秋になってツイードやフランネルの上着を出すと、柄物どうしを合わせたくなる場面が増える。グレンチェックのスーツに千鳥格子のネクタイを締めてみる、千鳥格子のジャケットに縞のシャツを入れてみる。ところが、鏡の前に立つと妙にうるさく見えたり、逆に柄がつぶれて何を着ているのか分からなくなったりする。無地のネクタイに替えると落ち着くので、結局いつも同じ組み合わせに戻ってしまう。
柄合わせには「柄は2つまで」「同じ種類の柄は重ねない」といった言い回しがたくさんあるが、覚えるほど迷いが増える気がしている。そこでこの記事では、判断の軸を2つだけに絞る。ひとつは柄の大きさ、もうひとつは色数だ。グレンチェックと千鳥格子という、秋冬にいちばん出番の多い2つの柄を例に、まず織りの仕組みと成り立ちを見て、そのうえで2つの軸をどう使えば重ねられるかどうかを見分けられるかを順に整理していく。
千鳥格子は、4本ずつの糸の入れ替わりでできている

千鳥格子は、英語ではハウンドトゥース(猟犬の歯)、フランスではピエ・ド・プール(雌鶏の足)と呼ばれる。尖った角が連なる形を、日本では千鳥が群れて飛ぶ姿に、英語圏では犬の歯に見立てたわけだ。呼び名は違っても、指しているのは同じ柄になる。
この柄は、模様を描いたりプリントしたりしてできるものではない。経糸と緯糸の両方に、濃い色の糸を4本、薄い色の糸を4本と交互に並べ、2本ずつ上下させる綾織りで織ると、自然にあのギザギザの形が浮かび上がる。織り方そのものが柄になっているので、糸の太さと本数を変えれば、柄の大きさもそのまま変わる。細い糸で織れば数ミリの小さな柄になり、太い糸で織れば写真のコートのような大柄になる。
起源は19世紀のスコットランド南部とされ、羊飼いや農家が着る丈夫な毛織物の柄として広まった。素朴な仕事着の柄が都会の装いに入ってきたのは20世紀に入ってからで、戦後にはクリスチャン・ディオールが好んで使い、香水「ミス・ディオール」の箱にもこの柄をあしらった。写真のボニー・カシンのコートのように、女性服では大柄の千鳥格子が主役になることも多い。
小さな千鳥格子は、英語ではパピートゥース(子犬の歯)と呼び分けることもある。この大きさの違いが、あとで見る柄合わせの判断にそのまま関わってくる。柄の形は同じでも、大柄と小柄では、着たときに目に入る印象がまったく違うからだ。
グレンチェックをよく見ると、千鳥格子が並んでいる

グレンチェックは、遠目には細い線で区切られた大きな格子に見える。ところが生地に顔を近づけると、写真のように区画ごとに柄が違っている。濃い糸と薄い糸を4本ずつ交互に並べた区画には千鳥格子が現れ、2本ずつ交互に並べた区画には細かな縞や小さな格子が現れる。この2種類の区画が縦横に交互に並ぶことで、大きな格子の輪郭が浮かび上がる仕組みだ。
つまりグレンチェックは、千鳥格子を部品として内側に抱えている柄だといえる。ここが柄合わせを考えるうえでいちばん大事な点だと思う。グレンチェックのスーツに千鳥格子のネクタイを合わせると、上着の中の小さな千鳥格子とネクタイの千鳥格子が、同じ形どうしで並ぶことになる。大きさが近いと、どちらがどちらの柄なのか目が区別できず、首元から胸のあたりがざわついて見える。逆に、大きさがはっきり違えば、同じ形であることがかえってまとまりを生む。
この「同じ形でも大きさが違えば共存できる」という考え方が、記事の後半で使う1つ目の軸になる。グレンチェックと千鳥格子は、柄合わせの難しさと面白さを両方とも一番よく見せてくれる組み合わせだと感じている。
色についても見ておきたい。昔ながらのグレンチェックは、黒やこげ茶と白の2色で織られる。ここに赤茶や青の細い線を格子状に重ねたものがあり、この重ねた線をオーバーチェックと呼ぶ。2色のグレンチェックと、オーバーチェックで3色になったグレンチェックとでは、ほかの柄と合わせるときの難しさがかなり違う。これが2つ目の軸、色数の話につながる。
猟場の番人の服から、皇太子の名を持つ柄へ

