ポータブルSSDをUSB4にすると音源の読み込みは速くなるのか、10Gbpsと40Gbpsで変わるもの

ソフト音源のライブラリは、気づくと内蔵ストレージを食いつぶしている。オーケストラ音源をいくつか入れ、ドラム音源とピアノ音源を足すだけで、数百GBはすぐに埋まる。ノートパソコンの内蔵SSDを大容量のものに載せ替えるのは難しく、メーカーの上位構成を選ぶと値段が大きく跳ね上がる。そこで多くの人が考えるのが、音源ライブラリをポータブルSSDに移すという方法だ。 ところが、いざポータブルSSDを探し始めると、規格の名前で迷うことになる。USB 3.2 Gen2、Gen2x2、USB4、Thunderbolt。最大転送速度は1,050MB/秒、2,000MB/秒、3,800MB/秒と並び、値段も速さに合わせて上がっていく。速いほうが音源の読み込みも速くなるのだろう、と考えるのは自然だが、そこには少し落とし穴がある。 この記事では、音源ライブラリを外付けに置くという使い方に絞って、10Gbpsと40Gbpsの差が何に効いて何に効かないのかを整理する。そのうえで、ドライブを選ぶ前に、パソコン側のポートとケーブルをどの順番で確かめればよいかをまとめておく。 10Gbpsと40Gbps、数字の上では約3倍の差がある SanDisk Extreme Portable SSD(1TB)の裏面。USB 3.2 Gen2の10Gbps接続で、読み出しは最大1,050MB/秒Photo: ITEagle Europe - Sebastiaan Broekhoven / CC BY-SA 4.0 まず、規格の名前と速さの関係を整理しておく。USBの名前は何度も付け替えられてきたので、同じ速さに複数の呼び方がある。いまのポータブルSSDでよく見かけるのは、次の3つの段階だ。 いちばん普及しているのが、USB 3.2 Gen2の10Gbps。SanDisk Extreme Portable SSDやSamsungのT7 Shieldがこの規格で、カタログ上の読み出し速度は最大1,050MB/秒になる。10Gbpsをそのまま8で割れば1,250MB/秒だが、信号の符号化や通信の手順に使われる分があるので、実際に出せるのは1,000MB/秒前後になる。 次の段階がUSB 3.2 Gen2x2の20Gbpsで、SamsungのT9やCrucialのX10 Proがこれに当たる。カタログ値は2,000MB/秒前後。10Gbpsの通り道を2本束ねて速くする仕組みだ。 そして、いちばん速いのがUSB4の40Gbps。SanDiskがUSB4対応のExtreme PROを出しており、カタログ上の読み出しは最大3,800MB/秒になっている。USB4はUSBの中にPCIeという内部接続の通り道を通す仕組みで、その分の手間があるため、実測では3,000MB/秒台前半に落ち着くことが多い。それでも、10Gbpsの製品と比べれば、連続した読み出しで約3倍の差がある。 最近のケーブルや製品の箱では、こうした規格名の代わりに「USB 10Gbps」「USB 20Gbps」「USB 40Gbps」のように速さをそのまま書いた表示が増えている。名前で迷ったら、何Gbpsかだけを見ればよい。 音源の読み込みは、連続した読み出しの速さだけでは決まらない ここからが本題だ。転送速度が3倍なら、音源を開く時間も3分の1になるのかというと、そうはならない。理由は、音源ライブラリの読み込みが、大きなファイルを1本ずつ順番に読むような作業ではないからだ。 カタログに書かれた1,050MB/秒や3,800MB/秒は、大きなファイルを途切れなく読み続けたときの、いわば最高速度だ。動画ファイルを丸ごとコピーするような場面では、この数字がそのまま効いてくる。一方、Kontaktのようなサンプラーで1つの音色を開くとき、ドライブの中では、楽器を構成する数千、数万のサンプルファイルの頭の部分だけを、あちこちから少しずつ拾い集める作業が起きている。こうした細かい読み出しは、連続した読み出しよりずっと遅く、どのSSDでも数百MB/秒に届かないことが多い。この領域では、10Gbpsのドライブでも通り道の太さが足を引っ張ることはほとんどない。 さらに、読み込みにはドライブ以外の仕事も含まれる。Kontaktのライブラリの多くは、独自の形式で圧縮された状態で保存されていて、読み出したあとにCPUで展開する必要がある。音色の設定や画面の部品を準備する時間もある。ドライブが3倍速くなっても、こうした部分の時間は変わらない。 だから、10Gbpsのポータブルクラスから40Gbpsに替えて、音色を開くまでの待ち時間がはっきり縮んだと感じられる場面は、思っているより少ないと思う。