ウイスキーをロックで飲むとき、グラスに入れる氷が白く濁っていると、それだけで少し残念な気持ちになる。バーで出てくる氷は向こう側が透けて見えるほど澄んでいて、グラスの中で割れにくく、見た目にも静かだ。あの透明な氷は、特別な水や専用の機械がなくても、家庭の冷凍庫で作ることができる。必要なのは、小さな保冷ボックスと、水が凍っていく「向き」を一方向にそろえるという考え方だけだ。この記事では、製氷皿の氷が濁る理由、上からだけ凍らせる方向性凍結(ほうこうせいとうけつ)の仕組み、そして水の量・冷凍時間・取り出す時刻・切り分け方・保存方法までを、再現できる形で順に説明する。


先に結論、透明な氷を作る条件の一覧

グラスの形をした透明な氷の塊。上半分は向こう側が透けて見え、下のほうには縦に伸びる白い筋状の気泡が並んでいる
上から凍らせた氷。上部は澄み、最後に凍った下部に気泡の筋が集まっているPhoto: Public class / CC BY-SA 4.0

最初に、この記事の結論を表にしておく。透明かどうかを左右するのは、水の種類よりも、水がどの方向から凍っていくかだ。表の時間は、家庭用冷凍庫(-18℃前後)で、容量5〜10L程度の小型保冷ボックスを使う場合の目安になる。冷凍庫の性能や水の量で前後するので、初回は途中で何度か様子を見て、自分の冷凍庫での時間をつかむとよい。

条件製氷皿(ふつうの作り方)保冷ボックスで上から凍らせる
凍っていく方向上下左右のすべての面から中心へ開いた上面から下へ一方向
気泡と不純物の行き先最後に凍る中心に閉じ込められる下に残った水へ押し出される
透明になる部分ほぼ無い(中心が白く濁る)上から全体の3分の2〜4分の3程度
冷凍時間の目安数時間18〜24時間(下の3分の1が水のうちに取り出す)
水の種類何を使っても濁る水道水で十分

この表から言えることは2つある。1つ目は、沸騰させた水や浄水器の水を使っても、製氷皿で四方から凍らせる限り、中心は濁るということ。2つ目は、凍る向きさえ上から下にそろえれば、ふつうの水道水でも大きく澄んだ塊ができるということだ。以下で、その理由と手順を順に見ていく。

製氷皿の氷が白く濁るのは、空気の逃げ場がないから

家庭の製氷皿で作った角氷がいくつも積み重なり、どの氷も外側は透明だが中心部分が白く濁っている
ふつうに作った角氷。外側は澄んでいても、最後に凍った中心が白く濁るPhoto: liz west / CC BY 2.0

水道水には、目に見えない量の空気(酸素や窒素、二酸化炭素)と、カルシウムやマグネシウムといったミネラル分が溶けている。水が液体でいるあいだはこれらが分子のすき間に収まっているが、氷の結晶は水の分子だけで規則正しい形を組もうとするので、溶けていた空気やミネラルを結晶の外へ押し出していく。

製氷皿に入れた水は、冷凍庫の冷気に上面・底面・側面のすべてから冷やされる。氷は外側から内側に向かって育っていき、押し出された空気やミネラルは、まだ凍っていない中心の水にどんどん集まっていく。最後に中心が凍るときには、行き場を失った空気が細かい泡になって閉じ込められ、ミネラルも一緒に固まる。氷の中心が白く見えるのは、この無数の小さな泡や粒が光をあちこちに散らしているからだ。

もう1つの原因は、ひびだ。水は凍ると体積がおよそ9%増える。液体の水の密度が1cm³あたり約1.00gなのに対し、0℃の氷は約0.917gで、同じ重さでも氷のほうがかさばる。外側が先に固まった殻の中で中心の水が凍ると、膨らむ逃げ場がなく、内側から押されて細かなひびが入る。このひびも光を散らし、氷を白っぽく見せる。

ここで、よく聞く「沸騰させた水なら透明になる」という方法についても触れておく。沸騰させると溶けていた空気の一部は抜けるが、凍る向きは変わらない。製氷皿で四方から凍らせれば、残っていた空気やミネラルはやはり中心に集まり、白い部分が少し小さくなる程度にとどまる。蒸留水や浄水器の水も同じで、水をきれいにすることより、凍る向きをそろえることのほうが効き目ははるかに大きい。

