ネクタイの結び方には数えきれないほどの種類があるけれど、毎朝の支度で使い分けるのは、せいぜい3つか4つだと思う。どれを選ぶかで迷ったときに頼りになるのは、手順の難しさよりも、結び目がどれくらいの幅と厚みになるかという一点だ。結び目は襟の内側に収まる部品なので、襟の開きと釣り合っていないと、どんなに丁寧に結んでも首元が窮屈に見えたり、逆に間が抜けて見えたりする。

ここでは、プレーンノット、セミウィンザーノット、ウィンザーノット、プラットノットの4種に絞って、それぞれの手順と結び目の形、似合う襟の形、向いている場面を順に整理する。最後に、結び目の下にできるくぼみ(ディンプル)と、結んだあとの長さの決め方にも触れておきたい。

結び目の大きさは、襟の開きで決まる

シャツの襟は、左右の襟先がどれくらい離れているかで、大まかに4つに分けられる。襟先が下を向いて間隔の狭いレギュラーカラー(ポイントカラーとも呼ぶ)、それより少し開いたセミワイドカラー、左右に大きく開いたワイドカラー、さらに水平に近いところまで開いたカッタウェイ。これに、襟先をボタンで身頃に留めるボタンダウンが加わる。

襟先の間が狭いほど、結び目が入る隙間は細く縦長になる。そこに大きな三角形の結び目を押し込むと、襟先が結び目に押されて浮き上がり、首元が詰まって見える。反対に、大きく開いた襟に細い結び目を合わせると、結び目の左右に白いシャツの面が広く残り、ネクタイだけが心細く見えてしまう。結び目の選び方は、この隙間を過不足なく埋めることだと考えると分かりやすい。

もう一つ効いてくるのが、ネクタイそのものの幅と生地の厚みだ。一般的なネクタイは長さがおよそ145〜150cm、大剣(太いほうの端)の幅が7〜9cmほどに作られている。同じ結び方でも、厚手のウールやニットのネクタイで結べば結び目は大きくなり、薄手のシルクなら小さくまとまる。手順の違いで結び目の大きさを変えるのか、ネクタイの厚みで変えるのか。この二つの調整つまみを持っていると思えば、手持ちの数本でも襟との組み合わせを広げられる。

プレーンノット、いちばん速くて小さい基本形

プレーンノットで結んだ無地のシルクのネクタイ
プレーンノット。結び目は縦に長く、左右がわずかに非対称になる。
Photo: Pumbaa80 / CC BY-SA 2.5(Wikimedia Commons)

英語ではフォア・イン・ハンドと呼ばれる結び方で、名前は19世紀後半のロンドンにあった馬車の愛好家の集まり、フォア・イン・ハンド・クラブに由来するという説がよく知られている。4頭立ての馬車を操る御者の手綱さばきから来たという説もあるが、どちらにしても、100年以上にわたって男性の首元を支えてきたいちばん基本の結び方だ。

手順は、大剣を小剣の上に重ねて交差させ、小剣の後ろを通して一周させる。もう一度前を横切らせたら、首元の輪の内側を下から上へくぐらせ、前面にできた帯の中へ上から差し込んで締める。動きが少ないので、慣れれば鏡を見ずに数秒で結べる。

結び目は細めで縦にやや長く、左右が少し非対称になる。この少しの崩れが、かえって肩の力の抜けた印象になるのがプレーンノットのよいところだと思う。消費するネクタイの長さも4種の中では最も少なく、背の高い人でも大剣の先がベルトに届きやすい。

似合うのは、レギュラーカラーとボタンダウン。襟先の間が狭い襟に、細い結び目がすっと収まる。厚手のウールタイやニットタイも、プレーンノットなら結び目が大きくなりすぎない。逆に、ワイドカラーやカッタウェイに薄手のシルクで合わせると、隙間が埋まらず物足りなく見えやすい。

