モニタースピーカーを新しくしたのに、思ったほど音が良くならない。低音が膨らんで聴こえたり、逆に痩せて聴こえたり、左右で鳴り方が違ったりする。そういうとき、原因はスピーカーそのものより、置き方と部屋のほうにあることが多いと思う。同じスピーカーでも、壁から10cm動かしただけで低音の量がはっきり変わる。座る位置を少し前後させるだけで、ベースの特定の音だけが消えたり、急に大きくなったりする。
この記事では、6畳の部屋を前提に、机の向き、スピーカーと頭の位置関係、壁からの距離、座る位置、吸音材を足す順番、最後に測って確かめる方法までを、順番に決めていく。お金のかかる吸音材や補正ソフトは後回しにして、まずは置き方だけで直せる部分を先に片付けたい。順番を守るだけで、同じ機材から引き出せる情報の量はかなり増えるはずだ。
机の向きは、短い壁に向かって長い方向に音を飛ばす

6畳の部屋は、畳の規格によって差はあるものの、おおよそ幅2.7m、奥行き3.6m、天井の高さ2.4mほどの細長い箱になる。最初に決めるのは、この箱のどちらの壁に机を向けるかだ。結論から言うと、短い壁(2.7mの側)に机を向けて、長い方向(3.6mの側)に向かって音を飛ばす置き方をおすすめしたい。
理由はいくつかある。一つは左右の対称性だ。短い壁に向かって部屋の幅の真ん中に机を置けば、左右のスピーカーから横の壁までの距離をそろえやすい。左右の壁までの距離が違うと、片側だけ反射音が早く強く返ってきて、定位が片側に引っ張られたように聴こえる。窓やクローゼット、ドアの位置で完全な対称は難しいとしても、少なくとも壁までの距離だけは左右でそろえておきたい。
もう一つは、自分の後ろに空間を残せることだ。長い壁に向かって机を置くと、奥行きは2.7mしかなく、座った位置のすぐ後ろに壁が来る。背中側の壁が近いと、そこで跳ね返った低音が耳元で重なり、低い帯域が実際より厚く聴こえやすい。短い壁に向ければ、後ろに2m以上の余裕が生まれ、あとで説明する「座る位置の調整」ができるようになる。ベッドや本棚の配置との兼ね合いはあるが、制作の部屋として使うなら、まずこの向きを基本に考えるのがいいと思う。
スピーカーと頭で正三角形を作り、ツイーターを耳の高さへ

机の向きが決まったら、次はスピーカーと頭の位置関係だ。基本は、左右のスピーカーと自分の頭が正三角形になるように置くこと。正面から見て左右それぞれ30度、二つのスピーカーの間の角度が60度になる。机の上のニアフィールドなら、三角形の一辺はだいたい1mから1.2mくらいに収まることが多い。スピーカーは少し内側に振って、ツイーターがまっすぐ自分の耳の方を向くようにする。左右の角度がずれると定位の中心もずれるので、メジャーで左右の距離を測り、数cm以内にそろえておきたい。
高さは、ツイーター(高音用のユニット)を座ったときの耳の高さに合わせる。床から耳までは、一般的な椅子に座った状態でおよそ110cmから120cmになる。机の天板が72cm前後なら、スピーカーを天板に直置きするとツイーターは耳よりかなり低くなるはずだ。高音は指向性が強く、耳の高さから外れると、声の明瞭さに関わる帯域が少し引っ込んで聴こえる。台で持ち上げるか、持ち上げきれない場合は上向きに傾けて、ツイーターの軸が耳に向くようにする。
スピーカーは縦置きを前提に設計されているものがほとんどだ。机が狭くて横置きにしたくなることもあるが、横に倒すとツイーターとウーファーの位置関係が変わり、頭を少し動かしただけで音が変わりやすくなる。どうしても横置きにするなら、ツイーターを外側に来るように左右対称に置き、メーカーの説明書で横置きが許されているかを確かめたい。
天板に直置きしないことも大切だ。理由は二つある。一つは振動で、天板がスピーカーの振動を受けて一緒に鳴り、低音がにごる。もう一つは反射で、スピーカーから出た音が天板で跳ね返り、少し遅れて耳に届く。直接の音と反射した音の道のりの差が30cmあれば、およそ570Hz付近を最初に、等間隔に音が打ち消し合う谷ができる。これがくし形の凸凹(コムフィルター)で、中低域の判断を難しくする。インシュレーターや傾斜の付いた台で持ち上げ、さらにスピーカーを天板の手前の端に寄せると、反射する面が減って凸凹が浅くなる。机そのものの高さや奥行きの決め方は、DTMデスクは奥行きで選ぶ。長時間座るための天板の高さと椅子の調整範囲にまとめてある。
