ジャパニーズウイスキーの棚を前にすると、ボトルの名前の多くが土地の名前になっていることに気づく。山崎、白州、余市、宮城峡、知多、富士。どれも蒸溜所のある場所の名前だ。つまり、ラベルを読むことは、そのまま地図を読むことに近い。この記事では、主な7つの蒸溜所を、水と気候、蒸溜器の違い、そしていま店頭で手に入る定番ボトルという3つの切り口で整理する。最後まで読めば、次に買う1本を「なんとなく有名だから」ではなく、「この土地の味を試したいから」という理由で選べるようになるはずだ。


先に結論、7つの蒸溜所と定番ボトル

最初に全体像を表にまとめておく。価格はメーカー希望小売価格(700ml・税別)で、2024年4月の改定後の数字だ。価格が公表されていない銘柄や、変動の大きい銘柄は空欄にした。

蒸溜所所在地創業主な特徴定番ボトル度数希望小売価格
山崎大阪府島本町1923年に建設開始3つの川が合流する湿った谷。形の違う蒸溜器とミズナラ樽シングルモルト 山崎43%7,000円
白州山梨県北杜市1973年標高約700mの森。軽やかで青い香りシングルモルト 白州43%7,000円
知多愛知県知多市1972年伊勢湾に面したグレーン蒸溜所。連続式蒸溜機シングルグレーン 知多43%-
余市北海道余市町1934年海辺の冷涼な町。石炭直火の蒸溜シングルモルト 余市45%7,000円
宮城峡宮城県仙台市1969年2つの川に挟まれた谷。蒸気加熱とカフェスチルシングルモルト 宮城峡45%7,000円
富士御殿場静岡県御殿場市1973年標高約620m。モルトもグレーンも1か所で造る富士 シングルブレンデッド43%-
秩父埼玉県秩父市2008年に初蒸溜小さなポットスチルとミズナラの発酵槽イチローズモルト&グレーン ホワイトラベル46%-

数字だけ見ると、サントリーの山崎と白州、ニッカの余市と宮城峡が、どれも希望小売価格7,000円で横並びになっているのがわかる。2024年4月の改定で、山崎と白州はそれまでの4,500円から7,000円へ、余市と宮城峡も同じく4,500円から7,000円へ上がった。山崎12年と白州12年は10,000円から15,000円になっている。店頭の実売価格は需給で上下するので、これはあくまで基準の目安として見てほしい。

「ジャパニーズウイスキー」と名乗れる条件

蒸溜所を巡る前に、ラベルの「ジャパニーズウイスキー」という言葉の意味を確認しておきたい。日本の酒税法には、長いあいだこの言葉の定義がなかった。海外から輸入した原酒を日本で瓶に詰めただけの商品でも、日本のウイスキーとして売ることができたわけだ。

この状態を整理するため、ウイスキーの造り手が加盟する日本洋酒酒造組合が、2021年2月に自主基準を定め、同年4月から適用を始めた。すでに販売中の商品には3年の移行期間が設けられ、2024年3月31日でそれも終わっている。基準の主な条件は次の通りだ。

  • 原料には必ず麦芽を使う(ほかの穀物を加えてもよい)
  • 糖化・発酵・蒸溜は日本国内の蒸溜所で行う
  • 仕込みに使う水は日本国内で採水したもの
  • 蒸溜時のアルコール度数は95%未満
  • 容量700リットル以下の木製樽に詰め、日本国内で3年以上熟成させる
  • 瓶詰めは日本国内で行い、度数は40%以上
  • 色の調整には、味のつかないカラメルだけを使える

ここで大事なのは、これが法律ではなく業界団体の自主基準だという点だ。組合に加盟するメーカーはこの基準を守っているが、条件を満たさない商品が「ウイスキー」として売られること自体は禁止されていない。そうした商品は、ラベルに「ジャパニーズウイスキー」と書かないことで区別される。後で触れる秩父のホワイトラベルが「ワールドブレンデッド」と名乗っているのは、まさにこの線引きを正直に表した例だ。

山崎蒸溜所、3つの川が合わさる霧の谷

茶色い外壁に「SUNTORY YAMAZAKI DISTILLERY」の文字と山崎のロゴが掲げられた蒸溜所の建物
大阪府島本町のサントリー山崎蒸溜所。背後には天王山の緑が迫るPhoto: Motokoka / CC BY-SA 4.0

山崎蒸溜所は、1923年に建設が始まった日本で最初の本格的なモルトウイスキー蒸溜所だ。場所は大阪府の島本町で、京都との境に近い。天王山のふもとにあり、すぐ近くで桂川・宇治川・木津川の3つの川が合流している。川の合流点は湿度が高く、霧が立ちやすい。この湿り気が、樽の中でウイスキーがゆっくり熟成するのに向いていると考えられてきた。

