耳コピの1週間で伸びるのは速さで、届く範囲はまだ広がらない

耳コピを始めようとすると、最初に「音感がないから無理だ」という壁に当たる。好きな曲のベースラインを拾おうとしても、どの音なのか見当がつかない。鍵盤を一つずつ押して探すうちに、さっき聴いたはずのフレーズが頭から消えている。こういう経験を何度か繰り返すと、耳コピは生まれつき耳のいい人だけの技術に見えてくる。 ただ、耳コピに必要なのは、音名をいきなり言い当てる能力ではない。基準になる音から「どれだけ離れているか」を聴き取る力で、これは練習で伸びる。一方で、1週間で届く範囲には限りがあるのも確かだ。この記事では、1週間の反復で変わる部分と変わらない部分を切り分けたうえで、その1週間をどう使うかを順に書いていく。 1週間で変わるのは速さで、届く範囲はまだ広がらない 耳で拾った音を確かめる場所として、鍵盤は手元に一つあると話が早いPhoto: zaui/Scott Catron / CC BY-SA 2.0 聴覚の訓練については、音の高さの聞き分けを繰り返し練習すると、練習した課題そのものの成績は数日のうちに上がり、練習していない似た課題に効果が広がるのはそれより遅れて来る、という傾向がはっきりしている。耳コピに置き換えると、毎日練習している音程やフレーズの型は、1週間でかなり速く答えられるようになる。ところが、練習していない音程や、聴き慣れない和音の響きまで同じように分かるようになるには、もっと時間がかかる。 私はこの差を「速さ」と「範囲」と呼んで分けて考えている。1週間で伸びるのは速さのほうだ。同じ長3度を聴いたときに迷う時間が短くなり、ベースの動きを鍵盤で探すときの空振りが減る。ここは数日で手応えが出るので、続ける動機にもなる。 範囲のほうは、1週間ではほとんど広がらない。たとえば長3度と短3度の区別ができるようになっても、それがそのままセブンスやテンションの聞き分けにつながるわけではない。速いパッセージも、1週間後もまだ団子のように聴こえるはずだ。ここで「伸びていない」と判断してやめてしまうのが、いちばんもったいないと思う。範囲は週単位ではなく月単位で広がるものだと最初から決めておくと、気持ちが楽になる。 絶対音感についても触れておく。大人になってから音名を基準なしに当てられるようになるかを確かめた研究では、8週間にわたって合計で十数時間から二十数時間の訓練を続けた結果、6人のうち2人が、絶対音感を持つ人と見分けがつかない成績に届いたと報告されている。届いた人がいるという点は興味深いが、裏を返せば、2か月かけても大半の人は届かなかったということでもある。1週間の練習でこれを目標に置く理由はない。耳コピに必要なのは、次の節で書く相対音感のほうだ。 絶対音感ではなく、主音からの距離で聴く 19世紀の英国で広まった階名の手振り。どの調でも主音を「ド」と呼ぶ移動ドの考え方を、手の形で覚えさせたImage: John Curwen (1816-1880) / Public domain 相対音感は、基準になる音と比べて、もう一つの音がどれだけ離れているかを聴き取る力のことだ。耳コピで頼りになるのはこちらで、しかも大人になってからでも練習で身につく。 ここで一つ工夫したいのが、音と音の距離を「2音の間隔」として覚えるより、「その曲の主音から見て何番目の音か」として覚えるやり方だ。いわゆる移動ドの考え方で、ハ長調ならCをド、ヘ長調ならFをドと呼ぶ。どの調でも、主音に戻ったときの落ち着き方や、7番目の音が主音へ引っ張られる感じは同じように聴こえる。この「役割の響き」を覚えておくと、調が変わっても同じ耳がそのまま使える。 音程を一つずつ当てる練習は、最初はとっつきやすい。長2度、長3度、完全5度と順番に覚えていけば、問題集のように点数が上がるからだ。ただ、実際の曲では音が連続して流れていくので、2音ずつ間隔を計算していると、3音目あたりで最初の音を忘れてしまう。主音からの位置で聴く方法なら、一つひとつの音を同じ基準で測れるので、メロディが長くなっても崩れにくい。 このやり方は、練習の最初の手順もはっきりさせてくれる。曲を流しながら、いちばん落ち着く音、つまり「ここで終われる」と感じる音を声で探す。その音を鍵盤で確かめたら、それがドだ。最初の数日はこれだけで十分練習になる。ドが見つかれば、使われている音の候補がほぼ7つに絞られるので、あとの探索がずっと短くなる。 7日間の割り振り 1日の練習時間は15分から20分ほどで足りると考えている。長くやるより、毎日同じ時刻に続けるほうが効く。聴覚の訓練には、1日のうちに一定量をこなせばそれ以上増やしても伸びが変わらない、という性質もあるので、週末にまとめて2時間やる必要はない。私なら次のように割り振る。 1日目と2日目は、主音を探す練習と、アプリでの音程練習を半分ずつ。音程は長3度・完全5度・オクターブのように響きのはっきりしたものから始める。知っている曲の出だしを手がかりにして覚えるのも有効だ。 3日目と4日目は、移動ドでの聞き分けに切り替える。主音を鳴らしたあとに出てくる1音が、ド・ミ・ソのどれかを答えるところから始めて、レやラを足していく。ここで正解率が急に上がるのを感じられると思う。 5日目から7日目は、短いベースラインを1本だけ選んで耳コピする。8小節もあれば十分で、毎日同じ曲を続けてよい。7日目には、1日目に同じフレーズを聴いたときと比べて、探す時間がどれだけ縮んだかを振り返る。範囲はまだ狭くても、速さの変化は分かるはずだ。 アプリはここで記憶の受け皿として使う。無料で始めるならブラウザで動くmusictheory.netの練習問題が手軽で、音程・和音・音階の聞き分けを設定どおりに出題してくれる。teoria.comも同じく無料で、旋律の書き取りまで用意されている。スマートフォンなら、主音との関係で音を聴き分けるFunctional Ear Trainerが、移動ドの練習にそのまま合っている。ゲームのように段階を踏みたいならComplete Ear Trainer、体系的なコースまで欲しいならEarMasterがある。1週間の段階では一つに絞ったほうがよく、私は移動ドの練習ができるものを一つだけ入れておくのが無難だと思う。 耳コピはベースラインから始める ベースは1度に1音しか鳴らないことが多く、和音の土台も教えてくれるPhoto: Dejan Krsmanovic / CC BY 2.0 耳コピをどのパートから始めるかで、最初の1週間の手応えは大きく変わる。私はベースラインから始めるのをすすめたい。理由は三つある。 一つ目は、ベースはたいてい1度に1音しか鳴らさないことだ。和音のように複数の音を同時に聞き分ける必要がないので、相対音感の練習がそのまま生きる。二つ目は、ベースの音がその場の和音の根音であることが多い点だ。ベースラインを拾えば、コード進行の骨組みもかなり見えてくる。三つ目は、ポップスやロックでは同じ動きが何度も繰り返されることが多く、短いフレーズを一度拾えば曲全体に応用できることだ。 一方で、低い音は小さなスピーカーでは聴き取りにくい。ノートパソコンの内蔵スピーカーでは、ベースの音程そのものがほとんど出ていないこともある。ヘッドホンか、低音の出るスピーカーで聴くのが前提になる。 手順は次のようにしている。まず曲を2回か3回、何もせずに通して聴く。次に主音を声で探して鍵盤で確かめる。それから、拾いたいフレーズを4秒から5秒の長さで区切り、ループさせる。音を探すときは、いきなり鍵盤で探さずに、まず声に出して歌う。歌えた音は頭の中に残るので、鍵盤で探す間に消えにくい。歌えたら、主音から何番目の音かを考え、その候補から鍵盤で確かめる。1フレーズは3音から5音程度に収め、拾えたらその場で書き留める。 ベースが聴き取りにくい曲なら、メロディを先に拾ってもかまわない。メロディは高い音域にあって目立つので、ベースの次に聴き分けやすいパートだ。和音の中の内声は最後に回す。最初の1週間でここまで手を広げる必要はないと思う。 速度を落とせる道具を一つだけ持つ ベースの音程まで聴き取るには、低音の出るヘッドホンかスピーカーが前提になるPhoto: Jason Meredith / CC BY 2.0 耳コピの道具として、音の高さを変えずに再生速度を落とせるソフトは一つ持っておきたい。1週間目は、ほとんどのフレーズを原曲の50%から75%くらいの速さに落として聴くことになるからだ。速いフレーズはそのままでは音がつながって聴こえるが、速度を落とすと一つひとつの音の切れ目が見えてくる。 定番はパソコン用のTranscribe!で、区間のループ、高さを変えない減速、波形の表示がまとまっている。Macやスマートフォン中心ならAnytuneやAmazing Slow Downerも同じ目的で使える。最近は、曲をボーカル・ドラム・ベースなどに分けて再生できるMoisesのようなアプリもあり、ベースだけを大きくして聴くこともできる。これは便利だが、和音の判定まで自動で表示されるので、練習の段階では答えを先に見てしまわないよう、表示を隠して使うほうがよいと思う。 DAWを使っているなら、手持ちのDAWでも代わりになる。多くのDAWには、ループ再生と、高さを保ったまま速度を変える機能がある。新しいソフトを覚える時間を練習に回せるので、DAWに慣れている人はまずそちらで試すとよい。 ...

