Bowers & Wilkins(B&W)の685は、2007年に600シリーズの一員として登場したブックシェルフ型の2ウェイスピーカーだ。黒い箱の正面に、黄色いケブラーのウーファーと、ロゴ入りのシルバープレートに収まったアルミのツイーター。この顔つきを見ると、多くの人が「B&Wの音」を思い浮かべるのではないかと思う。

発売から時間は経ったものの、685はいまも中古市場で名前をよく見かけるモデルだ。ペアで10万円を切る価格帯に、上位機ゆずりの技術と英国らしい開放的な鳴り方を詰め込んだ一台として、長く支持されてきた。本記事では、ブラックアッシュ仕上げのペアを対象に、筐体、ツイーター、ウーファー、音の傾向、設置とアンプ選び、そして価格と後継機までを順番に見ていく。

先に結論めいたことを書いてしまうと、685は「元気で見通しのよい音を、手の届く値段で」という狙いがはっきりしたスピーカーだと思う。そのぶん高域には少しクセがあり、置き方とアンプで印象がかなり変わる。そのあたりも含めて整理していきたい。

685という製品の立ち位置

685は、B&Wのエントリーからミドルを担う600シリーズの中で、小型ブックシェルフの686と、フロア型の684・683のあいだに位置するモデルだ。英国と日本での発売は2007年の6〜7月。ブックシェルフとしてはひと回り大きい165mmウーファーを積み、「本棚サイズで、しっかり鳴らせる」ことを狙った中核機にあたる。英国の専門誌のアワードでは、2007年に部門賞と年間最優秀、2008年にも年間最優秀スピーカーに選ばれており、当時このクラスの定番として扱われていたことがうかがえる。

主な仕様をまとめておく。

項目仕様
形式2ウェイ・バスレフ(フロントポート「Flowport」)
ツイーター25mm アルミドーム(ノーチラス・チューブ・ローディング)
ウーファー165mm 織りケブラーコーン
クロスオーバー周波数4kHz
周波数特性49Hz〜22kHz(±3dB)
再生周波数帯域42Hz〜50kHz(−6dB)
能率88dB(2.83V/1m)
インピーダンス公称8Ω(最小3.7Ω)
推奨アンプ出力30〜100W(8Ω)
外形寸法H340×W198×D331mm(脚なし、グリル・端子含む)
質量7.0kg(1本)
端子2組(バイワイヤ/バイアンプ対応)

数字だけ見ると、能率88dBは一般的な小型ブックシェルフよりやや高めで、アンプへの要求は極端に厳しくない。一方で最小インピーダンスは3.7Ωと低めで、ここは後の「アンプ選び」で改めて触れる。

筐体・外観・ビルド品質

スタンドに載せたBowers & Wilkins 685(ブラックアッシュ)。上部にシルバーのツイーター、中央に黄色いケブラーコーン、下部にFlowport
ブラックアッシュの685をスタンドに載せたところ(クリックでAmazonの商品ページへ)
Photo: bibendum84 / Flickr (CC BY-SA 2.0)

キャビネットは15mm厚のMDFで、フロントバッフルだけ22mmと厚くしてある。内容積は約15リットル、内部には補強材が1本入る。7.0kgという重さは、このサイズのブックシェルフとしては標準的からやや重め。持ち上げると、見た目より中身が詰まっている印象を受ける。ブラックアッシュの木目調シートは落ち着いた質感で、黒いバッフルと一体に見えるため、部屋の中で主張しすぎないのが気に入っている。一方で、天板や側面の仕上げは価格相応で、高級機のような突板や塗装の艶を期待すると少し物足りないかもしれない。

正面の構成はシンプルだ。上部にBowers & Wilkinsのロゴが入ったシルバーのプレートとツイーター、中央に黄色いウーファー、その下にFlowportと呼ばれるバスレフポートが開いている。ポートを正面に持ってきているので、背面ポートの機種ほど後ろの壁との距離に神経質にならなくてよいのは助かる。ポートの出入口はフレア状に広がり、ゴルフボールのようなディンプル加工が施されている。空気が出入りするときの風切り音を抑えるための工夫で、音量を上げても「ボッ」という耳障りなポートノイズが出にくい。

