冬のコートを新しくすると、最後に手元が気になってくる。ウールのチェスターコートやステンカラーコートの袖口から、毛糸の手袋やスマートフォン対応のニット手袋がのぞくと、それまで整えてきた装いが少しだけ崩れて見える。ここで革手袋を一組持っておくと、コートの格がそのまま指先まで届く。
ただ、革手袋は靴やベルトと比べて、買うときの失敗が起きやすい小物だと思う。理由ははっきりしていて、手袋は「S・M・L」の感覚で選ぶものではなく、手の周囲を測って半サイズ単位で合わせるものだからだ。さらに、同じサイズ表記でも、羊の革か鹿の革か、裏地がカシミヤかウールか裏なしかで、着けたときの窮屈さも、ひと冬使ったあとの伸び方もまるで変わる。この記事では、革の種類、裏地、サイズの測り方、甲の縫い目の意味、色の合わせ方、手入れの順に、革手袋を一組選ぶための考え方をまとめていく。
羊か鹿か、革の種類で手袋の性格が決まる

紳士用の革手袋で最もよく見かけるのは、ラムスキン、つまり羊の革だ。きめが細かく、表面はなめらかで、薄く仕上げても破れにくい。指を曲げたときの革の追従がよく、手の形に吸いつくような着け心地になる。スーツやドレス寄りのコートに合わせる手袋の基本は、まずこの羊革だと考えてよいと思う。英国のDentsのように、羊革の中でもヘアシープと呼ばれる種類を使う作り手もいる。ヘアシープは羊毛ではなく短い体毛をまとう品種の羊から取る革で、羊革の中でもとりわけ薄く、しなやかで、軽い。指先の感覚を残したい運転用の手袋や、裏地なしの手袋に向いた素材だ。
一方のディアスキン、鹿の革は、表面に細かな粒状の凹凸があり、羊革よりも厚く、丈夫だ。少しカジュアルな表情になるので、ツイードのジャケットやダッフルコート、ピーコートのような素材感のある上着とよく合う。鹿革の大きな長所は、濡れても硬くなりにくいことだ。牛革の手袋は雨や雪で濡れたあと、乾くとごわついてしまうことがあるが、鹿革は繊維が立体的に絡み合っているため、濡れてもしなやかさを保ち、乾くと元の柔らかさに戻りやすい。雪の多い土地で毎日使う手袋なら、私は鹿革を選ぶと思う。
さらに上には、ペッカリーという南米の野生の猪の仲間の革がある。表面に毛穴の跡が3つずつ並ぶ独特の模様があり、柔らかさと丈夫さを両立した最上級の手袋の素材とされている。扱いが難しく、裁断と縫製に熟練の職人を必要とするため、作れる工房は限られ、値段も羊革の数倍になることが多い。最初の一組として選ぶ素材ではないが、長く革手袋を使ってきた人がたどり着く先として覚えておくとよいと思う。
羊革と鹿革は、伸び方が違う
羊革と鹿革を選ぶときに、見た目以上に大切なのが伸び方の違いだ。革手袋は新品のときがいちばん窮屈で、使うたびに手の形に合わせて少しずつ伸びていく。目安として、薄い羊革も鹿革も、数回から十回ほど着けるうちに半サイズほど緩くなることが多い。だから試着の時点では、指の付け根から手のひらにかけて、少しきついと感じるくらいがちょうどいい。店で「ぴったりで楽だ」と感じた手袋は、ひと冬使うと手首のあたりで革が余ってくる。
鹿革は繊維がどの方向にもよく動くので、伸びる量が羊革より多く、手の形をよく覚える。そのぶん、最初は指先がやや短く感じるくらいの、しっかりした締め付けのものを選んでおきたい。逆に羊革は、伸びはするものの鹿革ほど大きくは形を変えないので、最初から指の長さが合っていることのほうが大切になる。指先に革が余っていると、物をつまむたびに先端が折れ曲がってしまい、見た目にも使い勝手にも響く。
裏地で、暖かさと指の動きを交換する

革の種類と同じくらい手袋の性格を左右するのが裏地だ。裏地は大きく分けて、カシミヤ、ウール、シルク、そして裏なしの4つになる。考え方は単純で、裏地が厚いほど暖かく、薄いほど指が自由に動く。どこで折り合いをつけるかは、住んでいる土地の寒さと、手袋を着けたまま何をしたいかで決まる。