2026年10月9日 · 1 分 · 75 文字 · kingsworksub-jpg

音楽理論を3か月で一周するなら、最初から読む本は1冊だけ

音楽理論の独学は、最初の一冊で止まりやすい。 意味そのものは分かる。 でも次へ進めない。 語彙は増えるのに、和音の機能は頭に入らない。 これは努力不足ではない。 最初から最後まで通読する、という目的そのものが途中で崩れるからだ。 三か月で一周させるには、目的を置き換える。 本を一冊だけ選ぶ。ただし通読するのをやめる。 必要なページだけ開き、残りは目次として使う。 記憶の判定はアプリに任せる。 記号を距離に変えるのは鍵盤の仕事。 こうすると三つの役割が分かれる。 本は説明のソース。わからないときの答え合わせ。 アプリは記憶の受け皿。判定と反復を担当する。 鍵盤は記号を距離に変える層。 通読をやめると、三か月で配れるようになる 鍵盤は記号を距離に変える層。指が動く先がないと、本は読めても音にならないPhoto: Morn / CC BY-SA 4.0 三か月の割り方で私が迷ったのは、毎日何分やるかではなかった。 それは最後に述べる。 先に決めるべきは、途中で主教材を入れ替えるかどうかだ。 三か月とも同じ本を使うと、途中で息切れが起きる。 そのときに、本が厚すぎると感じる。 でも本を変えても同じところで止まるなら、それは本のせいではない。 やろうとしていることが通読だからです。 ここが今回の配分の出発点になる。 本の難易度は問題ではない。 最後まで読む、という目標が問題だ。 三か月を順に割るとき、書もアプリも一つに固定する。 変えるのは三か月目の主教材だけ。 これが配分の要点だ。 第1か月:音程と度数 度数とは記号ではなく、鍵と鍵の距離のことPhoto: Gabriel Barletta / CC0 音程を飛ばして和音へ進むことがある。 結果は単純で、和音が聞き取れなくなる。 理由は和音の名称が、音程だけでは決まらないからだ。 同じ三音でも、調が変われば別の名前になる。 一か月目は音程と度数を両方やる。 順序はこうする。 先に指で位置を覚えて、そのあと本を読む。 逆順だと、読んでいても指が動く先を知らない。 鍵盤での練習はこうする。 すべての白鍵に指を置き、音名を対応づける。 次に黒鍵を加える。 音程は、指を何個飛ばすかで分かる。 度数も同じ。基音から指がどこにあるか、で決まる。 耳の訓練は musictheory.net だけで足りる。 音程、音階、和音、鍵盤の四つに分かれていて、ブラウザだけで動く。 繰り返しの回数に制限がない。アカウントも要らない。 ただ、このサイトは孤立した識別だけだ。 基音から何番目かを問われることはない。 一か月目の主題は度数なので、ここに隙間が残る。 その隙間を埋めるのが Functional Ear Trainer だ。 先に基音を鳴らし、次の音が基音の何番目かを問う。 度数という概念をそのまま問えるので、要る場所に合っている。 文字に頼らない訓練なので、画面が日本語でなくても使える。 iPhone と iPad と Mac と Android に出ている。 ...

2026年10月6日 · 2 分 · 244 文字 · kingsworksub-jpg

Launchkey MK4に88鍵が加わり、選ぶ基準が鍵数だけになった

NovationのLaunchkeyがMK4になったのは2024年の夏で、そのときに出たのはMini 25、Mini 37、25、37、49、61の6機種だった。残りの一枠、88鍵が加わったのが2026年7月で、これで7機種が横一列に並んだことになる。 面白いのは、並べてみても中身の差がほとんど無いことだ。16個のパッドも、OLEDディスプレイも、スケールモードもコードモードも、アルペジエーターも、DAWとの連携も、Mini 25から88まで同じものが入っている。つまり「どの機能が欲しいか」で機種を絞ることができない。残っているのは鍵数と、それにくっついてくる横幅と重さと鍵盤のタッチ、それだけである。選択肢がきれいに一本の軸に整理されているとも言えるし、肝心なところを自分で決めろと突き放されているとも言える。 7機種で変わらない中身 ノートPCとシンセの間に差し込まれたLaunchkey Mini(写真は旧世代)。鍵盤の上に並ぶパッドという構成はMK4にも引き継がれている。Photo: Pete Brown from Gambrills, MD, USA / CC BY 2.0 共通部分から見ていく。まずパッドが16個。4×4で並んでいて、ベロシティに加えてポリフォニックアフタータッチに対応する。押したあとの圧力をパッドごとに別々に送れるので、和音を押さえたまま一音だけ揺らす、といった使い方ができる。この価格帯でパッドにポリアフターが載っているのは珍しく、MK4のいちばんの売りだと思う。 その上に8個のエンコーダーが並ぶ。止まらずに回り続けるタイプで、2バンク切り替えなので実質16個ぶんのパラメーターに手が届く。真ん中にはOLEDディスプレイがあって、いま何をいじっているのか、どのコードが鳴っているのかが出る。小さい画面なので離れた場所からは読みづらいが、プラグインの画面を見るために手を止める回数は確実に減った。 機能面ではスケールモードとコードモードが中心になる。スケールモードは選んだキー以外の音を弾けなくするもので、鍵盤が苦手な人ほど効く。コードモードは、一本指で和音を鳴らす固定コード、鍵盤上にコード進行を並べるコードマップ、自分で組んだ和音を割り当てるユーザーコードの三本立てで、特にコードマップは手癖から外れた進行が出てくるので、作りかけの曲が煮詰まったときに触っている。アルペジエーターもリズムや音の間引き方を細かく指定できるタイプで、適当に回しているだけで使えるフレーズが落ちてくる。 DAW連携はAbleton Liveがいちばん深く、クリップの起動からミキサー操作までコントローラー側で完結する。Logic、Cubase、FL Studio、Reasonにもスクリプトが用意されていて、Componentsというアプリからカスタムモードを作れば他の環境にも合わせられる。Native InstrumentsのNKSにも対応しているので、対応プラグインならつまみの割り当てが最初から入っている。 差がつくのは周辺のほうだ。Miniの2機種にはフェーダーが無く、MIDI出力は3.5mmのTRS、ピッチとモジュレーションはホイールではなくタッチストリップになる。フルサイズ鍵盤の5機種には9本のフェーダーとボタンが付き、MIDI出力は5ピンのDIN、サステインペダルは6.3mmのジャックになる。49鍵以上はさらにエクスプレッションペダルも挿せる。25鍵のモデルにフェーダーが9本も載っているのは今どき珍しく、ここはありがたい。 残念な点も書いておくと、鍵盤側にはアフタータッチが無い。パッドにはポリアフターが載っているのに、鍵盤を押し込んでも何も起きない。鍵盤でアフタータッチを使いたいなら、同じくらいの価格帯ならKorg Keystage、予算を倍にできるならNative InstrumentsのKontrol S系を見ることになる。電源スイッチが無いのも地味に不便で、PCを落としてもパッドが光りっぱなしになる。Shiftとセッティングボタンの長押しでLEDを消すスタンバイに入れられるが、スイッチを一つ付けてくれればそれで済んだ話ではある。 鍵盤のタッチは3種類に分かれる Novationのコントローラーの鍵盤まわり(写真は25 SL MkII)。鍵の長さや奥行きは見た目以上に弾き心地を左右する。Photo: Filori / CC BY-SA 4.0 鍵数を選ぶというのは、実は鍵盤そのものを選ぶことでもある。MK4の7機種は、鍵盤のタッチで3つのグループに分かれているからだ。 いちばん軽いのがMini 25とMini 37で、幅の狭いミニ鍵盤になる。指を広げる距離が短いので和音は押さえやすいが、黒鍵の間隔が狭いぶん、鍵盤に慣れている人ほど最初は空振りする。次が25と37で、こちらは幅がフルサイズになるものの、動きはシンセアクション、つまり軽くて戻りの速いタイプだ。打ち込みの入力装置としては申し分ないが、ピアノのつもりで弾くと指が沈みすぎる。 49、61、88の3機種は、セミウェイテッドのウォーターフォール鍵盤になる。重りが入っているぶん押し込みに手応えがあって、強弱の中間が出しやすい。ウォーターフォールというのは鍵の先端が丸く落ちている形で、鍵盤を押さえながら指を滑らせるような弾き方をしても引っかからない。88鍵だけは専用に設計された鍵盤で、よりピアノに近い返りになっているとされる。ただし、どれもハンマーアクションではない。グランドピアノの重さを期待して買うと、88鍵でも「軽い」と感じるはずだ。 ここが鍵数選びでいちばん見落とされる点だと思う。37鍵と49鍵の違いは「1オクターブぶん広い」ことではなく、「別の弾き心地の楽器に乗り換える」ことになる。鍵盤を弾いて入力したい人は、鍵数の希望が37で足りていたとしても、タッチを理由に49鍵を選ぶ価値がある。 机の幅という現実 鍵盤が増えると机では収まらなくなり、スタンドと二段重ねの世界に入っていく。Photo: George P. Macklin / CC BY-SA 2.0 カタログで最初に見るべきなのは鍵数ではなく横幅だと思っている。MK4の横幅は、Mini 25が338.5mm、25が461mm、37が557mm、49が730mm、61が895mm、88が1274mm。奥行きはどれも250〜265mm前後、高さは80〜95mm前後で揃っている。重さはMini 25が0.82kg、25が1.8kg、37が2.18kg、49が4.08kg、61が4.78kg、88が8.04kgだ。 これを机の寸法に当ててみる。幅120cmの机に27インチのモニターを1枚置くと、モニターの脚まわりでだいたい60cm強が埋まる。残りは55cm前後で、横に並べて置けるのは37鍵まで。49鍵の730mmはモニターの手前、キーボードとマウスの代わりに置く形になり、これが宅録で49鍵が定番になっている理由だと思う。61鍵の895mmは120cmの机をほぼ埋めてしまうので、PCのキーボードを膝の上か引き出しに逃がす覚悟がいる。 88鍵の1274mmは、もう机に載せるものではない。別のスタンドを用意して机の手前か横に置くか、二段式のスタンドで机の下から迫り上げるか、どちらかになる。ただ8.04kgという重さは88鍵としてはかなり軽い部類で、ハンマーアクションの88鍵が15kg前後あることを考えると、安いXスタンドでも足りるし、ライブに持ち出すのも現実的な範囲に収まる。重さと幅のどちらが問題になるかは人によるが、この機種に関しては確実に幅のほうが問題になる。 ...