前の壁からの距離は、近いか遠いか、どちらかに振り切る
正三角形が決まると、スピーカーを前の壁からどれだけ離すかという問題が出てくる。ここは中途半端な距離がいちばん困る部分だ。スピーカーから後ろに回り込んだ低音は、前の壁で跳ね返って正面の音と重なる。壁までの距離が音の波長の4分の1になる周波数では、跳ね返った音と正面の音が逆の向きで重なって打ち消し合い、そこだけ低音がへこむ。周波数は、音速(約343m/s)を壁までの距離の4倍で割れば求められる。
| 前の壁までの距離 | へこむ周波数の目安 |
|---|---|
| 0.2m | 約430Hz |
| 0.3m | 約290Hz |
| 0.5m | 約170Hz |
| 0.75m | 約115Hz |
| 1.0m | 約86Hz |
| 1.5m | 約57Hz |
表を見ると、壁から50cmから1mほど離したあたりで、ベースやキックの芯に当たる帯域がへこむことが分かる。逆に、2m近く離せばへこみは50Hz以下に下がって目立ちにくくなるが、奥行き3.6mの6畳でそれをやると、座る位置が部屋の後ろ半分にはみ出してしまう。現実的なのは反対側に振り切る方法で、スピーカーをできるだけ壁に近づけ、へこむ周波数をウーファーが前に音を出しやすい高めの帯域へ押し上げる。
壁に近づけると、今度は低音全体が持ち上がる。そこで使うのが、多くのモニターの背面に付いている低域を削るスイッチだ。壁際に置くことを前提に、この調整で低域を数デシベル下げておく。背面にバスレフポートがある機種は、ポートを壁で完全にふさぐと低音が不自然に膨らむので、説明書に書かれた最小の距離は守りたい。ポートの向きによる違いは、モニタースピーカー5台、机の上の低音はバスレフポートの向きで変わるで詳しく比べている。左右の横の壁からの距離も、ここで改めてそろえておく。
定在波を避けて、座る位置を部屋の真ん中から外す

部屋の中では、向かい合う壁の間を低音が行き来して、特定の周波数だけが強くなったり弱くなったりする場所ができる。これが定在波だ。いちばん強く出る周波数は、音速を壁と壁の距離の2倍で割ると求められる。幅2.7m、奥行き3.6m、天井2.4mの6畳なら、奥行き方向で約48Hzと約95Hz、幅方向で約64Hzと約127Hz、高さ方向で約71Hzと約143Hzが目安になる。どれもベースやキックの基音が集まる帯域だ。
困るのは、この強弱が場所によって大きく違うことだ。たとえば部屋の奥行きのちょうど真ん中では、48Hzの定在波が打ち消し合ってほとんど聴こえなくなる。そこに座ってミックスすると、48Hz付近のベースが足りないと感じて持ち上げすぎ、別の場所で聴くと低音が過剰になる。だから、座る位置は部屋の真ん中を避けたい。
よく使われる目安に、前の壁から部屋の長さの38%の位置に座るというものがある。奥行き3.6mなら、前の壁から約1.37mだ。前の節でスピーカーの前面を壁から30〜40cmに置いたとすると、そこから耳までの距離は約1mになり、正三角形の一辺としてちょうどよい長さに収まる。机の奥行きや椅子の位置で多少前後するのは問題ない。大事なのは、真ん中に座らないことと、後ろの壁に背中を近づけすぎないことだ。
ただ、この38%はあくまで出発点で、部屋ごとに答えは変わる。家具や窓、壁の材質で低音の振る舞いは変わるからだ。最終的には、椅子を10cmずつ前後させて、同じ曲のベースラインを聴き比べるのがいちばん確かだと思う。特定の音だけが急に大きくなる、あるいは消える位置を避け、ベースの音程が上から下まで均等に聴こえる場所を探す。最後の節で触れる測定をすると、この作業はかなり楽になる。
吸音材を足すなら、反射の一次点から順番に

置き方を決めたあとで、ようやく吸音材の出番になる。順番を間違えると、お金をかけたわりに効果が出ないので、ここも順番を決めておきたい。最初に手を付けるのは、反射の一次点と呼ばれる場所だ。スピーカーから出た音が横の壁や天井で一度だけ跳ね返り、直接耳に届く地点のことで、ここからの反射が直接の音に早いタイミングで重なると、定位がぼやけて音像がにじむ。