差が出るとすれば、大編成のテンプレートを一度にまとめて開くときのように、読み込む総量が大きいときだ。 逆に、40Gbpsの速さがそのまま効くのは、ライブラリのコピーや移動だ。たとえば500GBのライブラリを内蔵からポータブルSSDに移すとき、1,000MB/秒なら理屈の上では8分あまり、3,000MB/秒なら3分弱で終わる。ちなみに外付けのHDDだと、毎秒150MB前後として1時間近くかかる。新しいパソコンに環境を移すときや、バックアップを取り直すときには、この差はありがたい。 Kontaktのプリロードの量で、SSDに任せる分を決める 音源ライブラリをSSDに置く利点は、読み込みの速さよりも、むしろメモリーの節約にあると思う。Kontaktは、サンプルの頭の部分だけを先にメモリーへ取り込んでおき、残りは演奏に合わせてドライブから少しずつ読み出す仕組みを持っている。ディスクから直接再生するという意味で、DFDと呼ばれている。 先に取り込んでおく量をプリロードと呼び、これはKontaktの設定画面にあるメモリーの項目で調整できる。HDDのように読み出しの反応が遅いドライブでは、プリロードを大きめにしておかないと、鍵盤を弾いた瞬間に音が間に合わないことがある。SSDなら反応が速いので、プリロードを小さくしても音が途切れにくい。そのぶん、1つの音色が使うメモリーが減り、同じメモリー量でより多くの楽器を同時に立ち上げられる。 ここで必要になるのは、毎秒何千MBという連続した速さではなく、細かい読み出しに素早く応える反応の良さだ。そしてこれは、10GbpsのポータブルSSDでも十分に満たせる。演奏中に1つの音色がドライブから読み出す量は、それほど大きくないからだ。 プリロードを下げすぎると、トラック数の多い曲で音が欠けることもあるので、少し下げては再生して確かめる、という手順で詰めていくのがよいと思う。メモリーが16GBのノートパソコンで大きな音源を扱っているなら、ここを見直すだけで、立ち上げられる楽器の数がかなり変わるはずだ。 20Gbpsのドライブは、Macでは10Gbpsに落ちる Samsung T7 Shield。10Gbps接続のポータブルSSDで、ゴムの外装が落下や水滴から本体を守るPhoto: Dinkun Chen / CC BY-SA 4.0 規格の選び方で最も気をつけたいのが、真ん中の20Gbps、つまりUSB 3.2 Gen2x2だ。この規格は、パソコン側も同じGen2x2に対応していないと20Gbpsで動かない。そして、対応しているパソコンは思ったより少ない。 ...

2026年11月8日 · 1 分 · 116 文字 · kingsworksub-jpg

ミニPCでDTMは足りるのか。Ryzen 7 7730UのGEEKOM A5 2027で、音切れが出る手前の線を引く

机の上を片づけたいと思ったとき、最初に邪魔に見えてくるのは足元の大きなタワー型PCかもしれない。モニタースピーカーと鍵盤とディスプレイを並べると、PC本体の置き場所はどうしても窮屈になる。そこで候補に上がるのが、手のひらに載るほどの小さな箱に、ノートPCと同じ部品を詰めたミニPCだ。値段も手ごろで、11月のセール時期になるとさらに目に付くようになる。 ただ、DTMの制作PCとして見ると、ミニPCには不安もつきまとう。ちゃんと音が切れずに鳴るのか、何トラックまで重ねられるのか、ファンがうるさくて録音に入らないか。この記事では、2026年9月に出たGEEKOMのミニPC「A5 2027 Edition」(CPUはAMD Ryzen 7 7730U)を例に、ミニPCでDAWを動かすときに見ておきたい点を、CPUの性格、バッファと遅延、トラック数の測り方、冷却とファン音、端子の割り振りの順に整理していく。結論を先に言うと、打ち込みとボーカル録りが中心の宅録なら十分に使えるが、重いソフトシンセを何十本も同時に鳴らす使い方には向かない。その境目をできるだけ具体的に引いてみたい。 ミニPCの中身は、ほぼノートPCと同じだと考える 形も大きさもさまざまな3台のミニPC。どれもディスプレイの脇に置けるほど小さいPhoto: François-Dominique / CC BY-SA 4.0 ミニPCを理解するいちばんの近道は、「画面とキーボードとバッテリーを取り外したノートPC」と考えることだと思う。中に入っているCPUは、多くの場合ノートPC向けのものがそのまま使われている。GEEKOM A5 2027 Editionも同じで、搭載するRyzen 7 7730Uは、もともと薄型ノートPCのために作られたCPUだ。デスクトップ向けのCPUとは、使ってよい電力の上限が一桁違う。 A5 2027 Editionの本体は幅117mm、奥行き112mm、高さ49.2mmで、重さは本体だけなら577gほど。