する。出発点として使いやすいのは、ゲインリダクションが2〜3dBに収まる程度の深さ、比率は1.2:1から2:1、アタックは20〜50ms、リリースは100〜200msあたりだ。アタックを速くしすぎると、音の立ち上がりが真っ先に削られて、楽器の個性が消える。リリースはテンポに合わせて調整し、メーターの針が一小節に何度か0に戻ってくるくらいが目安になる。針が張りついたまま戻ってこないなら、かけすぎだ。 初心者がいちばんやりがちなのは、かけすぎだと思う。強くかけると音が大きく聞こえて、上手くなった気がする。これを避ける方法は単純で、バイパスと比較するときに音量を揃えることだ。コンプで持ち上がったぶんの出力を下げてから比べると、かけすぎた音は途端に平たく、生気のないものに聞こえる。この比較を癖にするだけで、週の後半には判断がかなり変わる。 余裕があれば、週の最後にパラレルコンプも触っておきたい。センドで別の経路に送って、そこで思い切り潰した音を作り、原音の下に25%くらいから混ぜていく。原音の立ち上がりを残したまま、小さい音の細部だけが持ち上がる。ドラム全体やボーカルで効きやすい。ここでも音量を揃えて比べるのを忘れないようにする。 第3週:リバーブは、乾いた音を消して聴く 鉄板を震わせて残響を作った装置。いまのプレート系の設定はここが元になっているPhoto: EMT-Archiv-Lahr / CC BY-SA 4.0 三週目も、また素のバランスから始める。今度はリバーブだけだ。 まず挿し方を決める。各トラックに直接挿すのではなく、センドで一つの経路に送り、そこに一台だけ立てる。複数の楽器が同じ部屋で鳴っているように聞こえるのは、同じ残響を共有しているからで、トラックごとに別々のリバーブを立てると、まとまりが出ない。練習としても、一台しかないほうがつまみの効きを覚えやすい。 触るつまみは二つに絞る。プリディレイと減衰時間だ。プリディレイは、原音が鳴ってから残響が立ち上がるまでの待ち時間で、歌なら20〜50ms、ギターなら40〜100msくらいが扱いやすい。ここを少し取ると、歌の子音が先に届いてから残響が広がるので、言葉が埋もれない。逆にドラムのような打楽器は、待ち時間を長く取ると叩いた音と残響が分離してしまうので、短くするか省く。減衰時間は、残響が消えるまでの長さだ。狭い部屋なら0.5秒前後、板を使ったプレート系で1.5秒、石造りの部屋を模したチェンバー系で2秒、ホール系で3秒ほどが目安になる。曲の側から決めるなら、静かなバラードやオーケストラは2〜3.5秒、ミドルテンポのポップスやロックは1.2〜2秒、速くて音数の多い曲ほど短くしていく。 この週の中心になる練習は、乾いた音を消して残響だけを聴くことだ。原音のフェーダーを下げ、リバーブの返りだけを鳴らす。そうすると、自分が何を足しているのかがはっきり分かる。たいていの場合、低いところが濁っていて、高いところが耳につく。だから返りの経路にEQを挿して、低いほうを300Hz前後まで切り、高いほうも8kHzあたりから落としておく。原音を戻すと、残響の存在は感じるのに濁っていない、という状態になる。この引き算をしないままリバーブを足していくと、曲全体が霧の中に入ったようになる。 残響の長さを決めるときは、曲を止めた瞬間に耳を澄ます。残響が曲のテンポより長く伸びて、次の小節に重なっているなら長すぎる。短くして、もう一度止めてみる。この確認を何度かやると、数字を見なくても長さの見当がつくようになる。 第4週:通して仕上げ、耳をリセットする 判断に迷ったら再生する装置を替える。スピーカーとヘッドホンで印象は変わるPhoto: Quercus acuta / CC BY-SA 4.0 四週目で、ようやく三つを同時に使う。ここまでの三週間で、どの道具が何を変えるのかは掴めているはずなので、順番だけ決めておけば迷わない。素のバランスを取り、EQで削り、コンプで整え、最後にリバーブで奥行きを付ける。足りなければ戻って削り直す。 ...

