無料のDAWと聞くと、トラック数が8本までだったり、書き出した音に透かしが入ったり、保存ができなかったりと、どこかで手足を縛られている印象を持つ人が多いと思う。Universal AudioのLUNAは、その印象からかなり外れたところにある。トラック数の上限はなく、書き出しにも制限がかからない。録音して、編集して、ミックスして、WAVやMP3にするところまで、1円も払わずに1曲を最後まで通せる。

では、どこでお金が必要になるのか。無料のまま続けて困らない人と、早めに有料の機能へ進んだほうがいい人の違いはどこにあるのか。この記事では、LUNAで1曲を仕上げる流れを、録音・打ち込みと編集・ミックス・書き出しの4つの段階に分けて、それぞれの段階で無料の範囲がどこまで届くのかを見ていく。

無料版と有料版の線引き、LUNA FreeとLUNA Studio

録音スタジオのNeve製の大型ミキシングコンソール。何列ものつまみとフェーダーが並び、奥にモニタースピーカーと録音ブースの窓が見える
Neveの大型コンソール。LUNAのミキサー画面は、こうした卓の操作感を手本にしているPhoto: Justin Davis from San Jose, US / CC BY-SA 2.0

LUNAはもともと、Universal AudioのオーディオインターフェースであるApolloを持つ人のために作られたDAWだった。それが2023年11月9日にMac版がすべての人に無料で開放され、2024年5月22日にはWindows版も登場した。そして2026年9月15日にはLUNA 3.0が公開され、無料版と有料版の区分けがあらためて整理されている。

現在の形は、無料の「LUNA Free」と、199ドルの買い切りで手に入る「LUNA Studio」の2段構えだ。さらに、LUNA Studioと70ほどのUADネイティブプラグインをまとめて使える「UAD Spark Studio」というサブスクリプションもあり、こちらは月額19.99ドルで用意されている。

ここで押さえておきたいのは、LUNA Freeは「お試し版」ではないという点だ。期限で止まることはなく、トラック数の上限もなく、書き出した音に透かしも入らない。LUNA Studioで増えるのは、AIによる音の分離の細かさや、録音した音からMIDIを取り出す機能、そしていくつかの音作りの拡張といった、いわば上乗せの部分になる。曲を作るための骨格そのものは、無料版の時点ですべて揃っていると考えてよい。

動作環境は、MacならmacOS 11以降、WindowsならWindows 10と11に対応している。Appleシリコンにもそのまま対応していて、メモリは16GB、保存先はSSDが勧められている。インストールや認証は、UA Connectというアプリから行う。ここでUniversal Audioのアカウントを作ってサインインする必要があるので、完全に匿名で使えるわけではない点は覚えておきたい。ただし、iLokの物理的な鍵は不要で、一度認証すればその後はオフラインでも使える。

録音の段階、どのインターフェースでも録れるがApolloで景色が変わる

銀色の筐体のUniversal Audio Apollo Twin。中央に大きなつまみがあり、その周りを緑色のメーターが囲んでいる
Apollo Twin。LUNAと組み合わせると、UADプラグインをかけた音を聴きながら録音できるPhoto: Matt Vanacoro / CC BY 2.0

録音の段階でまず気になるのは、Universal Audioの機材を持っていなくても使えるのかという点だろう。答えは、使える。LUNAはMacならCore Audio、Windowsなら一般的なドライバーで動くので、手元にある他社のオーディオインターフェースでも、マイクやギターをつないでそのまま録音できる。ここに有料の壁はない。

ただし、Apolloを組み合わせると、録音の景色はかなり変わる。ApolloにはUnisonと呼ばれる仕組みがあり、本体の入力段の振る舞いを、往年の真空管プリアンプやコンソールの入力に近づけられる。さらにLUNAのARMという機能を使うと、UADプラグインをかけた状態の音を、ほとんど遅れを感じずに聴きながら録れる。歌い手がリバーブのかかった声を聴きながら歌えるというのは、思っている以上に気持ちよさと集中に効いてくる。

逆に言えば、他社のインターフェースで録る場合は、LUNAの魅力のうち録音時のこの部分は使えないことになる。とはいえ、これは「お金を払えば開放される機能」というより「機材の組み合わせで生きる機能」だ。すでに別のインターフェースを持っている人なら、まずはそれで録音を始め、録り音の質感に物足りなさを感じたときにApolloを検討する、という順番で十分だと思う。