電源は外付けのACアダプターになる。メモリは16GBのDDR4-3200で、ノートPC用と同じSO-DIMMという形のものが2枚挿さっており、最大64GBまで差し替えられる。ストレージは512GBのSSDが標準で、後から増設できる余地も残されている。日本の直販価格は7万円台後半からで、セールのクーポンが付くと6万円台後半まで下がる時期もある。 ノートPCとの大きな違いは二つある。一つは、メモリやストレージを後から増やせる機種が多いこと。薄型のノートPCではメモリが基板に直付けされていて増やせないことが多いが、ミニPCは裏ぶたを開ければ交換できる。サンプル音源を多く使うDTMでは、これは大きな利点だ。もう一つは、バッテリーがないぶん、常に電源につながった状態で全力を出せること。ノートPCで気になる「電源につないでいないと性能が落ちる」心配がない。 逆に言えば、CPUの冷やし方と使ってよい電力はノートPCとほぼ同じ枠の中にある。ミニPCの得手不得手は、ほとんどこの点から説明できる。 Ryzen 7 7730Uは、8コアの数より1コアの速さで見る 2画面でCubaseを開いた制作机。DAWの処理の重さは、画面の広さよりもCPUの1コアの速さに左右されるPhoto: Marco Raaphorst from The Hague, The Netherlands / CC BY 2.0 Ryzen 7 7730Uは、AMDが2023年1月に発表したノートPC向けのCPUだ。中身はZen 3という世代の設計で、7nmで作られている。8コア16スレッド、動作周波数は通常2.0GHzで最大4.5GHz、3次キャッシュは16MB。標準の消費電力の枠(TDP)は15Wで、メーカーの設定によって10Wから25Wのあいだで動かせる。発表から3年近くたっており、最新世代のCPUと比べると一段古い。 DTMの目線でこのCPUを見るとき、コア数よりも気にしたいのは1コアあたりの速さだ。DAWは、トラックごとの処理を別々のコアに振り分けることはできる。しかし、1本のトラックに挿したソフトシンセやエフェクトの連なりは、基本的に1つのコアで順番に計算される。オーディオは決められた時間内に次の音を作り終えなければならず、どこか1つのコアが間に合わないだけで、全体の音が「プチッ」と切れる。8コアのうち7コアが暇をしていても、重い1本のトラックを抱えたコアが遅れれば音切れになるわけだ。 Ryzen 7 7730Uの1コアの速さは、最大4.5GHzまで上がることもあって、ノートPC向けとしては今でも十分な水準にある。ただ、15Wという電力の枠の中では、全部のコアに負荷がかかると周波数が下がりやすい。1本だけ重いトラックがある曲より、中くらいの重さのトラックがたくさん並ぶ曲のほうが、このCPUにとっては楽な相手だと考えておくとよい。 内蔵のグラフィックスはRadeon Vega 8で、DAWの画面を描くには困らない。2台のディスプレイに編集画面とミキサーを分けて映すことも、端子の数のうえでは問題なくできる。DAWの処理はほぼCPUだけで行われるので、グラフィックスの性能が音切れに響くことはほとんどない。 音切れの境目は、バッファの大きさで前後に動く 音切れが出るか出ないかは、CPUの性能だけでは決まらない。同じPC、同じ曲でも、DAWのバッファの大きさを変えるだけで、音切れの出る線は大きく前後する。ミニPCで制作するなら、この関係を理解しておくのがいちばんの近道だと思う。 バッファとは、DAWが一度にまとめて計算する音の長さのことで、サンプル数で指定する。バッファが小さいほど、鍵盤を弾いてから音が鳴るまでの遅れは短くなるが、CPUは短い時間で計算を終えなければならず、音切れが出やすくなる。大きくすれば余裕が生まれるかわりに、遅れが長くなる。片道の遅れの目安は、サンプル数をサンプリング周波数で割れば出せる。 バッファ 44.1kHzでの片道の遅れ 48kHzでの片道の遅れ 向いている作業 64サンプル 約1.5ms 約1.3ms 歌や楽器の録音、鍵盤の演奏 128サンプル 約2.9ms 約2.7ms 録音、打ち込みの入力 256サンプル 約5.8ms 約5.3ms 打ち込みの編集、軽いミックス 512サンプル 約11.6ms 約10.7ms ミックス 1024サンプル 約23.2ms 約21.3ms 重いミックス、書き出し前の確認 実際の遅れには、オーディオインターフェースの変換の時間や、入力と出力の往復が加わるので、表の数字より長くなる。それでも、128サンプルまでなら歌いながら自分の声を聴いても違和感はほとんどなく、512サンプル以上になると、鍵盤を弾いたときの遅れがはっきり分かるようになる。 ...

