夜、家族が寝静まったあとの部屋で、配信の準備をしたり、作りかけの曲に仮歌を入れたりする。そういうとき、コンデンサーマイクは少し繊細すぎることがある。冷蔵庫のうなり、隣の部屋のテレビ、窓の外を走るバイクの音まで、律儀に拾ってしまうからだ。

ダイナミックマイクは、その反対側にいる道具だ。振動板にコイルを付け、磁石の中で動かして電気を起こすという素朴な仕組みで、電源は要らない。感度が控えめなぶん、口元から離れた音をあまり拾わず、壁の反射や生活音の多い部屋でも声がすっきり録れる。ライブハウスでも放送局でも長く使われてきたのは、この扱いやすさがあるからだと思う。

ただ、ダイナミックマイクにはひとつ癖がある。出力される電気信号が小さいのだ。マイクによっては、手頃なオーディオインターフェイスのつまみを最大まで回しても音量が足りず、上げきったところでサーッという雑音が目立つ。どのマイクを選ぶかは、音の好みと同じくらい「手持ちの機材でどれだけ持ち上げられるか」で決まる。

この記事では、宅録と配信で定番のダイナミックマイク5本を、手に取りやすい価格から順に並べる。話し声と歌を1本でまかないたい人が、どこで線を引けばよいかを整理していく。

5本を比べる物差し

軸は、ダイナミックマイクを家で使うときに困りやすい点から逆算して、次の5つに整理した。

  • 接続の手軽さ: 一般的なオーディオインターフェイスにつないで、追加の機材なしで十分な音量が取れるか
  • 話し声: 配信やナレーションで、言葉の輪郭がはっきり聞き取れるか
  • 歌: 声量の差が大きい歌でも、張り上げたところとささやくところの両方を自然に録れるか
  • 部屋の音への強さ: 反響や生活音の多い部屋で、口元の声だけをどれだけ拾えるか
  • 耐久性: 長く使い続けられる作りか、修理や部品の入手がしやすいか

数値の目安として、マイクの出力の大きさ(出力感度)にも触れる。dBV/Paという単位で表され、マイナスの数字が大きいほど出力が小さい。たとえば-54.5dBV/Paのマイクと-59dBV/Paのマイクでは、後者のほうが約4.5dB小さく、そのぶんインターフェイス側でゲインを上げる必要がある。

Shure SM58、1966年から変わらない基準の声

スタンドに取り付けたShure SM58
吸音材を貼ったブースに立てたShure SM58Photo: Marcel Grieder from Switzerland / CC BY 2.0

SM58は1966年に登場し、60年たったいまも現行品として作られ続けているボーカルマイクだ。丸い金属のグリルと黒いボディは、マイクと聞いて多くの人が思い浮かべる形そのものだと思う。指向性は単一指向性(カーディオイド)で、周波数特性は50Hz〜15kHz、重さは298g。国内の実売はおよそ1万7千円前後で、5本の中ではいちばん手に取りやすい。

出力感度は-54.5dBV/Paで、ダイナミックマイクとしては標準的な大きさだ。1万円台のオーディオインターフェイスにつないでも、ゲインのつまみを7〜8割ほど回せば歌も話し声も十分な音量になる。追加の機材を考えなくてよいのは、最初の1本として大きな安心感がある。

音は中高域に張りがあり、4kHz付近がほどよく持ち上がっている。歌うと声が前に出てきて、伴奏の中に埋もれにくい。一方で、話し声を落ち着いたトーンで録りたいときは、高域がわずかに硬く感じることがあった。グリルの内側には球状のポップフィルターが入っていて、口を近づけても破裂音が出にくい。

耐久性については、いまさら付け加えることがないほどの評判がある。落としても踏まれても動き続けるというのは誇張ではなく、内部の構造が単純で部品点数が少ないからこそだと思う。最初に買ったSM58を、機材が増えたあとも「とりあえずの1本」として手元に残し続ける人が多いのは、この頑丈さと癖の少なさがあるからだ。