2026年10月5日 · 1 分 · 138 文字 · kingsworksub-jpg

ジャズの名盤リストはなぜ続かないのか、聴く順番と入門書の組み立て方

ジャズを聴こうと思い立った人がまず手に入れるのは、たいてい名盤のリストだ。五十枚なり百枚なりが時代順に並んでいて、解説が付いている。一枚目をかけて、最後まで通して、「悪くなかった」と思う。二枚目も同じように聴いて、やはり「悪くなかった」と思う。そして三枚目あたりで、なんとなく再生しなくなる。 これは根気の問題ではないと思っている。聴く前に「今日は何を聴き取るのか」を決めていないだけだ。リストは目的地の一覧であって、道順ではない。どこを見ればいいか分からないまま景色が流れていけば、何も残らないのは当たり前だと感じる。ここでは、聴き取る的を一つずつ決めていく手順と、その段階に合う本を割り当てる六週間の組み立て方を書く。 名盤リストだけでは前に進めない 名盤リストが悪いわけではない。あのリストは、歴史の上で重要だった録音や、長く売れ続けてきた録音を並べたものだ。選ばれた理由はきちんとある。ただ、その順番は「ジャズを初めて聴く人が、どういう順で耳を慣らしていくか」という観点では組まれていない。重要度の順と、入りやすさの順は別物だ。 もうひとつ厄介なのは、感想を書くための物差しが手元にないことだ。知らない音楽を一枚通して聴いたあとに残るのは、良かったか良くなかったかの二択しかない。これだと二枚目を聴く動機が生まれにくい。好きになれたかどうかは運まかせになってしまう。 ジャズの一曲は、短いもので三分、長ければ十分を超える。その中では、最初にメロディが示され、そのあと奏者が順番に即興を取り、最後にもう一度メロディに戻ってくる、という進み方をすることが多い。構造を知らずに聴くと、同じところをぐるぐる回っているように聞こえる。回っているのは事実なのだが、回るたびに中身が変わっている、というのがこの音楽の肝心なところだ。そこが聞こえないうちは、長さだけが印象に残る。 だから、一回の再生につき聴き取る対象を一つだけ決める。対象を絞ると、一枚のアルバムが何度でも新しくなる。五十枚を一周するより、五枚を十回ずつ聴いたほうが、結果として耳は早く育つと思う。 耳の置きどころを一つに決める 一人が吹き、もう一人がその場で応える。ジャズの中身はこの往復にあるPhoto: Francesca.giovinazzo / CC BY-SA 4.0 聴き取る対象の候補は、大きく四つに分けられる。メロディ、グルーヴ、奏者どうしのやりとり、そして音色だ。メロディは曲の顔にあたる部分で、冒頭と最後に出てくる。グルーヴは、足でリズムを取りたくなるかどうかの感触で、ベースとドラムとピアノが作っている。やりとりは、誰かが吹いたフレーズに別の誰かが反応する瞬間のことだ。音色は、同じ楽器でも奏者ごとに違う、息の混じり方や弦の鳴り方を指す。この四つを同時に追おうとすると、たいてい全部ぼやける。 具体的な手順として、同じ曲を三回続けて聴く方法が分かりやすい。一回目は何も意識せず流す。二回目は、冒頭のメロディを自分で口ずさめるかどうかを確かめる。口ずさめたなら、そのあと即興がどれだけ遠くへ行っても、戻ってくる場所が分かる。三回目は楽器を一つ選んで、その楽器だけを最後まで追いかける。この三回目が、いちばん発見が多い。 追いかける楽器は、曲ごとに変えていい。ベースは曲の土台を作っていて、和音の動きを一番はっきり示している。ドラムは全体の脈を打ちながら、要所で合いの手を入れる。ピアノは和音で返事をする係で、ソロを取っている奏者に相槌を打ったり、わざと外したりする。管楽器や歌はメロディを担当するが、同じメロディを毎回わざと崩して演奏する。崩し方の癖が、その人の個性になる。 聴き終えたら、三行だけ書き残しておくことを勧めたい。気に入った音が一つ、気づいた奏者が一人、分からなかったことが一つ。これだけで、次に聴くときの的が自動的に決まる。分からなかったことは、たいてい次の週の課題になる。 曲の形がわかると、迷子にならない ベースを追うと曲の継ぎ目が見えてくる。一周の変わり目で動きが戻るPhoto: CookipediaChef / CC BY-SA 4.0 ジャズの演奏には、ほとんどの場合に共通する進行の型がある。短い導入があり、曲のメロディが一通り演奏され、そのあと奏者が順番に即興を取り、最後にもう一度メロディに戻って終わる。最初と最後に出てくるメロディの部分を「ヘッド」と呼ぶ。即興の部分では、曲の和音の流れを何周もくり返しながら、その上で自由に演奏している。この一周を「コーラス」と言う。 一周の長さは曲によって決まっている。古いポピュラーソングを下敷きにした曲なら、八小節のまとまりが四つ並ぶ三十二小節の形が多い。四つのうち三つ目だけ雰囲気が変わる並び方が典型で、この三つ目は「ブリッジ」と呼ばれる。ブルースを下敷きにした曲なら、十二小節で一周する。どちらの場合も、一周し終えると最初に戻るので、注意していると継ぎ目が聞こえてくる。 