ジャケットを着ないのに、きちんとして見える。それでいて堅苦しくない。そんな装いを一つ挙げるなら、シャツにサスペンダーとネクタイを合わせ、中折れハットをのせたクラシックなスタイルだと思う。1920〜40年代のジャズエイジの紳士服を下敷きにしながら、ジャケットを省いて軽やかにした、大人の休日にちょうどいいバランスの着こなしだ。
今回組むのは、ライトブルーのドレスシャツ、ダークブラウンのY型サスペンダー、ダークブラウンの細身ネクタイ、黒のテーパードスラックス、ダークブラウンの中折れハットという5つのアイテム。どれも単品で見ればごく基本的なものだが、組み合わせると一気に雰囲気が出る。この記事では、全体の色の考え方から、アイテムごとの選び方、サイズ感や小物の合わせ方、季節ごとのアレンジまでを順に見ていく。各アイテムの写真をクリックすると、Amazonで近い商品を探せるようにしてある。
コーディネートの全体像 — 3色で組む
このスタイルの骨格は、ライトブルー、ダークブラウン、黒の3色だけで成り立っている。いちばん面積の大きいシャツを明るいライトブルーにして、顔まわりを爽やかに見せる。そこに、サスペンダー、ネクタイ、ハットというアクセントをすべてダークブラウンでそろえ、ボトムスの黒で全体を引き締める。ブラウン系の小物を同じ色でそろえるのが、まとまりを出すいちばんのコツだ。
ライトブルーとブラウンは、互いに引き立て合う相性のよい組み合わせだと思う。冷たい青と温かい茶色がぶつからずに混ざり、カジュアルすぎず、フォーマルすぎない落ち着いた印象になる。黒のスラックスはスーツ用のように光沢のあるものではなく、マットな生地を選ぶと、ブラウンの小物と自然になじむ。
もう一つのポイントは、縦のラインだ。サスペンダーの2本の線と、ネクタイの1本の線が、上半身にすっと縦の流れを作る。これがスタイルを縦長に、すっきり見せてくれる。ジャケットを着ないぶん、サスペンダーとネクタイがジャケットの役目を果たしていると考えるとわかりやすい。
ライトブルーのドレスシャツ — 土台になる一枚

装いの土台になるのが、ライトブルーの無地のドレスシャツだ。襟はレギュラーカラーを選びたい。ネクタイを締めたときに襟の開きが自然で、細身のネクタイともバランスがとりやすい。ボタンダウンでもカジュアルに寄せられるが、ハットやサスペンダーのクラシックな雰囲気には、レギュラーカラーのほうが素直に合うと思う。
シルエットはスリムフィットがおすすめだ。サスペンダーを付けるとシャツの上にベルトのラインがなくなるため、身幅が余っているとお腹まわりの生地がもたついて見えてしまう。体に沿ったスリムフィットなら、サスペンダーの縦のラインがきれいに出る。袖は長袖を選び、少しまくって手首を見せると、腕時計やブレスレットがのぞいて、こなれた印象になる。
生地は、ブロードのようななめらかなものなら上品に、シャンブレーやオックスフォードのようにざっくりした風合いのものなら、ぐっとカジュアルに振れる。最初の一枚なら、どちらにも転がしやすい無地のブロードかオックスフォードが使いやすい。色はくすみのない明るいライトブルーを選ぶと、ダークブラウンの小物が映える。
Y型サスペンダー — 主役になる縦のライン

この装いの主役が、ダークブラウンのY型サスペンダーだ。背中側で1本にまとまる「Y型」は、肩から落ちにくく、背中のシルエットもすっきりする。後ろで交差する「X型」よりもクラシックで、シャツ1枚で着る場面にも向いていると思う。
幅は35mm前後の幅広タイプを選びたい。細いサスペンダーはカジュアルで軽い印象になるが、35mmほどの幅があると、上半身にしっかりとした存在感が生まれ、ジャケットを着ていなくても装いが締まって見える。素材は本革のレザーがおすすめで、使い込むほどに色が深まり、ダークブラウンの味わいが増していく。金具のアジャスターも、真鍮やアンティーク調の色を選ぶとクラシックな雰囲気に合う。
留め方は、パンツにボタンを付けるボタン式と、パンツのウエストを挟むクリップ式がある。ボタン式のほうが本格的だが、手持ちのパンツにボタンが付いていないことが多いので、まずはどのパンツにも使えるクリップ式から始めるのが現実的だ。長さは、まっすぐ立ったときにパンツが自然な位置に収まるよう調整する。引き上げすぎると股上が食い込み、緩すぎるとパンツが下がってだらしなく見えるので、鏡の前で何度か確かめたい。
ダークブラウンの細身ネクタイ

ネクタイは、サスペンダーと同じダークブラウンの無地を選ぶ。色をそろえることで、首元から腰までの縦のラインが一本につながり、まとまりが生まれる。柄物を選ぶと視線が散りやすいので、このスタイルでは無地がいちばん合うと思う。
幅は5cm前後の細身がおすすめだ。一般的なビジネス用のネクタイは7〜8cmほどあるが、ジャケットを着ないこのスタイルでは、太いネクタイだと胸元が重たく見える。5cmほどの細身なら、サスペンダーの2本の線との幅のバランスもよく、軽快な印象になる。
素材はツヤの少ないマットな質感を選びたい。光沢の強いシルクのネクタイはスーツ向きで、シャツ1枚のスタイルでは少し浮いてしまう。ウールやニット、マットなポリエステルのネクタイなら、レザーのサスペンダーやフェルトのハットと質感がなじむ。結び方は、結び目が小さく縦長にまとまるプレーンノットが細身のネクタイに合う。
黒のテーパードスラックス — 全体を引き締める