録音の操作そのものは、テープレコーダーを意識した作りになっている。録音待機にしたトラックへ順番に音を重ねていき、うまくいかなかった部分は何度も録り直して、あとで良いところをつなぎ合わせる。テイクを重ねて選ぶ流れは、無料版でも制限なく使える。

打ち込みと編集の段階、Shapeとピアノロールで骨組みを作る

打ち込みの段階では、無料版にShapeという音源が付いてくる。シンセや鍵盤、ベースなどの基本的な音色がひと通り入っていて、曲の骨組みを作るだけなら別の音源を買わなくても始められる。アルペジエーターも無料版に含まれているので、和音を押さえて分散させるような打ち込みもすぐに試せる。

MIDIの編集は、ピアノロールで音符を並べて長さや強さを整える、という一般的な形だ。ここは正直なところ、打ち込みを中心に曲を作るDAWと比べると機能が控えめで、細かな編集を素早くこなすにはやや物足りなさを感じる。楽譜の形で表示したり書き出したりする機能もない。打ち込みが主役の人にとっては、ここがLUNAを選ぶかどうかの分かれ目になると思う。

一方で、オーディオの編集はよく作られている。フォルダートラックでドラムやコーラスのような複数のトラックをまとめられ、クリップごとの音量の変化も書き込める。曲のテンポに合わせて細かさが変わるグリッドも使いやすい。録った音を切ったり並べたりする作業は、無料版のままでも窮屈さを感じにくい。

3.0では、AIによる音の分離が無料版にも入った。完成した音源を、ボーカルやドラムなど4つのパートに分けられるので、好きな曲のベースだけを取り出して耳コピの練習に使う、といった用途にも向いている。ここで最初のお金の地点が出てくる。LUNA Studioでは分離が6つのパートまで細かくなり、さらに録音した音からMIDIを取り出す機能、歌詞の書き起こし、コード進行の読み取りといった機能が加わる。鼻歌やギターのフレーズをMIDIにしたい人、あるいはコピーを効率よく進めたい人にとっては、ここが有料版へ進む理由になる。

ミックスの段階、無料のUADプラグインと他社プラグイン

ラックに収まったTeletronix LA-2Aと、その下のUniversal Audio 1176LN。さらに下にDistressorが2台とLexiconのリバーブが並んでいる
ラックに収まったLA-2Aと1176。どちらもUADプラグインとして無償で使える版が用意されているPhoto: The Midnite Wolf / CC0

ミックスの段階で頼りになるのが、Universal Audioが無償で配っているUADプラグインだ。UAD Explore FREEという枠で、1176やLA-2Aといったコンプレッサー、610の真空管プリアンプ、Pure Plateのリバーブなど、名機を再現したプラグインがいくつか用意されている。ボーカルにLA-2Aを薄くかけ、ドラムに1176で勢いを足し、全体にプレートリバーブで奥行きを付ける、という基本的なミックスであれば、ここだけでかなりの部分をまかなえる。

他社のプラグインも使える。MacではAU、WindowsではVST3の形式に対応しているので、すでに持っているEQやリバーブをそのまま読み込める。ただし、MacではVST3が、WindowsではVST2が使えない点には注意が必要だ。特に古いVST2のプラグインを大切に使ってきたWindowsの人は、移行する前に手持ちのプラグインがVST3版を出しているかを確かめておくと安心だ。

オートメーションも制限なく書ける。フェーダーやパンの動き、プラグインのつまみの変化を時間に沿って記録できるので、サビでボーカルを少し持ち上げる、といった調整も無料版のままでこなせる。ミキサー画面は大型コンソールを思わせる並びになっていて、つまみやフェーダーが縦に揃った見た目は、卓で作業してきた人にはなじみやすいと思う。