一次点の見つけ方は簡単で、座る位置に座ったまま、誰かに横の壁に沿って鏡を動かしてもらい、鏡の中にスピーカーが見えた位置が一次点になる。左右の壁で一つずつ、天井で一つ。そこに厚さ5cmから10cmほどの吸音パネルを置くと、定位がくっきりして、左右の広がりが整理されて聴こえるはずだ。賃貸で壁に穴を開けられないなら、スタンドで自立するパネルを壁際に立てる方法がある。
次が低音の対策で、ここで厚さが問題になる。厚さ5cm前後の薄い吸音材がよく効くのは、おおむね数百Hzより上の帯域だ。吸音材が十分に働くには、音の波長の4分の1ほどの厚みが必要になると言われていて、100Hzの波長は約3.4mなので、その4分の1は86cmにもなる。薄い吸音材で壁一面を覆っても、高音だけが吸われて部屋はこもったように聴こえ、問題の低音はそのまま残る。低音には、部屋の角に厚い吸音材を空気層ごと置くベーストラップが向いている。角は定在波の圧力が高まる場所なので、同じ量の吸音材でも効きやすい。
最後に、自分の後ろの壁と天井の残りを考える。後ろの壁からの反射は、座る位置との距離が近いほど問題になる。短い壁に向かって机を置いていれば、後ろの壁までは2m以上あるので、厚めのパネルを数枚置くか、本棚のように凸凹のある家具で反射を散らすだけでも効果がある。部屋そのものの遮音や、吸音との違いについては、賃貸の防音は吸音材では解決しない。遮音との違いと、組み立て式ブースの値段で整理した。
耳だけで決めず、最後に測って確かめる
ここまでの調整は、耳で聴き比べるだけでもかなり進められる。ただ、低音のへこみや膨らみは、聴こえ方の慣れや曲の印象に引っ張られやすい。そこで最後に、部屋の特性を測ってみることをおすすめしたい。必要なのは、無料の測定ソフトのRoom EQ Wizard(REW)と、USBで直接パソコンにつなげる測定用マイクだけだ。測定用マイクは、個体ごとの補正データが付いたminiDSPのUMIK-1などが1万円台から手に入る。
測り方は、マイクを座ったときの耳の位置に上向きで立て、スピーカーから低い音から高い音までをなめらかに上げていく信号を鳴らして、周波数ごとの音の大きさを記録する。グラフを見ると、前の壁の距離で生まれたへこみや、定在波の山と谷がはっきり現れる。スピーカーを5cm壁に寄せる、椅子を10cm下げる、といった変更をするたびに測り直せば、どの変更が効いたのかが数字で分かる。
測定したデータをもとに、補正ソフトで部屋の癖を打ち消す方法もある。SonarworksのSoundID Referenceや、Genelecのスマートモニター向けのGLMがその代表だ。ただし補正は最後の仕上げにしたい。定在波の谷は、音そのものが打ち消し合っている場所なので、そこをイコライザーで持ち上げても埋まらず、スピーカーに負担をかけるだけになる。補正が得意なのは山を削るほうで、谷は置き方と座る位置で避けるしかない。順番を逆にして補正ソフトから始めると、置き方で直せたはずの問題まで抱えたまま、補正の量だけが増えていく。
まとめ
6畳での置き方を、決める順番に並べておく。
| 順番 | 決めること | 6畳での目安 |
|---|---|---|
| 1 | 机の向き | 短い壁に向け、長い方向へ音を飛ばす。左右の壁までの距離をそろえる |
| 2 | 正三角形 | 一辺1〜1.2m、左右30度、ツイーターを耳へ向ける |
| 3 | 高さ | ツイーターを座った耳の高さ(床から約110〜120cm)に。天板に直置きしない |
| 4 | 前の壁との距離 | 壁際に寄せて背面のスイッチで低域を削る。50cm〜1mの中途半端な距離は避ける |
| 5 | 座る位置 | 部屋の真ん中を避け、前の壁から約1.37m(奥行きの38%)を出発点に |
| 6 | 吸音 | 反射の一次点 → 部屋の角のベーストラップ → 後ろの壁の順 |
| 7 | 測定と補正 | REWと測定用マイクで確かめ、補正は山を削る仕上げとして使う |
置き方を変えるのにかかるのは、メジャーと時間だけだ。スピーカーを買い替える前、吸音材を買い込む前に、この順番で一度部屋を組み直してみてほしい。同じスピーカーから聴こえる低音の輪郭が、思っていた以上に変わると思う。
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