この継ぎ目が分かると、聴いている最中に「今どのあたりなのか」が掴める。ソロを取る奏者が交代するのは、たいてい一周の頭だ。サックスが何周か吹いて、次にピアノに渡り、そのあとベースが受け取る、という流れが見えるようになる。終盤で、管楽器とドラムが四小節ずつ交互に短いフレーズを投げ合うことがある。これは四小節の交換と呼ばれる定番の見せ場で、形を掴んでいると、ここで何が起きているのかがはっきり分かる。 継ぎ目を掴む近道は、やはりベースを追うことだと思う。ベースは一周の変わり目で必ず出発点の音に戻ってくるので、目印として使いやすい。慣れないうちは、指で四つ数えるのを四回くり返して十六小節、もう一度くり返して三十二小節、という具合に数えてみるといい。数えるのは最初の二、三回だけでよくて、そのうち数えなくても切れ目が感じ取れるようになる。この感覚が手に入ると、長い演奏が長く感じられなくなる。 六週間の聴く順番を組む ライドシンバルの刻みとブラシの擦れる音。二週目はここだけを追うPhoto: Mike a davies / CC BY-SA 4.0 ここまでの考え方を、六週間の順番に落とし込む。一週につき聴き取る対象を一つだけ決めて、その対象がはっきり聞こえる盤を二枚までに絞る。枚数を増やさないのがこつで、同じ盤を一週間かけて何度も聴くほうが、新しい盤を次々に足すより手応えがある。通勤中のような「ながら聴き」とは別に、週に二回ほど、十分だけ腰を据えて聴く時間を取れると理想的だ。 一週目はメロディを覚えることだけに使う。マイルス・デイヴィスの『Kind of Blue』は一九五九年の録音で、どの曲もゆったりしていて輪郭が掴みやすい。同じ年に出たデイヴ・ブルーベック・カルテットの『Time Out』は、四拍子ではない変わった拍子の曲を集めているのに、メロディは驚くほど覚えやすい。二週目はグルーヴとリズム隊に移る。アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの『Moanin’』は一九五八年十月の録音で、ピアノのボビー・ティモンズが書いた表題曲の、あの呼びかけと応答のような出だしが有名だ。ブレイキーのドラムは終始主張が強く、ドラムだけを追う練習にはうってつけだと思う。 三週目は、前の章で書いた曲の形を数えることに充てる。ソニー・ロリンズの『Saxophone Colossus』は一九五六年の録音で、冒頭の「St. Thomas」は形が単純なうえに、ドラムのソロやベースの受け渡しがはっきりしているので、継ぎ目を探す練習がしやすい。四週目は奏者どうしのやりとりを聴く。ビル・エヴァンス・トリオの『Waltz for Debby』は、一九六一年六月二十五日にニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードで録音された。ピアノのエヴァンス、ベースのスコット・ラファロ、ドラムのポール・モチアンの三人が、伴奏と主役の役割を細かく入れ替えながら演奏していて、三人が互いの出方をうかがっている様子がそのまま記録されている。ラファロはこの録音の十日後に交通事故で亡くなっていて、この三人の演奏はこれが最後になった。 五週目は音色と編成の違いに耳を向ける。エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングが一九五六年に吹き込んだ『Ella and Louis』は、滑らかな歌としゃがれた歌が交互に出てくるので、声の質の違いがそのまま聴きどころになる。ハービー・ハンコックの『Maiden Voyage』は一九六五年の録音で、同じ管楽器でも響かせ方がまるで違うことが分かる。六週目は歴史の軸に戻す。ジョン・コルトレーンの『A Love Supreme』は一九六四年十二月の録音で、四つの部分が組曲としてつながっている。ここまでの五週間で身につけた聴き方を全部使わないと歯が立たない盤なので、締めくくりに置いている。 週 聴き取る対象 聴く盤 合わせて読む本 1 メロディを覚える Kind of Blue / Time Out 『ゼロから分かる! ジャズ入門』 2 グルーヴとリズム隊 Moanin' 『ジャズの名盤入門』の該当項目 3 曲の形を数える Saxophone Colossus 『ジャズ・スタンダード』で曲を引く 4 奏者どうしのやりとり Waltz for Debby 『ポートレイト・イン・ジャズ』 5 音色と編成の違い Ella and Louis / Maiden Voyage 『生きているジャズ史』 6 歴史の中に置き直す A Love Supreme 『新書で入門 ジャズの歴史』 読む本を、聴く段階に合わせる 本を選ぶときに気をつけたいのは、通読しようとしないことだ。入門書を最初から最後まで読み切ってから聴き始めると、だいたい読み終わる前に力尽きる。その週に聴く盤や、その週の対象に関係する箇所だけを、聴く直前に数ページ読む。この使い方なら、六冊あっても負担にならない。 ...