カシミヤ裏は、紳士用の革手袋でいちばん多い組み合わせだ。保温力が高いのに薄く、ふくらみが出にくいので、手袋の外見がすっきりしたまま暖かい。肌ざわりもよく、手を入れた瞬間の冷たさがない。通勤でコートを着て歩く日が多い人には、まずカシミヤ裏の羊革を勧めたい。暖かさ、着け心地、指の動きの釣り合いがいちばん取れていると感じる。ウール裏はカシミヤよりも厚手で、湿っていても熱を保つ力が強い。氷点下の日が続く地方や、屋外に長くいる日に向いているが、そのぶん手袋全体に厚みが出て、細かい作業はしにくくなる。手袋の外見も少し丸みを帯びる。
シルク裏は最も薄く、ほとんど保温のための裏地ではない。手を入れるときの滑りをよくし、革が直接肌に触れる感触をやわらげる役割が中心で、秋口や春先、夜の外出のように、寒さよりも装いを重視する場面に向いている。裏なしは、革一枚で手を包むので、指先の感覚は最もよく残る。運転用の手袋や、暖房の効いた車やオフィスとの行き来が多い人なら、裏なしの羊革がいちばん使いやすいかもしれない。ただし真冬の屋外では、正直なところ寒い。
裏地はサイズ選びにも関わってくる。ウールのような厚い裏地は手袋の内側の空間を狭くするので、同じ手でも裏なしよりきつく感じやすい。厚手のウール裏を選ぶときは、試着で窮屈さを確かめ、必要なら半サイズ上げることも考えたい。一方、カシミヤ裏は使ううちに毛足が少しずつ寝て、内側にわずかな余裕が出てくる。試着で少しきついくらいなら、そのまま選んでよいと思う。
手囲いを測る、サイズはインチで決まる

革手袋のサイズは、手囲い、つまり手のひらの周囲の長さで決まる。測り方は、利き手の指の付け根の関節のすぐ下、手のひらがいちばん広くなるところに柔らかいメジャーを一周させる。このとき親指は含めない。メジャーは締めつけず、緩めず、軽く沿わせる程度にする。利き手のほうが少し大きいことが多いので、両手を測って大きいほうに合わせるのが確実だ。
測った長さをインチに換算した数字が、そのまま手袋のサイズになる。センチで測ったなら2.54で割ればよい。たとえば手囲いが21.6センチなら8.5インチで、サイズは8.5になる。英国のDentsはこのインチ表記を基本にしていて、8、8.5、9のように半サイズ刻みで作っている。デンマークのRanders Handskerも同じく手のひらの周囲を測ってセンチを2.54で割る方式で、紳士用は7から11までを半サイズ刻みで用意している。半サイズの間に入ったときは、小さいほうを選ぶのが基本だ。前の節で書いたとおり、革は使ううちに伸びるからだ。
手囲いと並んで見ておきたいのが、中指の長さだ。手のひらの周囲が同じでも、指の長い人と短い人がいる。手囲いで選んだサイズを試着したとき、指先に5ミリ以上の余りがあるなら、同じサイズでも指の短い型を作っているブランドを探すか、羊革なら半サイズ下げることを考えたい。逆に指先が突っ張って曲げにくいなら、そのサイズは合っていない。通販で選ぶときも、測った数字をサイズ表と照らし合わせておけば、大きく外すことはまずないと思う。
甲の3本線と、縫い方の呼び名
革手袋の甲には、多くの場合、手首から指の付け根に向かって3本の縫い線が入っている。英語ではポイントと呼ばれる部分だ。もともとは手の甲の革に伸びの余裕を持たせ、指を握ったときに革が突っ張らないようにするための縫いだったとされる。いまの手袋ではほとんど飾りとして残っているが、この3本線があるだけで、手袋は一気にクラシックな顔つきになる。1本だけのものや、線のないすっきりした型もあり、線の数が少ないほど現代的で控えめな印象になる。最初の一組なら、私は3本線の入った伝統的な型を選ぶ。どんなコートに合わせても違和感がないからだ。
縫い方にも呼び名がある。いちばん手間がかかるのは手縫いで、革の縁と縁を突き合わせて、職人が手で一針ずつかがっていく。一組でおよそ二千針、熟練した職人でも数時間かかるといわれる。指の縫い目が外側に小さく盛り上がって見えるのが特徴で、Dentsの手縫いの羊革手袋がその代表だ。ピケ縫いは、革の端を重ねて片側だけが見えるようにミシンで縫う方法で、縫い目がすっきりしていて、薄い革で細身に仕立てる手袋に向く。指と指の間に入る細い革をフルシェット、指の付け根に入るひし形の小さな革をクワークと呼ぶ。このクワークが入っていると、指を広げたときに付け根の革が引きつれにくい。値札だけでなく、こうした細部を見て選ぶと、手袋の作りの違いが分かってくる。