2026年10月6日 · 1 分 · 135 文字 · kingsworksub-jpg

ミックス独学の1か月、同じ曲でEQ・コンプ・リバーブを1週ずつ

ミックスを独学で覚えようとすると、たいてい同じところで止まる。解説を読んで、言われたとおりにEQを挿して、低いところを削って、なんとなく良くなった気がして保存する。次の日に聴くと、良くなった気がしたところがどこだったか思い出せない。それで別の曲に移って、また最初からやる。 この繰り返しが効かないのは、根気の問題ではないと思っている。毎回ちがう曲を題材にしているせいで、自分の操作が何を変えたのかを比べる相手がいないだけだ。素材が変われば、良くなったのが処理のおかげなのか、もともとその音源が録りやすかっただけなのかが分からない。だから一か月のあいだ、題材を一曲に固定する。そのうえで、EQ・コンプレッサー・リバーブを一週ずつ順番に触る。ここではその組み立て方と、耳が題材に慣れきってしまう前に判断をリセットする仕組みを書く。 曲を変えないほうが、耳は早く育つ つまみの数より、同じ素材を何度も通すことのほうが効くPhoto: Prof. Pod / CC BY-SA 4.0 同じ曲を四週間扱うと決めると、最初に抵抗が出る。飽きるのではないか、という心配だ。実際には逆で、素材を覚えてしまったほうが変化がはっきり見える。ドラムの三拍目でスネアがどのくらい出ているか、ベースがどこで音程を外して聞こえるか、歌の「さ」行がどれだけ刺さるか。こうした細かい手がかりを覚えているから、処理を一つ挿したときに「どこが動いたか」が即座に分かる。初めて聴く曲を相手にすると、この比較がまるごと成立しない。 題材に選ぶ曲は、派手でないものがいい。トラック数は十前後、ドラム・ベース・ギターかピアノ・歌がそろっていて、打ち込みではなく生演奏が混ざっているものが扱いやすい。派手なシンセが中心の曲は、音作りの段階で完成していることが多く、ミックスで触れる余地が少ない。逆にトラック数が三十を超えると、一週目のうちに整理だけで力尽きる。 もう一つ大事なのは、毎週ゼロから作り直すことだ。一週目に作ったEQの設定を二週目に引き継がない。週の終わりに書き出した音源だけを残して、プロジェクトは新規で開き直す。引き継いでしまうと、先週の判断が前提になってしまい、その判断が正しかったのかを確かめる機会が永久に来ない。四週間で四つの独立した仕上がりが手元に残る形にしておくと、最後に並べて聴いたときに自分の変化がそのまま見える。 週あたりの時間は、合計で三時間もあれば足りる。一回四十五分を週に四回、くらいが現実的だと思う。長時間やるほうが上達しそうに思えるが、後で書くとおり、耳のほうが先に鈍る。 練習台になる音源は、無料で手に入る 題材の調達でつまずく人が多い。自分で録った曲があればそれが一番だが、録音の腕とミックスの腕を同時に鍛えようとすると、どちらの問題なのか切り分けられなくなる。最初は他人がきちんと録ったマルチトラックを借りるほうが早い。 よく使われているのが、エンジニアのマイク・シニアが運営する Cambridge Music Technology の無料マルチトラック・ライブラリだ(cambridge-mt.com)。生楽器のバンドからジャズ、オーケストラ、電子音楽まで、五百曲を超えるプロジェクトが分野別に並んでいて、ミックスの練習や授業の課題として自由に落として使える。このうち百二十五曲以上には、比較用のミックスも一緒に置かれている。自分の仕上がりと突き合わせられるので、独学ではここがありがたい。曲ごとにトラック数が書いてあるから、十トラック前後のものを選べばいい。 ほかにも、ウェザーヴェイン・ミュージックが続けている「Shaking Through」のシリーズは、一曲ごとに制作の過程を記録として残していて、素材と一緒に作り手の意図が追える。マイク本体のメーカーであるテレフンケンも、自社のスタジオで撮ったライブ演奏の素材を24ビット48kHzのまま無料で配っている。お題のマルチトラックが配られて参加者が仕上がりを持ち寄る Mix Challenge のような催しもあり、ミックス部門は隔月で開かれていて参加は無料だ。締め切りがあると手が動くタイプの人には、こちらのほうが合うかもしれない。 どれを選ぶにしても、落としたら最初にやることは一つだ。何も挿さずに、フェーダーだけで一度バランスを取る。パンも振っていい。この「素のバランス」を書き出して保存しておく。四週間のあいだ、これが比較の基準になる。プラグインを挿した結果が素のバランスに勝っていなければ、その処理は要らなかったということになる。 第1週:EQは、足すより先に削る 帯域を区切って上げ下げする道具。最初の週は下げる方向だけ使うPhoto: mytdx 4 / CC BY 2.0 一週目はEQだけを触る。コンプもリバーブも挿さない。禁じ手を決めておくと、EQで何ができて何ができないのかがはっきりする。 最初の三日は、ハイパスフィルターだけを使う。各トラックの低いほうを切って、その楽器が実際には使っていない帯域を落としていく作業だ。目安として、歌なら80〜120Hz、エレキギターなら80〜100Hz、アコースティックギターなら60〜80Hz、ハイハットやシンバルなら200〜400Hzあたりから始める。数字を暗記する必要はなく、切り始めてから音が痩せたと感じる手前で止めればいい。一本ずつでは変化がほとんど分からないのが普通で、全トラックに入れ終えてバイパスと切り替えたときに、低いところの濁りがまとめて減っているのが分かる。二十本以上あるセッションほど効果が大きい。 次の二日は、問題の周波数を探す練習にあてる。パラメトリックEQで帯域の幅を狭くし、+6〜10dBほど持ち上げた状態で、周波数をゆっくり下から上へ動かしていく。どこかで、明らかに嫌な音が飛び出す場所がある。鼻をつまんだような音、段ボールを叩いたような音、耳の奥が痛くなる音。その場所を見つけたら、今度は同じ周波数を下げる。持ち上げたまま放置しない。これを一トラックずつやると、同じ楽器でも録音ごとに嫌な場所が違うことが分かってくる。 残りの日は、帯域の地図を頭に入れる。20〜60Hzが体で感じる最低域、60〜250Hzが低音の重さ、200〜500Hzがこもりやすい場所で、特に250〜350Hzが濁りの中心になりやすい。500Hz〜2kHzが音の胴体、2〜6kHzが輪郭と存在感で、このうち2〜4kHzは人間の耳がいちばん敏感な帯域なので、上げすぎるとすぐ耳につく。5〜10kHzは歯擦音の領域、8〜14kHzが空気感だ。この区分を見ながら、さっき見つけた「嫌な音」がどの区分だったかを毎回メモしておく。三日も続けると、音を聴いただけで見当がつくようになる。 週の終わりに、EQだけで仕上げた状態を書き出す。素のバランスと並べて聴いて、勝っていなければ次の週に持ち越さず、潔く捨てる。 第2週:コンプレッサーは、やりすぎてから戻す つまみは四つしかない。効きが分からないうちは、わざと振り切って覚えるPhoto: The Midnite Wolf / CC0 二週目は、素のバランスから作り直してコンプレッサーだけを挿す。EQは使わない。コンプは変化が地味で、適量だと「何も変わっていない」としか感じられないので、独学でいちばん手応えを掴みにくい道具だと思う。 だから最初の二日は、わざと極端にかける。比率を20:1、スレッショルドを深く下げ、アタックを最速、リリースも最速にして、スネア一本に挿してみる。音は完全に壊れる。壊れた状態から、つまみを一つずつ戻していく。アタックを遅くすると、叩いた瞬間の芯が戻ってくる。リリースを長くすると、呼吸のような揺れが収まる。比率を下げると、音量差が元に戻っていく。どのつまみが何を担当しているのかは、この壊し方を一度やると体で分かる。 そこから先は、まともな設定の範囲で練習する。出発点として使いやすいのは、ゲインリダクションが2〜3dBに収まる程度の深さ、比率は1.2:1から2:1、アタックは20〜50ms、リリースは100〜200msあたりだ。アタックを速くしすぎると、音の立ち上がりが真っ先に削られて、楽器の個性が消える。リリースはテンポに合わせて調整し、メーターの針が一小節に何度か0に戻ってくるくらいが目安になる。針が張りついたまま戻ってこないなら、かけすぎだ。 初心者がいちばんやりがちなのは、かけすぎだと思う。強くかけると音が大きく聞こえて、上手くなった気がする。これを避ける方法は単純で、バイパスと比較するときに音量を揃えることだ。コンプで持ち上がったぶんの出力を下げてから比べると、かけすぎた音は途端に平たく、生気のないものに聞こえる。この比較を癖にするだけで、週の後半には判断がかなり変わる。 余裕があれば、週の最後にパラレルコンプも触っておきたい。センドで別の経路に送って、そこで思い切り潰した音を作り、原音の下に25%くらいから混ぜていく。原音の立ち上がりを残したまま、小さい音の細部だけが持ち上がる。ドラム全体やボーカルで効きやすい。ここでも音量を揃えて比べるのを忘れないようにする。 第3週:リバーブは、乾いた音を消して聴く 鉄板を震わせて残響を作った装置。いまのプレート系の設定はここが元になっているPhoto: EMT-Archiv-Lahr / CC BY-SA 4.0 三週目も、また素のバランスから始める。今度はリバーブだけだ。 ...