設備の面で特徴的なのは、形や大きさの違う蒸溜器を何種類も並べていることだ。スコットランドの蒸溜所は、基本的に1つの蒸溜所で1つの個性の原酒を造り、ほかの蒸溜所と原酒を交換してブレンドする。ところが日本の大手メーカーは、他社と原酒を交換する習慣がほとんどない。そのため山崎では、1か所でさまざまな性格の原酒を造り分けられるように、蒸溜器の形を変え、樽もアメリカンオーク、シェリー樽、そして日本のミズナラ樽まで使い分けている。

ミズナラは日本や東アジアに育つオークで、樽に仕立てると白檀やお香を思わせる独特の香りが出る。木が柔らかく液漏れしやすいため扱いは難しいが、山崎の熟成した原酒にはこの香りが重要な役割を果たしている。定番の「シングルモルト 山崎」は度数43%で、いちごやドライフルーツのような甘い果実の香りと、穏やかな樽の香りがまとまった1本だ。

白州蒸溜所、標高約700mの森の中

ガラス越しに見える蒸溜室に、銅色のポットスチルが何基も並んでいる。上部に初溜と再溜の札がある
白州蒸溜所の蒸溜室。手前の札には「初溜」「再溜」とあり、形の異なるポットスチルが並ぶPhoto: Keeezawa / CC BY-SA 4.0

白州蒸溜所は1973年、山梨県北杜市の甲斐駒ヶ岳のふもとに開かれた。標高はおよそ700mで、敷地のまわりは深い森に囲まれている。仕込み水は花崗岩の地層を通って湧き出す、とても柔らかい水だ。夏でも朝晩は涼しく、山崎とはまったく違う環境で原酒が育つ。

味わいの印象をひとことで言えば、青い。若葉やミントを思わせるさわやかな香りに、ほんのりとしたスモーキーさが重なる。ピートを焚いて乾燥させた麦芽を一部に使っていることが、このかすかな煙の香りにつながっている。アイラ島のウイスキーのような強い煙ではなく、森の中で遠くの焚き火の匂いがする程度の、控えめな効かせ方だ。

定番の「シングルモルト 白州」も度数43%で、ハイボールにすると青りんごのような香りがよく立つ。サントリーが白州のハイボールにミントの葉を添える飲み方をすすめているのも、この香りの方向性をよく表している。同じ会社の山崎と比べると、甘く厚みのある山崎、軽く青い白州という対比になる。2本を並べて飲むと、蒸溜所の立地が味をどれだけ左右するかがよくわかる。

知多蒸溜所、ブレンドを支えるグレーン

知多蒸溜所は、1972年に愛知県の知多半島、伊勢湾に面した場所に造られた。ここで造るのは、トウモロコシなどを主原料にしたグレーンウイスキーだ。山崎や白州が使う単式の蒸溜器(ポットスチル)ではなく、背の高い塔のような連続式の蒸溜機を使う。連続式は効率よく大量に蒸溜でき、すっきりと軽い原酒になりやすい。

グレーンウイスキーは、単体で飲まれるよりも、ブレンデッドウイスキーの土台として使われることが多い。モルトが香りや個性を担う声の大きな歌い手だとすれば、グレーンはそれを支えるコーラスのような存在だ。知多では、蒸溜機の組み合わせを変えることで、重めから軽めまで性格の違うグレーン原酒を造り分けている。響やトキといったサントリーのブレンデッドの味は、知多のグレーンなしには成り立たない。

単体で売られている「シングルグレーン 知多」は度数43%。やわらかな甘さと軽い口当たりが特徴で、モルトよりもクセが少ない。ウイスキーの強い香りが苦手な人の最初の1本や、食事と合わせるハイボールに向いている。

余市蒸溜所、石炭の火で蒸溜を続ける海辺の町

石を積み上げた城門のような正門。中央の塔に「ニッカウヰスキー株式会社」の文字があり、左右に赤い屋根の建物が続く
北海道余市町のニッカウヰスキー余市蒸溜所の正門。石造りの門の奥に、赤い屋根の建物が並ぶPhoto: 663highland / CC BY 2.5

余市蒸溜所は1934年、竹鶴政孝が北海道の余市町に開いた。竹鶴はスコットランドでウイスキー造りを学び、帰国後は山崎蒸溜所の初代所長も務めた人物だ。その竹鶴が独立して、スコットランドに近い冷涼で湿った気候を求めて選んだのが余市だった。日本海に面した町で、すぐそばを余市川が流れ、近くでは原料の麦芽を乾燥させるためのピートも手に入った。

