ここ数年、フラットシューズがすっかり主役だ。かつてハイヒールが支配していた時期を経て、今はどれだけ歩きやすくて、どれだけきれいなラインが出るかが選ばれる理由になっている。その流れを長く引っ張ってきたのがバレエフラットだった。しかし2026年、この座をじわじわと奪おうとしているのが、ジャズシューズである。
ジャズシューズとは何か
ジャズシューズは、もともとダンサーたちが舞台で履くために生まれた靴だ。「スプリットソール」と呼ばれる、土踏まずの位置で前後が分かれた靴底を持つのが特徴で、つま先の返しや床への接地感が自由になる設計になっている。履き口まで伸びたレースアップが足を包むのが、よく見る形だ。
見た目で言うと、硬く野太いダービーシューズほどではないが、華奢すぎるバレエフラットよりもしっかりしている。バレエフラットとダービーシューズのちょうど中間、柔らかくて、それでいて足に添うようなシルエット。革が柔らかく、履くほどに足の形になじむのが本来の素性だ。バレエフラットのような構造的な頼りなさはなく、レースアップの履き口がある分、長時間の歩行にも耐えられる。フラットシューズとしてはかなり実用的な部類だと思う。
1970年代の足音
この靴が時代の象徴になったのは、1970年代のフランスでのことだ。歌手のセルジュ・ギャンズブールがレペットの「ジジ」と呼ばれるモデルを偏愛し、妻のジェーン・バーキンを介して現在のレペットの前身に手を入れさせて、白いレースアップをほぼ毎日履いていた。彼は亡くなるまで、これを1年に30足近く履き続けたともいわれる。ミック・ジャガーも同じくこのスタイルの常連で、細身の色柄のギャンズブールと並んで、時代を代表する履き手だった。

レペットは1956年、パリ・オペラ座のダンサーにポワントシューズを提供していた工房が母体で、「ジジ」という名前はブランド創業関係者の一人、ダンサーのジジ・ジャンメールにちなむ。つまりジャズシューズは、ダンスというルーツを忠実に保ったまま、60年近くを経て再び街に戻ってきた靴なのだ。
なぜ今、また履かれるのか
理由はいくつかある。ひとつは、バレエフラット全盛期の延長線上にあること。ダンス由来のシューズがここ数年ずっと主役だったから、革新的な次が出るのは自然な流れだった。
もうひとつは、いわゆる「ダサい靴」への反動だ。厚底の隠しソール、カスタムクロックス、整形靴風のサンダルなど、分厚いシルエットが続いた後に、細くて、つるりとした、上品な足元が求められるようになった。薄底のスニーカーが人気なのも同じ理由で、ジャズシューズはその延長にありながら、よりフォーマルにも応えられる選択肢という立ち位置だ。
ランウェイを席巻する
2026年のコレクションで、この靴をいちばん強く推したのはセリーヌだった。クリエイティブディレクターのマイケル・ライダーが、春夏では緋色・白・黒・トープの4色を、花柄のドレスやクロップドのカラーパンツと合わせて出した。秋冬では花柄ドレス、マイクロミニ、クロップドのバレルレッグジーンズと組み合わせ、「何にでも合う」ことを証明する見せ方だった。

続いて、ジル・サンダーのミニマルな解釈、ロエベの上品な作り、プロエンザ・スクーラーの白いグローブレザー、ドリス・ヴァン・ノッテンのクリスタルが散りばめられた華やかな一足、ボッテガ・ヴェネタの編み込みまで、多様な解釈が続いた。スポーツマックスやアルベルタ・フェレッティも、白一色のステージや、シルバー・ゴールドの夜向けの素材を提案している。セリーヌのジャズシューズは、2026年第1四半期のファッション検索プラットフォームの一覧で、最も注目された製品の上位にランクインしていた。
街に広がって
この流れがセレブリティたちを経て街に降りてきている。リリー・コリンズはフランス的な着こなしの定番として、マーク・ジェイコブスはジャズシューズに真っ直ぐのデニムを合わせて履いている。シャーリーズ・セロンはボッテガ・ヴェネタの一足で、ベネチア国際映画祭ではマギー・ギレンホールやエマ・コリンが足元にこの靴を選んだ。ハイストリートにも広がり、ザラやCOS、マンゴあたりなら気軽に試せる価格帯で手に入る。ダンサーたちが自前の道具として作ってきただけあって、20,000歩歩くのが前提の普段遣いにも、十分耐えてくれるはずだ。

あわせ方は、穿き慣れたデニムが外れない。マーク・ジェイコブスとギャンズブールが、50年を隔ててまったく同じ組み合わせで履いているのは面白い。白いTシャツにミディスカート、あるいはフレンチリヴィエラ風の白いリネンシャツに。ダブルブレストのブレザーを羽織れば、落ち着いた大人の正装にもなる。

バレエフラットが履かれる前、ダンスシューズは舞台のために生まれた。そのルーツを守りながら、ジャズシューズは今、日常の靴として復活している。細くてしなやかで、それでいてちゃんと歩ける。2026年のフラットシューズを選ぶなら、まずこの一足から考えてみるのがよさそうだ。
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