Cubaseは機能が多いDAWだ。録音、MIDIの打ち込み、オーディオ編集、ミックス、マスタリングに加えて、楽譜まで扱える。そのぶん、起動した最初の画面で「どこから手をつければいいのか」と立ち止まってしまう人も多いと思う。

『CUBASE 15 & 15 PRO ユーザーガイド』は、そうした最初のつまずきを越えて、1曲を完成させるまでの道筋を示すことを目的にした解説書だ。2026年9月21日に発売された、Cubase 15と15 Proに対応する一冊になる。この記事では、本書がどんな本で、どこまでを扱っているのかを整理したうえで、Cubase本体と組み合わせてどう読み進めると力がつくのかを具体的に考えていく。

Cubase Pro 15そのものの機能、とくにスコアエディターについては「Cubase Pro 15のスコアエディターを読み解く、Doricoの譜面エンジンと15の新機能」で詳しく取り上げているので、あわせて読んでほしい。

どんな本か — 書誌情報

まずは基本的な情報をまとめておく。

項目内容
書名CUBASE 15 & 15 PRO ユーザーガイド: レコーディング、MIDI、オーディオ編集、アレンジ、バーチャル・インストゥルメント、ミキシング、エフェクト、オートメーション、マスタリング、そしてプロフェッショナルな音楽制作の実践ガイド
著者アルデン・マーロウ
発行Independently published(個人出版)
発売日2026年9月21日
形式ペーパーバック
ページ数128ページ
判型約21.6×27.9cm(レターサイズ)
価格3,999円(Amazon)
ISBN-13979-8176198294

出版社を通さない個人出版の本で、Amazonのオンデマンド印刷で届く形式だと思われる。判型はA4に近いレターサイズで、画面の図版を大きめに載せやすい大きさだ。128ページという分量は、Cubaseの全機能を網羅するリファレンスというより、制作の流れに沿って要点を押さえる実践ガイドの厚みだと考えておくとよい。

本書が扱う範囲

本書が掲げている学習内容は、音楽制作の工程をひととおりなぞる構成になっている。

  • セットアップと録音: オーディオインターフェースの設定、プロジェクトの作り方、オーディオとMIDIをきれいに録る方法
  • オーディオ編集: タイミングの修正、演奏の整理、ベストテイクを選んでつなぐコンピング、セッションの整理整頓
  • MIDI: 人間味のある打ち込み、クオンタイズ、表現の作り込み
  • アレンジ: イントロ、Aメロ、サビ、つなぎ(トランジション)の組み立て
  • バーチャル・インストゥルメント: 音色の読み込み、レイヤー、音作り
  • ミックス: レベル設定、EQ・コンプレッション・エフェクトの使い方、各パートの居場所づくり
  • オートメーション: 音量やエフェクト、楽器のパラメーターに動きをつける
  • マスタリングと書き出し: ストリーミングや共有に向けた仕上げと書き出し
  • ワークフローの効率化: 時間を節約し、初心者がはまりやすいミスを避ける習慣

「どこをクリックすべきか」に加えて「なぜそうするのか」まで説明する、というのが本書の方針だ。操作手順だけを覚えると、画面やバージョンが変わったときに応用が利かない。理由とセットで覚えられる構成は、DAWを長く使っていくうえで正しいアプローチだと思う。

想定している読者

本書は、幅広い制作者を読者として想定している。

  • 初心者: 専門用語に頼らない、ステップごとの解説
  • ホームスタジオで制作する人: アイデア出しから最終マスターまで、繰り返し使える制作プロセス
  • ボーカリスト、バンドメンバー、ソングライター: 録音とミックスの実践的な手引き
  • ビートメイカー、エレクトロニック・ミュージックの制作者: MIDI、音源、アレンジのテクニック
  • 経験のあるユーザー: ワークフローのヒントや機能の確認用リファレンス
  • Cubase 15 / 15 Proへのアップグレードユーザー: 操作の把握と重要なツールの活用

対象がかなり広いぶん、128ページの中で一人ひとりに割ける分量には限りがあるはずだ。いちばん恩恵を受けやすいのは、Cubaseをこれから使い始める人や、ほかのDAWから乗り換えて「Cubaseでの1曲の作り方」を一度通して知りたい人だと思う。すでにCubaseで曲を完成させた経験がある人にとっては、知っている内容の確認が中心になりそうだ。

本書の外側を補う — スコアエディターは公式ヘルプで

2台のモニターにCubaseを表示し、手書きの書き込みがある楽譜とMIDIキーボードを前に作業する人
楽譜とCubaseを行き来しながらの作業(クリックで本書のAmazonページへ)
Photo: Marco Raaphorst / Wikimedia Commons (CC BY 2.0)

本書が掲げている学習内容には、スコアエディターをはじめとする楽譜機能や、Pro限定のエクスプレッションマップは含まれていない。録音からマスタリングまでの「1曲を仕上げる流れ」に焦点を絞った本なので、楽譜を作りたい人は、その部分を別の資料で補う必要がある。

いちばん頼りになるのは、Steinbergの公式オンラインヘルプ(steinberg.help)だ。スコアエディターには独立したマニュアルが用意されていて、日本語版もある。読み進める順番としては、次のように進めるのがわかりやすいと思う。