ボトムスは黒のスラックスで、全体をきりっと引き締める。シルエットは、腰まわりにわずかなゆとりがあり、裾に向かって細くなるスリムテーパードを選びたい。上半身にサスペンダーとネクタイの縦のラインがあるぶん、下半身もすっきりさせると、全身のバランスが整う。
前に折り目の入らないノータックのスラックスなら、腰まわりがすっきり見えて、現代的な印象になる。クラシックな雰囲気をより強めたいなら、前にひだの入ったタック入りのスラックスも合うが、まずはどんな上半身にも合わせやすいノータックが扱いやすい。センタープレスの入ったものを選ぶと、脚がまっすぐ長く見え、カジュアルな生地でもきちんと感が出る。
丈は、靴の甲に軽く触れる程度か、くるぶしが少し見えるくらいの短めがよい。裾がたまると、テーパードのシルエットが崩れて重たく見えてしまう。サスペンダーで吊るすと、ベルトで留めるより少し高い位置で穿くことになるので、丈は実際にサスペンダーを付けた状態で合わせると失敗が少ない。
ダークブラウンの中折れハット — 仕上げの一点

最後に、ダークブラウンの中折れハット(フェドラハット)をのせて仕上げる。頭頂部に折り目の入ったクラウンと、適度なツバを持つ中折れハットは、このスタイルの「ジャズエイジらしさ」をいちばんはっきり表してくれるアイテムだ。色をサスペンダー、ネクタイと同じダークブラウンでそろえると、頭の先から腰まで、ブラウンのアクセントが上下にリズムよく並ぶ。
素材はウールフェルトが秋冬の定番で、しっかりとした形を保ってくれる。ツバはやや幅広のものを選ぶと、クラシックな雰囲気が強まり、顔まわりに程よい陰影ができる。ツバが狭すぎるとカジュアルな印象に、広すぎると主張が強くなりすぎるので、6cm前後を目安にするとバランスがとりやすいと思う。
サイズ選びは大切だ。頭の周囲を測り、指1本が入るくらいの余裕のあるサイズを選ぶ。浅くかぶると帽子だけが浮いて見えるので、おでこの上、眉から2〜3本指ぶん上の位置に、ほんの少し前傾させてかぶると、きれいに決まる。帽子のリボン(ハットバンド)がブラウンや黒の落ち着いた色のものを選ぶと、全体の色数を増やさずに済む。
着こなしのポイント — 小物と足元
5つのアイテムがそろったら、あとは小物と足元で仕上げる。足元は、ダークブラウンのレザーシューズがいちばん合う。プレーントゥのダービーや、少しカジュアルにするならチャッカブーツやサイドゴアブーツもよい。黒のスラックスに黒の靴を合わせると引き締まるが、ブラウンの靴にすると、ハット、ネクタイ、サスペンダーとの色のつながりが足元まで続いて、まとまりがいっそう強くなる。
バッグは、レザーのボストンバッグやブリーフケースのような、クラシックな形のものを。色はやはりダークブラウンで合わせたい。手首には、レザーベルトの腕時計や、ビーズのブレスレットを一つ。シャツの袖を少しまくっておくと、手元のアクセサリーがさりげなく見える。
気をつけたいのは、ベルトとサスペンダーを同時に使わないことだ。サスペンダーはベルトの代わりにパンツを吊るすものなので、両方付けると役割が重なって野暮ったく見える。サスペンダーを使う日は、ベルトループが空いたままでかまわない。また、ブラウンの小物は、濃さや色味をできるだけそろえると、ちぐはぐな印象を避けられる。
季節に合わせたアレンジ
秋冬は、シャツの上にウールのベストを重ねたり、グレーやブラウンのツイードジャケットを羽織ったりすると、サスペンダーの雰囲気を残したまま暖かく着られる。寒い日は、ダークブラウンやチャコールのチェスターコートを羽織り、ハットをそのままかぶれば、街に映える冬のクラシックスタイルになる。
春や初夏は、ハットをウールフェルトから**ストローハット(パナマハット)**に替え、ネクタイを外して第一ボタンを開ければ、ぐっと軽やかになる。スラックスも、黒から生成りやベージュのリネンに替えると、季節に合った涼しげな印象になる。
もう少しカジュアルにしたい日は、ドレスシャツをシャンブレーやデニムのシャツに替え、靴をスエードのブーツにするのもよい。サスペンダーとハットという2つの軸さえ残しておけば、スタイルの個性は崩れない。
まとめ — 基本の5点で、装いに物語をつくる
ライトブルーのドレスシャツ、ダークブラウンのY型サスペンダーと細身ネクタイ、黒のテーパードスラックス、ダークブラウンの中折れハット。一つ一つは決して特別なアイテムではないが、色を3色に絞り、ブラウンの小物で縦のラインをそろえるだけで、どこか物語を感じさせる装いが生まれる。
最初からすべてを買いそろえる必要はない。手持ちのシャツと黒のパンツに、まずサスペンダーを1本加えてみるだけでも、ふだんの着こなしの印象はかなり変わるはずだ。そこにネクタイ、ハットと少しずつ足していけば、自分なりのクラシックスタイルが自然とできあがっていくと思う。各アイテムの写真から、Amazonで近い商品を探してみてほしい。