Shure SM58のレーダーチャート

  • 接続の手軽さ 5 / 話し声 3 / 歌 4 / 部屋の音への強さ 4 / 耐久性 5

Shure MV7+、USBで挿せばすぐ配信が始まる

アームに取り付けたShure MV7
アームに吊ったShure MV7(初代)。MV7+は同じ形を受け継いでいるPhoto: Panos Sakalakis / CC BY 2.0

MV7+は、2024年に初代MV7の後継として出たポッドキャスト向けのダイナミックマイクだ。いちばんの特徴は、USB-CとXLRの両方の出力を持っていることにある。USB-Cでパソコンに直接つなげばオーディオインターフェイスは要らず、あとから機材を増やしたくなったらXLRでミキサーやインターフェイスにつなげる。国内の実売はおよそ3万7千円からで、XLR出力だけのMV7Xなら2万円台後半に収まる。

USB接続時は24bit/48kHzまでで録音でき、ゲインは0〜+36dBの範囲でマイク側から調整できる。専用アプリのMOTIV Mixを使うと、声の大きさに合わせてゲインを自動で整えるオートレベルモード、背景の雑音を抑えるリアルタイムデノイザー、破裂音を和らげるデジタルポップストッパーなどがそろう。マイクの上面はLEDのタッチパネルになっていて、触れるだけでミュートできる。

話し声の録りやすさは、5本の中でいちばんだと思う。周波数特性は50Hz〜16kHzで、低域の膨らみが抑えられ、言葉の子音がくっきり残る。オートレベルモードとデノイザーを入れておくと、ゲインの調整や部屋の雑音をほとんど気にせずに配信を始められる。届いたその日に机の上で配信が始まる、という手軽さは、ほかの4本にはない魅力だ。

一方で、歌に使うと少し物足りなさが残った。自動の処理が声量の大きな変化をならしてしまい、サビで張り上げたときの勢いが平らになりやすい。歌を録るときはオートレベルを切り、手動でゲインを決めたほうが自然だと感じた。重さは573.5gで、しっかりしたマイクアームが必要になる。電子回路を内蔵しているぶん、SM58ほどの「壊れなさ」は期待しないほうがよいと思う。

Shure MV7+のレーダーチャート

  • 接続の手軽さ 5 / 話し声 5 / 歌 3 / 部屋の音への強さ 4 / 耐久性 3

Sennheiser MD 421 Kompakt、太鼓のマイクを歌に向ける

スタンドに取り付けたSennheiser MD 421
従来型の長いボディのSennheiser MD 421。Kompaktはこれを約半分の長さに縮めたPhoto: Kreuzschnabel / CC BY-SA 3.0

MD 421は1960年に生まれた、ドイツのSennheiserの代表的なダイナミックマイクだ。スタジオではタムやギターアンプ、管楽器に向けるマイクとして知られてきたが、声に使っても中低域に厚みのある音で録れる。2024年に出たMD 421 Kompaktは、従来の長いボディを122mmまで縮め、重さを159gに抑えた現行の小型版で、国内の実売はおよそ4万7千円だ。

周波数特性は30Hz〜17kHzと5本の中でいちばん広く、出力感度は2mV/Pa(約-54dBV/Pa)。SM58とほぼ同じくらいの出力があるので、一般的なオーディオインターフェイスでも無理なく音量が取れる。最大音圧レベルは130dBで、大きな声で歌っても音が割れる心配はほとんどない。

声を録ると、低い帯域まで素直に伸びていて、男性の低い声でも胸の響きがきちんと残る。SM58より一段落ち着いた、太く温かい印象の音だ。歌では声の芯が太く、張り上げたところも耳に痛くならない。小型になったことで、机の上に置いたスタンドでも視界をふさがず、画面を見ながら歌ったり話したりしやすくなった。