作り手の歴史にも少し触れておくと、Dentsは1777年に英国のウスターで創業し、いまはウィルトシャーのウォーミンスターに工場を構える。英国で最も古い服飾品の作り手のひとつで、1953年の戴冠式でエリザベス2世が着けた手袋も手がけた。Randers Handskerは1811年にデンマークのラナースで手袋工場として始まり、200年以上同じ土地で手袋を作り続けている。どちらもいまも手袋を作り、販売を続けている現役の工房だ。
コートと合わせる色、手首の長さ

手袋の色は、靴やベルトに合わせるものだと思われがちだが、実際にはコートとの相性を優先したほうがまとまりやすい。手袋は袖口のすぐ先にあり、立っているときも歩いているときも、コートの色と並んで目に入るからだ。靴と手袋はそもそも距離が離れていて、同時に視界に入ることは少ない。黒は最もかしこまった色で、黒やチャコールグレーのコート、ダークスーツと合わせると端正にまとまる。反面、ツイードやキャメルのコートに合わせると、手元だけが硬く浮いて見えることがある。
どちらか一組しか持たないなら、私は焦げ茶か、少し赤みのある栗色を勧めたい。紺、グレー、キャメル、ベージュと、コートの色をあまり選ばず、スーツにもカジュアルな上着にも合わせやすい。冒頭の写真のような明るい茶色は、キャメルやベージュのコートに合わせると華やかになる。グレーの手袋も、黒い靴と茶色い靴のどちらとも喧嘩しない便利な色だ。二組目を買うなら、一組目と反対の性格のもの、たとえば黒の羊革を持っているなら茶色の鹿革を選ぶと、合わせられる装いの幅がぐっと広がる。
長さも見ておきたい。一般的な紳士用の革手袋は、手首の骨がちょうど隠れる長さになっている。この長さだと、コートの袖口の中に手袋の口が収まり、手首が冷気にさらされない。手首の部分が長く、袖口の上にかぶさるように作られた手袋は、より防寒向きで、少し古風な印象になる。袖丈が短めのコートを着ているなら、手首の部分にゴムが入って口がすぼまる型を選ぶと、袖口と手袋の間に隙間ができにくい。
濡れたら急いで乾かさない
革手袋は丁寧に扱えば十年以上使える。そのために覚えておきたいのは、濡れること自体よりも乾かし方のほうが革を傷めるということだ。雨や雪で濡れたら、手袋を外して形を整え、室温で自然に乾かす。ストーブやドライヤーの熱、直射日光は避ける。急に熱を当てると水分と一緒に革の油分まで抜けてしまい、乾いたあとに硬くひび割れやすくなる。手のひら側を下にして平らな場所に置くか、指先を少し開いて風が通るようにしておくとよい。
完全に乾いたら、柔らかい布に革用のクリームを少量取り、表面全体に薄く伸ばす。厚く塗る必要はなく、薄く均一に塗るほうが仕上がりがきれいだ。頻度は、毎日使う手袋でもひと冬に一、二回で足りる。鹿革は油分が抜けにくいので、羊革よりさらに手入れの回数が少なくてすむ。春になってしまうときは、汚れを落として乾かしたうえで、湿気の少ない場所に平らに寝かせておく。ビニール袋に密閉すると湿気がこもってカビの原因になるので、紙や布の袋のほうが安心だ。
まとめ
革手袋を一組選ぶなら、まず利き手の手囲いを測り、インチに換算して半サイズ単位のサイズを決める。迷ったら小さいほうを選び、試着では少しきついくらいを目安にする。素材は、スーツやドレス寄りのコートに合わせるなら羊革、濡れる日が多い土地や素材感のある上着に合わせるなら鹿革が向いている。裏地は、通勤で歩く日が多いならカシミヤ裏、厳しい寒さの土地ならウール裏、運転や室内との行き来が多いなら裏なしと、暖かさと指の動きのどちらを優先するかで決める。色はコートに合わせて考え、一組だけなら焦げ茶か栗色が使いやすい。甲の3本線や縫い目の作りに目を向けると、値段の差がどこにあるのかが分かってくる。手元が整うと、冬の装いはコートの袖口の先まで仕上がると思う。