2026年10月5日 · 1 分 · 144 文字 · kingsworksub-jpg

加水分解でベタつくヘッドホンを、純正パーツ2点で現役に戻す

久しぶりに引き出しから出したヘッドホンを耳に当てたら、指先がぬるりとした。イヤーパッドの表面が、溶けかけた飴のようになっている。拭いても取れない。それどころか、拭いた布に黒い皮がぺろりと付いてくる。 ヘッドホンを数年単位で使っていれば、たいてい一度は通る道だと思う。音は何も変わっていないのに、耳に触れる部分だけが先に寿命を迎える。ドライバーもケーブルも筐体も健在なのに、合皮が崩れたというだけで「そろそろ買い替えか」と考えてしまう。もったいない話で、しかも直せる。 厄介なのは、この劣化が使用頻度とあまり関係しないところだ。箱にしまって大事に保管していたほうが早く駄目になることすらある。原因が摩耗ではなく化学反応だからで、だとすれば対処の仕方も「丁寧に使う」とは別の方向になる。ここでは、何が起きているのかという話から、部品を買って自分で替える手順、そして次の一台を長持ちさせる保管の仕方までを順に見ていく。 ベタつきの正体は、ポリウレタンが水と手を切ること 合皮のイヤーパッドとヘッドバンドを持つ密閉型モニターヘッドホンPhoto: Jose C Silva / CC BY 2.0 イヤーパッドやヘッドバンドに使われている「合成皮革」「プロテインレザー」「PUレザー」は、呼び名こそ違うが中身はだいたい同じで、布地の上にポリウレタンの膜を塗った素材だ。手触りが革に近く、安く作れて、縫製も自由がきく。弱点はひとつだけで、その膜が水と反応して分解する。 ポリウレタンの分子は、短い鎖がエステル結合やエーテル結合でつながってできている。このうちエステル結合のほうが水に弱い。空気中の水分が結合部分に入り込むと、鎖がそこで切れる。切れた鎖は短くなり、短い鎖の集まりは膜としての強度を失ってベタつく。これが加水分解で、一度始まると止まらない。切れた端が酸性の成分を残し、それがさらに次の切断を促すため、進むほど加速するという性質まで持っている。 反応の速さを決めるのは、水分と温度だ。湿度が高いほど速く、温度が高いほど速い。人間の頭に乗せている時点でヘッドホンは体温に近い温度にさらされているし、耳のまわりは汗をかく。汗には水に加えて塩分と乳酸が含まれていて、これが反応をさらに後押しする。耳に当たる面が真っ先に崩れ、外側はまだきれいなまま、という壊れ方をするのはそのためだ。 逆に言えば、引き出しの奥や密閉したケースの中は、ポリウレタンにとって最悪に近い環境になりうる。使っていないから湿気を飛ばす機会もなく、温度が上がれば中にこもる。「大事にしまっておいたのに」という嘆きは、素材の側から見れば順当な結果だったりする。目安として、合皮のイヤーパッドの寿命は毎日使って2年から3年、使わなくても5年前後と考えておくと見通しを立てやすい。 ベタつき、ひび割れ、黒い粉という順番で進む 劣化は段階を踏む。順番を知っておくと、いま自分のヘッドホンがどこにいるのか、まだ待てるのか、すぐ手を打つべきなのかが分かる。 最初の兆候は手触りの変化だ。新品のときのさらりとした感触が消え、わずかに吸い付くようになる。この段階ではまだ見た目はきれいで、指で触って初めて気づく。次に表面の艶が鈍り、しわの深いところが白っぽく粉を吹いたように見えてくる。ここを過ぎると、縫い目や曲げ伸ばしの多い場所から細かいひびが入る。イヤーパッドなら耳の後ろ側に当たる外周、ヘッドバンドなら頭頂部の真ん中あたりが先に割れることが多い。 ひびが入ったあとは早い。ポリウレタンの膜が下地の布から剥がれ、小さな黒い破片になって落ち始める。この破片が髪に付き、肩に落ち、白いシャツに黒い点を散らす。段階としてはここが終わりで、どれだけ丁寧に扱っても元には戻らない。塗り直しや補修材でごまかそうとしても、下地の布まで劣化していれば接着が持たない。 もうひとつ見落としがちなのが、中のクッション材の劣化だ。表面の合皮が無事でも、詰め物のウレタンフォームは潰れていく。へたったパッドは耳と筐体の距離を縮め、密閉が甘くなる。低音が抜け、音像が平たくなり、中低域がぼやける。「最近このヘッドホン、なんだか音が窮屈だ」と感じたら、ドライバーではなくパッドの厚みが減っているだけという場合がある。パッドを替えると音が戻る、というのはこの意味では誇張ではない。 イヤーパッドは工具なしで外れることが多い パッドを外すと、ドライバーを覆う樹脂のプレートが現れるPhoto: Bait30 / CC BY-SA 4.0 パッド交換は、身構えるほどの作業ではない。多くのヘッドホンは、パッドの裏側にある柔らかい縁をハウジングの溝に押し込んで留めているだけで、接着も螺子も使っていない。外し方は、パッドの縁を指でつまんで外側へ引き上げ、溝から一箇所外れたら、そこから二、三センチずつ隣へ移りながらぐるりと一周する。力任せに一気に引っぱると縁が裂けるが、どうせ捨てるパッドなので裂けても困らない。所要時間は片側一分といったところだ。 留め方には何種類かある。いま書いた溝にはめ込む方式がいちばん多く、次に樹脂のリングを爪で引っかける方式、そして少数ながら接着剤で貼り付けてある方式がある。見分け方は簡単で、縁を少し持ち上げたときに全体がすんなり動けば溝式、硬い輪郭を感じるならリング式、びくともせず糊の跡が見えるなら接着式だ。接着式だけは手強く、樹脂のヘラを隙間に差し込んで少しずつ剥がし、残った糊をきれいに落としてから新しいパッドを貼ることになる。 取り付けは外すときの逆で、新しいパッドの縁を溝の一箇所に入れ、そこを起点に少しずつ押し込んでいく。コツがあるとすれば、最後の一箇所がどうしても入らないこと。縁を少し引き伸ばしながら親指で押し込めば入る。入れ終わったら、パッドを軽く回してみて、どこかが浮いていないかを確かめたい。一周ぐるりと均等に収まっていないと、そこから空気が漏れて低音が痩せる。 古いパッドを外したら、ハウジング側の掃除も済ませておきたい。溝には崩れた合皮の粉や皮脂が溜まっていることが多い。乾いた布と綿棒で拭き取る程度でよく、アルコールや溶剤は使わないほうがいい。樹脂を曇らせるうえ、残っている部分のポリウレタンの劣化をかえって早める。 替えるパッドの素材で、音の性格は変わる 厚みのあるパッドに替えると、耳とドライバーの距離が変わるPhoto: P0lykey / CC0 純正と同じものを買い直せば音はほぼ元に戻る。これがいちばん無難な選択で、迷うくらいならこれでいい。ただ、交換は素材を変える機会でもあるので、それぞれの性格は知っておいて損がない。 合皮は密閉が強い。耳のまわりを隙間なく塞ぐので、低音が逃げず、外の音も入りにくい。モニターヘッドホンがこの素材を選ぶのは、録音の現場で音を漏らさないためでもある。代償は蒸れと、ここまで書いてきた寿命の短さだ。 ベロア、つまり起毛した布地のパッドは正反対で、通気する。夏でも蒸れず、何時間でもかぶっていられて、しかも布なので加水分解とは無縁だ。ただし空気が通るということは音も通るということで、低音は確実に軽くなる。密閉が緩んだぶん音場は広く感じられ、中高域の見通しは良くなるが、低音の量感を頼りにしていた人には痩せて聴こえる。モニター用途で使っているなら、この変化は無視できない。 本革、とくに羊革のパッドは折衷案になる。密閉は合皮に近く、通気は合皮よりわずかに良く、何より加水分解しない。革として普通に経年変化するだけなので、十年単位で持つ。値段は高い。もうひとつ、スエードやアルカンターラのような起毛の人工素材もあり、こちらはベロアと革の中間くらいの性格をしている。 厚みも音を変える要素だ。純正より厚いパッドにすると耳とドライバーの距離が開き、音場は広がるが低音は減る。薄くすれば逆になる。社外品には「純正より厚め」を売りにしたものが多いので、純正と同じ音を求めているなら、素材だけでなく厚みも元と同じくらいのものを選びたい。 ヘッドバンドが単品の部品として売られ始めた パッドは昔から交換部品として売られてきたが、ヘッドバンドは長らく厄介な部位だった。構造体を兼ねているうえ、中をケーブルが通っている機種もあり、メーカーが部品として出していなければ修理に出すしかない。実際、自転車のバーテープを巻く、布のカバーを被せる、スポンジテープを貼るといった力技が、ネット上の定番の対処法になっていた。見た目は妥協するしかない。 ここが2026年10月に少し変わった。オーディオテクニカが、ATH-M50x系のヘッドバンドを単品の補修部品として発売した。品番はHP-HBM50x、税込2,750円。黒と白の二色があり、取り付け用のドライバーが同梱されているので、工具を別途買い足す必要がない。対応するのはATH-M50x、ATH-M50xBT2、ATH-M50xSTS、ATH-M50xSTS-USBの四機種で、同じMシリーズでもM40xやM20xは対象外になる。 この部品の意味は値段以上に大きいと思う。ATH-M50xは実売2万円前後の製品で、ヘッドバンドがベタついただけで買い替えるには高い。かといって修理に出せば送料と工賃で数千円は飛ぶ。2,750円で自分で直せるなら、判断に迷う余地はほとんどない。しかも半田付けは不要で、ハウジング側の螺子を外して古いバンドを抜き、新しいバンドを通して締め直すという手順で済む。 交換のときに気をつけたいのは三点だ。ひとつ、外した螺子は小皿にまとめておくこと。細かいうえに床に落とすと見つからない。ふたつ、ハウジングからケーブルが伸びている機種では、バンドを引き抜く前に配線の通り道を見ておくこと。写真を一枚撮っておけば組み立てで迷わない。みっつ、締めるときに力を入れすぎないこと。樹脂に切られた螺子穴は一度舐めると元に戻らない。付属のドライバーが小さめなのは、強く締めすぎないための配慮でもある。 部品の探し方と、値段の目安 吊るして置くだけでも、密閉したケースにしまうより条件はよくなるPhoto: Tim Wilson / CC BY 2.0 純正部品にたどり着く最短の道は、メーカーのサイトにある補修部品の検索ページで型番を入れることだ。オーディオテクニカの場合、ATH-M50xで引けばイヤーパッドのHP-M50x(税込2,200円)、1.2メートルと3.0メートルの着脱ストレートコード(各1,650円)、カールコード(2,200円)、6.3ミリの変換プラグ(550円)、ポーチ(1,100円)といった具合に、部品が価格付きで一覧になる。ATH-M40x用のHP-M40xは1,650円、ATH-R70x用のHP-R70xは3,300円と、機種ごとに別の品番が割り当てられている。 この「部品が型番で買える」という体制は、メーカーによって厚みがかなり違う。イヤーパッドだけを出しているところ、ヘッドバンドのクッションまで出しているところ、そもそも部品単位では売らないところがある。買う前に補修部品の一覧を見ておくと、その機種を何年使えるかの見当がつく。価格が同じなら、部品が買えるほうを選ぶ理由はここにある。 社外品という選択肢もあり、こちらは素材と厚みの幅が広い。合皮のほか、羊革、ベロア、スエード、通気孔の空いた穴あきタイプなどが揃っていて、価格帯も千円台から六千円前後まで分かれている。人気機種ほど選択肢が多く、ATH-M50xのような定番は特に充実している。純正が廃番になった古い機種を延命させたいときは、こちらが唯一の道になることも多い。 ひとつ注意したいのは寸法だ。パッドは外径が一ミリ違うだけで溝に収まらなくなる。買うときは必ず対応機種の一覧に自分の型番があることを確かめたい。「〇〇シリーズ対応」という大まかな表記は、同じシリーズでも世代でハウジングが変わっている場合があるので、鵜呑みにしないほうが安全だと思う。 替えずに済ませるための、保管の作法 部品が買えるとはいえ、替えずに済むならそのほうがいい。加水分解は水分と温度で進むのだから、対策もその二つに絞られる。 まず、密閉しない。付属の巾着やハードケースにしまうのは、持ち運ぶときだけにしたい。家ではスタンドに吊るすか、机の端に置いておくほうが、合皮にとってはずっと優しい。湿気がこもらず、温度も上がらない。どうしてもケースに入れるなら、乾燥剤を一緒に入れて、半年から一年で入れ替える。 ...

