10月に入ると、街のどこかで同じ曲が流れはじめる。雑貨店の店先、ショッピングモールの通路、仮装の準備をする誰かのスマートフォン。クリスマスに決まった歌があるように、ハロウィンにも毎年かならず戻ってくる曲がいくつかある。その代表が、1962年の「Monster Mash」と、1983年の「Thriller」だと思う。

不思議なのは、これらの曲の多くが、はじめからハロウィンのために作られたわけではないことだ。片方は物まね上手な売れない役者が録った冗談のような一曲で、もう片方はアルバムの中の一曲が、14分の短編映画をまとって別の生き物になったものだった。季節の行事の音楽は、誰かが決めて配るものではなく、偶然と繰り返しのなかで少しずつ形になっていく。この記事では、二つの曲が生まれた年からおよそ21年の間に、ハロウィンの定番曲という棚がどうやってできあがったのかを、夜の読み物としてたどってみたい。


古いハロウィンには、決まった歌がなかった

1935年のロサンゼルスで、仮装した子どもたちがかぼちゃのランタンを持って庭に並んでいる白黒写真
1935年、ロサンゼルスのハロウィンパーティーに集まった子どもたち。手前の女の子がかぼちゃの顔の飾りを掲げているPhoto: Los Angeles Times / CC BY 4.0

20世紀の前半、アメリカのハロウィンはすでに子どもたちの行事として根づいていた。紙の帽子をかぶり、手作りの衣装を着て、庭先でりんごを水に浮かべて口でくわえる遊びをする。古い写真を見ると、飾りつけも仮装もいまとそれほど変わらない。ただ、その場で流れる音楽については、これといった決まりがなかったようだ。ピアノの前でみんなが知っている歌をうたうか、ラジオから流れる流行歌をそのまま聴くくらいだったのだと思う。

クリスマスには教会の賛美歌という長い蓄えがあり、そこに映画やラジオから生まれた新しい歌が少しずつ加わっていった。ハロウィンにはそうした蓄えがなかった。おばけや魔女を歌った曲はあっても、毎年10月になるとみんなが同じ曲を思い出す、という状態にはなっていなかった。

1950年代に入ると、その空白を埋めるような曲がぽつぽつと現れる。1956年には、スクリーミン・ジェイ・ホーキンスが「I Put a Spell on You」を録音した。もともとは落ち着いた恋の歌として作られたものが、録音の場で叫びとうめき声の混じった怪しい一曲に変わり、のちに本人は棺桶から登場する演出で知られるようになる。1958年には、シェブ・ウーリーの「The Purple People Eater」が全米1位になった。紫色の人食い怪物が空から降りてくる、という子ども向けの冗談のような歌だ。怖いものを笑いに変える歌が売れる、という下地は、この時期にできあがっていたのだと感じる。

ボリス・カーロフの声で歌われた「Monster Mash」

スーツにストライプのネクタイを締めた晩年のボリス・カーロフの肖像写真
1961年のボリス・カーロフ。1931年の映画でフランケンシュタインの怪物を演じた俳優で、その声色が「Monster Mash」の歌い方のもとになったPhoto: NBC Television / Public domain

「Monster Mash」を歌ったボビー・ピケットは、俳優を目指してロサンゼルスに出てきた若者だった。昼は役者の仕事を探し、夜はバンドで歌っていた。彼には得意な芸があった。1931年の映画『フランケンシュタイン』で怪物を演じたボリス・カーロフの、低くゆっくりとした話し方をそっくりにまねることだ。バンドの仲間はその物まねをおもしろがり、どうせならその声で一曲作ってしまおうという話になった。

曲を一緒に書いたのはレニー・カピッツィで、制作はゲイリー・S・パクストンが引き受けた。1962年5月に録音された曲は、ある科学者が自分の実験室で作った怪物を目覚めさせると、怪物が新しいダンスを踊りだし、ドラキュラや狼男までが集まってきて夜通しの大騒ぎになる、という筋書きだ。歌詞のなかにはドラキュラ役の声も出てきて、こちらはベラ・ルゴシ風の訛りで演じられている。往年の怪奇映画の名優たちを、そのまま陽気なパーティーに呼んでしまったような曲だと思う。

録音の工夫もおもしろい。棺のふたがきしむ音は、板に打ちつけた錆びた釘を引き抜いて出した。大鍋がぐつぐつ煮える音は、水の入ったコップにストローで息を吹き込んで作った。鎖を床に落とす音も、本物の鎖を使っている。予算の少ない小さなスタジオで、手の届く道具を使ってそれらしい効果音を作っていった様子が目に浮かぶ。

