貝殻の虹色を酒で呼び覚ます、高岡漆器 螺鈿ガラス 金杯(万華鏡)桜

ガラスの盃なのに、底に貝が埋め込まれている。しかも酒を注ぐまでその貝の模様がはっきり見えない、という仕掛けの酒器がある。富山県高岡市の天野漆器が作る「螺鈿ガラス 金杯(万華鏡シリーズ)」の桜柄を、今回は隅から隅まで見ていく。 高岡漆器という産地 — 城下町から始まった400年 高岡漆器 螺鈿ガラス 金杯(万華鏡) 桜(貝入)Amazonで見る → 高岡漆器のルーツは1609年、加賀藩2代藩主・前田利長が高岡城を築いた際、城下に職人を集めて武具や膳、箪笥といった日用品を作らせたことに遡るという。以来、明和年間(1764〜1772年)に中国風の意匠を取り入れたことをきっかけに技法が発展し、明治初期までに「彫刻塗」「勇助塗」「青貝塗(螺鈿)」という3つの技法体系が確立された。1975年9月4日には経済産業大臣指定の伝統的工芸品にも指定されている。 彫刻塗は木地に彫刻を施し、その凹凸を埋めないよう朱や黒の漆を幾重にも塗り重ねる技法。勇助塗は江戸末期に石井勇助が中国明代の漆器を研究して興したもので、唐風の意匠に錆絵や箔絵を組み合わせる。そして青貝塗、いわゆる螺鈿が、今回の主役である盃に使われている技法にあたる。 螺鈿という技法 — 貝殻の虹色はどこから来るのか 螺鈿は、アワビ貝などの貝殻を0.1mm前後まで薄く加工し、刀や針で細かく切り出した破片を漆の上に貼り付けて模様を描く技法だ。高岡の職人はこの「薄貝」の加工精度に定評があるという。 貝殻があの虹色に輝く理由は、色素ではなく構造色によるものらしい。真珠層は炭酸カルシウムの結晶がミクロン単位で何層にも重なった構造をしていて、その層と層の間で反射した光同士が干渉し合うことで、見る角度によって色合いが変わって見える。夜空の星のように、光の当たり方次第で表情を変える装飾になるわけだ。使われている貝の種類によっても発色の傾向は変わり、アワビ貝は青や緑を基調にしつつピンクや黄も覗かせる、わりと華やかな輝き方をする貝だと言われている。 ガラスに螺鈿を宿す、という発想 伝統的な螺鈿は漆器の表面、つまり木地の上に施すものだったが、この盃は螺鈿をガラスの内側に閉じ込めている。天野漆器の5代目・天野真一氏が2009年頃に開発に成功したもので、盃の底に螺鈿の模様を仕込み、酒を注いで初めてその輝きが水面に浮かび上がるという仕掛けだ。 作り方は、まずアワビ貝を薄く剥がして手作業で一枚ずつ切り出し、ガラス面から輝きが透けて見えるよう貼り付ける。次に貝の裏側に着色し、最後に漆で裏打ちして固定する。空の状態では模様がうっすらとしか見えないのに、酒を注いだ瞬間に貝の輝きが液面越しにくっきり浮かび上がる、という体験そのものが設計されている。 この開発の背景には、高岡漆器そのものが抱えていた課題があったようだ。記念品として贈られても実際には使われず、しまい込まれたままになっている時間のほうが長い——そんな伝統工芸の現状に対して、「押し入れの記念品ではなく、日々の暮らしの道具に」という発想の転換から生まれたのがこの螺鈿ガラスだという。試行錯誤には約2年をかけたそうで、2022年にはクラウドファンディングも実施されている。 「金杯[万華鏡シリーズ]」のスペックと柄のバリエーション 高岡漆器 螺鈿ガラス 金杯(万華鏡) 桜(貝入)Amazonで見る → サイズは直径約58mm×高さ約81mm、容量は約70mlというミニマムなサイズ感で、素材はガラス・漆・アワビ貝の3つを組み合わせた構成になっている。表面は十二角形にカットされ、縁には金の装飾が入る。この金縁と多角形カットのおかげで、光の反射がいくつもの面に分散し、螺鈿の輝きがより複雑に見える設計になっているのだと思う。 柄は桜(貝入)のほかに、水玉・花火・四宝・青海波・麻の葉といったバリエーションがあり、多くは黒地をベースに、桜だけは朱地のバージョンも用意されている。桜は「繁栄」や「物事のはじまり」を意味する吉祥文様、麻の葉はまっすぐ育つ麻にあやかった成長・魔除けの意味を持つ伝統文様で、江戸時代には赤ん坊の産着にもよく使われていたらしい。単なる装飾ではなく、それぞれの柄に縁起物としての意味が込められている。 専用の化粧箱に入って届くので、贈答用としての体裁も整っている。同シリーズの他アイテムを見ると、クリスタル素材の杯やロックグラスタイプなど価格帯の異なる展開もあり、この金杯はシリーズの中では比較的手に取りやすい価格帯に位置しているようだ。 扱い方の注意点 ガラス・漆・貝という異素材の組み合わせなので、食器洗浄機や電子レンジ、オーブンの使用は避けたほうがいい。漆器全般に言えることだが、急激な温度変化や高圧の水流は漆の劣化や貝の浮き上がりの原因になりやすい。台所用の中性洗剤と柔らかいスポンジで手洗いし、洗ったあとはすぐに布で水気を拭き取るのが安心だと思う。 用途としては基本的に冷酒向けに企画された酒器で、直火や熱湯を使う燗酒での使用は想定されていなさそうだ。ガラス自体は他の飲み物にも転用できそうな作りではあるが、螺鈿の輝きを最大限楽しみたいなら、やはり日本酒を注いで本来の使い方をするのが一番だろう。 価格帯・現行性について Amazonでの価格は9,900円。同じ万華鏡シリーズの中では、桜柄は8,800円台で直販されているケースもあり、送料や販路によって多少の差があるようだ。ふるさと納税の返礼品としても高岡市から提供されており、伝統工芸品としての価値づけがされていることがうかがえる。天野漆器は現在も高岡でこのシリーズを製造・販売しており、生産終了の兆候は見当たらない。 伝統的な螺鈿は表側から眺めて楽しむものだったが、この盃は酒を注ぐという行為そのものが装飾を完成させる仕掛けになっている。400年続く産地の技術を、記念品ではなく日常の一杯に落とし込んだ工夫として、じっくり眺めてみる価値のある一本だと思う。 関連記事: 廣田硝子のちろりで燗をつける、大正の灯りを写した耐熱ガラス · 盃の底に紅と金の富士山、田島硝子 金箔富士 冷酒杯(桜)