2026年10月5日 · 1 分 · 73 文字 · kingsworksub-jpg

ジャズの名盤リストはなぜ続かないのか、聴く順番と入門書の組み立て方

ジャズを聴こうと思い立った人がまず手に入れるのは、たいてい名盤のリストだ。五十枚なり百枚なりが時代順に並んでいて、解説が付いている。一枚目をかけて、最後まで通して、「悪くなかった」と思う。二枚目も同じように聴いて、やはり「悪くなかった」と思う。そして三枚目あたりで、なんとなく再生しなくなる。 これは根気の問題ではないと思っている。聴く前に「今日は何を聴き取るのか」を決めていないだけだ。リストは目的地の一覧であって、道順ではない。どこを見ればいいか分からないまま景色が流れていけば、何も残らないのは当たり前だと感じる。ここでは、聴き取る的を一つずつ決めていく手順と、その段階に合う本を割り当てる六週間の組み立て方を書く。 名盤リストだけでは前に進めない 名盤リストが悪いわけではない。あのリストは、歴史の上で重要だった録音や、長く売れ続けてきた録音を並べたものだ。選ばれた理由はきちんとある。ただ、その順番は「ジャズを初めて聴く人が、どういう順で耳を慣らしていくか」という観点では組まれていない。重要度の順と、入りやすさの順は別物だ。 もうひとつ厄介なのは、感想を書くための物差しが手元にないことだ。知らない音楽を一枚通して聴いたあとに残るのは、良かったか良くなかったかの二択しかない。これだと二枚目を聴く動機が生まれにくい。好きになれたかどうかは運まかせになってしまう。 ジャズの一曲は、短いもので三分、長ければ十分を超える。その中では、最初にメロディが示され、そのあと奏者が順番に即興を取り、最後にもう一度メロディに戻ってくる、という進み方をすることが多い。構造を知らずに聴くと、同じところをぐるぐる回っているように聞こえる。回っているのは事実なのだが、回るたびに中身が変わっている、というのがこの音楽の肝心なところだ。そこが聞こえないうちは、長さだけが印象に残る。 だから、一回の再生につき聴き取る対象を一つだけ決める。対象を絞ると、一枚のアルバムが何度でも新しくなる。五十枚を一周するより、五枚を十回ずつ聴いたほうが、結果として耳は早く育つと思う。 耳の置きどころを一つに決める 一人が吹き、もう一人がその場で応える。ジャズの中身はこの往復にあるPhoto: Francesca.giovinazzo / CC BY-SA 4.0 聴き取る対象の候補は、大きく四つに分けられる。メロディ、グルーヴ、奏者どうしのやりとり、そして音色だ。メロディは曲の顔にあたる部分で、冒頭と最後に出てくる。グルーヴは、足でリズムを取りたくなるかどうかの感触で、ベースとドラムとピアノが作っている。やりとりは、誰かが吹いたフレーズに別の誰かが反応する瞬間のことだ。音色は、同じ楽器でも奏者ごとに違う、息の混じり方や弦の鳴り方を指す。この四つを同時に追おうとすると、たいてい全部ぼやける。 具体的な手順として、同じ曲を三回続けて聴く方法が分かりやすい。一回目は何も意識せず流す。二回目は、冒頭のメロディを自分で口ずさめるかどうかを確かめる。口ずさめたなら、そのあと即興がどれだけ遠くへ行っても、戻ってくる場所が分かる。三回目は楽器を一つ選んで、その楽器だけを最後まで追いかける。この三回目が、いちばん発見が多い。 追いかける楽器は、曲ごとに変えていい。ベースは曲の土台を作っていて、和音の動きを一番はっきり示している。ドラムは全体の脈を打ちながら、要所で合いの手を入れる。ピアノは和音で返事をする係で、ソロを取っている奏者に相槌を打ったり、わざと外したりする。管楽器や歌はメロディを担当するが、同じメロディを毎回わざと崩して演奏する。崩し方の癖が、その人の個性になる。 聴き終えたら、三行だけ書き残しておくことを勧めたい。気に入った音が一つ、気づいた奏者が一人、分からなかったことが一つ。これだけで、次に聴くときの的が自動的に決まる。分からなかったことは、たいてい次の週の課題になる。 曲の形がわかると、迷子にならない ベースを追うと曲の継ぎ目が見えてくる。一周の変わり目で動きが戻るPhoto: CookipediaChef / CC BY-SA 4.0 ジャズの演奏には、ほとんどの場合に共通する進行の型がある。短い導入があり、曲のメロディが一通り演奏され、そのあと奏者が順番に即興を取り、最後にもう一度メロディに戻って終わる。最初と最後に出てくるメロディの部分を「ヘッド」と呼ぶ。即興の部分では、曲の和音の流れを何周もくり返しながら、その上で自由に演奏している。この一周を「コーラス」と言う。 一周の長さは曲によって決まっている。古いポピュラーソングを下敷きにした曲なら、八小節のまとまりが四つ並ぶ三十二小節の形が多い。四つのうち三つ目だけ雰囲気が変わる並び方が典型で、この三つ目は「ブリッジ」と呼ばれる。ブルースを下敷きにした曲なら、十二小節で一周する。どちらの場合も、一周し終えると最初に戻るので、注意していると継ぎ目が聞こえてくる。 この継ぎ目が分かると、聴いている最中に「今どのあたりなのか」が掴める。ソロを取る奏者が交代するのは、たいてい一周の頭だ。サックスが何周か吹いて、次にピアノに渡り、そのあとベースが受け取る、という流れが見えるようになる。終盤で、管楽器とドラムが四小節ずつ交互に短いフレーズを投げ合うことがある。これは四小節の交換と呼ばれる定番の見せ場で、形を掴んでいると、ここで何が起きているのかがはっきり分かる。 継ぎ目を掴む近道は、やはりベースを追うことだと思う。ベースは一周の変わり目で必ず出発点の音に戻ってくるので、目印として使いやすい。慣れないうちは、指で四つ数えるのを四回くり返して十六小節、もう一度くり返して三十二小節、という具合に数えてみるといい。数えるのは最初の二、三回だけでよくて、そのうち数えなくても切れ目が感じ取れるようになる。この感覚が手に入ると、長い演奏が長く感じられなくなる。 六週間の聴く順番を組む ライドシンバルの刻みとブラシの擦れる音。二週目はここだけを追うPhoto: Mike a davies / CC BY-SA 4.0 ここまでの考え方を、六週間の順番に落とし込む。一週につき聴き取る対象を一つだけ決めて、その対象がはっきり聞こえる盤を二枚までに絞る。枚数を増やさないのがこつで、同じ盤を一週間かけて何度も聴くほうが、新しい盤を次々に足すより手応えがある。通勤中のような「ながら聴き」とは別に、週に二回ほど、十分だけ腰を据えて聴く時間を取れると理想的だ。 一週目はメロディを覚えることだけに使う。