グリルは緩やかにカーブした形状で、付けても外しても見た目のバランスは悪くない。背面には2組のスピーカー端子があり、ジャンパーで連結された状態で出荷される。バイワイヤ接続やバイアンプ駆動にも対応できる作りだ。壁掛け用の鍵穴金具も背面に付いているが、音のためにはスタンドに載せるのをすすめたい。付属品には、ポートを塞ぐためのフォームプラグ2個とゴム脚が入っている。

ツイーター — チューブで背圧を逃がすアルミドーム

Bowers & Wilkins 685のツイーター。ロゴ入りのシルバープレートに収まった25mmアルミドーム
ロゴ入りプレートに収まった25mmアルミドーム・ツイーター
Photo: Derrick Noh / Wikimedia Commons (CC BY 2.0)

685のツイーターは25mmのアルミドームで、B&Wがノーチラス・チューブ・ローディングと呼ぶ構造を採り入れている。ドームは前に音を出すと同時に、背面にも同じだけの音を出している。この背面の音がキャビネット内で反射してドームに戻ってくると、振動板の動きを乱して音を濁らせてしまう。そこでドームの後ろにテーパー状のチューブを設け、背面に出た音をチューブの奥で吸収して消してしまう、というのがこの技術の考え方だ。もともとはB&Wの象徴である巻貝型スピーカー、ノーチラスの開発から生まれたもので、それをエントリークラスにまで降ろしてきたところに、このブランドらしさを感じる。

アルミドームは軽くて硬く、立ち上がりの速い音を出しやすい素材だ。685の高域が「見通しがよい」「細かい音までよく聞こえる」と感じられるのは、このツイーターによるところが大きいと思う。シンバルの余韻やアコースティックギターの弦のこすれといった細部が、埋もれずに前に出てくる。

その反面、アルミドームらしい明るさは、聴く音量や録音によっては硬さにも転ぶ。クロスオーバーは4kHzと比較的高めで、ツイーター側は緩やかな減衰特性の回路でつながれている。周波数特性で見ると、4kHz付近と10kHzより上がやや持ち上がった形になっていて、これがこのスピーカーの「元気さ」と「刺さりやすさ」の両方を生んでいるように感じた。ツイーターの高さを耳の位置に合わせるかどうかで印象が大きく変わるのも、この帯域の出方と関係していると思う。

ウーファー — 黄色いケブラーコーン

Bowers & Wilkins 685の165mmウーファー。黄色い織りケブラーのコーンと黒いセンターキャップ
織り目がはっきり見える、165mmの黄色いケブラーコーン
Photo: Derrick Noh / Wikimedia Commons (CC BY 2.0)

B&Wと聞いて多くの人が思い浮かべるのが、この黄色いウーファーだろう。685の165mmウーファーは、防弾チョッキにも使われるアラミド繊維、ケブラーを織って作ったコーンを使っている。ケブラーは軽くて丈夫なうえ、織物にすることでコーンの表面で振動が一様に伝わりにくくなる。紙や樹脂のコーンでは、ある周波数でコーン全体が同じ形でたわむ「分割振動」が起きて音にピークが出やすいが、織りケブラーではその振動が網目で分散され、特定の音だけが目立つクセが出にくい。上位機から長く受け継がれてきた素材で、685にもそのまま採用されている。

このウーファーが受け持つのは、低音から4kHzまでの広い帯域だ。人の声や楽器の実体感が詰まった中域をほぼ一本でこなしているので、ボーカルや管楽器のつながりは自然で、暖かみのある滑らかな中域が出る。ここは685のいちばんの美点だと思っている。

低域は、165mmというサイズと約15リットルの箱から想像される範囲に収まる。スペック上は49Hzまでを±3dBで再生し、−6dBでは42Hzまで伸びる。ブックシェルフとしては十分に量感があり、ベースラインやキックの輪郭もきちんと追える。ただし、パイプオルガンや映画の爆発音のような最低域を床から揺らすような鳴り方は得意ではなく、小音量では低音が少し薄く聞こえる。低音の量感が足りないと感じたら、壁との距離を少し詰めるか、サブウーファーを足すのが現実的だと思う。