2026年9月20日 · 1 分 · 42 文字 · kingsworksub-jpg

九谷焼 ぐい呑み 白粒鉄仙、粒立つ白と途切れない蔓の文様

表面いっぱいに白い粒が並び、そこに金色の蔓草が這っている。石川県が誇る色絵磁器、九谷焼の「ぐい呑み 白粒鉄仙(しろつぶてっせん)」を見ていく。 九谷焼という産地 — 加賀の色絵磁器 和座の蔵 九谷焼 ぐい呑み 白粒鉄仙Amazonで見る → 九谷焼は石川県南部、加賀・能美・小松のあたりで作られてきた色絵磁器だ。始まりは江戸初期の明暦年間、大聖寺藩の初代藩主が領内の九谷村で磁鉱を見つけ、金工師に色絵を焼かせたのがきっかけとされている。この最初期の窯は50年ほどで途絶え、その頃の作品群は「古九谷」と呼ばれて今も評価が高い。その後100年近い空白を経て、江戸後期に加賀藩内で色絵磁器の窯が次々と立ち上がり、これが「再興九谷」と呼ばれる系譜になる。吉田屋窯が古九谷の作風を復興させ、宮本屋窯が赤絵の細密画を、永楽窯が金襴手を、というように、窯ごとに違う画風を競い合ってきた歴史がある。 紺青・紫・黄・緑・赤を大胆に使う「九谷五彩」は、この産地を象徴する色使いだ。1975年には経済産業大臣指定の伝統的工芸品にも認定されていて、柿右衛門や色鍋島と並ぶ日本の代表的な色絵陶磁として名前が挙がることが多い。この盃も、そうした系譜の末端に連なる一品ということになる。 白粒という技法 — 一粒ずつ盛り上げる根気 この盃の表情を決めているのは「白粒(しらつぶ)」という加飾技法だ。「いっちん」という道具を使って、生地の上に細かい粒を一つずつ盛り上げて密に並べていく。粒の大きさ・色・間隔をそろえるのに高い技量が要るとされていて、指でなぞると鮫肌のようなざらつきを感じる独特の質感になっている。 同じ技法で粒の色だけ変えたものに「青粒(あおつぶ)」があり、こちらは緑がかった青の粒を盛る。下地に艶消しの黒や紅殻の赤を敷くこともあるようで、白粒・青粒どちらも、粒の色以外の工程はほぼ共通している。この手の加飾がよく使われるようになったのは大正時代からと聞くと、九谷焼全体の長い歴史の中では比較的新しい技法なのだと分かる。派手さだけでなく、根気のいる手仕事の跡が見える柄だと思う。 鉄仙文様の意味 — 「縁が切れない」蔓草 粒の上に金色で描かれているのが「鉄仙(てっせん)」の唐草文様だ。鉄仙はキンポウゲ科のつる性多年草で、クレマチスの原種の一つ。中国原産で江戸初期に日本へ伝わり、丈夫な蔓を鉄の線に見立てて「鉄線」「鉄仙」と呼ばれるようになったとされている。 桃山から江戸にかけて唐草模様として図案化され、着物や陶器、家紋などに広く使われてきた柄でもある。唐草文様は蔓が絶えず伸びていく姿から、延命長寿や子孫繁栄、永続を意味する吉祥文様とされていて、なかでも鉄線唐草は「途中で切れない強い蔓」であることから「縁が切れない」との連想で婚礼道具などにも好んで用いられてきた。酒器にこの文様を選ぶのは、単なる見た目の華やかさだけでなく、そうした縁起の良さも含めてのことなのだろうと思う。白い粒の上に金の蔓が映える構成は、九谷焼の中でもきらびやかで人気の高い意匠だと感じる。 サイズと使い勝手 — おちょこよりひと回り大きい酒器 「おちょこ」と「ぐい呑み」は名前が似ているが、大きさの目安には違いがある。おちょこは一口二口で飲み切る小ぶりなサイズで容量30〜45ml程度、ぐい呑みはそれよりひと回り大きく、50〜180ml程度まで幅がある。「ぐいっと呑む」ことに由来する呼び名だと聞くと、なるほどと思う。 徳利や片口とセットで使う小さな酒盃という立ち位置はどちらも共通していて、陶器製は熱伝導が穏やかなぶん、熱燗にも冷酒にも使いやすい。ガラスや金属の器に比べて口当たりが柔らかいのも、陶器の酒器ならではの良さだと思う。同じ意匠のシリーズを見ると、径5.5cm前後、高さ5cm前後というのがこのあたりの標準的なサイズ感のようで、手のひらに収まる小さな器の中に、加飾の手間だけはしっかり詰め込まれている格好になる。 電子レンジ・食洗機はNG — 手洗いが基本 和座の蔵 九谷焼 ぐい呑み 白粒鉄仙Amazonで見る → 金彩や粒の盛り上げを施した九谷焼は、電子レンジやオーブンでの使用ができない。金属を含む絵具が火花を発する原因になるためで、これは上絵付けの器全般に共通する注意点になる。食洗機についても、洗剤や高温の水流、他の食器との接触で色落ちや剥落が進みやすいため、基本的には避けたほうがいい。 お手入れは柔らかいスポンジと中性洗剤でやさしく洗うのが基本で、クレンザーやナイロンたわしは金彩や粒模様を傷める原因になるので使わないほうがいい。白粒と金彩を重ねたこの手の意匠は、普通の上絵付け以上に凹凸や摩耗に気を遣う必要があると思うので、手洗いだけは徹底したい一本だ。 和座の蔵という販売元 — 産地の窯元をまとめる会社 「和座の蔵」は、石川県能美市に本社を置く九谷物産株式会社が運営するブランド名だ。自社に窯を持って一貫生産する製造元というより、産地の窯元や作家の製品を取りまとめて販売する企画・販売元という立ち位置に近い。楽天市場の「九谷焼専門店 和座」、自社ECサイトの「和座本舗」、Amazonの「和座の蔵」、Yahoo!ショッピングの「和座倶楽部」と、複数のチャネルを使い分けて展開している。 白粒鉄仙という意匠自体は和座の蔵オリジナルのものではなく、九谷焼全体で古くから使われてきた伝統柄で、他の窯元や専門店からも同じ意匠の商品が並んでいる。産地全体で共有されてきた柄を、それぞれの窯元や作家が自分の手で再現しているというのが実情のようだ。 価格帯 — 量産品と作家物のあいだ 九谷焼のぐい呑みは、量産品クラスでおよそ3,000〜5,000円、中堅クラスで5,000〜10,000円、作家物や名工の作品になると1万円を超えてくる。今回のぐい呑みは8,800円で、無名の量産品よりは上、作家物よりはやや下という、九谷焼のぐい呑みの中では中〜やや上位の価格帯に位置する。同じ「白粒鉄仙」の意匠でも、女流作家が手がけたものになると1万円台に乗ってくることを考えると、このあたりが手の届く本格志向のラインという印象だ。 還暦祝いや古希祝い、退職祝い、誕生日プレゼントといった贈答シーンでの定番品でもあり、化粧箱入りで贈りやすい体裁が整っているのも、この価格帯の器らしいところだと思う。 価格と購入先 価格はAmazonで8,800円(税込)。産地の九谷焼専門店や自社ECサイトでも同意匠の商品を扱っているので、比較しながら選べる。生産終了や後継モデルへの切り替えといった情報は見当たらず、現行ラインナップとして問題なく選べる状態にある。 粒を一つずつ盛り上げる根気と、途中で切れない蔓草の縁起。手のひらに収まる小さな盃の中に、そのふたつが同時に詰め込まれている。眺めているだけでも十分に楽しいが、酒を注いで初めて、この器の本来の役目が始まるのだと思う。 関連記事: 有田焼 炎華の酒器セット、黒い炎をまとう徳利とぐい呑み · 黒千代香で焼酎を直火にかける、国産美濃焼のもてなし · 秋田杉の香りをまとう日本酒、大館工芸社の酒器3点セット