マイルス・デイヴィスの『Kind of Blue』は一九五九年の録音で、どの曲もゆったりしていて輪郭が掴みやすい。同じ年に出たデイヴ・ブルーベック・カルテットの『Time Out』は、四拍子ではない変わった拍子の曲を集めているのに、メロディは驚くほど覚えやすい。二週目はグルーヴとリズム隊に移る。アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの『Moanin’』は一九五八年十月の録音で、ピアノのボビー・ティモンズが書いた表題曲の、あの呼びかけと応答のような出だしが有名だ。ブレイキーのドラムは終始主張が強く、ドラムだけを追う練習にはうってつけだと思う。 三週目は、前の章で書いた曲の形を数えることに充てる。ソニー・ロリンズの『Saxophone Colossus』は一九五六年の録音で、冒頭の「St. Thomas」は形が単純なうえに、ドラムのソロやベースの受け渡しがはっきりしているので、継ぎ目を探す練習がしやすい。四週目は奏者どうしのやりとりを聴く。ビル・エヴァンス・トリオの『Waltz for Debby』は、一九六一年六月二十五日にニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードで録音された。ピアノのエヴァンス、ベースのスコット・ラファロ、ドラムのポール・モチアンの三人が、伴奏と主役の役割を細かく入れ替えながら演奏していて、三人が互いの出方をうかがっている様子がそのまま記録されている。ラファロはこの録音の十日後に交通事故で亡くなっていて、この三人の演奏はこれが最後になった。 五週目は音色と編成の違いに耳を向ける。エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングが一九五六年に吹き込んだ『Ella and Louis』は、滑らかな歌としゃがれた歌が交互に出てくるので、声の質の違いがそのまま聴きどころになる。ハービー・ハンコックの『Maiden Voyage』は一九六五年の録音で、同じ管楽器でも響かせ方がまるで違うことが分かる。六週目は歴史の軸に戻す。ジョン・コルトレーンの『A Love Supreme』は一九六四年十二月の録音で、四つの部分が組曲としてつながっている。ここまでの五週間で身につけた聴き方を全部使わないと歯が立たない盤なので、締めくくりに置いている。 週 聴き取る対象 聴く盤 合わせて読む本 1 メロディを覚える Kind of Blue / Time Out 『ゼロから分かる! ジャズ入門』 2 グルーヴとリズム隊 Moanin' 『ジャズの名盤入門』の該当項目 3 曲の形を数える Saxophone Colossus 『ジャズ・スタンダード』で曲を引く 4 奏者どうしのやりとり Waltz for Debby 『ポートレイト・イン・ジャズ』 5 音色と編成の違い Ella and Louis / Maiden Voyage 『生きているジャズ史』 6 歴史の中に置き直す A Love Supreme 『新書で入門 ジャズの歴史』 読む本を、聴く段階に合わせる 本を選ぶときに気をつけたいのは、通読しようとしないことだ。入門書を最初から最後まで読み切ってから聴き始めると、だいたい読み終わる前に力尽きる。その週に聴く盤や、その週の対象に関係する箇所だけを、聴く直前に数ページ読む。この使い方なら、六冊あっても負担にならない。 ...

2026年10月3日 · 1 分 · 131 文字 · kingsworksub-jpg

コンデンサーマイク5本比較 — 指向性と電源から選ぶ、宅録の最初の一本

導入 宅録を始めるなら、マイク選びが最初の分岐点だ。ダイナミックマイクと違い、コンデンサーマイクは電源(48V ファントム電源)を必要とするため、つなぐ機材の条件も確認が要る。また、指向性(単一指向性か広い感度か)、周波数特性、インピーダンスなどの違いで、録音に映る「空間感」や「音の表情」が大きく変わる。 本記事では、初心者向けから定番の高級機まで、5台のコンデンサーマイクを並べた。評価軸は、セットアップのしやすさ、操作感、マイク立ち上げの速さ、将来の拡張性、そして耐久性の5つ。同じジャンル内でも、価格の差がどこに消えているのかを見ていこう。 評価軸の考え方 ハードウェアマイクの評判を分けるのは、以下の5点だ: セットアップ: ケーブル接続、電源確認、接地処理などの初期設定の簡単さ 操作性: マイク本体での調整可能性、ゲイン調整の自由度、マウント交換の容易性 マイク立ち上げ: 「宅録を始めたい」というタイミングから、実際に使えるレベルまでの時間と手間 拡張性: 他のマイク、プリアンプ、オーディオインターフェイスとの組み合わせ柔軟性 耐久性: 経年変化、湿度・温度変化への耐性、修理サポートの手厚さ これらの軸で5本を評価する。 各製品の詳細 Audio-Technica AT2020 — エントリーの定番 Audio-Technica AT2020Image: Audio-Technica / 公式サイト AT2020 は宅録の入門機として、ここ20年不動の位置にある。単一指向性(カーディオイド)で、スピーカーやバウンスした音を拾いにくく、ボーカル録音に適している。48V ファントム電源が必須だが、ほぼすべてのオーディオインターフェイスが対応しているため、セットアップの手間は最小限だ。 周波数特性は 20Hz 〜 20kHz で標準的。インピーダンス 100Ω という低インピーダンス設計のため、長いマイクケーブルでも扱いやすい。付属するのはスタンドマウントだけなので、ショックマウントやポップフィルターは必要に応じて買い足すことになるが、それを含めても5本の中でいちばん手頃に始められる。 音は明るくクリアで、ボーカルが前に出てくる。構造がシンプルで壊れにくく、長く使える一本だと思う。 セットアップ 4 / 操作性 4 / マイク立ち上げ 5 / 拡張性 3 / 耐久性 4 RODE NT1 5th Generation — ノイズフロアの低さが利点 RODE NT1-A の振動板(NT1 シリーズの旧モデル)Photo: ElooKoN / CC BY-SA 4.0 RODE NT1 5th Generation は、2023 年 2 月に発表された NT1 の最新世代だ。単一指向性のカーディオイドで、AT2020 と用途は似ているが、ノイズフロアの低さに加えて、XLR と USB-C の両方で接続できる点が大きな違いになる。 ...