  1. 基本コンセプト: スコアエディターがMIDIとどう結びついているかを理解する
  2. スコアエディターのウィンドウ: ツールバー、音符入力ツールバー、Visibilityパネル、左ゾーンの役割をつかむ
  3. 表示用クオンタイズと解釈: MIDIを変えずに楽譜の見た目だけを整える考え方を身につける
  4. 音符と記号の入力: アーティキュレーション、強弱記号、コードシンボル、歌詞の入力方法を覚える
  5. 書き出し: PDF、MusicXML、Doricoプロジェクトとしての書き出しを試す

本書でMIDIの打ち込みとクオンタイズの考え方を学んでおくと、スコアエディターの「表示用クオンタイズ」がなぜ必要なのかもすんなり理解できる。本書で制作の流れをつかみ、楽譜は公式ヘルプで深掘りする、という組み合わせがいちばん効率がよいと感じた。

ユーザーガイドの活用法 — Cubaseと並べて4週間で1曲

電子ピアノの横にノートパソコンでCubaseを開き、譜面台に楽譜、上にマイクを置いた自宅の録音環境
電子ピアノとノートPCで組んだ、自宅の制作環境
Photo: Tibule / Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)

解説書は、読むだけでは身につかない。いちばん効果が高いのは、Cubaseを開いた状態で本書を横に置き、自分の曲を1曲作りながら、その工程にあたる部分を読んでいく使い方だと思う。ここでは、本書の構成に沿って、4週間で1曲を完成させる進め方を考えていく。

1週目 — セットアップと録音。オーディオインターフェースの設定と、プロジェクトの作り方の部分を読みながら、自分の環境を整える。テンポと拍子を決めた空のプロジェクトを作り、テンプレートとして保存しておくと、2曲目以降の立ち上がりが速くなる。週の後半は、ギターやボーカルを1トラック録ってみて、レベルの決め方を確かめる。

2週目 — MIDIとアレンジ。MIDIの章を読みながら、ドラム、ベース、コードを打ち込んで曲の骨格を作る。クオンタイズは100%でかけるのではなく、強さを調整して人間味を残す方法を試したい。アレンジの部分を参考に、イントロ、Aメロ、サビ、つなぎの構成を決め、全体を1コーラス分まで組み上げる。ここで作ったMIDIは、後でスコアエディターに開いて、楽譜として確認してみるとよい練習になる。

3週目 — 編集と音源。オーディオ編集の部分を読みながら、録ったテイクのタイミングを整え、複数テイクからベストの部分を選んでつなぐ。バーチャル・インストゥルメントの章を参考に、音色を選び直したり重ねたりして、曲の雰囲気を固めていく。

4週目 — ミックスから書き出しまで。ミックス、オートメーション、マスタリングの部分を順に読み、音量のバランス、EQとコンプレッサー、エフェクトを整えて、最後に書き出す。完成した曲を、スマートフォンやイヤホンなど普段の再生環境で聴き比べて、気になる点を直すところまでやりきりたい。

この進め方のよいところは、本書の1章が、そのまま自分の曲の1工程になることだ。わからない操作が出てきたら公式ヘルプで調べ、本書には付箋で印をつけておく。2曲目からは、付箋の箇所だけを見返せば済むようになる。本書が掲げている「どの曲でも応用できるワークフローの構築」は、こうして同じ流れを繰り返すことで身につくのだと思う。

購入前に知っておきたいこと

いくつか、購入前に確認しておきたい点がある。まず、本書は個人出版の本で、大手出版社の解説書のように書店で中身を手に取って確かめるのは難しい。Amazonの商品ページで、試し読みやレビューが用意されているかを確認してから判断するのがよいと思う。在庫や価格、試し読みの有無は、記事中の写真から商品ページを開いて確認できる。

次に、128ページという分量だ。録音からマスタリングまでを1冊で扱うので、各工程の解説は要点中心になると考えておきたい。ミックスやマスタリングを専門的に学びたい人は、その分野に特化した本を別に用意したほうが満足度は高いはずだ。

最後に、Cubaseのバージョンについて。本書はCubase 15と15 Proに対応している。Cubaseはおおむね1年ごとに新しいバージョンが出るが、録音、編集、ミックスといった基本の流れは大きく変わらないので、次のバージョンでも考え方の多くはそのまま使えると思う。一方で、メニューの位置や新機能の扱いは変わることがあるので、そのときは公式ヘルプで確認しながら読み替えたい。

結局、誰に向いているか

本書がいちばん役に立つのは、Cubase 15を手に入れたばかりで、1曲を最後まで完成させる道筋をまず知りたい人だと思う。機能の多さに圧倒されて手が止まっている人にとって、「この順番で進めればいい」という地図があるだけで、ずいぶん気持ちが楽になるはずだ。ほかのDAWから移ってきて、Cubaseでの作業の流れを一度通して確認したい人にも向いている。

反対に、スコアエディターで楽譜を作ることが主な目的の人や、特定の工程を深く学びたい人には、本書だけでは足りない。その場合は、公式ヘルプや分野別の専門書と組み合わせて使うのがよい。

Cubaseは、使い方を覚えるほど制作が速く、楽しくなっていくDAWだ。本書を横に置いて、まずは1曲を最後まで仕上げてみてほしい。その1曲が、次の曲を作るための何よりの土台になると思う。