2026年9月20日 · 1 分 · 58 文字 · kingsworksub-jpg

盃の底に紅と金の富士山、田島硝子 金箔富士 冷酒杯(桜)

盃の底に富士山が立っている。それも、酒を注ぐたびに色を変える富士山だ。東京の老舗ガラスメーカー、田島硝子の「金箔富士 冷酒杯(桜)」を見ていく。 「被せ硝子」という二重構造 田島硝子 金箔富士 冷酒杯(桜)Amazonで見る → この盃の見た目のインパクトは、透明なガラスの上にもう一枚、薄い色ガラスを重ねる「被せ硝子(きせがらす)」という技法から来ている。職人が透明なガラスの生地に、0.2〜0.3mmほどの薄さで色ガラスをひとつずつ吹き重ねていくのだそうで、この一枚がロックグラスのボディに紅色の帯を作っている。そこにさらに金箔の装飾を施すことで、単色のガラスとは違う奥行きが出ている。 田島硝子はこの被せ硝子を、江戸切子の材料としても長年供給してきたメーカーだと知って、なるほどと思った。切子細工に使われる色ガラスの生地を作る側の会社が、自社ブランドとしてこういう装飾グラスも手がけているというのは、素材屋としての引き出しの多さを感じさせる。 底に沈む富士山 — 酒を注ぐと表情が変わる このシリーズの一番の仕掛けは、グラスの底に成形された富士山のシルエットだ。透明な部分に山の形が浮かび上がっていて、そこに冷酒を注ぐと、酒の色が山の周りに回り込んで、素面のときとは違う富士山の表情になる。日本酒なら淡く、梅酒や果実酒なら色濃く、注ぐものによって同じ富士山が違う顔を見せるのがおもしろい。 底の紅色の帯と金箔の装飾が、山の稜線のあたりに雪ならぬ夕焼けを乗せているようにも見える。ただの飾りグラスというより、酒を注いで初めて完成する器だと思う。 江戸切子ではなく、江戸硝子 見た目の華やかさから江戸切子と混同されがちだが、これは切子(カットを入れる技法)ではなく江戸硝子という別の伝統工芸に分類される。東京都の伝統工芸品に指定されているのは硝子生地そのものの製法で、そこに文様を彫り込むのが江戸切子、色や被せで表情を作るのが江戸硝子、という住み分けになる。この冷酒杯にはカットの切り込みは一切入っておらず、色被せと金箔だけで模様を作っているので、素直に江戸硝子の仕事として見るのが正確だと思う。海外の販売ページではこのあたりがまとめて「エドキリコ」と紹介されていることもあるようだが、厳密には別物ということは知っておいて損はない。 サイズと色 — 「桜」は淡いピンクではなく紅系 口径は56mm、高さ76mmほどの小ぶりなショットグラスサイズで、冷酒をきゅっと一杯という量しか入らない。ラインナップには瑠璃(青)、金赤、黒、緑なども並んでいて、この「桜」はその中でも紅色寄りの一本だ。名前から桜色の淡いピンクを想像していたが、実物は金赤に近い、赤とピンクの中間のような濃いめのトーンだった。パッケージ写真だけで選ぶと色の印象が変わる可能性があるので、そこは知った上で選んだほうがいい。 化粧箱のサイズは70×97×70mmとコンパクトで、贈り物として渡すにも困らないサイズにまとまっている。 冷酒専用 — 電子レンジと食洗機はNG 名前の通り「冷酒杯」なので、燗酒には向かない。急激な温度変化に弱いガラスの性質上、電子レンジや食洗機の使用は避けたほうがよく、手洗いでスポンジを使ってやさしく洗うのが基本の手入れになる。他の食器と一緒に洗うとぶつかって欠けやすいので、単独で洗うくらいの気遣いはしてあげたい一本だ。 ソーダガラス特有の話として、洗浄後に水滴が残ると跡が白く曇って見えることがあるが、これは汚れではなく、乾いて拭き上げれば元の透明感に戻る。神経質になりすぎず、使うたびに拭き上げる習慣をつければ十分だと思う。 1956年創業、江東区のガラスメーカー 田島硝子 金箔富士 冷酒杯(桜)Amazonで見る → 田島硝子は1956年に東京・江東区で創業し、現在は3代目に代を重ねている会社だ。もともとは江戸切子向けの色被せガラスを生地として供給する仕事を長く手がけてきたメーカーで、その中で薄い被せガラスの技術を磨き上げてきた背景がある。この冷酒杯シリーズも、その蓄積の上に生まれたブランド展開のひとつという位置づけになる。 このシリーズを含む「富士山グラス」のラインは、おみやげグランプリでグランプリと観光庁長官賞を受賞した実績を持つ。空港や百貨店の土産物コーナーで見かけることが多いのも納得で、日本らしいモチーフをガラスの技術で仕上げた、お土産の定番という立ち位置を確立している。実際、海外向けのショップでも同じ富士山グラスのシリーズを扱っているところが複数あり、国内外どちらでも通用する一本になっているようだ。 価格と購入先 価格は公式オンラインショップで8,800円(税込)。Amazonでも単体の桜カラーが購入でき、瑠璃(青)との2個セットなど、ギフト向けの組み合わせ販売も見かける。生産終了や後継モデルへの切り替えといった情報は見当たらず、現行ラインナップとして問題なく選べる状態だ。 化粧箱の仕様や同梱物(ポストカードなど)はセット構成によって差があるようなので、贈り物にする場合は購入前に商品ページの内容をよく確認しておくと安心だと思う。 底に沈んだ富士山に酒を注いだ瞬間だけ、この盃は完成する。ただ眺めて美しいだけでなく、使うたびに違う表情を見せてくれるところが、この一杯を手元に置いておきたくなる理由なのだと思う。 関連記事: 廣田硝子のちろりで燗をつける、大正の灯りを写した耐熱ガラス · 貝殻の虹色を酒で呼び覚ます、高岡漆器 螺鈿ガラス 金杯(万華鏡)桜