気をつけたいのは、従来のMD 421-IIにあった5段階の低域カットのスイッチが、Kompaktでは省かれていることだ。口を近づけすぎると低域が膨らむ近接効果がそのまま出るので、録音後にDAWのイコライザーで低域を整える前提で使うことになる。単一指向性ではあるものの、ほかのマイクより横からの音をやや拾いやすく、部屋の響きが多い環境では口元との距離を詰めたほうがよい。金属の筐体は丈夫で、長く使い続けられる作りだと思う。

Sennheiser MD 421 Kompaktのレーダーチャート

  • 接続の手軽さ 4 / 話し声 4 / 歌 4 / 部屋の音への強さ 3 / 耐久性 5

Shure SM7B、出力の小ささと引き換えに得る落ち着いた声

吸音材の前に立てたShure SM7シリーズのマイク
吸音材の前に立てたShure SM7シリーズ。SM7Bも同じ筐体と大きなウインドスクリーンを持つPhoto: The Midnite Wolf / CC0

SM7Bは、1973年に登場したSM7を改良して2001年に出た、放送とポッドキャストの定番マイクだ。大きなウインドスクリーンをかぶった横向きの筒形で、多くの人気ポッドキャストの映像で見かける。周波数特性は50Hz〜20kHz、重さは765g。国内の実売はおよそ5万〜7万円で、時期によって値動きが大きい。

このマイクを選ぶときにいちばん大事なのは、出力感度が-59dBV/Paと小さいことだ。SM58より約4.5dB小さく、話し声で十分な音量を得るには、オーディオインターフェイス側でおよそ60dBのゲインが必要になる。手頃なインターフェイスのプリアンプは最大で55〜60dB前後のものが多く、つまみを上げきると雑音が目立ってしまう。そのため、Cloudlifter CL-1のように約25dBを足す小型のブースターを間に挟む使い方が広く知られている。

その手間をかけるだけの音ではある。声の低域から中域が自然に太く、高域は耳に刺さらない。ナレーションでは、ラジオで聴くような落ち着いた声になる。背面には低域を抑えるスイッチと、2〜4kHzをわずかに持ち上げるプレゼンス強調のスイッチがあり、声質や部屋に合わせて音色を変えられる。内部にはショックマウントが組み込まれていて、机をたたいた振動も伝わりにくい。

部屋の音への強さは5本の中でいちばんだと思う。口元から少し離れた音はぐっと小さくなり、エアコンや外の物音が録音に入りにくい。歌でも声量の大きな変化を素直に受け止めてくれるので、話し声と歌の両方を1本でまかなう、というこの記事の目的にいちばん近い1本だ。ゲインの問題を避けたいなら、約18dBまたは28dBのプリアンプを内蔵したSM7dB(国内実売はおよそ7万7千円から、48Vファントム電源が必要)という選択肢もある。

Shure SM7Bのレーダーチャート

  • 接続の手軽さ 2 / 話し声 5 / 歌 5 / 部屋の音への強さ 5 / 耐久性 5

Electro-Voice RE20、近づいても声が膨らまない放送局の筒

ナレーションブースに設置したElectro-Voice RE20
ナレーションブースに据えたElectro-Voice RE20Photo: Binksternet / CC BY-SA 4.0

RE20は、アメリカのElectro-Voiceが1968年から作り続けている放送用のダイナミックマイクだ。淡いベージュの長い筒にスリットが並ぶ姿は、海外のラジオ局の写真でよく目にする。周波数特性は45Hz〜18kHz、出力感度は1.5mV/Pa(約-56.5dBV/Pa)、重さは737g。国内の実売はおよそ8万円からで、5本の中ではいちばん高い。

このマイクの核になっているのは、Variable-Dと呼ばれる構造だ。ダイナミックマイクは口を近づけるほど低域が膨らむ近接効果を持つが、RE20は振動板の後ろにある音の通り道を工夫して、それを小さく抑えている。口元から数cmでも腕を伸ばした距離でも、声の太さがあまり変わらない。話しながら体が前後に動いても音色が揺れないので、長い収録でも聞き疲れしにくい声になる。