方向性凍結、上からだけ凍らせると不純物は下に逃げる

発泡スチロールの断熱材を2段に重ね、その上面にくぼみを作って白い紙コップを埋め込み、中に水を張った手作りの透明氷用の容器
断熱材に紙コップを埋めた手作りの容器。側面と底を断熱し、冷気が上からだけ入るようにしてあるPhoto: Public class / CC BY-SA 4.0

透明な氷を作るには、製氷皿のように四方から凍らせるのをやめて、一方向から順番に凍らせればよい。これが方向性凍結の考え方だ。冬の湖や川の表面に張る氷が澄んでいるのも、水面という一方向から下に向かってゆっくり凍っていくからだ。

家庭でこれを再現する道具が、小型の保冷ボックスだ。保冷ボックスは側面と底が断熱材でできているので、ふたを外して水を張り、冷凍庫に入れると、冷気は開いている上面からしか水に届かない。氷は水面から下に向かって一枚の板のように育っていき、押し出された空気とミネラルは、まだ凍っていない下の水へと順に追いやられていく。

凍る面が常に一方向に進むので、空気が泡として閉じ込められる前に、下の水へ逃げることができる。結果として、上から3分の2から4分の3くらいまでは向こう側が透けて見えるほど澄んだ氷になり、最後に凍る底のあたりだけに、白い気泡と不純物が集まる。冒頭の写真の氷の下部に見える縦の筋は、凍る面に押されて下へ逃げようとした気泡が、逃げきれずに並んで固まった跡だ。

上の写真のように、発泡スチロールの断熱材に紙コップを埋め込むだけでも、同じ原理は働く。大きな保冷ボックスを入れる余裕がない冷凍庫なら、こうした小さな容器で1杯分ずつ作る方法もある。肝心なのは、側面と底を断熱して、冷気の入り口を上面1か所にしぼることだ。

業務用の透明な氷も、考え方は同じだ。アメリカのClinebell(クラインベル)社の製氷機は、大きな水槽の底から凍らせ、上に残った水をポンプで動かし続けて気泡を逃がしながら、数日かけて大きな透明の塊を作る。Kold-Draft(コールドドラフト)社の製氷機は、凍らせる面に下から水を吹き付け、凍りきらなかった水をミネラルや空気ごと流し出す。家庭の保冷ボックスと業務用の機械は、規模こそ違うが、凍る向きをそろえて不純物を最後の水に押しやるという点で共通している。

実践、保冷ボックスで作る透明な氷の手順

ロックグラスほどの大きさの透明な氷の塊。中に黄色く色づいたイチョウの葉が1枚閉じ込められていて、向こう側まで透けて見える
イチョウの葉を閉じ込めた透明な氷。濁りがないので、中に入れた物まではっきり見えるPhoto: Public class / CC BY-SA 4.0

ここからは具体的な手順だ。用意するものは、冷凍庫に入る小型の保冷ボックス(容量5〜10L程度、ハードタイプ)、水道水、パン切り包丁、木づち(またはすりこぎ)、清潔なふきん、冷凍用の保存袋の6つになる。

  1. 冷凍庫の場所を空ける: 保冷ボックスがふたを外した状態でまっすぐ入るか、先に確かめる。傾いていると氷の厚みが偏る。
  2. 水を張る: 保冷ボックスに水道水を半分から4分の3ほど入れる。満水にしないのは、凍って体積が約9%増えたときにあふれないようにするためと、下に濁りを逃がす水の層を残すためだ。
  3. ふたを外して冷凍庫へ: ふたは必ず外す。ふたをすると上面も断熱され、側面から少しずつ凍って方向がそろわなくなる。
  4. 18〜24時間待つ: 家庭用冷凍庫(-18℃前後)なら、18〜20時間ほどで上の3分の2が固まり、下の3分の1がまだ水かシャーベット状になっていることが多い。24時間を超えると底まで凍りきることがある。
  5. 下が水のうちに取り出す: いちばんきれいに仕上がるのは、底に水が残っているうちに取り出すことだ。保冷ボックスをシンクの上で逆さにし、しばらく置くと塊が抜ける。下の水と一緒に、濁りの元になる空気やミネラルも流れていく。
  6. 底まで凍ってしまった場合: そのまま取り出し、底の白く濁った層を後で切り落とせばよい。透明な部分が減るだけで、失敗ではない。