音の傾向

全体としての685の音は、前に出てくる広い音場と、弾むようなダイナミクスが特徴だ。スピーカーの外側まで音が広がり、演奏者が一歩前に出てきたような距離感で鳴る。控えめで上品というより、音楽をいきいきと聴かせるタイプで、ロックやポップス、ジャズのコンボを小気味よく鳴らしてくれるのが楽しい。情報量も多く、ボーカルの息づかいやピアノのタッチの違いがよく分かる。

中域は暖かく滑らかで、女性ボーカルや弦楽器は艶っぽく聴こえる。ツイーターの明るさとウーファーの暖かさが組み合わさり、全体としては「明るいけれど冷たくはない」バランスに落ち着いていると感じた。

気をつけたいのは高域の扱いだ。音量を上げていくと、シンバルや歪ませたギター、女性ボーカルのサ行などが少し耳に刺さることがある。録音の粗さも隠さずに出すので、音圧の高いマスタリングの曲を大きな音で聴き続けると、疲れを感じやすい。逆に、録音のよいアコースティックなソースでは、この見通しのよさが大きな魅力になる。聴く音楽と音量によって評価が分かれやすい、正直なスピーカーだと思う。

鳴らし始めは高域が硬めに感じられることがあり、しばらく使ううちに角が取れて落ち着いてくる。取扱説明書では、最長で1週間、使用時間にして15時間ほどを慣らしの目安としている。

設置とセッティング

685の音は、置き方でかなり変わる。取扱説明書が推奨している基本は、スタンドに載せてツイーターを耳の高さに合わせること、背面の壁から約0.5m、側面の壁から0.5m以上離すこと、そして左右のスピーカーの間隔を1.5〜3mにして、リスニングポジションと正三角形を作ることだ。6畳から10畳程度の部屋で、この配置を目安に微調整していくのがよいと思う。

特に効くのがツイーターの高さと向きだ。ツイーターが耳より低いと高域がこもり、高すぎたり真正面を向きすぎたりすると明るさが強調される。高域がきついと感じたら、スピーカーの内振り(トーイン)を浅くして、ツイーターの軸をリスナーから少し外すと、刺さりがだいぶ和らぐ。グリルを付けるか外すかでも高域の出方は変わるので、両方試して好みの方を選んでほしい。

低音が多すぎる、あるいは部屋の特定の音がボンボン響くと感じる場合は、付属のフォームプラグをFlowportに差し込む。バスレフの効きを抑えることで、低域の量は減るが締まりが出る。壁に近い置き方しかできない場合も、このプラグが役に立つ。

スタンドは、ぐらつかない重めのものを選びたい。スピーカーの底面とスタンドの天板のあいだに付属のゴム脚を挟むと、設置が安定し、細かな振動も伝わりにくくなる。

アンプ選び

能率は88dBと高めなので、6畳〜10畳程度の部屋で普通の音量を出すだけなら、アンプの出力はそれほど大きくなくても足りる。推奨アンプ出力は30〜100W(8Ω)となっている。

ただし、公称8Ωに対して最小インピーダンスは3.7Ωまで下がる。帯域によっては実質4Ω寄りの負荷になるため、出力の数字よりも、電流を余裕をもって流せるかどうかを重視したい。小さなデジタルアンプや、一体型ミニコンポのアンプ部で鳴らすと、音量を上げたときに低域が崩れたり高域が荒れたりしやすいと感じた。

音の相性でいうと、685の明るさを穏やかにまとめてくれる、暖かめで落ち着いた音のプリメインアンプがよく合うと思う。NAD、Rega、Rotel、Naimのエントリー機のように、中低域に厚みがあって高域がきつくならないアンプと組み合わせると、このスピーカーの元気さを残したまま聴き疲れしにくいバランスになる。反対に、高域が華やかで解像感を前面に出すタイプのアンプと組むと、明るさが重なって刺激が強くなりやすい。