2026年10月27日 · 1 分 · 155 文字 · kingsworksub-jpg

3-2-1バックアップをDTMに当てはめる。録った音はクラウドへ、サンプルは手元のHDDへ

曲のデータを失う場面は、思っているより地味にやってくる。作業用のSSDが突然認識されなくなる、ノートパソコンを落とす、上書き保存したあとで前の版のほうが良かったと気づく、間違えてプロジェクトのフォルダーごと消してしまう。どれも珍しい出来事ではなく、制作を何年か続けていれば一度は近いことが起きると思う。 そのたびに「バックアップを取っておけばよかった」と思うのだが、いざ始めようとすると、何を、どこに、どのくらいの頻度で置けばいいのかが分からなくなる。DTMのデータは量が多い。録音した音声、プロジェクトファイル、ソフト音源のライブラリ、プラグインの設定、書き出したミックス。全部を同じように扱うと、外付けドライブもクラウドの容量もすぐに足りなくなる。 この記事では、写真の世界から広まった「3-2-1ルール」という考え方を土台にして、作業用SSD・手元のHDD・クラウドの3か所に、制作データをどう分けて置くかを順に組み立てていく。 3-2-1ルールは、3つの複製・2種類の媒体・1つは家の外 2.5インチのHDDをケースに入れて、USB-Cでノートパソコンにつないだところ。手元のバックアップ先として最も手軽な形Photo: Augkun-ane / CC BY 4.0 3-2-1ルールは、写真家のピーター・クローが2000年代半ばに、デジタル写真の管理について書いた本の中で示した考え方として知られている。中身はとても短い。データは元の1つを含めて合わせて3つ持つ。そのうち少なくとも2つは、種類の違う保存先に置く。そして1つは、家とは別の場所に置く。この3つの数字だけだ。 数字にはそれぞれ理由がある。3つ持つのは、1つが壊れて復元している最中に、もう1つが壊れても残るようにするためだ。2種類の保存先に分けるのは、同じ型のドライブを同じ時期に買うと、同じような時期に同じような壊れ方をすることがあるからだ。家の外に1つ置くのは、火事や水漏れ、盗難、落雷のように、家の中のものがまとめて駄目になる出来事に備えるためだ。どれか1つの数字が欠けると、守れる場面がそのぶん減る。 最近はこれを発展させた「3-2-1-1-0」という言い方もある。後ろの「1」は書き換えられない形、あるいはパソコンから切り離した形で持つ複製を1つ、「0」は復元を試して誤りが0件であることを確かめる、という意味だ。個人の制作環境でここまで厳密にやる必要はないと思うが、考え方としては役に立つ。特に最後の「0」、つまり復元を確かめることは、あとの節でもう一度取り上げる。 失うと戻らないデータと、もう一度手に入るデータ 3-2-1ルールをそのまま全データに当てはめようとすると、DTMではすぐに行き詰まる。ソフト音源のライブラリだけで数百GBから1TBを超えることは珍しくなく、それを3つ、しかも1つはクラウドに置こうとすると、容量も時間も現実的ではなくなる。そこで最初にやるべきなのは、データを「失うと二度と戻らないもの」と「もう一度手に入るもの」に分けることだと思う。 失うと戻らないのは、自分で作ったものだ。録音した音声、プロジェクトファイル、打ち込みのデータ、自分で作ったプリセットやサンプル、書き出したミックスやマスター、歌詞やメモ。ここは世界に1つしかないので、3-2-1を厳密に守る対象になる。量は意外と少なく、ソフト音源の打ち込みが中心の人なら、何年分のプロジェクトを集めても数十GBに収まることが多い。生の録音が多い人でも、数百GB程度だろう。 もう一度手に入るのは、買ったものや配られたものだ。Native Accessで管理しているKontaktのライブラリのように、アカウントにログインすれば何度でもダウンロードし直せる音源は、最悪の場合でも時間をかければ戻ってくる。DAW本体やプラグインのインストーラーも同じだ。ここは手元のHDDに1つ複製があれば十分で、クラウドまで運ぶ必要はあまりない。ただし、販売が終わった音源や、今はもう配布していない無料のプラグイン、購入時のシリアル番号やライセンスファイルは別だ。これらは「もう手に入らないもの」の側に入れておく。 