余市のいちばんの特徴は、石炭直火による蒸溜を今も続けていることだ。蒸溜器の下で細かく砕いた石炭を燃やし、もろみを直接加熱する。釜の底は1,000℃を超える高温になるため、焦げつかないように職人が火加減をつきっきりで見なければならない。手間もかかり、熟練も必要な方法で、スコットランドでも蒸気加熱に置き換えられて姿を消した。世界的に見ても、石炭直火を続けている蒸溜所はほとんど残っていない。

この直火の蒸溜が、余市の原酒に香ばしさと力強い厚みを与えている。定番の「シングルモルト 余市」は度数45%で、潮風を思わせるしょっぱさのある煙の香りと、どっしりした麦の甘さが特徴だ。山崎や白州より度数が2%高いぶん、飲みごたえもある。スモーキーなウイスキーが好きな人が日本のウイスキーを試すなら、まず余市から入ると好みに合いやすいと思う。

宮城峡蒸溜所、2つの川とカフェスチル

赤レンガ色の大きな建物が緑の木々の間に並び、とんがり屋根の塔が見える蒸溜所の構内
仙台市青葉区のニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所。赤レンガ色の建物と、キルンを模したとんがり屋根が目印Photo: Tak1701d / CC BY-SA 3.0

宮城峡蒸溜所は、ニッカの2つめの蒸溜所として1969年に宮城県仙台市の西の山あいに開かれた。広瀬川と新川という2つの川が合流する谷にあり、霧が出やすく、空気は1年を通してしっとりしている。仕込み水には、蔵王連峰から流れてくる新川の伏流水を使う。日本の蒸溜所の中でも硬度がとても低い、柔らかな水だ。

余市と同じ会社でありながら、宮城峡の造りは対照的だ。蒸溜器は石炭直火ではなく蒸気で加熱し、温度をおだやかに上げる。じっくりと加熱する造りが、雑味の少ない、軽やかで華やかな原酒を生む。竹鶴は、力強い余市とは別の個性の原酒を手に入れるために、あえて違う環境と違う設備を選んだ。

宮城峡にはもう一つ、カフェスチルと呼ばれる古いタイプの連続式蒸溜機がある。もとは兵庫県の西宮工場にあったものを移設したものだ。現代の連続式蒸溜機よりも効率は劣るが、そのぶん原料の香りや甘さが原酒に残りやすい。定番の「シングルモルト 宮城峡」は度数45%で、洋梨やりんごのような果実の香りと、やわらかい甘さが特徴だ。余市と並べて飲み比べると、同じ会社の中で煙と果実がきれいに分かれているのがわかる。

富士御殿場蒸溜所、モルトもグレーンも1か所で

赤茶色の外壁の横に長い建物の前に、富士御殿場蒸溜所と刻まれた石の看板が置かれている
静岡県御殿場市のキリン富士御殿場蒸溜所。正面の石の看板に蒸溜所の名前が刻まれているPhoto: Keeezawa / CC0

キリンの富士御殿場蒸溜所は、富士山の東のふもと、標高およそ620mの場所で1973年に操業を始めた。年間の平均気温は13℃ほどと涼しく、霧が多い。仕込み水には、富士山に降った雪や雨が長い年月をかけて地中を通り抜けた伏流水を使っている。

この蒸溜所のおもしろいところは、モルトとグレーンの両方を1か所で造っていることだ。単式のポットスチルに加えて、複数の連続式蒸溜機と、ケトルと呼ばれる釜を持つ蒸溜機を備え、軽いものから重いものまで何種類ものグレーン原酒を造り分けている。もともとはアメリカやカナダのウイスキー造りの技術を取り入れて始まった蒸溜所で、グレーンの造り分けに力を入れてきた歴史がある。

その特徴をそのまま商品名にしたのが「富士 シングルブレンデッド」だ。シングルブレンデッドとは、1つの蒸溜所で造ったモルトとグレーンだけを混ぜたブレンデッドという意味になる。度数は43%で、熟した果物のような甘い香りと、なめらかな口当たりが特徴だ。ほかにシングルグレーンとシングルモルトもあり、3本を飲み比べると、同じ蒸溜所の原酒がブレンドでどう変わるのかがよくわかる。

秩父蒸溜所と、100を超えた小さな蒸溜所

山並みを背にした小さな蒸溜所の敷地の入口。道路脇に「Chichibu Distillery」と書かれた樽と、銅色のポットスチルの模型が置かれている
埼玉県秩父市の秩父蒸溜所。入口には蒸溜所名を書いた樽と、ポットスチルをかたどったモニュメントがあるPhoto: Ebiebi2 / CC BY-SA 4.0