大手のレコード会社には相手にされなかったため、曲はパクストンのレーベルから8月に発売された。そこから口コミとラジオで少しずつ広がり、10月20日、全米シングルチャートの1位にたどり着く。そのまま2週にわたって首位にとどまり、ちょうどハロウィンの週をまたいだ。狙って作ったというより、夏の終わりに出た冗談のような曲が、勢いを保ったまま一番いい時期に頂点を迎えた、というのが近いと感じる。この偶然がなければ、この曲が「ハロウィンの歌」として記憶されることはなかったかもしれない。

一度きりの流行で終わらなかった理由

「Monster Mash」のおもしろさは、1962年の一回きりで終わらなかったところにある。1970年に再びチャートに入り、1973年にはふたたび全米10位まで上がった。イギリスでは1962年の発売当時、BBCが「不気味すぎる」として放送を見送ったが、1973年の再発売では3位まで上がっている。十年たって、同じ曲がもう一度ヒットしたことになる。

ここで大事なのは、聴く側が入れ替わっていたことだと思う。1962年にこの曲で笑った子どもたちは、1970年代には大人になり、今度は自分の子どもに聴かせる側に回る。毎年10月になるとラジオの番組がこの曲をかけ、パーティーの準備をする家庭がレコードを引っぱり出す。ハロウィンという年に一度の行事と、短くて覚えやすい冗談の歌は、相性がよかった。一年のうち11か月は忘れられていても、10月になると必ず思い出される。その繰り返しが、流行歌を季節の歌に変えていった。

物まねのもとになったボリス・カーロフ本人も、1965年にテレビの音楽番組でこの曲を歌っている。自分の声をまねた若者の歌を、本物の怪物役者が楽しそうに歌い返すというのは、なんとも洒落た話だと感じる。ピケット自身は、その後もこの一曲とともに生き、続編や替え歌を作りながら、2007年に亡くなるまで「Monster Mash」の人であり続けた。一曲だけで名前を残した歌手に対して、少し気の毒に思う気持ちもあるけれど、毎年必ず誰かがその声を思い出すというのは、歌い手としてはかなり幸せなことなのかもしれない。

「Thriller」は、曲よりも先に映像で記憶された

スパンコールのジャケットに白い手袋をはめたマイケル・ジャクソンが手を振っている
1984年5月、ホワイトハウスを訪れたマイケル・ジャクソン。「Thriller」の短編映画が公開されてから半年ほど後の姿Photo: White House Photo Office / Public domain

「Monster Mash」から20年後、ハロウィンの棚にもう一曲が加わる。マイケル・ジャクソンのアルバム『Thriller』は、1982年11月末に発売された。表題曲を書いたのはイギリス出身の作曲家ロッド・テンパートンで、最初は別の題名で書かれていたものが、制作の途中で怪奇映画の雰囲気をまとった曲に書き直されたという。曲の終わりには、ホラー映画の名優ヴィンセント・プライスが、低い声で墓場から死者がよみがえる様子を語る長い語りが入っている。

アルバムからは次々とシングルが切られ、どれも大きなヒットになったが、表題曲がシングルになったのは発売から1年近くたってからだった。全米チャートの最高位は4位で、数字だけを見れば、このアルバムのなかで飛び抜けたヒットというわけではない。それでも、いまハロウィンに流れるのは「Billie Jean」でも「Beat It」でもなく、「Thriller」のほうだ。その差をつくったのは、曲そのものではなく映像だったと思う。

1983年12月2日、MTVで「Thriller」の映像が初めて流れた。監督は、狼男の映画で特殊メイクの評判を取ったジョン・ランディス。長さはおよそ14分で、ふつうの音楽ビデオの何倍もあり、製作費も50万ドルほどかかったとされる。デートの途中で恋人が怪物に変わるという導入から、墓場から起き上がった死者たちが一斉に踊りだす場面まで、ひとつの短い映画として作られている。振り付けを担当したのはマイケル・ピーターズで、ゾンビたちが肩をすくめるように腕を振る群舞は、一度見ると忘れられない。

この映像は、曲を「聴くもの」から「まねするもの」に変えた。ハロウィンのパーティーで誰かがあの振り付けを踊りはじめると、まわりも見よう見まねで加わる。赤い革のジャケットはそのまま仮装の定番になった。2009年には、アメリカ議会図書館の国立フィルム登録簿に、音楽ビデオとしては初めて選ばれている。曲を知らなくても踊りは知っている、という人がいるくらい、映像の側が先に記憶に残っていったのだと感じる。

夏の大ヒットが、秋の定番曲になる

暗闇のなかで光るかぼちゃのランタン。木の枝にとまる猫の影絵が彫られている
木の枝にとまる猫の影絵を彫ったかぼちゃのランタン。南半球のオーストラリアでは、ハロウィンは春の行事になるPhoto: Ashton 29 / CC BY-SA 4.0