2026年9月20日 · 1 分 · 43 文字 · kingsworksub-jpg

氷を閉じ込めて薄めない、東洋佐々木ガラス カラフェ・バリエーション

冷酒を氷で冷やすと、どうしても味が薄まる。その当たり前の悩みに、ガラスの構造だけで答えを出した器がある。東洋佐々木ガラスの「カラフェ・バリエーション」徳利(氷ポケット付、品番61048DV)を見ていく。 氷を入れるのに、酒には触れさせない 東洋佐々木ガラス カラフェ・バリエーション 徳利(氷ポケット付)360ml(61048DV)Amazonで見る → この徳利のいちばんの見せ場は、胴の中央に空いた大きな空洞だ。ここに氷を入れるのだが、そのポケットは容器の内側に向かって入り組んだ形状になっていて、酒そのものには氷が直接触れない。氷はあくまでガラスの壁を介して酒を外側から冷やす役目に徹し、溶けた水も外にこぼれないよう下方に向かって空洞が続く造りになっている。 「氷で冷やすと薄まる」という冷酒の永遠の悩みを、添加物でも保冷剤でもなくガラスの成形だけで解決しているのが気持ちいい。仕組みを知ってから使うと、ただの装飾だと思っていた胴のふくらみが急に機能パーツに見えてくる。 セミレッドクリスタルという素材 素材はセミレッドクリスタルガラス。クリスタルガラスは酸化鉛や酸化カリウム・酸化バリウムなどを一定量含むガラスの総称で、含有率によってフル・セミといった区分がある。通常のソーダガラスより屈折率が高く、光を受けたときの透明感と輝きが違う。氷ポケットの部分にだけ淡いブルーの色ガラスを差し込んでいるのも効いていて、冷たさを視覚的に伝えるデザインになっていると思う。 成形はハンドメイド。機械成形と手作業の両方の設備を持つ工場で作られているという説明を見かけたが、この徳利は職人の手仕事によるラインの一本だそうだ。量産品にはない、胴の丸みの微妙な揺らぎがそれを物語っている。 サイズと容量 — ちょうど2合 容量は360ml。日本酒の単位でいうと1合=180mlなので、ちょうど2合分が入る計算になる。サイズはΦ46(最大106)×高さ137mmで、重さは約220g。一人で静かに飲むにも、二人でつまみながら飲むにも収まりのいい量だと感じる。 同じシリーズには180ml前後の小サイズもあるようで、来客の人数や飲む量に応じてサイズを選べるのもありがたい。 手入れと温度帯 — 食洗機OK、加熱はNG 食器洗浄機には対応している一方、電子レンジ・オーブン・熱湯を使った加熱には対応していない。氷を使う前提の器なので当然ではあるが、燗をつける道具ではなく、冷酒専用と考えたほうがいい。 ガラス製の酒器全般に言えることだが、急激な温度変化には弱い。冷蔵庫でよく冷やしてから使い、洗浄後は自然乾燥させる、という程度の気遣いで十分長く付き合えると思う。 明治から続く、ガラスの老舗の合流点 東洋佐々木ガラス カラフェ・バリエーション 徳利(氷ポケット付)360ml(61048DV)Amazonで見る → 東洋佐々木ガラスという社名は2002年に生まれたもので、そこには2つの流れが合流している。ひとつは1878年創業の東洋ガラス、もうひとつは1902年に東京・神田で石油ランプの販売から始まった佐々木硝子だ。佐々木硝子は戦後にガラス食器の卸販売へ軸を移し、東証一部にまで名を連ねた時期もあったが、平成に入って経営再建を経験している。その佐々木硝子とハウスウエア事業を担っていた東洋ガラスが統合して、今の社名になった。 本社と工場は千葉県八千代市。1967年には国内初の口部強化ガラス「ハードストロング」を世に出した実績もある会社で、業務用グラスの世界ではよく知られた存在だ。この酒器シリーズでは以前、同社が製造を手がける「柳宗理デザイン 清酒グラス」を取り上げたが、あの脚付きグラスとこの氷ポケット徳利は、実は同じ工場から生まれている。片方は工業デザイナーの名を冠したロングセラー、もう片方は機構そのものが主役という、対照的な個性の出し方が面白い。 価格と購入先 — 現行のシリーズ品 価格は店舗によって幅があり、定価5,600円前後から、セール時には4,400円程度まで下がる例も見かける。取り扱いは業務用食器店や雑貨系のオンラインショップが中心で、Amazonでも購入できる。生産終了や後継機への切り替えを示す情報は見当たらず、現行のシリーズ品として問題なく選べる状態だ。 化粧箱の有無は店舗によって表記が異なるようなので、贈り物として使う場合はギフト対応の可否を購入前に確認したほうが安全だと思う。 氷を入れるだけで、酒は薄めずに冷やす。仕組みとしては単純なのに、実際に手に取ると「よくこんな形を思いついたな」と感心してしまう。デザインの美しさと機能が一致している道具は、使うたびに少し得意げな気分になれる。晩酌の定番になりそうな一本だ。 関連記事: 東洋佐々木ガラスの片口 冷酒カラフェ、注ぎ口に宿る千三百年の知恵 · 柳宗理の清酒グラスは、てのひらの形から生まれた