グレンチェックの名前は、スコットランド北部インヴァネスシャーの谷、グレン・アーカートに由来する。1840年代、この地の領地を持っていたシーフィールド伯爵夫人が、領地で働く猟場の番人たちの服をこの柄の毛織物で仕立てさせたのが始まりとされる。もともとは、特定の土地で働く人たちの所属を示すための、いわば制服の柄だった。正式には「グレン・アーカートチェック」と呼ばれ、写真のスーツもその名前で記録されている。
この柄が別名の「プリンス・オブ・ウェールズチェック」を得たのは、英国王室との縁による。皇太子時代のエドワード7世が好んで着たことで知られるようになり、その孫で、のちにウィンザー公となるエドワード8世も皇太子時代にこの柄を愛用した。とくにウィンザー公は、赤茶などの色を重ねた大柄のグレンチェックを、ゴルフや旅先の装いにまで持ち込み、柄物の着こなしの手本として世界中に広めた。いまでは、オーバーチェックの入ったものをプリンス・オブ・ウェールズチェック、入っていない2色のものをグレンチェックと呼び分けることが多いが、店によっては同じ意味で使っていることもある。
写真の1959年のスーツは、同じグレン・アーカートチェックでも、格子がとても細かく、色も灰色と茶色の近い色どうしで織られている。トルソーから少し離れて見ると、柄というより灰茶色の無地に近い。グレンチェックと聞くと大柄の格子を思い浮かべがちだが、実際には大柄から無地に見えるほどの小柄まで幅がある。この幅の広さを知っておくと、ほかの柄と重ねるときの選択肢がぐっと増える。
1つ目の軸、柄の大きさは「離れて見たときに無地に溶けるか」で測る

柄の大きさを考えるときは、ひとつの柄がくり返す幅、つまり同じ形がもう一度現れるまでの長さを見る。千鳥格子なら尖った形ひとつ分、グレンチェックなら大きな格子ひと升分だ。この幅によって、柄はおおまかに3つの段階に分けられる。
ひとつ目は、くり返しの幅が5ミリに満たない小さな柄。腕を伸ばしたくらいの距離で見ると、もう柄としては見えず、織り目の質感や霜降りのような色むらに溶けてしまう。写真の男性の上着がちょうどこれで、近くで見れば千鳥格子だと分かるが、全体としてはざらりとした灰色の生地に見える。小さなパピートゥースや、前の節の1959年のスーツのような細かなグレンチェックもここに入る。
ふたつ目は、くり返しの幅が1〜2センチほどの中くらいの柄。普通の会話の距離で、はっきり柄だと分かる。ネクタイの小紋や細い縞のシャツ、一般的な千鳥格子のジャケットの多くがここにあたる。
みっつ目は、2センチを超える大きな柄。部屋の向こう側からでも柄として目に入る。大柄のグレンチェックのスーツや、ボニー・カシンのコートのような千鳥格子がこれだ。
柄を2つ重ねるときは、この段階が1つ以上離れていることを目安にするとよいと思う。小さな柄と中くらいの柄、中くらいの柄と大きな柄、という組み合わせなら、目がそれぞれの柄を別のものとして受け取るので、ぶつからない。同じ段階どうしを重ねると、2つの柄が同じ距離で同時に主張して、うるさく見える。
もうひとつ覚えておきたいのは、小さな柄は「半分くらい無地」として数えてよい、ということだ。写真の男性のように、細かな千鳥格子の上着は遠目には無地の生地として働くので、その上に柄のネクタイを締めても、実質的には柄はひとつしか目立たない。柄合わせに慣れていないうちは、主役の柄をひとつ決め、もうひとつは無地に溶けるくらい小さな柄にする。これがいちばん失敗しにくい重ね方だと感じている。
グレンチェックと千鳥格子の組み合わせに当てはめると、こうなる。大柄のグレンチェックのスーツには、上着の中の千鳥格子の区画よりもさらに小さな、無地に近い千鳥格子のネクタイなら合う。上着の中の千鳥格子と同じくらいの大きさのネクタイは避ける。反対に、細かなグレンチェックのスーツの上に大柄の千鳥格子のコートを羽織るのは、大きさの段階が2つ離れているので、思いのほかすんなりまとまる。
2つ目の軸、色数は「共通の1色を残して、全部で3色まで」