この線引きをしておくと、クラウドに上げる量がぐっと減り、毎月の費用も、最初のアップロードにかかる日数も現実的な範囲に収まる。 作業用SSDは1つ目の複製、置き場所ではなく作業場 2.5インチのSSD。読み書きが速く衝撃にも強いが、電源を切ったまま長く置く保管には向かないPhoto: PantheraLeo1359531 / CC BY 4.0 3つの複製のうち、1つ目はふだん作業しているドライブそのものだ。パソコン内蔵のSSDか、ソフト音源やプロジェクトを置くための外付けSSDがこれに当たる。SSDは読み込みが速いので、大きなサンプル音源を鳴らすときや、トラック数の多いプロジェクトを開くときに効く。制作の道具としてはとても優秀で、作業場はSSDにしておくのがいちばん快適だと思う。 ただ、作業用SSDはあくまで作業場であって、保管庫ではない。外付けSSDをもう1台買って、そこにコピーしてから引き出しにしまっておく、という使い方には少し注意がいる。SSDは電気を蓄えてデータを記録する仕組みなので、電源を入れないまま長く放っておくと、少しずつデータが抜けていく。半導体の業界団体が決めた家庭向けSSDの基準では、書き込みの寿命まで使い切った状態で、30℃の環境に電源なしで1年データを保てればよい、という水準になっている。温度が上がるとこの期間は短くなる。新品に近い状態ならもっと長く持つことが多いが、数年単位で電源を入れずに保管する用途は、基準のうえでも想定されていない。 一方で、作業用SSDの中身は毎日変わる。録音をして、編集をして、保存する。間違った操作も、そのまま上書きされる。だからこそ、2つ目と3つ目の複製は、作業場とは別の場所に、時間をさかのぼれる形で取っておく必要がある。 手元のHDDには、毎日の版を時間ごとに残す 20年以上前の4.3GBのHDD。HDDは磁気で記録するので、電源を切って保管しても中身が抜けにくいPhoto: Navaneethpp / CC0 2つ目の複製は、手元に置いた外付けのHDDにする。SSDと種類の違う保存先になるので、3-2-1の「2種類の媒体」もこれで満たせる。HDDは容量あたりの値段が安く、4TBや8TBのものでも手が届く。ソフト音源のライブラリとプロジェクトをまとめて置ける容量を、無理なく用意できるのが大きい。磁気で記録するので、電源を切った状態での保管にもSSDより向いている。 HDDが壊れやすいかというと、そこまで神経質になる必要はない。データセンターで数十万台のドライブを動かしている会社が毎年公表している数字では、2025年の1年間に壊れた割合は全体で1.36%ほどだった。100台に1台余りという割合だ。ただし、これは自分のHDDが壊れないという意味ではない。100台に1台は、いつか自分の番になってもおかしくない数字だ。だからこそ、HDD1台に頼り切らず、3つ目をクラウドに置く。 手元のHDDへのバックアップで大事なのは、ただコピーするのではなく、時間ごとの版を残すことだ。Windowsなら、コントロールパネルにある「ファイル履歴」が使える。外付けドライブを指定すると、標準では1時間ごとに変更されたファイルを保存し、古い版も残していく。保存の間隔は10分から1日まで選べる。対象はドキュメントやデスクトップなどのユーザーフォルダーが中心なので、別のドライブに置いたプロジェクトのフォルダーは、ライブラリに追加して対象に含める。Macなら「Time Machine」が同じ役割を果たし、過去24時間は1時間ごと、過去1か月は1日ごと、それより前は1週間ごとの版を、ドライブがいっぱいになるまで残していく。 自分でコピーの仕組みを作る人もいると思う。Windowsのrobocopyというコマンドで「/MIR」を付けると、元のフォルダーとまったく同じ状態をバックアップ先に作れる。便利だが、元のほうで消したファイルはバックアップ先でも消える。うっかり消したプロジェクトを、次のバックアップが律儀に消してしまうわけだ。この方式を使うなら、実行前に「/L」を付けて何が消えるかを確かめるか、日付ごとに別のフォルダーへコピーするなど、版を残す工夫を足しておきたい。 クラウドは同期ではなく、バックアップのサービスを選ぶ Backblazeが自社で設計したストレージ用の筐体。