2026年10月3日 · 1 分 · 120 文字 · kingsworksub-jpg

『CUBASE 15 & 15 PRO ユーザーガイド』を手元に、4週間で1曲を仕上げる

Cubaseは機能が多いDAWだ。録音、MIDIの打ち込み、オーディオ編集、ミックス、マスタリングに加えて、楽譜まで扱える。そのぶん、起動した最初の画面で「どこから手をつければいいのか」と立ち止まってしまう人も多いと思う。 『CUBASE 15 & 15 PRO ユーザーガイド』は、そうした最初のつまずきを越えて、1曲を完成させるまでの道筋を示すことを目的にした解説書だ。2026年9月21日に発売された、Cubase 15と15 Proに対応する一冊になる。この記事では、本書がどんな本で、どこまでを扱っているのかを整理したうえで、Cubase本体と組み合わせてどう読み進めると力がつくのかを具体的に考えていく。 Cubase Pro 15そのものの機能、とくにスコアエディターについては「Cubase Pro 15のスコアエディターを読み解く、Doricoの譜面エンジンと15の新機能」で詳しく取り上げているので、あわせて読んでほしい。 どんな本か — 書誌情報 まずは基本的な情報をまとめておく。 項目 内容 書名 CUBASE 15 & 15 PRO ユーザーガイド: レコーディング、MIDI、オーディオ編集、アレンジ、バーチャル・インストゥルメント、ミキシング、エフェクト、オートメーション、マスタリング、そしてプロフェッショナルな音楽制作の実践ガイド 著者 アルデン・マーロウ 発行 Independently published(個人出版) 発売日 2026年9月21日 形式 ペーパーバック ページ数 128ページ 判型 約21.6×27.9cm(レターサイズ) 価格 3,999円(Amazon) ISBN-13 979-8176198294 出版社を通さない個人出版の本で、Amazonのオンデマンド印刷で届く形式だと思われる。判型はA4に近いレターサイズで、画面の図版を大きめに載せやすい大きさだ。128ページという分量は、Cubaseの全機能を網羅するリファレンスというより、制作の流れに沿って要点を押さえる実践ガイドの厚みだと考えておくとよい。 本書が扱う範囲 本書が掲げている学習内容は、音楽制作の工程をひととおりなぞる構成になっている。 セットアップと録音: オーディオインターフェースの設定、プロジェクトの作り方、オーディオとMIDIをきれいに録る方法 オーディオ編集: タイミングの修正、演奏の整理、ベストテイクを選んでつなぐコンピング、セッションの整理整頓 MIDI: 人間味のある打ち込み、クオンタイズ、表現の作り込み アレンジ: イントロ、Aメロ、サビ、つなぎ(トランジション)の組み立て バーチャル・インストゥルメント: 音色の読み込み、レイヤー、音作り ミックス: レベル設定、EQ・コンプレッション・エフェクトの使い方、各パートの居場所づくり オートメーション: 音量やエフェクト、楽器のパラメーターに動きをつける マスタリングと書き出し: ストリーミングや共有に向けた仕上げと書き出し ワークフローの効率化: 時間を節約し、初心者がはまりやすいミスを避ける習慣 「どこをクリックすべきか」に加えて「なぜそうするのか」まで説明する、というのが本書の方針だ。操作手順だけを覚えると、画面やバージョンが変わったときに応用が利かない。理由とセットで覚えられる構成は、DAWを長く使っていくうえで正しいアプローチだと思う。 想定している読者 本書は、幅広い制作者を読者として想定している。 初心者: 専門用語に頼らない、ステップごとの解説 ホームスタジオで制作する人: アイデア出しから最終マスターまで、繰り返し使える制作プロセス ボーカリスト、バンドメンバー、ソングライター: 録音とミックスの実践的な手引き ビートメイカー、エレクトロニック・ミュージックの制作者: MIDI、音源、アレンジのテクニック 経験のあるユーザー: ワークフローのヒントや機能の確認用リファレンス Cubase 15 / 15 Proへのアップグレードユーザー: 操作の把握と重要なツールの活用 対象がかなり広いぶん、128ページの中で一人ひとりに割ける分量には限りがあるはずだ。いちばん恩恵を受けやすいのは、Cubaseをこれから使い始める人や、ほかのDAWから乗り換えて「Cubaseでの1曲の作り方」を一度通して知りたい人だと思う。すでにCubaseで曲を完成させた経験がある人にとっては、知っている内容の確認が中心になりそうだ。 ...

2026年10月1日 · 1 分 · 149 文字 · kingsworksub-jpg