本体には低域をなだらかに下げるスイッチがあり、400Hzより下を少しずつ抑えられる。電源のノイズを打ち消すハムバッキングコイルと、内部のショックマウントも組み込まれていて、機材の多い部屋で使っても「ジー」という雑音が入りにくい。出力はSM7Bより約2.5dB大きく、多くのインターフェイスでブースターなしでも話し声の音量は取れる。ただ、小さな声の歌やささやき声では、ゲインに余裕のあるプリアンプがほしくなる。

話し声の聞きやすさはMV7+と並んでいちばん上だと思う。歌にも使えるが、近接効果を抑えている分、口を近づけて低域の迫力を出すといった歌い方の工夫は効きにくい。素直で落ち着いた音なので、ナレーションやポッドキャストを主に、ときどき仮歌を入れる人に合う。金属の頑丈な筐体で、半世紀以上も同じ設計で作られていることが、そのまま信頼につながっている。音を変えずに黒い外観にしたRE20-BLACKもある。

Electro-Voice RE20のレーダーチャート

  • 接続の手軽さ 3 / 話し声 5 / 歌 4 / 部屋の音への強さ 4 / 耐久性 5

まとめ

マイク接続の手軽さ話し声歌部屋の音への強さ耐久性
Shure SM5853445
Shure MV7+55343
Sennheiser MD 421 Kompakt44435
Shure SM7B25555
Electro-Voice RE2035445

出力感度と必要な機材を並べると、選び方の線が見えやすくなる。

マイク出力感度国内の実売(目安)追加で考えたい機材
Shure SM58-54.5dBV/Pa約1万7千円なし
Shure MV7+-55dBV/Pa(XLR時)約3万7千円〜USBならインターフェイス不要
Sennheiser MD 421 Kompakt約-54dBV/Pa約4万7千円低域を整えるイコライザー
Shure SM7B-59dBV/Pa約5万〜7万円ゲインブースター
Electro-Voice RE20約-56.5dBV/Pa約8万円〜歌ならゲインに余裕のあるプリアンプ

それで、結局どれを選べばいいのか

話し声と歌を1本でまかないたい、というこの記事の目的にいちばん近いのはSM7Bだと思う。どちらを録っても声が自然に太く、部屋の雑音にも強い。ただし、出力が小さいことは必ず計算に入れておきたい。手持ちのオーディオインターフェイスのプリアンプが60dBに届かないなら、ゲインブースターの費用も合わせて予算を組むか、プリアンプ内蔵のSM7dBを選ぶとよい。

予算を抑えたい、あるいは最初の1本を探しているなら、SM58で十分に始められる。歌の録音では5本の中でも引けを取らず、追加の機材も要らない。話し声が少し硬いと感じたら、口元との距離を指2〜3本分ほど空け、軽くイコライザーで高域を整えるだけで印象が変わる。

配信やポッドキャストが中心で、歌はほとんど録らないなら、MV7+がいちばん早く形になる。USBケーブル1本でつなぎ、アプリでオートレベルとデノイザーを入れれば、その日の夜には落ち着いた声で配信を始められる。話し声を主役にしつつ長い収録を重ねたい人には、近づいても声が膨らまないRE20が合う。低い声に厚みがほしい人や、ギターアンプや打楽器の録音にも1本で回したい人には、小さくなったMD 421 Kompaktが楽しい選択肢になる。

どのマイクを選んでも、ダイナミックマイクは口元に近づけて使うほど本来の良さが出る。マイクアームで口から指3〜4本分の位置に据えるだけで、部屋の響きはぐっと減り、自分の声がまっすぐ録音に残るようになる。夜の静かな部屋で、ヘッドホン越しに自分の声がはっきり返ってくる瞬間は、機材選びの手間をすべて忘れさせてくれるはずだ。

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