ドライブを差す前の状態で、ここに数十台のHDDが並ぶPhoto: ChrisDag / CC BY 2.0 3つ目の複製は家の外、つまりクラウドに置く。ここでいちばん気をつけたいのは、同期のサービスとバックアップのサービスは別物だということだ。DropboxやGoogle ドライブ、OneDriveは、パソコンのフォルダーとクラウドの中身を同じ状態に保つための仕組みだ。手元でファイルを消せばクラウドでも消え、手元のファイルが壊れればクラウドにも壊れたものが届く。身代金を要求するウイルスにファイルを暗号化されたときも、暗号化されたファイルがそのまま同期されてしまう。各サービスに過去の版を戻す機能はあるが、何千個ものファイルを一つずつ戻すのは現実的ではない。 バックアップのサービスは、手元の変化をクラウドに追いかけさせつつ、過去の版を一定期間取っておく。たとえばBackblazeの個人向けバックアップは、パソコン1台につき容量の上限なしで、料金は月9ドル、年払いなら99ドルだ。つないでいる外付けドライブも対象にできる。ただし、外付けドライブは30日以上つながなかった場合、そのドライブのバックアップが消されてしまう。過去の版は標準で30日分残り、追加料金を払えば1年分に延ばせる。 前の節の線引きがここで効いてくる。クラウドに上げるのは、失うと戻らないもの、つまり録音とプロジェクトと自作のデータだけでよい。家庭の回線で1TBを上げようとすると数日から数週間かかることもあるが、数十GBなら一晩で終わる。料金が容量で決まるサービスを選んだ場合も、費用を小さく抑えられる。 1曲を1つのフォルダーにまとめてから預ける バックアップを取っていても、復元したプロジェクトを開いたら音が鳴らない、ということがある。プロジェクトが参照しているサンプルや録音が、プロジェクトのフォルダーの外、たとえばダウンロードフォルダーやデスクトップに散らばっていて、そこはバックアップの対象に入っていなかった、という場合だ。これを防ぐには、1曲に必要なファイルを1つのフォルダーに集めてからバックアップに回すのがいちばん確実だ。 主なDAWには、そのための機能が用意されている。Ableton Liveなら、ファイルメニューの「すべてを集めて保存」で、プロジェクトが使っている外部のサンプルをプロジェクトのフォルダーにコピーできる。Logic Proは、別名で保存するときにパッケージ形式を選び、音声ファイルをプロジェクトにコピーする設定にしておけば、1つのファイルの中に必要な素材がまとまる。Cubaseにはファイルメニューに「プロジェクトのバックアップ」があり、使っている音声を集めた複製を別の場所に作れる。FL Studioは、書き出しのメニューにある「プロジェクトデータファイル」で、プロジェクトと使っているサンプルを1つのZIPファイルにまとめられる。 私は、曲が一段落したとき、たとえばミックスを書き出した日に、この「まとめて保存」をする習慣にしている。毎回やる必要はないが、区切りでやっておけば、その時点の曲は確実に1つのフォルダーで完結する。ソフト音源の音色そのものはライブラリから読み込まれるので、念のため使った音源とバージョンの名前を、曲のフォルダーにテキストで書き残しておくと、何年か後に開くときに助かる。 月に一度、1曲だけ復元してみる バックアップは、取っているだけでは半分しか終わっていない。3-2-1-1-0の最後の「0」が言うとおり、戻せることを確かめて初めて役に立つ。設定を間違えて肝心のフォルダーが対象から外れていた、外付けドライブがいつの間にか一杯になって止まっていた、クラウドの最初のアップロードが途中で止まったままだった。どれも、復元しようとした日に初めて気づくことが多い。 確かめ方は簡単でいい。月に一度、カレンダーに予定を入れて、手元のHDDから1曲、クラウドから1曲を、作業用とは別のフォルダーに戻す。戻したプロジェクトをDAWで開き、すべてのトラックが鳴ること、録音した音声が欠けていないことを確かめる。ついでに、HDDの空き容量とクラウドの最終バックアップ日時も見ておく。10分もかからない作業だが、これを続けていれば、いざというときに慌てずに済む。 ...