大きさの段階がきちんと離れていても、色が多すぎると柄合わせは崩れる。柄の数より、柄の中に使われている色の数のほうが、見た目のまとまりに効いてくるからだ。
数え方は簡単で、身につけている柄物すべてに含まれる色を、重複を除いて数える。黒と白の千鳥格子のネクタイと、黒と灰色のグレンチェックのスーツなら、黒・白・灰色の3色になる。ここに赤茶のオーバーチェックが入ったプリンス・オブ・ウェールズチェックのスーツを持ってくると4色に増え、さらにネクタイが紺なら5色になる。
目安は2つある。ひとつは、2つの柄のあいだで少なくとも1色を共通させること。共通の色があると、目が2つの柄を「同じ組の仲間」として結びつけるので、偶然重なったようには見えない。もうひとつは、柄物に含まれる色を全部で3色程度に抑えることだ。白いシャツのような無地は数に入れなくてよい。
写真のスーツは、この2つをよく守っている。上着は大柄のグレンチェック、シャツは縦の縞、ネクタイは中くらいの四角い格子と、柄は3つも重なっている。それでもうるさく見えないのは、3つの柄がすべて黒と灰色と白の濃淡だけで織られているからだ。大きさの段階も、上着が大、ネクタイが中、シャツの縞が細く小と、きれいに分かれている。そのうえで胸元のチーフだけを白の無地にしていて、目が休む場所がちゃんとある。
色数が増えるほど、大きさの差はより大きく取る必要がある。2色どうしの柄なら、大きさの段階が1つ離れていれば十分重ねられる。オーバーチェックの入った3色のグレンチェックに、別の2色の柄を足すなら、ネクタイは無地に溶けるほど小さな柄にするか、いっそ無地にしたほうがよい。プリンス・オブ・ウェールズチェックのスーツが、無地のネクタイと合わせたときにいちばん映えるのは、上着の時点ですでに色数の枠をほとんど使い切っているからだと思う。
2つの軸で、重ねられるかどうかを判定する
ここまでの2つの軸を、ひとつの表にまとめるとこうなる。縦が大きさの段階の差、横が柄物全体の色数だ。
| 大きさの段階の差 | 色数2色(共通色あり) | 色数3色(共通色あり) | 色数4色以上、または共通色なし |
|---|---|---|---|
| 2段階離れている(小と大) | 重ねられる | 重ねられる | 小さいほうを無地に近づければ可 |
| 1段階離れている(小と中、中と大) | 重ねられる | 重ねられる | 避けたほうがよい |
| 同じ段階 | 柄の種類が違えば可 | 避けたほうがよい | 避ける |
表の左上ほど安全で、右下ほど崩れやすい。迷ったら、まず大きさの差を広げられないかを考え、それができなければ色数を減らす。この順で考えると、手持ちの服のなかで解決できることが多い。
同じ段階どうしでも、柄の種類が違えば重ねられる場合がある。たとえば中くらいの千鳥格子のジャケットに、中くらいの幅の縞のシャツを合わせる組み合わせだ。格子と縞は形がまったく違うので、大きさが近くても目が取り違えにくい。逆に、千鳥格子どうし、格子どうしのように同じ種類の柄を同じ大きさで重ねるのは、色数が少なくても避けたほうがよいと思う。グレンチェックと千鳥格子は、前に見たとおり中身が同じ部品でできているので、ここでは「同じ種類の柄」として扱う。
重ねるのは3つまで、どこかに無地をひとつ残す
2つの軸で判定できるといっても、柄の数そのものにも上限はある。上着、シャツ、ネクタイ、ポケットチーフ、ズボンと、柄を置ける場所はたくさんあるが、柄物は3つまでにして、少なくともひとつは無地を残したい。無地が一切ないと、どの柄を見ればよいのか目が迷ってしまう。
3つの柄を重ねるときは、大・中・小の3段階をひとつずつ使うのが基本になる。大きな柄は面積の広い上着やコートに、中くらいの柄はシャツやネクタイに、小さな柄は残りの1か所に置く。ネクタイは面積が小さいので、思い切った柄を置いても全体を乱しにくい。上着に大柄を持ってきたときほど、ネクタイは小さく、色数の少ない柄にしておくとまとまりやすい。
秋冬の組み合わせを、2つの軸に沿っていくつか並べておく。
| 主役の柄 | 合わせる柄 | 大きさの差 | 色 | 無地に残す場所 |
|---|---|---|---|---|
| 大柄のグレンチェックのスーツ(黒と白) | ごく小さな千鳥格子のネクタイ(黒と白) | 2段階 | 2色、すべて共通 | 白いシャツ |
| 小柄の千鳥格子のジャケット(茶と生成り) | 中くらいの縞のシャツ(茶と白) | 1段階、種類も違う | 3色、茶が共通 | 無地の茶のニットタイ |
| 細かなグレンチェックのスーツ(灰と茶) | 大柄の千鳥格子のコート(黒と灰) | 2段階 | 3色、灰が共通 | 無地のネクタイ |
| オーバーチェック入りのグレンチェック(灰・白・赤茶) | なし | ― | 3色 | シャツとネクタイの両方 |
いちばん上の組み合わせは、冒頭で触れた「グレンチェックのスーツに千鳥格子のネクタイ」そのものだ。ネクタイの千鳥格子を、上着の中の千鳥格子の区画より明らかに小さいものにして、色をスーツと揃える。これだけで、同じ形の柄が親子のように響き合う組み合わせになる。最後の段のプリンス・オブ・ウェールズチェックだけは、柄を足さずに無地で受けるのがいちばんきれいだと思う。
柄を重ねて失敗するときは、たいてい大きさが近すぎるか、色が多すぎるかのどちらかだ。鏡の前で迷ったら、一歩下がって、どちらかの柄が無地に溶けているかを見る。溶けていなければ大きさを、溶けていても落ち着かなければ色数を疑う。グレンチェックと千鳥格子という、同じ部品でできた2つの柄を手がかりにすると、ほかの柄の組み合わせもこの2つの物差しで見分けられるようになるはずだ。