2026年9月20日 · 1 分 · 40 文字 · kingsworksub-jpg

廣田硝子のちろりで燗をつける、大正の灯りを写した耐熱ガラス

「ちろり」と聞いてすぐに形が思い浮かぶ人は、今どれくらいいるだろうか。本来は錫や銅で作られた、湯煎で燗をつけるための酒器の名前だ。その金属の道具を、東京・墨田区のガラスメーカー廣田硝子がハンドメイドのガラスで作り直したのが今回見ていく一本になる。 そもそも「ちろり」とは何なのか 廣田硝子 ちろり 青 中子付きAmazonで見る → ちろりは江戸時代後期に登場したとされる酒器で、円筒形の器にコの字形の持ち手が付いた独特の形をしている。役割は燗徳利とは少し違っていて、酒を直接火にかけるのではなく、お湯を張った鍋に浸けて湯煎で温めるための道具だ。金属製ならではの熱伝導の良さを活かして、短時間でむらなく燗をつけられるのが本来の使い方になる。 名前の由来は諸説あって、地炉裏(いろり)に埋めて温めたからという説、短時間で燗がつくことから「ちろり」と呼ばれるようになった説、注ぎ口から酒が落ちる音に由来する説などが並んでいる。どれが正解かは決め手に欠けるが、燗酒文化とともに古くから使われてきた道具であることは間違いない。 金属の道具を、あえてガラスで作る 廣田硝子のちろりが面白いのは、本来は不透明な金属だった道具を、透明なガラスに置き換えている点だ。中身の温度が変わっていく様子も、酒の色も、外から丸見えになる。実用の道具としての機能はそのままに、鑑賞の楽しみを足しているという意味で、単なる素材変更以上の再解釈だと思う。 このデザイン自体は1980年に廣田硝子の社内デザイナーが手がけたもので、40年以上ほとんど形を変えずに作り続けられているロングセラーだという。流行り廃りの早い食器の世界で、これだけ長く同じ形が支持され続けているのは単純にすごいことだと思う。 「中子」という発想 — 一本で燗も冷やもこなす このちろりの構造で一番おもしろいのが、内側に入れる「中子」という取り外し可能なパーツだ。冷酒で飲みたいときはこの中子に氷を入れてちろり本体にセットする。氷が酒に直接触れないので、薄まる心配をせずに冷やせる仕組みになっている。逆に燗をつけたいときは中子を外し、ちろり本体をそのままお湯に浸けて湯煎する。 つまり同じ一本のガラスで、季節や気分に応じて燗にも冷やにも対応できるということになる。本体は耐熱ガラス製、中子側はソーダガラス製と素材を使い分けていて、持ち手や蓋まわりには銀メッキを施した真鍮が使われている。ガラスと金属、質感の違う素材が組み合わさっているぶん、テーブルに置いたときの表情も豊かだ。 扱い方の注意点 耐熱ガラスとはいえ、直火にかけて温める使い方は想定されていない。あくまで湯煎が基本で、いきなり火であぶるような使い方は避けたほうがいい。食洗機についても対応をうたっていないので、手洗いでのお手入れが安心だと思う。多少手間はかかるが、ガラスと真鍮の組み合わせという凝った作りを考えれば、そのくらいの気遣いは自然なことに感じる。 廣田硝子という会社 — 1899年創業、江戸硝子の担い手 廣田硝子 ちろり 青 中子付きAmazonで見る → 廣田硝子の創業は1899年(明治32年)。新潟出身の初代・廣田金太が東京でガラス商を始めたのがルーツで、1915年には墨田区にあたる本所区にガラス工場を構え、ランプのほや作りからものづくりを広げていった。関東大震災、東京大空襲と二度の大きな被災を経ながらも復興し、1950年に廣田硝子株式会社として現在の体制になったという歴史を持つ、東京でも指折りの老舗ガラスメーカーだ。 代表的なラインには、大正時代の乳白ガラスを復刻した「大正浪漫硝子」や、江戸切子の技術を受け継ぐシリーズなどがある。効率よりも職人の手仕事を優先するものづくりを掲げていて、このちろりもその方針の延長線上にある一本という位置づけだと思う。 価格帯について この「青・中子付き」モデルはAmazonで38,500円という価格になっている。廣田硝子のちろりシリーズの中では、透明ガラスの基本モデルが2万円前後からラインナップされているので、色ガラスを使ったこのモデルはシリーズの中でも中〜上位の価格帯に位置する。色ガラスは透明ガラスより成形や発色の管理に手間がかかるぶん、価格に反映されている面があるのだろうと思う。派手な値付けというより、手仕事の工程を積み上げた結果としての価格という印象を受けた。 生産終了の兆候は見当たらず、公式サイトや複数の正規取扱店で現行商品として扱われている。長く作り続けられてきたロングセラーということもあって、今すぐ入手できなくなる心配はあまりしなくてよさそうだ。 金属の道具をあえてガラスに置き換えることで、温度の移ろいそのものが見える酒器になった。燗と冷や、季節によって使い分けられる一本を、食卓の主役に据えてみるのも悪くないと思う。 関連記事: 盃の底に紅と金の富士山、田島硝子 金箔富士 冷酒杯(桜) · 貝殻の虹色を酒で呼び覚ます、高岡漆器 螺鈿ガラス 金杯(万華鏡)桜