2026年10月26日 · 1 分 · 73 文字 · kingsworksub-jpg

静電容量無接点のHHKBとREALFORCE、同じ東プレのスイッチでも押下圧と配列で打ち心地が分かれる

静電容量無接点方式のキーボードについて話すと、たいてい「スコスコ」という言葉が出てくる。カチカチでもペタペタでもなく、指が沈んで底に着くまでのあいだに、こすれる感じのない、乾いた手応えが続く。文字で書くと曖昧だが、一度打ったことのある人なら、あの感触を指先で思い出せると思う。 この方式の代表格が、PFUの「HHKB」と東プレの「REALFORCE」だ。どちらも東プレが作る同じ方式のスイッチを使っているので、乱暴に言えば同じ仕組みのキーボードということになる。それでも、両方を並べて打つと、手応えはかなり違う。違いを生んでいるのは、ばねの重さ、キーが沈む深さ、静音のための工夫、そしてキーの数と並び方だ。 この記事では、まず「スコスコ」の正体をスイッチの構造から整理し、そのうえで現行のHHKB Professional HYBRID Type-SとREALFORCE R4を、押下圧と配列、設定の自由度という観点で比べていく。 「スコスコ」の正体は、ゴムの山と円すいばねと静電容量 東プレのスイッチを分解したところ。ゴムのシートの山ひとつひとつに円すい形のばねが入るPhoto: 002 / Public domain 東プレのスイッチを分解すると、部品の少なさに驚く。キートップの下には樹脂のスライダーがあり、その下に、キーの数だけ小さな山が並んだ1枚のゴムのシートが敷かれている。山の中には円すい形のばねが1本ずつ立っていて、その下が電子回路の基板だ。いわゆるメカニカルキーボードのように、キー1つごとに金属の接点を持った独立したスイッチが並んでいるわけではない。 キーを押すと、スライダーがゴムの山を押しつぶし、中のばねが縮んで基板に近づく。基板はばねとのあいだの静電容量、つまり電気をためる量の変化を読み取っていて、それが一定の値を超えたところで「押された」と判断する。金属どうしが触れて電気が流れることで入力を判定するわけではないので、「無接点」と呼ばれる。接点が無いから、こすれて摩耗する部分も、接点が跳ねて入力が二重になる現象も起きにくい。金融機関の端末のような業務用の機器で長く使われてきたのも、この壊れにくさがあってのことだ。 打鍵感の大半を決めているのはゴムの山のほうだ。押し始めはゴムが踏ん張るので少し重く、ある深さを越えると山がくしゃっと折れて、そこから先はすっと底まで落ちる。この「最初に少し抵抗があって、途中で抜ける」感触が、スコスコという言葉の中身だと思う。メカニカルのタクタイル軸にも途中で抵抗が抜ける感触はあるが、あちらは樹脂の突起が金属の板をはじく感触なので、もう少し硬く、カリッとしている。ゴムの山がつぶれる感触はそれより丸く、指の腹に引っかかりが残らない。 もうひとつ、スライダーが筒の中をまっすぐ上下するので、キーの端を押しても傾きにくい。打ち込むときにキーの中でこすれる感じが少ないのも、乾いた手応えにつながっている。逆に言えば、この方式のキーボードは、どの機種を選んでも「スコスコ」の基本の感触は共通している。違いが出るのは、その上に何を積んでいるかだ。 押下圧45gと30g、数字の差は指先でどう感じるか ゴムの山の中に入る円すい形のばね。ばねとゴムの組み合わせで押下圧が決まるPhoto: 002 / Public domain キーボードの仕様でよく見る「押下圧45g」という数字は、キーが入力として認識されるまでに必要な力の目安だ。東プレのスイッチでは、ゴムの山の硬さとばねの組み合わせを変えることで、この重さを作り分けている。標準的なのは45gで、より軽い30g、指ごとに重さを変えた変荷重といった種類がある。 45gと30gの差は15gで、1円玉にして15枚分しかない。それでも、打ってみると印象ははっきり違う。45gは、指を置いただけではキーが沈まず、押そうと思って押したときに初めて沈む重さだ。指を休ませるようにキーに乗せておけるので、ホームポジションに手を置いたまま考えごとをする時間が長い人には、この重さが落ち着く。30gは、指の重さだけでわずかに沈み始める。力をほとんど使わずに打てる反面、指を置いたつもりで誤って入力してしまうことがある。慣れるまでは、キーの上で指を浮かせ気味にする意識が要る。 