2026年10月3日 · 2 分 · 341 文字 · kingsworksub-jpg

5つのアイテムで組むクラシックスタイル:ライトブルーのシャツとブラウンのサスペンダー

ジャケットを着ないのに、きちんとして見える。それでいて堅苦しくない。そんな装いを一つ挙げるなら、シャツにサスペンダーとネクタイを合わせ、中折れハットをのせたクラシックなスタイルだと思う。1920〜40年代のジャズエイジの紳士服を下敷きにしながら、ジャケットを省いて軽やかにした、大人の休日にちょうどいいバランスの着こなしだ。 今回組むのは、ライトブルーのドレスシャツ、ダークブラウンのY型サスペンダー、ダークブラウンの細身ネクタイ、黒のテーパードスラックス、ダークブラウンの中折れハットという5つのアイテム。どれも単品で見ればごく基本的なものだが、組み合わせると一気に雰囲気が出る。この記事では、全体の色の考え方から、アイテムごとの選び方、サイズ感や小物の合わせ方、季節ごとのアレンジまでを順に見ていく。各アイテムの写真をクリックすると、Amazonで近い商品を探せるようにしてある。 コーディネートの全体像 — 3色で組む このスタイルの骨格は、ライトブルー、ダークブラウン、黒の3色だけで成り立っている。いちばん面積の大きいシャツを明るいライトブルーにして、顔まわりを爽やかに見せる。そこに、サスペンダー、ネクタイ、ハットというアクセントをすべてダークブラウンでそろえ、ボトムスの黒で全体を引き締める。ブラウン系の小物を同じ色でそろえるのが、まとまりを出すいちばんのコツだ。 ライトブルーとブラウンは、互いに引き立て合う相性のよい組み合わせだと思う。冷たい青と温かい茶色がぶつからずに混ざり、カジュアルすぎず、フォーマルすぎない落ち着いた印象になる。黒のスラックスはスーツ用のように光沢のあるものではなく、マットな生地を選ぶと、ブラウンの小物と自然になじむ。 もう一つのポイントは、縦のラインだ。サスペンダーの2本の線と、ネクタイの1本の線が、上半身にすっと縦の流れを作る。これがスタイルを縦長に、すっきり見せてくれる。ジャケットを着ないぶん、サスペンダーとネクタイがジャケットの役目を果たしていると考えるとわかりやすい。 ライトブルーのドレスシャツ — 土台になる一枚 土台はライトブルーの無地ドレスシャツ(クリックでAmazonへ) Photo: Ser Amantio di Nicolao / Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0) 装いの土台になるのが、ライトブルーの無地のドレスシャツだ。襟はレギュラーカラーを選びたい。ネクタイを締めたときに襟の開きが自然で、細身のネクタイともバランスがとりやすい。ボタンダウンでもカジュアルに寄せられるが、ハットやサスペンダーのクラシックな雰囲気には、レギュラーカラーのほうが素直に合うと思う。 シルエットはスリムフィットがおすすめだ。サスペンダーを付けるとシャツの上にベルトのラインがなくなるため、身幅が余っているとお腹まわりの生地がもたついて見えてしまう。体に沿ったスリムフィットなら、サスペンダーの縦のラインがきれいに出る。袖は長袖を選び、少しまくって手首を見せると、腕時計やブレスレットがのぞいて、こなれた印象になる。 生地は、ブロードのようななめらかなものなら上品に、シャンブレーやオックスフォードのようにざっくりした風合いのものなら、ぐっとカジュアルに振れる。最初の一枚なら、どちらにも転がしやすい無地のブロードかオックスフォードが使いやすい。色はくすみのない明るいライトブルーを選ぶと、ダークブラウンの小物が映える。 Y型サスペンダー — 主役になる縦のライン 2本の縦のラインが、上半身を引き締める Photo: Pixel.la / Wikimedia Commons (CC0) この装いの主役が、ダークブラウンのY型サスペンダーだ。背中側で1本にまとまる「Y型」は、肩から落ちにくく、背中のシルエットもすっきりする。後ろで交差する「X型」よりもクラシックで、シャツ1枚で着る場面にも向いていると思う。 幅は35mm前後の幅広タイプを選びたい。細いサスペンダーはカジュアルで軽い印象になるが、35mmほどの幅があると、上半身にしっかりとした存在感が生まれ、ジャケットを着ていなくても装いが締まって見える。素材は本革のレザーがおすすめで、使い込むほどに色が深まり、ダークブラウンの味わいが増していく。金具のアジャスターも、真鍮やアンティーク調の色を選ぶとクラシックな雰囲気に合う。 留め方は、パンツにボタンを付けるボタン式と、パンツのウエストを挟むクリップ式がある。ボタン式のほうが本格的だが、手持ちのパンツにボタンが付いていないことが多いので、まずはどのパンツにも使えるクリップ式から始めるのが現実的だ。長さは、まっすぐ立ったときにパンツが自然な位置に収まるよう調整する。引き上げすぎると股上が食い込み、緩すぎるとパンツが下がってだらしなく見えるので、鏡の前で何度か確かめたい。 ダークブラウンの細身ネクタイ サスペンダーと同じブラウンでそろえるのがコツ Photo: Ben Rosett / Unsplash (CC0) ネクタイは、サスペンダーと同じダークブラウンの無地を選ぶ。色をそろえることで、首元から腰までの縦のラインが一本につながり、まとまりが生まれる。柄物を選ぶと視線が散りやすいので、このスタイルでは無地がいちばん合うと思う。 幅は5cm前後の細身がおすすめだ。一般的なビジネス用のネクタイは7〜8cmほどあるが、ジャケットを着ないこのスタイルでは、太いネクタイだと胸元が重たく見える。5cmほどの細身なら、サスペンダーの2本の線との幅のバランスもよく、軽快な印象になる。 素材はツヤの少ないマットな質感を選びたい。光沢の強いシルクのネクタイはスーツ向きで、シャツ1枚のスタイルでは少し浮いてしまう。ウールやニット、マットなポリエステルのネクタイなら、レザーのサスペンダーやフェルトのハットと質感がなじむ。結び方は、結び目が小さく縦長にまとまるプレーンノットが細身のネクタイに合う。 黒のテーパードスラックス — 全体を引き締める 裾に向かって細くなるテーパードが軽快 Photo: Brooke Cagle / Unsplash (CC0) ボトムスは黒のスラックスで、全体をきりっと引き締める。シルエットは、腰まわりにわずかなゆとりがあり、裾に向かって細くなるスリムテーパードを選びたい。上半身にサスペンダーとネクタイの縦のラインがあるぶん、下半身もすっきりさせると、全身のバランスが整う。 前に折り目の入らないノータックのスラックスなら、腰まわりがすっきり見えて、現代的な印象になる。クラシックな雰囲気をより強めたいなら、前にひだの入ったタック入りのスラックスも合うが、まずはどんな上半身にも合わせやすいノータックが扱いやすい。センタープレスの入ったものを選ぶと、脚がまっすぐ長く見え、カジュアルな生地でもきちんと感が出る。 ...