セミウィンザーノット、仕事の場で外さない中間の大きさ

セミウィンザーノットで結んだ無地のシルクのネクタイ
セミウィンザーノット。プレーンノットより幅が出て、逆三角形に近づく。
Photo: Pumbaa80 / CC BY-SA 2.5(Wikimedia Commons)

ハーフウィンザーとも呼ばれ、名前のとおり後で紹介するウィンザーノットの手順を片側だけに省略した結び方だ。考案者ははっきりしないが、背広が仕事着として定着した20世紀の半ば以降に広まったとされる。日本でも、会社勤めの人がいちばん多く使っている結び方の一つだと思う。

手順は、大剣を小剣の上に交差させたあと、小剣の後ろを通して反対側へ回し、首元の輪を上からくぐらせて片側に巻きつける。そこから前を横切らせ、首元の輪を下からくぐらせて、前面の帯に差し込んで締める。片側だけに一巻き加えるぶん、結び目に厚みと幅が出る。

形は、プレーンノットよりひとまわり大きく、ほぼ左右対称の整った逆三角形になる。ウィンザーノットほど大きくはならないので、襟を選ばない万能さがある。レギュラーカラーからセミワイドカラーまでならほぼ問題なく収まり、薄手のシルクならワイドカラーにも合わせられる。

整った形が誠実さや丁寧さを感じさせるので、面接や商談、取引先への挨拶といった、きちんとした印象を優先したい場面にはまずこれを選んでおけば安心だ。左右対称に見えるぶん、結び目が少しでも傾くと目立つので、締める前に鏡で左右の幅をそろえる習慣をつけておくとよい。

ウィンザーノット、大きく開いた襟を埋める正装の結び目

ウィンザーノットで結んだ無地のシルクのネクタイ
ウィンザーノット。両側に巻きつけるので、横幅のある大きな三角形になる。
Photo: Pumbaa80 / CC BY-SA 2.5(Wikimedia Commons)

名前は、1930年代に英国王の座を退いたウィンザー公にちなんでいる。ただ、ウィンザー公本人がこの結び方をしていたわけではないらしい。公の首元の大きな結び目は、芯地を厚くした特注のネクタイをプレーンノットで結んで作っていたもので、普通の厚みのネクタイで同じ見た目を再現しようとして考え出されたのがウィンザーノットだ、という話が伝わっている。名前と実際の由来がずれているところも含めて、ネクタイらしい逸話だと思う。

手順は、大剣を交差させたら首元の輪をくぐらせて片側に巻き、後ろを通して反対側でも同じように巻きつける。両側に一巻きずつ加えてから前を横切らせ、首元の輪を下からくぐらせ、前面の帯に差し込む。動きが多いぶん、使うネクタイの長さも4種の中でいちばん長い。

結び目は大きく、左右対称のしっかりした三角形になる。この大きさが生きるのは、ワイドカラーやカッタウェイのように襟先が大きく開いたシャツだ。レギュラーカラーに合わせると襟先が結び目に押し出され、ボタンダウンとはほぼ噛み合わない。また、厚手のネクタイで結ぶと結び目が膨らみすぎるので、薄手から中くらいの厚みのシルクで結ぶのが無難だと思う。

存在感があり写真にも映えるので、結婚式や式典、改まった会食など、装いの格を上げたい場面に向いている。日常の仕事で毎日使うと少し重たく見えることもあるので、ここぞという日の結び方として取っておくのがちょうどいい。

プラットノット、裏返しから始める対称の結び目

プラットノットで結んだ青いネクタイ
プラットノット。大きさはセミウィンザーに近く、形は左右対称に整う。
Photo: CommieKarlovy / CC0(Wikimedia Commons)

4種の中ではいちばん新しく、知名度も低めの結び方だ。考案したのはアメリカ商工会議所に勤めていたジェリー・プラットという人物で、1980年代の終わりにミネアポリスのテレビ局でニュースを読んでいたドン・シェルビーが番組で締めて広まった。そのため、シェルビーノットという別名もある。