ここまでの6つは、大手メーカーが半世紀以上かけて育ててきた蒸溜所だ。それに対して秩父蒸溜所は、2008年に最初の蒸溜を行った新しい蒸溜所になる。造り手は肥土伊知郎(あくと・いちろう)。実家は江戸時代から続く酒蔵で、家業の会社が埼玉県で営んでいた羽生蒸溜所の原酒を受け継いだところから、自分のウイスキー造りを始めた。秩父は、日本で30年以上ぶりに新しくウイスキーの製造免許を得た蒸溜所としても知られている。

秩父の設備は大手とは比べものにならないほど小さい。スコットランド製の小ぶりなポットスチルが1対あるだけで、発酵槽には日本のミズナラ材を使っている。小さな設備で少しずつ造るぶん、樽ごとの個性がはっきり出やすく、限定品が多いのもそのためだ。定番として通年で手に入りやすいのは「イチローズモルト&グレーン ホワイトラベル」で、度数は46%。ラベルに「ワールドブレンデッド」とある通り、海外の原酒も使ったブレンデッドで、さきほどの表示基準でいう「ジャパニーズウイスキー」には当たらない。それを隠さずに書いているところに、造り手の誠実さを感じる。

秩父の成功は、日本各地に小さな蒸溜所が生まれるきっかけになった。2016年前後からは、アイラ島のウイスキーを目指す北海道の厚岸、静岡の山あいにあるガイアフローの静岡蒸溜所、焼酎の蔵が始めた鹿児島の嘉之助などが次々に蒸溜を始めている。長野県の標高約800mにあるマルス信州や、鹿児島のマルス津貫のように、焼酎メーカーが手がける蒸溜所もある。2008年ごろには10か所ほどだった日本のウイスキー蒸溜所は、いまでは100か所を超えたとされる。大手の定番を一通り飲んだら、こうした新しい蒸溜所の1本に手を伸ばすのも楽しい。

店頭で定番を選ぶ手順

7つの蒸溜所を見てきたところで、実際に1本を選ぶときの考え方を整理しておく。迷ったら、次の3つの段階で絞り込むと決めやすい。

1つめは、煙を取るか、果実を取るか。スモーキーな香りが好きなら余市、ほんのりした煙と青い香りなら白州が合う。煙が苦手で、甘く華やかな香りが好きなら、山崎か宮城峡を選ぶとよい。山崎は厚みのある甘さ、宮城峡は軽やかな果実の香りで、同じ「果実系」でも重さが違う。

2つめは、飲み方。ストレートや少量の加水で香りをじっくり楽しむなら、度数45%の余市・宮城峡や、46%のホワイトラベルのように、度数が高めでも香りの崩れにくいものが向いている。ハイボールを中心に飲むなら、軽い知多や富士シングルブレンデッド、白州がとくに合う。

3つめは、予算。希望小売価格で見ると、山崎・白州・余市・宮城峡のシングルモルトはどれも7,000円(税別)で、ここが日本のシングルモルトの基準線になっている。12年物になると山崎・白州で15,000円と倍以上になるので、まずは年数表記のない定番で好みの蒸溜所を見つけてから、気に入った1つの12年物へ進むのが無駄のない順番だと思う。

ハイボールにするときの比率は、ウイスキー1に対して炭酸水3〜4が目安だ。グラスに氷をいっぱいに入れて混ぜ、グラスそのものを冷やしてから、溶けた水を捨てる。ウイスキーを30ml注いで軽く混ぜ、冷えた炭酸水を90〜120ml、氷に当てないようにグラスの内側を伝わせて注ぐ。最後にマドラーで縦に1回だけ持ち上げるように混ぜれば、炭酸が抜けにくい。白州ならミントの葉を1枚、余市ならレモンピールを軽く絞ると、それぞれの香りがよく立つ。

まとめ

好み・飲み方合う蒸溜所定番ボトル
スモーキーで力強い味余市シングルモルト 余市
軽い煙と青い香り白州シングルモルト 白州
甘く厚みのある果実の香り山崎シングルモルト 山崎
軽やかで華やかな果実の香り宮城峡シングルモルト 宮城峡
クセが少なく食事向き知多シングルグレーン 知多
1つの蒸溜所のブレンド富士御殿場富士 シングルブレンデッド
新しい蒸溜所の入口秩父イチローズモルト&グレーン ホワイトラベル

ジャパニーズウイスキーの定番ボトルは、それぞれの蒸溜所の立地と設備をかなり素直に映している。3つの川が合わさる湿った谷の山崎、標高700mの森の白州、海辺で石炭の火を守る余市、2つの川に挟まれた宮城峡。同じ会社の中でも、違う味の原酒を求めて違う土地を選んできた結果が、いまの棚の並びになっている。

まず気になる蒸溜所の定番を1本選び、ストレートとハイボールの両方で飲んでみてほしい。そのうえで、同じ会社のもう一方の蒸溜所の1本を並べると、水と気候と蒸溜器の違いが、グラスの中ではっきり感じ取れるはずだ。


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