変荷重は、力の弱い小指が担当するキーを軽く、人さし指や中指が担当するキーを重めにするというように、指の力に合わせて重さを振り分けたものだ。小指で押すEnterやShift、Aのキーが楽になるので、一日中文字を打つ仕事では効いてくる。ただ、キーの重さが場所によって違うことに最初は少し戸惑う。 押下圧と並んで打ち心地を左右するのが、キーが沈む深さ、つまりキーストロークだ。東プレのスイッチは標準で4mm沈む。HHKBのType-Sはこれを3.8mmに縮め、さらに底に当たるときと戻るときの音を抑える工夫を入れている。0.2mmの差はわずかだが、底打ちの衝撃が柔らかくなったぶん、同じ45gでも少し軽く感じる。重さの数字だけで選ばず、深さと静音の有無まで合わせて見るほうが、好みの手応えに近づけると思う。 比べる軸は5つ、打鍵感だけでは選べない 同じスイッチを使っている以上、打鍵感の差は、上で書いた重さと深さと静音の範囲に収まる。むしろ大きく違うのは、キーの数、無線の使い勝手、どこまで自分好みに設定を変えられるか、そして持ち運べるかどうかだ。そこで、次の5つの軸で2台を見ていく。 打鍵感: 静電容量無接点らしい手応えが、どれだけ素直に出ているか 静かさ: 打鍵音、とくに底打ちとキーが戻るときの音の小ささ 配列の汎用性: 矢印キーやファンクションキー、テンキーを、特別な操作なしで使えるか 設定の自由度: キーの割り当てや、入力として認識される深さをどこまで変えられるか 持ち運び: 大きさと重さ、鞄に入れて外へ持ち出せるか HHKB Professional HYBRID Type-S、60キーに収めた割り切り HHKB Professional HYBRID Type-Sの英語配列。Ctrlが「A」の左にあり、矢印キーはFnとの組み合わせで使うPhoto: WikiLinuz / CC0 HHKBは、Happy Hacking Keyboardの略だ。1996年に、プログラマーが本当に使うキーだけを残すという考えから生まれ、2003年のProfessionalから東プレのスイッチを積むようになった。いまの中心はHYBRID Type-Sで、英語配列は60キー、日本語配列は69キー。幅は294mm、重さは乾電池を除いて約540gと、一般的なフルサイズのキーボードの半分ほどの幅に収まっている。 配列はかなり独特だ。英語配列には矢印キーもファンクションキーの列も無く、それらはFnキーとの組み合わせで呼び出す。日本語配列には小さな矢印キーが付くが、ファンクションキーの列が無いのは同じだ。Ctrlは「A」の左、多くのキーボードでCaps Lockがある位置にある。Ctrlを多用するエディターやターミナルでは小指の移動が減って楽になるが、ふつうのキーボードと行き来すると、しばらくは手が迷う。使い始めの1〜2週間は、矢印キーを探して手が右下へさまよう時間がどうしても出てくる。この割り切りを受け入れられるかどうかが、HHKBを選ぶときのいちばん大きな分かれ目だと思う。 打鍵感は45gの1種類で、3.8mmのType-Sのスイッチになる。底打ちの音が抑えられているので、深夜にビデオ会議をしながら打っても、マイクに乗る音はかなり小さい。重さは軽すぎず、指を乗せたまま考えられる。軽い打鍵が好みの人には、選択肢が45gしかないことが物足りなく感じられるかもしれない。 接続はBluetoothとUSB Type-Cの両方に対応し、Bluetoothは4台まで切り替えられる。電源は単3形乾電池2本で、USBでつないでいるあいだは給電で動く。底面のDIPスイッチで、OSに合わせたキーの動きをまとめて切り替えられるほか、専用のキーマップ変更ツールで個々のキーの割り当ても書き換えられる。ただし、入力として認識される深さを変える機能は無い。 価格は、PFUの直販で3万6,850円(税込)。キーボードとしては高価だが、小さな筐体に鞄へ入れて持ち出せる身軽さと、どこで打っても同じ手応えが得られることを考えると、外で作業する時間が長い人ほど元が取りやすい1台だと思う。なお、2025年には有線専用のClassic Type-Sが加わり、2026年10月には削り出しのアルミ筐体を使った限定300台のProfessional Eliteも発表されている。スイッチは同じType-Sで、手応えの基本は変わらない。 ...

2026年10月25日 · 1 分 · 148 文字 · kingsworksub-jpg