この結び方のいちばんの特徴は、ネクタイを裏返しの状態から始めることだ。縫い目のある裏側を外に向けて、大剣を小剣の下に交差させる。大剣を首元の輪に上からくぐらせて下へ引き出し、前を横切らせたら、首元の輪を下からくぐらせ、前面の帯に差し込んで締める。最初の交差で裏返しになっていた部分は、結び終わると内側に隠れて見えなくなる。

結び目はセミウィンザーと同じくらいの大きさで、左右対称に整う。それでいて手順はセミウィンザーより少なく、消費する長さも短い。背が高くて大剣の先がベルトに届きにくい人や、少し短めに作られたネクタイを使うときに頼れる結び方だと思う。結び目の下にディンプルが自然にできやすいのも、ありがたいところだ。

似合う襟は、セミワイドカラーからワイドカラーまで。セミウィンザーと用途が重なるが、手早く対称の形を作りたい朝には、プラットノットのほうが向いていると感じる。

ディンプルと長さで、結び目の仕上がりが決まる

結び目の下にくぼみを作ったネクタイ
結び目のすぐ下にできたくぼみ(ディンプル)。光の当たり方で立体感が生まれる。
Photo: Wikimedia Commons / CC BY 2.5

どの結び方を選んでも、仕上がりの印象を最後に左右するのは、結び目の真下に作るくぼみ、ディンプルだ。結び目を締める直前に、大剣の中央を人差し指で軽く押し込み、両脇を親指と中指でつまんで谷折りの形を作る。そのまま指を添えて結び目を上へ締め上げると、くぼみが固定される。

ディンプルが一本入るだけで、平らだった大剣に陰影が生まれ、首元が立体的に見える。プレーンノットとプラットノットは比較的作りやすく、ウィンザー系は結び目が大きいぶん少しコツが要る。生地の目が粗いシルクや、ウールの芯地が入ったネクタイはくぼみが崩れにくい。弔事の場ではディンプルを作らないのが一般的とされているので、そこだけは覚えておきたい。

長さの目安は、大剣の先がベルトのバックルに軽くかかるくらい。短すぎると子どもっぽく、長すぎるとだらしなく見える。結ぶ前の段階で大剣と小剣の長さの配分を決めておくのがコツで、使う長さの多いウィンザーノットは大剣側を長めに、少ないプレーンノットやプラットノットは短めに取ってから結び始める。何度か結んで、自分の背丈とネクタイの組み合わせでちょうどよい位置を覚えてしまえば、毎朝の調整がずっと楽になる。

場面と襟から逆算する、4種の使い分け

ここまでの話を、場面ごとに並べ直しておく。

  • 毎日の仕事、ボタンダウンやレギュラーカラーのシャツ:プレーンノット。結ぶのが速く、厚手のネクタイでも結び目が大きくなりすぎない。
  • 面接や商談、きちんとした印象を優先したい日:セミウィンザーノット。整った逆三角形で、多くの襟に収まる。
  • 結婚式や式典、ワイドカラーやカッタウェイのシャツ:ウィンザーノット。大きく開いた襟を、存在感のある結び目で埋める。
  • 背が高い、ネクタイが短めで長さが足りない:プラットノット。対称の形を保ちながら、使う長さを抑えられる。

細身のネクタイを細い襟のシャツに合わせるときは、プレーンノットよりさらに小さい、一巻きだけで仕上げるスモールノットという選択肢もある。

結び方を覚えるときは、手順そのものよりも、結び目がどんな形と大きさになるかを先に頭に入れておくと、シャツを選んだ時点で結び方が自然に決まるようになる。襟の開きを見て結び目を決め、ネクタイの厚みで微調整する。この順番で考えるだけで、首元の収まりはずいぶん変わると思う。

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