ここまでの範囲であれば、ミックスの段階でお金を払う必要はまだ出てこない。お金がかかり始めるのは、LUNAならではの「卓とテープの質感」を本格的に求めたときだ。

テープとサミングの段階、Oxideは無料、StuderとNeveは有料

録音スタジオのStuder A800 MK III。手前にテープのリールと走行部があり、奥に24トラック分のメーターが3段に並んでいる
24トラックのテープレコーダー、Studer A800 MK III。LUNA StudioにはこのA800を再現した拡張が含まれるPhoto: Hens Zimmerman from Zeist, The Netherlands / CC BY 2.0

LUNAの特徴として、Extensionsと呼ばれる拡張がある。これはプラグインのように1つずつ差し込むのではなく、トラックやミックスバスそのものにテープやコンソールの性格を持たせる仕組みだ。各トラックに同じ質感が自然に乗るので、プラグインを何十個も並べるより画面がすっきりし、CPUの負担も読みやすい。

無料版には、Oxideというテープの拡張が付いてくる。テープに録ったときの、少し丸みのある高音や、音量を上げたときの柔らかい飽和感を手軽に足せる。デジタルで録った音が硬く感じられるとき、まずOxideを全体にかけてみると、それだけで音のまとまりが良くなることが多い。

ここで2つ目と3つ目のお金の地点が出てくる。より本格的なテープの質感を求めるなら、LUNA Studioに含まれるStuder A800の拡張が候補になる。24トラックのテープレコーダーとして多くのスタジオで使われてきた機械の再現で、Oxideよりも低音の厚みや、音が重なったときの一体感がはっきり出る。そして、各トラックをまとめるときにNeveの大型コンソールの質感を加えるNeve Summingは、LUNA Studioにも含まれない別売りの拡張で、単体で299ドルかかる。

正直なところ、この2つは「無いと曲が完成しない」種類のものではない。Oxideと無料のUADプラグインで、十分に聴ける仕上がりにはなる。ただ、LUNAを選ぶ理由の大部分がこの卓とテープの質感にある人にとっては、ここが本当の入り口になる。無料版で1曲を通してみて、音のまとまりにもう一段の厚みが欲しくなったら、Studer A800を含むLUNA Studioへ、さらにコンソールの質感まで求めるならNeve Summingへ、という順番で考えると無駄が少ないと思う。

書き出しの段階、WAVとMP3まで制限なし

最後の書き出しは、拍子抜けするほどあっさりしている。WAV、AIFF、MP3といった形式で、透かしも時間の制限もなく書き出せる。配信サービスに登録するための音源も、友人に聴かせるためのMP3も、無料版のまま作れる。

ここでの4つ目のお金の地点は、書き出しそのものではなく、その手前にある。それは、別のエンジニアや別のDAWとやり取りする場面だ。トラックごとの書き出し自体はできるが、録音した音から細かくパートを分けたり、MIDIを取り出して相手に渡したりといった作業は、先に書いたとおりLUNA Studioの機能になる。自分ひとりで1曲を完成させる範囲であれば、ここで困ることはまずない。

1曲を通したときの、無料と有料の境目

ここまでの内容を、段階ごとに表にまとめておく。

段階無料版でできることお金が要る地点
録音他社のインターフェースで録音、テイクの重ね録りApolloのUnisonとARMを使いたいとき(機材の購入)
打ち込み・編集Shape、アルペジエーター、ピアノロール、4パートの音の分離6パートの分離、音からMIDIを取り出す機能、コードの読み取り(LUNA Studio)
ミックス無償のUADプラグイン、他社のAU・VST3、オートメーション、OxideのテープStuder A800のテープ(LUNA Studio)、Neve Summing(別売り299ドル)
書き出しWAV・AIFF・MP3、トラック数と透かしの制限なしなし

こうして並べると、LUNA Freeで足りないのは「曲を完成させる力」ではなく、「LUNAらしい質感をどこまで深く求めるか」の部分だと分かる。打ち込みが中心で、MIDIを細かく編集したい人は、ほかのDAWのほうが手に合うかもしれない。一方で、歌やギターを録って、テープや卓の手触りを大事にしながら仕上げたい人にとっては、無料版の時点でかなり完成度の高い道具だと思う。

まずは無料のLUNAで1曲を最後まで書き出してみて、そのうえで物足りなかった部分がどの段階にあったかを振り返る。その答えが、LUNA Studioなのか、Neve Summingなのか、あるいはApolloなのかを教えてくれるはずだ。

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