2026年10月1日 · 1 分 · 99 文字 · kingsworksub-jpg

『CUBASE 15 & 15 PRO ユーザーガイド』を手元に、4週間で1曲を仕上げる

Cubaseは機能が多いDAWだ。録音、MIDIの打ち込み、オーディオ編集、ミックス、マスタリングに加えて、楽譜まで扱える。そのぶん、起動した最初の画面で「どこから手をつければいいのか」と立ち止まってしまう人も多いと思う。 『CUBASE 15 & 15 PRO ユーザーガイド』は、そうした最初のつまずきを越えて、1曲を完成させるまでの道筋を示すことを目的にした解説書だ。2026年9月21日に発売された、Cubase 15と15 Proに対応する一冊になる。この記事では、本書がどんな本で、どこまでを扱っているのかを整理したうえで、Cubase本体と組み合わせてどう読み進めると力がつくのかを具体的に考えていく。 Cubase Pro 15そのものの機能、とくにスコアエディターについては「Cubase Pro 15のスコアエディターを読み解く、Doricoの譜面エンジンと15の新機能」で詳しく取り上げているので、あわせて読んでほしい。 どんな本か — 書誌情報 まずは基本的な情報をまとめておく。 項目 内容 書名 CUBASE 15 & 15 PRO ユーザーガイド: レコーディング、MIDI、オーディオ編集、アレンジ、バーチャル・インストゥルメント、ミキシング、エフェクト、オートメーション、マスタリング、そしてプロフェッショナルな音楽制作の実践ガイド 著者 アルデン・マーロウ 発行 Independently published(個人出版) 発売日 2026年9月21日 形式 ペーパーバック ページ数 128ページ 判型 約21.6×27.9cm(レターサイズ) 価格 3,999円(Amazon) ISBN-13 979-8176198294 出版社を通さない個人出版の本で、Amazonのオンデマンド印刷で届く形式だと思われる。判型はA4に近いレターサイズで、画面の図版を大きめに載せやすい大きさだ。128ページという分量は、Cubaseの全機能を網羅するリファレンスというより、制作の流れに沿って要点を押さえる実践ガイドの厚みだと考えておくとよい。 本書が扱う範囲 本書が掲げている学習内容は、音楽制作の工程をひととおりなぞる構成になっている。 セットアップと録音: オーディオインターフェースの設定、プロジェクトの作り方、オーディオとMIDIをきれいに録る方法 オーディオ編集: タイミングの修正、演奏の整理、ベストテイクを選んでつなぐコンピング、セッションの整理整頓 MIDI: 人間味のある打ち込み、クオンタイズ、表現の作り込み アレンジ: イントロ、Aメロ、サビ、つなぎ(トランジション)の組み立て バーチャル・インストゥルメント: 音色の読み込み、レイヤー、音作り ミックス: レベル設定、EQ・コンプレッション・エフェクトの使い方、各パートの居場所づくり オートメーション: 音量やエフェクト、楽器のパラメーターに動きをつける マスタリングと書き出し: ストリーミングや共有に向けた仕上げと書き出し ワークフローの効率化: 時間を節約し、初心者がはまりやすいミスを避ける習慣 「どこをクリックすべきか」に加えて「なぜそうするのか」まで説明する、というのが本書の方針だ。操作手順だけを覚えると、画面やバージョンが変わったときに応用が利かない。理由とセットで覚えられる構成は、DAWを長く使っていくうえで正しいアプローチだと思う。 想定している読者 本書は、幅広い制作者を読者として想定している。 初心者: 専門用語に頼らない、ステップごとの解説 ホームスタジオで制作する人: アイデア出しから最終マスターまで、繰り返し使える制作プロセス ボーカリスト、バンドメンバー、ソングライター: 録音とミックスの実践的な手引き ビートメイカー、エレクトロニック・ミュージックの制作者: MIDI、音源、アレンジのテクニック 経験のあるユーザー: ワークフローのヒントや機能の確認用リファレンス Cubase 15 / 15 Proへのアップグレードユーザー: 操作の把握と重要なツールの活用 対象がかなり広いぶん、128ページの中で一人ひとりに割ける分量には限りがあるはずだ。いちばん恩恵を受けやすいのは、Cubaseをこれから使い始める人や、ほかのDAWから乗り換えて「Cubaseでの1曲の作り方」を一度通して知りたい人だと思う。すでにCubaseで曲を完成させた経験がある人にとっては、知っている内容の確認が中心になりそうだ。 ...

2026年10月1日 · 1 分 · 153 文字 · kingsworksub-jpg

B&W 685レビュー、黄色いケブラーコーンが鳴らす英国流の開放感

Bowers & Wilkins(B&W)の685は、2007年に600シリーズの一員として登場したブックシェルフ型の2ウェイスピーカーだ。黒い箱の正面に、黄色いケブラーのウーファーと、ロゴ入りのシルバープレートに収まったアルミのツイーター。この顔つきを見ると、多くの人が「B&Wの音」を思い浮かべるのではないかと思う。 発売から時間は経ったものの、685はいまも中古市場で名前をよく見かけるモデルだ。ペアで10万円を切る価格帯に、上位機ゆずりの技術と英国らしい開放的な鳴り方を詰め込んだ一台として、長く支持されてきた。本記事では、ブラックアッシュ仕上げのペアを対象に、筐体、ツイーター、ウーファー、音の傾向、設置とアンプ選び、そして価格と後継機までを順番に見ていく。 先に結論めいたことを書いてしまうと、685は「元気で見通しのよい音を、手の届く値段で」という狙いがはっきりしたスピーカーだと思う。そのぶん高域には少しクセがあり、置き方とアンプで印象がかなり変わる。そのあたりも含めて整理していきたい。 685という製品の立ち位置 685は、B&Wのエントリーからミドルを担う600シリーズの中で、小型ブックシェルフの686と、フロア型の684・683のあいだに位置するモデルだ。英国と日本での発売は2007年の6〜7月。ブックシェルフとしてはひと回り大きい165mmウーファーを積み、「本棚サイズで、しっかり鳴らせる」ことを狙った中核機にあたる。英国の専門誌のアワードでは、2007年に部門賞と年間最優秀、2008年にも年間最優秀スピーカーに選ばれており、当時このクラスの定番として扱われていたことがうかがえる。 主な仕様をまとめておく。 項目 仕様 形式 2ウェイ・バスレフ(フロントポート「Flowport」) ツイーター 25mm アルミドーム(ノーチラス・チューブ・ローディング) ウーファー 165mm 織りケブラーコーン クロスオーバー周波数 4kHz 周波数特性 49Hz〜22kHz(±3dB) 再生周波数帯域 42Hz〜50kHz(−6dB) 能率 88dB(2.83V/1m) インピーダンス 公称8Ω(最小3.7Ω) 推奨アンプ出力 30〜100W(8Ω) 外形寸法 H340×W198×D331mm(脚なし、グリル・端子含む) 質量 7.0kg(1本) 端子 2組(バイワイヤ/バイアンプ対応) 数字だけ見ると、能率88dBは一般的な小型ブックシェルフよりやや高めで、アンプへの要求は極端に厳しくない。一方で最小インピーダンスは3.7Ωと低めで、ここは後の「アンプ選び」で改めて触れる。 筐体・外観・ビルド品質 ブラックアッシュの685をスタンドに載せたところ(クリックでAmazonの商品ページへ) Photo: bibendum84 / Flickr (CC BY-SA 2.0) キャビネットは15mm厚のMDFで、フロントバッフルだけ22mmと厚くしてある。内容積は約15リットル、内部には補強材が1本入る。7.0kgという重さは、このサイズのブックシェルフとしては標準的からやや重め。持ち上げると、見た目より中身が詰まっている印象を受ける。ブラックアッシュの木目調シートは落ち着いた質感で、黒いバッフルと一体に見えるため、部屋の中で主張しすぎないのが気に入っている。一方で、天板や側面の仕上げは価格相応で、高級機のような突板や塗装の艶を期待すると少し物足りないかもしれない。 正面の構成はシンプルだ。上部にBowers & Wilkinsのロゴが入ったシルバーのプレートとツイーター、中央に黄色いウーファー、その下にFlowportと呼ばれるバスレフポートが開いている。ポートを正面に持ってきているので、背面ポートの機種ほど後ろの壁との距離に神経質にならなくてよいのは助かる。ポートの出入口はフレア状に広がり、ゴルフボールのようなディンプル加工が施されている。空気が出入りするときの風切り音を抑えるための工夫で、音量を上げても「ボッ」という耳障りなポートノイズが出にくい。 グリルは緩やかにカーブした形状で、付けても外しても見た目のバランスは悪くない。背面には2組のスピーカー端子があり、ジャンパーで連結された状態で出荷される。バイワイヤ接続やバイアンプ駆動にも対応できる作りだ。壁掛け用の鍵穴金具も背面に付いているが、音のためにはスタンドに載せるのをすすめたい。付属品には、ポートを塞ぐためのフォームプラグ2個とゴム脚が入っている。 ツイーター — チューブで背圧を逃がすアルミドーム ロゴ入りプレートに収まった25mmアルミドーム・ツイーター Photo: Derrick Noh / Wikimedia Commons (CC BY 2.0) 685のツイーターは25mmのアルミドームで、B&Wがノーチラス・チューブ・ローディングと呼ぶ構造を採り入れている。ドームは前に音を出すと同時に、背面にも同じだけの音を出している。この背面の音がキャビネット内で反射してドームに戻ってくると、振動板の動きを乱して音を濁らせてしまう。そこでドームの後ろにテーパー状のチューブを設け、背面に出た音をチューブの奥で吸収して消してしまう、というのがこの技術の考え方だ。もともとはB&Wの象徴である巻貝型スピーカー、ノーチラスの開発から生まれたもので、それをエントリークラスにまで降ろしてきたところに、このブランドらしさを感じる。 ...

2026年10月1日 · 1 分 · 124 文字 · kingsworksub-jpg