取り出した直後の氷は、表面に白い霜がつき、内部も冷えきっている。この状態で包丁を入れると、予定外の方向に割れたり、細かく砕けたりしやすい。ふきんの上に置いて、表面の霜が消えて全体が透き通るまで待つ。部屋の温度や塊の大きさにもよるが、10〜30分ほどが目安だ。この待ち時間で氷の外側と内側の温度差が小さくなり、思った線で割りやすくなる。

切り分けは、包丁で「切る」のではなく「割る」作業だ。

  1. 割りたい線に沿って、パン切り包丁の刃を前後に動かし、深さ5mmから1cmほどの溝をつける。
  2. 溝に刃を当てたまま、包丁の背を木づちで軽くたたく。何度かたたくと、溝から下へまっすぐ割れる。
  3. まず底の濁った層を切り落とし、次に透明な部分をグラスに合う大きさ(ロックグラスなら一辺5cm前後)に割っていく。

刃物と木づちを使う作業なので、塊が滑らないよう、ぬらしたふきんを下に敷き、手は刃の進む方向に置かないようにする。アイスピックを使う方法もあるが、パン切り包丁のほうが線をまっすぐ出しやすい。

保存と使い方、せっかくの透明を保つ

切り分けた氷は、冷凍用の保存袋に入れて口をしっかり閉じ、冷凍庫に戻す。袋に入れずに置いておくと、2つのことが起きる。1つは、冷凍庫の中のほかの食品のにおいを吸ってしまうこと。もう1つは、氷の表面が少しずつ気体になって抜けていく昇華(しょうか)で、角が丸くなり、表面が白っぽく曇っていく。袋の空気をできるだけ抜いて保存すれば、数週間は澄んだ状態を保てる。

使うときは、冷凍庫から出してすぐにお酒を注ぐと、温度差で氷にひびが入ることがある。数分だけ常温に置き、表面の霜が消えて透き通ってからグラスに入れるとよい。

透明な氷はゆっくり溶けるとよく言われる。気泡が少ないぶん中身が詰まっていることや、ひびが少なく割れにくいことは確かな利点だ。ただ、溶ける速さにいちばん効くのは、氷の大きさと表面積だ。同じ重さなら、細かい角氷を何個も入れるより、大きな塊を1つ入れたほうが表面積が小さく、お酒に触れる面が少ないので、ゆっくり溶けて味が薄まりにくい。保冷ボックスで作る大きな透明の塊は、この「大きく作れる」という点でも、ロックやハイボール向きの氷になる。

まとめ、凍る向きをそろえるだけで氷は澄む

透明な氷を作るためのポイントをまとめておく。

  • 濁りの原因: 溶けていた空気とミネラルが、四方から凍る氷に押されて中心に閉じ込められること。体積が約9%増えるときのひびも白さの原因になる。
  • 方向性凍結: 側面と底を断熱し、上からだけ凍らせると、空気と不純物は下の水へ押し出され、上の3分の2〜4分の3が透明になる。
  • 手順: 保冷ボックスに水を半分から4分の3、ふたを外して18〜24時間。底に水が残っているうちに取り出す。
  • 切り分け: 霜が消えるまで10〜30分置いてから、パン切り包丁で溝をつけ、背を木づちでたたいて割る。
  • 保存: 冷凍用の保存袋で密閉し、においと昇華を防ぐ。

道具として揃えておきたいのは、冷凍庫に収まる小型の保冷ボックス、刃の長いパン切り包丁、木づち、冷凍用の保存袋の4つだ。保冷ボックスを入れる余裕がない場合は、断熱容器に小さな型を収めた家庭向けの透明氷メーカーも各社から出ている。仕組みはどれも同じく上から凍らせる方式なので、冷凍庫の空き具合と、一度に作りたい量で選べばよい。

イチョウの葉や柑橘の皮、食用の花を水に浮かべてから凍らせると、写真のように中に閉じ込めた氷も作れる。秋なら紅葉、冬なら柚子の皮を入れてみると、グラスの中に季節がひとつ増える。ウイスキーの水割りやハイボールに使えば、溶けても濁りが出ないので、最後の一口まで見た目が変わらない。


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