2026年9月20日 · 1 分 · 41 文字 · kingsworksub-jpg

BODUM DOUROを徳利として使う、ドウロ渓谷のぶどう畑を写した形

北欧というよりは中欧寄りのブランドだが、店頭で見かけるとつい「北欧デザイン」と呼びたくなる佇まい。BODUM(ボダム)のカラフェ「DOURO(ドウロ)」を、日本酒の徳利として使う前提で見ていく。 デンマークのガラス輸入商から始まったブランド BODUM(ボダム) DOURO 徳利/カラフェ 360ml(12132-10)Amazonで見る → BODUMは1944年、デンマーク・コペンハーゲンでPeter Bodumが興した会社だ。最初はガラス製品の輸入業だったというのが面白いところで、そこからバキュームコーヒーメーカーに出会ったのをきっかけに自社デザインへと舵を切っていく。1958年に発売した「SANTOS」が世界的な評価を得て、ブランドの名を一気に広めた。 今も語り草になっているのは、1983年にフレンチプレス「Cafetière Chambord」の権利を買い取ったことだろう。ここから生まれた「CHAMBORD」シリーズは、今でもBODUMの顔と言っていい製品ラインになっている。現在は創業者の息子Jørgen Bodumがトップに立ち、家族経営を保ったまま、スイスのデザインユニットPI-Designが全製品のデザインを手がける体制が続いている。「形は機能に従う」という素っ気ないくらいシンプルな設計思想が、コーヒー器具からキッチン雑貨まで一貫して流れているように感じる。 ドウロ渓谷のぶどう畑を写した溝模様 DOUROという名前は、ポルトガルのドウロ渓谷から取られている。ポートワインの産地として知られる、あの段々畑のぶどう園だ。本体表面に入った細かい縦溝は、その斜面に並ぶぶどうの木立をイメージしたものだという説明を複数の販売サイトで見かけた。デザイナー個人の名前までは公式ページに記載がなく、社内デザインチームによるものと考えるのが自然だろう。 実物を眺めると、溝の入り方が単なる装飾というより、光の反射で表情を変える仕掛けとして効いている。徳利然とした和風の道具立てとは対照的な、ヨーロッパのテーブルウェアらしい佇まいだ。 素材とサイズ — 口吹きの耐熱ガラス 素材は口吹き(マウスブロー)で成形された耐熱ボロシリケートガラス。容量360ml、サイズはおよそ幅7cm×奥行7cm×高さ16.1cmで、片手でしっかり握れる太さの胴回りをしている。電子レンジ対応・食洗機対応とうたわれており、手入れの面では扱いやすい部類に入る器だと思う。 耐熱ガラスとはいえ、直火にかけて燗をつけるタイプの道具ではない。熱源に近づけるならあくまで電子レンジ経由、というのがこの器の想定する使い方のようだ。 熱燗か、冷酒か 酒器の世界では、ガラス製は冷酒向き、陶器や磁器・錫は熱燗向きという整理がよくされる。熱の伝わり方や保温性を考えれば理にかなった住み分けで、DOUROもこの例に漏れず、本領を発揮するのは冷酒だと思う。透明なガラス越しに酒の色ととろみが見えるのは、陶器の徳利にはない楽しみ方だ。 「電子レンジ可」という表示がある以上、ぬる燗程度なら電子レンジで温めてから注ぐという使い方はできるはずだが、陶器の徳利のようにじっくり燗を保つ保温力までは期待しない方がいい。冷酒をきりっと涼しげに演出する道具、という位置づけで選ぶのがいちばんしっくりくる。 陶器の徳利と比べて 日本酒の酒器としては、陶器がいちばん幅広い温度帯に対応し、磁器や錫は熱燗向きの俊敏さを持つ、という住み分けがある。そこにガラス製のDOUROを置くと、「和の道具」というより「洋風のカラフェを日本酒用に転用する」という立ち位置がはっきりする。 実用面での違いは手入れのしやすさだ。食洗機にそのまま放り込める気軽さは、繊細な絵付けが施された陶器の徳利にはなかなか真似できない。北欧的というよりは中欧的な、装飾を削ぎ落としたミニマルな見た目も含めて、和洋どちらの食卓にも馴染む懐の深さがこの器の魅力だと感じる。 価格と購入先 — 今も現行のラインナップ BODUM(ボダム) DOURO 徳利/カラフェ 360ml(12132-10)Amazonで見る → 型番12132-10のDOUROは、BODUM公式サイト(日本・英国・米国・ドイツ・スイス・デンマークの各リージョン)に現在も掲載されており、生産終了の様子はない。価格は販路によって幅があり、日本の雑貨系ECサイトではおよそ2,000円台、海外のデザインストアでは20ドル台からという例が見つかった。Amazonでも取り扱いがあり、単品のカラフェとして購入できる。 DOUROシリーズには同じ溝模様をまとったお猪口サイズのグラスや二重壁タイプのタンブラーなど、サイズ違い・器種違いのラインナップが揃っている。徳利と揃いの盃を合わせて選ぶのも面白そうだ。 コーヒー器具のイメージが強いBODUMだが、ガラスの扱いにルーツを持つブランドだけあって、日本酒の徳利という異色の使い方にもきちんと説得力がある。ぶどう畑の溝模様越しに冷酒を注ぐ、という組み合わせの妙を楽しむための一本だと思う。 関連記事: KEITH 純チタン おちょこは、白酒のために生まれた旅する盃 · 温度を止める徳利、ピーコックの真空二重構造 酒器セット · 曲がる錫が酒をやわらげる、能作 本錫100%酒器セット