「Thriller」の翌年、1984年には、ハロウィンの棚に並ぶ曲がさらに二つ生まれた。一つはロックウェルの「Somebody’s Watching Me」で、誰かにずっと見張られているような不安を歌った曲だ。サビの高い声はマイケル・ジャクソンが歌っていて、全米2位まで上がった。もう一つは、映画『ゴーストバスターズ』の主題歌として、レイ・パーカー・ジュニアが歌った「Ghostbusters」。こちらは6月に発売され、8月に全米1位になっている。つまり、いまハロウィンの定番として扱われているこの曲は、もともと夏休みの大ヒット曲だった。

この事実は、季節の歌がどう決まるのかをよく表していると思う。曲が出た時期や作り手の意図よりも、歌詞や映像に出てくるおばけや怪物のほうが、あとから季節を引き寄せる。夏の映画館で笑った人たちが、秋になって仮装をするときに、あのおばけ退治の歌を思い出す。それが何年も続くうちに、曲は自然とハロウィンの側に移っていった。

同じことは、1975年の映画『ロッキー・ホラー・ショー』の「Time Warp」にも言える。観客が歌詞のとおりに左へ跳び、右へ一歩踏み出して踊るこの曲は、もともと深夜上映の映画館で育った曲だった。1993年の『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』でダニー・エルフマンが書いた「This Is Halloween」になると、ようやく最初からハロウィンを題材にした曲が定番の棚に加わる。ただ、それも映画の冒頭でハロウィンタウンを紹介する曲として生まれたもので、行事のために書かれた歌というより、物語の一部だった。

毎年10月に戻ってくる曲の、いまの居場所

いまの音楽の聴き方は、レコードやラジオの時代とはずいぶん違う。それでも、10月に入ると「Monster Mash」や「Thriller」の再生回数がはっきりと伸びる、という流れは変わっていない。配信サービスにはハロウィン向けのプレイリストが並び、そこには60年以上前の冗談の歌と、40年以上前の短編映画の主題歌が、いまも当然のように入っている。ハロウィン向けの集計を出しているチャートでも、この二曲は毎年のように上位に顔を出す。

季節の歌には、毎年聴いても飽きられないという、ほかの曲にはない強みがある。11か月のあいだ休んでいるからこそ、10月になって流れてきたときに「今年もこの時期が来た」と感じさせる。クリスマスの定番曲と同じで、新しさではなく、毎年同じであることが価値になっている。新しいハロウィンの曲も毎年のように出ているけれど、この棚の入れ替わりはとてもゆっくりだ。誰かが子どもの頃に聴いた曲を、大人になって自分の子どもと聴く。その一巡に何十年もかかるからだと思う。

日本でハロウィンの仮装が広く楽しまれるようになったのは、ここ20年ほどのことだ。それでも、渋谷の人混みやテーマパークのパレードで流れる曲をたどっていくと、やはり「Thriller」の群舞や「Ghostbusters」の掛け声に行き着く。アメリカで何十年もかけてできた棚が、そのまま海を渡ってきたことになる。

まとめ

曲年歌い手定番になったきっかけ
I Put a Spell on You1956スクリーミン・ジェイ・ホーキンス叫び声を混ぜた歌い方と、棺桶から登場する舞台の演出
The Purple People Eater1958シェブ・ウーリー怪物を笑いに変えた子ども向けの歌で全米1位
Monster Mash1962ボビー・ピケットボリス・カーロフの物まね。10月20日に全米1位、1970年と1973年にも再びヒット
Time Warp1975映画『ロッキー・ホラー・ショー』深夜上映で観客が一緒に踊る曲として広まった
Thriller1983マイケル・ジャクソン12月2日にMTVで流れた約14分の短編映画と、ゾンビの群舞
Ghostbusters1984レイ・パーカー・ジュニア8月に全米1位の夏のヒット。おばけ退治の題材で秋の曲になった
This Is Halloween1993映画『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』最初からハロウィンを題材にした数少ない定番曲

ハロウィンの定番曲を並べてみると、最初からその日のために作られた曲はほとんどない。売れない役者の物まねが、たまたまハロウィンの週に1位になった。アルバムの一曲が、14分の映画をまとって踊りの曲になった。夏の映画の主題歌が、おばけの歌として秋に移ってきた。どれも偶然の積み重ねだけれど、そこに毎年10月という決まった時期が繰り返し重なることで、流行歌は季節の歌になっていった。

今年の10月の終わりに、どこかで「Monster Mash」が流れてきたら、それが1962年の小さなスタジオで、錆びた釘とストローを使って録られた曲だということを少しだけ思い出してほしい。60年以上たっても、あの冗談はまだ毎年きちんと笑ってもらえている。季節の歌とは、そういう長い付き合いのことなのだと思う。


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