バイワイヤ対応の端子を持っているので、将来アンプを2台に増やしてバイアンプ駆動を試す楽しみもある。ただ、まずは付属のジャンパーのまま、質のよいスピーカーケーブル1組で鳴らし込むところから始めるのがよいと思う。

弱点と注意点

ここまで何度か触れたが、いちばんの注意点は高域の明るさだ。聴く音量が大きめの人や、高域の刺激に敏感な人は、設置の工夫だけで十分に抑えられない場合がある。店頭やショールームで試聴できる機会があれば、普段聴く曲を普段の音量で確かめてほしい。

2つ目は最低域の限界だ。ブックシェルフとしては量感があるものの、大音量で深い低音を浴びたい人には物足りないはずだ。低音重視なら、フロア型か、サブウーファーとの組み合わせを考えたほうが満足度は高いと思う。

3つ目はインピーダンスの低さで、アンプの選択肢が少し狭まる。高価なアンプは必要ないが、電流の余裕が小さいアンプは避けたい。

最後に、キャビネットの仕上げは価格相応で、高級感を求める人には少し素っ気なく感じられるかもしれない。また、生産終了から時間が経っているため、中古で手に入れる場合はウーファーのエッジやツイーターのドームに凹みや劣化がないか、左右の音に差がないかを確認しておくと安心だ。アルミドームは指で押すと簡単にへこむので、グリルを外して扱うときは注意したい。

価格・現行性

日本での発売時の価格は、ペアで88,000円(税抜)、税込で92,400円(当時の消費税率5%)だった。米国ではペア600ドルで販売されていた。

685はすでに生産を終えている。2014年3月に後継の685 S2へ切り替わり、S2ではツイーターがデカップルド・ダブルドーム(アルミドームと厚みのあるリングを組み合わせ、ゲルで浮かせて支持する構造)に変わった。価格はペア114,000円(税抜)だった。その後の600シリーズは、2018年の606、2020年の606 S2 Anniversary Edition、2023年9月の606 S3と続いている。685の直系の後継にあたるのは606で、現行の606 S3はチタンドームのツイーターを採用し、希望小売価格はペア165,000円(税込)だ。

いま685を手に入れる手段は、Amazonなどに残る在庫か、中古市場が中心になる。中古相場は、2026年時点の目安でオークションなら2〜3.5万円前後、中古専門店なら6万円弱まで。Amazonの在庫状況と価格は、記事中の写真から商品ページを開いて確認できる。出品者や状態によって価格の幅が大きいので、付属品(フォームプラグ、ゴム脚、ジャンパー)の有無も含めて見比べたい。

現行の606 S3と比べると、685は技術的には一世代以上前のモデルだ。それでも、中古ならその数分の一の予算で、B&Wらしい開放的な鳴り方と上位機ゆずりの技術を手に入れられる。予算を抑えて本格的なスピーカーを始めたい人にとって、685はいまでも十分に検討する価値のある選択肢だと思う。

結局、誰に向いているか

685がいちばん合うのは、手頃な予算で、英国らしい開放的で元気な鳴り方を楽しみたい人だと思う。6畳から10畳程度の部屋で、スタンドを用意して壁から少し離して置けるなら、このスピーカーの良さをしっかり引き出せる。ロックやポップス、ジャズのように、リズムや演奏の勢いを楽しみたい音楽との相性がよい。暖かめのプリメインアンプと組み合わせれば、見通しのよさと聴きやすさのバランスもとりやすい。

反対に、高域の刺激に敏感な人、大音量で深い低音を求める人、壁際や棚の奥にしか置けない人には、別の選択肢を探したほうが満足できるかもしれない。そういう人は、後継の606 S3や、よりおだやかな音作りのスピーカーを検討してみてほしい。

黄色いコーンとシルバーのツイーターが並ぶ顔つきは、いま見ても変わらず魅力的だ。置き方とアンプを少し工夫してあげるだけで、685は音楽を前のめりに楽しませてくれる。長く愛されてきた理由が、鳴らしてみるとよく分かるスピーカーだと思う。