2026年9月19日 · 1 分 · 47 文字 · kingsworksub-jpg

KEITH 純チタン おちょこは、白酒のために生まれた旅する盃

錫、ガラス、と続けて器を見てきたところで、今回は毛色の違う一客を取り上げる。KEITHのチタン製おちょこ「Ti9304」。もともとは中国の白酒(バイジュウ)用に設計されたショットグラスだが、日本酒のおちょことして使う前提で眺めていく。 金型製造から始まったチタン専業ブランド KEITH 純チタン おちょこ 酒器 2個セット(Ti9304)Amazonで見る → KEITHは中国広東省仏山(フォシャン)を拠点とするメーカーで、正式には「Foshan KEITH Titanium Co., Ltd.」という。創業者Liu Minye氏が2001年にプレス金型の設計・製造業として立ち上げ、2004年に高級キッチン用品の分野へ進出、2005年からチタン製品の設計・開発・製造を本格的に始めたという経歴を持つ。2016年に法人名を「Keith Titanium Inc.」に改め、以後はチタンマグ・水筒・クッカー・カトラリー・弁当箱・茶器といった製品群を、アウトドア・登山・旅行・家庭用と幅広いカテゴリで展開している。ISO 9001:2015認証を取得したメーカーで、公式サイトのスローガンは「内なる探検家を解き放て」。金属加工の下請けからスタートし、チタンという素材一本で自社ブランドを築いてきた会社だと思う。 日本には2024年6月から株式会社YOCABITOが正規代理店として参入しているが、取扱ラインナップを見る限り主力はチタン製スキットルやカトラリー類で、このTi9304おちょこセットは正規代理店の取扱品としては見当たらなかった。Amazon.co.jpで流通している分は並行輸入品の可能性が高そうで、その点は購入前に頭に入れておいた方がいい。 逆さ台形のフォルムと、10mlという潔い容量 Ti9304は1個10ml、2個セットで構成されている。サイズは1個あたり約50×40×31mm、重量は約18.5g。すり鉢を逆さにしたような台形のシルエットで、底に向かって細くすぼまる形状が手のひらに収まりやすい。材質はグレード1の純チタンで、表面はマットな梨地仕上げ。ステンレスのような鏡面の華やかさはないが、金属というより石か鉱物のような落ち着いた質感がある。 10mlという容量は、日本酒のおちょことしてはかなり小ぶりな部類に入る。もともとは白酒をきゅっと飲み切る前提のショットグラスとして設計されているためで、日本酒用に転用するなら「ちびちび飲む晩酌用」というより「利き酒的に一口ずつ試す」用途の方がしっくりくる。 チタンという金属が酒器に向いている理由 チタンが酒器の素材として選ばれる理由は、表面に瞬時にできる酸化皮膜(不動態被膜)にある。この膜が内部を保護するため、通常の飲食用途で錆びることはまずない。金属イオンの溶出もほとんど起きず、万一溶出してもすぐに酸化して無害化される性質から、医療器具にも使われるほど生体適合性が高い金属だとされている。 個人的に面白いと思うのは、金属特有の匂いがほとんどしないという点だ。鉄を含むステンレスと違い、純度の高いチタンは無味無臭に近い金属だと言われていて、日本酒の繊細な香りを邪魔しにくい。比重もステンレスの6割程度と軽く、割れる心配もない。陶器のような手に伝わる温もりや、錫特有の「酒がまろやかになる」という体感的な効能は無いけれど、道具としての気安さでは頭ひとつ抜けている素材だと感じる。 陶器・ガラス・錫と比べたときの立ち位置 酒器の素材にはそれぞれ得意分野がある。陶器は熱をゆっくり伝えて燗酒に向き、ガラスは冷酒の涼しげな見た目を演出し、錫は熱伝導の良さで燗の温度変化を素早く伝える。チタンはこのどれとも違う立ち位置にいる。熱伝導率は低めで、熱燗を注いでも外側が瞬時に熱くなることはないが、陶器のようにじっくり温度を保つ保温力があるわけでもない。どちらかというと「温度に対して鈍感」という表現の方が近い。 Ti9304は単層(シングルウォール)構造なので、熱いお酒を注げば時間とともに外側にも熱が伝わってくる。スノーピークの「お猪口 Titanium」のような二重構造(ダブルウォール)モデルと比べると、この点でのやけど耐性は一歩譲る。その代わり構造がシンプルな分、価格は抑えめで、容量も10mlとコンパクトにまとまっている。 本領を発揮するのはアウトドアの食卓 チタン酒器の強みが最も生きるのは、屋内の晩酌よりもキャンプや登山の食卓だと思う。割れない、軽い、匂い移りしにくい、という三拍子は、荷物を絞り込みたいアウトドアの場面でこそ効いてくる。実際、キャンプ道具を扱うメディアでも日本酒とチタン酒器の組み合わせがたびたび紹介されている。家で使うにはやや簡素な見た目だが、外に持ち出す前提で見ると納得感のある道具だ。 熱燗・冷酒のどちらにも対応できる懐の広さも美点で、陶器やガラスのように用途を選ばない。ただし雰囲気作りという点では、装飾性のある陶器や漆器には及ばない。あくまで実用一辺倒の道具として割り切って使うのが向いていると思う。 価格と入手性 — 並行輸入の可能性も踏まえて KEITH 純チタン おちょこ 酒器 2個セット(Ti9304)Amazonで見る → KEITH公式サイトではTi9304は現行商品として販売されており、生産終了の様子はない。価格は米国の公式ストアで19ドル前後、Amazon.co.jpでは3,000円前後で取り扱われている。前述の通り日本の正規代理店の取扱リストには含まれていないため、国内で流通している分は並行輸入品とみて差し支えないだろう。正規保証や日本語サポートを重視するなら、その点は割り引いて考えた方がいい。 同ブランドには角型のチタンスキットルなど、同じ質感でまとめられる酒器周辺のアイテムも揃っている。おちょこ単体で試してみて気に入ったら、携行用のフラスコを合わせるのも面白そうだ。 白酒用のショットグラスとして生まれた道具を、日本酒のおちょこに読み替える。素材の素性から考えれば無理のある転用ではなく、むしろ「金属が主張しない」というチタンの美点がそのまま活きる組み合わせだと思う。家の食卓よりも、荷物を切り詰めたい旅先やキャンプ場でこそ本領を発揮する一客だ。 関連記事: BODUM DOUROを徳利として使う、ドウロ渓谷のぶどう畑を写した形 · 温度を止める徳利、ピーコックの真空二重構造 酒器セット · 曲がる錫が酒をやわらげる、能作 本錫100%酒器セット

2026年9月19日 · 1 分 · 52 文字 · kingsworksub-jpg

曲がる錫が酒をやわらげる、能作 本錫100%酒器セット

富山・高岡に、曲がる金属で酒器を作る鋳物メーカーがある。能作の「本錫100%」シリーズから、ぐい呑みと片口小のセットを取り上げる。 高岡が育てた、曲がる金属 能作 本錫100%酒器セット(ぐい呑み・片口小)Amazonで見る → 能作の創業は1916年。高岡銅器という400年続く鋳物産地で、仏具や茶道具、花瓶を手がける工房として始まった会社だ。転機になったのは2003年、世界初とうたう「100%純錫」のテーブルウェアラインを立ち上げたこと。普通、錫の器はアンチモンや銅などを混ぜた合金にして硬さを持たせるものだが、能作はあえて硬化材を一切加えず、純度100%に近い錫のまま鋳造する道を選んだ。 その結果生まれたのが、手で曲げて形を変えられるほど柔らかい金属という、他に類を見ない特性だ。手のひらで押して器の形を変えられる「KAGO」シリーズが看板商品になっているのも、この「柔らかさを弱点ではなく個性にする」という発想から来ている。今回取り上げるぐい呑み・片口セットも、同じ本錫100%の系譜にある器だ。 片口とぐい呑み、それぞれの実力 片口小はH55×W128×D77mmほど、容量は195cc前後。ぐい呑みは1個あたり90cc前後で、手に収まるサイズ感になっている。どちらも化粧箱入りで、贈り物として渡しても恥ずかしくない仕立てだ。 能作 本錫100%酒器セット(ぐい呑み・片口小)Amazonで見る → 能作の直販サイトでは片口小の単品や、片口小にぐい呑み2個を組み合わせたセットが定番として並んでいて、今回のような「片口1個+ぐい呑み1個」という組み合わせは、正規取扱店が独自に組み替えた構成のようだ。中身自体は能作の本錫100%シリーズそのものなので、素材や作りに対する不安はない。 手入れは、思ったより神経を使う 錫は柔らかい金属なので、扱いには多少の慣れが要る。強く握ったりぶつけたりすると簡単にへこむし、表面にも傷が入りやすい。食器洗浄機・乾燥機は使えず、手洗いしてすぐに柔らかい布で水気を拭き取るのが基本になる。 放っておくと酸化して黒っぽい斑点(いわゆる曇り・変色)が出てくるのも錫の性質で、これは不良ではなく素材の特徴だという。気になったら重曹と中性洗剤を練ったペーストで優しくこすればある程度は戻せるらしいが、金属磨き粉やスチールウールでゴシゴシやるのは厳禁。ここは正直、扱いやすさよりも「素材と付き合う手間」を楽しめるかどうかにかかっている道具だと思う。 酒器としての実力 錫の器で飲むと酒がまろやかになる、という話は古くから言われている。イオン効果で角が取れる、熱伝導の良さで冷酒がキンと冷えたまま楽しめる、抗菌性があるので酒が傷みにくい、といった具合だ。実際、錫は熱の伝わりが陶器よりずっと速いので、冷蔵庫で1〜2分冷やすだけでもしっかり冷たくなる感覚はある。 ただ、味がまろやかになるという部分は科学的に完全に立証された話ではなく、あくまで長年語り継がれてきた経験則に近い。個人的には、金属特有のひんやりした口当たりと軽い清涼感が、冷酒をきりっと引き締めてくれる感じが気に入っている。過度な期待はせず、素材の面白さとして楽しむくらいがちょうどいいと思う。 価格・現行性 能作 本錫100%酒器セット(ぐい呑み・片口小)Amazonで見る → 実勢価格はAmazon.co.jpで11,000円台。能作の直販サイトでは、片口小単体が7,000円台、片口小+ぐい呑み2個のセットが14,000円台〜と、価格帯は近い。錆びにくく変形しにくいという錫の性質になぞらえて、結婚10周年を祝う「錫婚式」の贈り物として能作自身が紹介しているくらいで、還暦祝いや退職祝いの品としてもよく選ばれているブランドだ。 能作は現在も高岡の本社工場でこのシリーズを作り続けていて、廃番になった様子もない。片口・ぐい呑みという基本の組み合わせは、シーズンごとの限定デザインとは違って長く定番であり続けそうな器だと思う。 曲がるほど柔らかい金属を、あえてそのまま器にしてしまう発想がおもしろい。扱いには気を遣うが、その手間ごと楽しめるなら、晩酌の道具として長く付き合っていける一組だと思う。 関連記事: BODUM DOUROを徳利として使う、ドウロ渓谷のぶどう畑を写した形 · KEITH 純チタン おちょこは、白酒のために生まれた旅する盃 · 温度を止める徳利、ピーコックの真空二重構造 酒器セット

2026年9月19日 · 1 分 · 36 文字 · kingsworksub-jpg

柳宗理の清酒グラスは、てのひらの形から生まれた

脚付きの小さなガラス杯に、金の小さな紋章がひとつ。プロダクトデザインの世界で知らない人はいない柳宗理が手がけた「清酒グラス」を、隅々まで見ていく。 日本酒造組合中央会からの、ひとつの依頼 柳宗理デザイン 清酒グラス 125ml(東洋佐々木硝子)Amazonで見る → このグラスの出発点は、日本酒造組合中央会からの依頼だったという。「お燗も冷酒もこなせる、脚のついた杯がほしい」という、ずいぶん欲張りな注文だ。受けて立ったのが柳宗理で、金沢美術工芸大学で教えていた縁から、金沢の福光屋の福光博氏と協力しながら形を練っていった。 最終形にたどり着くまでにはおよそ2年かかったと伝えられている。柳宗理といえばバタフライスツールやステンレスのケトルのような、工業製品然とした佇まいの仕事で知られるが、この清酒グラスは「盃」という和の道具の記憶をきちんと踏まえた形にまとめてある。一目で「これは日本酒のための器だ」とわかる佇まいに落とし込むのに、それだけの時間が必要だったのだろう。 手のひらが決めた、あの丸み 見た目のいちばんの特徴は、丸く厚みを持たせた縁と、安定感のある高い脚だ。縁を厚くしたのは、日本酒を口に含んだときの当たりを柔らかくするためだと説明されている。脚の部分はただ持ちやすいだけでなく、卓に置いたときの座りの良さまで含めてデザインされているようで、実際に手に取ると、指の腹がすっと吸いつくような曲面になっているのがわかる。 装飾らしい装飾はほとんどなく、胴の途中に小さな金の紋章がひとつ添えられているだけ。この潔さが、半世紀以上たった今見てもまったく古びない理由だと思う。ミニマルなのに素っ気なくならないのは、削ぎ落とした形の中に「日本酒を飲むための道具」という機能がきちんと宿っているからだろう。 素材とつくり — ソーダガラス、東洋佐々木硝子の仕事 素材はソーダガラス。製造を手がけているのは、大阪発祥のガラスメーカー東洋佐々木硝子だ。手吹きの一点物ではなく工業製品として量産されているぶん、価格は驚くほど抑えられていて、店によっては1個500円を切ることもある。柳宗理のデザインらしく、美しさと日常使いのしやすさを両立させる方向に振り切った器だと感じる。 大小2サイズ、そして手入れの注意 このグラスには小(容量60ml前後)と大(容量110〜125ml前後、扱う店によって表記に多少の幅がある)の2サイズがあり、今回取り上げているのは大サイズにあたる。開発の過程では、当初中間的なサイズを作ったところ「お燗にはやや大きい」という声が出て、そこから小サイズが生まれたという経緯があるらしい。冷酒中心に楽しむなら大、お燗を意識するなら小、という選び方が本来の設計意図に近いのだろう。 手入れの面では、電子レンジ・オーブンには対応しておらず、食器洗浄機・乾燥機の使用も推奨されていない。中性洗剤とやわらかいスポンジでの手洗いが基本で、急激な温度変化(熱いものを注いだ直後に冷水にさらす、など)も避けたほうがいい。ガラスとしてはごく一般的な扱い方だが、値段が手頃だからといって雑に扱っていい器ではないと思う。 熱燗か、冷酒か もともとの依頼は「お燗も冷酒もこなせる杯」だったが、現在の販売ページを見る限り、耐熱仕様をうたっている様子はなく、急な加熱は避けたほうが無難な器という位置づけになっている。個人的には、この形の良さがいちばん映えるのは冷酒だと感じる。厚みのある縁が口当たりをまろやかにしてくれるので、キリッと冷やした純米酒や吟醸酒を、脚を軽くつまむようにして飲むのが似合う。 価格と購入先 — 半世紀選手が今も現役 柳宗理デザイン 清酒グラス 125ml(東洋佐々木硝子)Amazonで見る → 価格帯は小サイズで300円台、大サイズでも400〜500円程度からと、デザイナーズプロダクトとしては驚くほど手頃だ。MoMAデザインストアやD&DEPARTMENT、カリモク60のオフィシャルショップ、柳工業デザイン研究会の直販、地元の酒販店など、扱っている販路は幅広い。Amazonでも取り扱いがあり、単体からペア・セットまで見つかる。 生産中止になった様子はなく、発表から半世紀以上たった今もカタログに載り続けているロングセラーだ。デザイナーの名前で語られがちな器だが、実際の値段は缶チューハイ数本分ほどしかしない、というギャップも含めて面白い存在だと思う。 飾り気を削ぎ落としながら、日本酒という飲み物の輪郭だけはしっかり残す。そのバランス感覚こそが、このグラスが半世紀以上も棚から下ろされずにいる理由なのだろう。値段の手頃さも含めて、日々の晩酌に添える一客としてちょうどいい器だと思う。 関連記事: 氷を閉じ込めて薄めない、東洋佐々木ガラス カラフェ・バリエーション · 東洋佐々木ガラスの片口 冷酒カラフェ、注ぎ口に宿る千三百年の知恵

2026年9月19日 · 1 分 · 36 文字 · kingsworksub-jpg