曲を流していないのに、モニタースピーカーからブーンという低い音が出続ける。音量のつまみを上げるほど大きくなり、ケーブルを触ると止まったり強くなったりする。制作環境を組んだばかりの頃に、多くの人が一度はぶつかる症状だと思う。
こういうとき、最初に思いつくのは電源タップの買い替えかもしれない。ノイズフィルター付き、オーディオ用とうたう製品はたくさんあり、値段も数千円から数万円まで幅広い。ただ、宅録の机で起きるハムの多くは、電気そのものが汚れているせいではなく、機材のつなぎ方から生まれている。その場合、高いタップに替えても音はほとんど変わらない。
この記事では、ハムノイズの種類と原因を分けたうえで、機材と家電のコンセントをどう分けるか、どこまでがタップで解決できて、どこからがケーブルやつなぎ方の問題なのかを順番に整理する。家の配線を自分で触る話はしない。コンセントの選び方と、机の上でできる範囲の対策だけを扱う。
ブーンとジーは、別の原因から来る
雑音とひとまとめにしがちだが、耳で聞き分けると原因の見当がつけやすい。まず知っておきたいのは、日本の電気には2つの周波数があることだ。静岡県の富士川と新潟県の糸魚川あたりを境に、東日本は50Hz、西日本は60Hzで電気が送られている。明治時代に東京がドイツ製、大阪がアメリカ製の発電機を入れたことがそのまま残っている。
電源から来るうなりは、この周波数とその整数倍の音でできている。東日本なら50Hzを基本に、100Hz、150Hzと重なっていき、西日本なら60Hz、120Hz、180Hzと重なる。低い成分が目立てば「ブーン」、倍音が多く混じれば「ジー」や「ビー」に近い音になる。機材の中の電源回路は交流を整えるときに倍の周波数の揺れを残すので、100Hzや120Hzがはっきり聞こえることも多い。引っ越しで東から西へ移ったら、うなりの高さが少し上がった、ということも起こりうる。
これと性格が違うのが、パソコンまわりから来る「ピー」「チリチリ」という高い音だ。マウスを動かす、画面をスクロールする、重い処理を走らせるといった動作に合わせて音が変わるなら、パソコンの電源やUSBを通って入ってくる雑音を疑ったほうがいい。さらに、冷蔵庫やエアコンが動き出す瞬間の「プツッ」、調光器で明るさを絞った照明から出る「ジジジ」も、また別の経路から来る。音の高さと、何をしたときに変わるかを先にメモしておくと、あとの切り分けがずっと早くなる。
グラウンドループは、コンセントを2つ使うと生まれる

宅録の机でいちばん多いハムの原因は、グラウンドループと呼ばれるものだと思う。仕組みはそれほど難しくない。たとえば、パソコンを机の下の壁のコンセントに、モニタースピーカーを部屋の反対側のコンセントにつないだとする。そのうえで、オーディオインターフェースとスピーカーをケーブルで結ぶと、電気の通り道がぐるりと一周する輪ができる。コンセントから機材へ、機材からケーブルのシールドを通って別の機材へ、そこから別のコンセントを通って家の配線へ戻る、という輪だ。
2つのコンセントのあいだには、配線の長さや流れている電流の違いから、わずかな電位の差がある。その差によって輪の中に小さな電流が流れ、ケーブルのシールドに乗った電流が信号の基準を揺らす。これがスピーカーからブーンと聞こえる。輪が大きいほど、つまり離れたコンセントを使うほど、症状は出やすくなる。
対策の第一歩は、机の上の機材をすべて同じ1本の電源タップにまとめ、そのタップを1つの壁のコンセントからとることだ。パソコン、ディスプレイ、オーディオインターフェース、スピーカー、MIDIキーボードの電源まで、同じタップに集める。こうすると機材どうしのアースの基準が1か所にそろい、輪の中で電位の差が生まれにくくなる。タップの先にさらに別のタップをつなぐ、いわゆるたこ足は避けたい。差し込み口が足りなければ、口数の多いタップに1本で替えるほうがいい。
ノートパソコンを使っている場合は、充電器も疑っておく。充電器をコンセントから抜いてバッテリーだけで動かしたときにハムが消えるなら、充電器とUSBを通る経路が輪を作っている。その場合も、充電器を机の機材と同じタップに差し替えるだけで静かになることが多い。
バランスケーブルは、ハムを打ち消すための線

タップをまとめても残るハムは、ケーブルの種類で減らせることが多い。オーディオのケーブルには、信号を1本の線とシールドで送るアンバランス(TSやRCA)と、同じ信号を向きを逆にした2本の線とシールドで送るバランス(TRSやXLR)がある。バランスでは、受け取る側が2本の線の差だけを取り出すので、途中で両方の線に同じように乗った雑音は打ち消される。ハムはまさに両方の線に同じように乗る雑音なので、この仕組みがよく効く。
いまのオーディオインターフェースの出力と、多くのモニタースピーカーの入力は、どちらもバランスに対応している。それなのに、手元にあったギター用のTSケーブルや、RCAへの変換ケーブルでつないでいると、せっかくの仕組みが働かない。見分け方は簡単で、標準プラグの先端に黒い帯が1本あればTS、2本あればTRSだ。インターフェースからスピーカーまでを、両端TRS、またはTRSとXLRのケーブルに替えるだけで、ハムがほとんど聞こえなくなることもある。
途中にアンバランスの機材を挟むときは、ダイレクトボックスのグラウンドリフトのスイッチが役に立つ。シールドのつながりだけを片側で切り、信号はそのまま通すので、輪を断つことができる。スピーカー側にグラウンドリフトのスイッチを備えた製品もある。電源コードのアースそのものを外して輪を断つやり方は、感電の危険が増えるので勧めない。切るならあくまで信号ケーブルの側だ。
ケーブルの通し方も見直しておきたい。オーディオのケーブルと電源コードを長い距離にわたって束ねると、電源コードのまわりの磁界がオーディオ側に移りやすい。机の裏では、電源は左、オーディオは右というように通り道を分け、どうしても交わるところは直角に交差させる。これだけで雑音の入り口がひとつ減る。
分電盤の回路で、家電と制作機材を分ける

ここからが、機材と家電のコンセントを分けるという本題になる。日本の家の電気は、玄関や廊下にある分電盤から、いくつかの回路に分かれて各部屋へ配られている。分電盤のふたを開けると、小さなブレーカーがいくつも並んでいて、そのひとつひとつが回路にあたる。一般的な分岐ブレーカーは20Aで、100Vなら1回路あたり2,000Wが上限の目安になる。エアコンや電子レンジ、洗濯機は専用の回路を持っていることが多く、普通の部屋のコンセントは、隣の部屋や照明と回路を共有していることが多い。
家電の中には、電源線に雑音を返すものがある。インバーターで回転数を変えるエアコンや冷蔵庫、ドライヤーやヒーターのように電気をたくさん使うもの、調光器で明るさを絞った照明、安価なLED電球の電源回路などだ。動き出す瞬間の「プツッ」という音や、照明を絞ったときの「ジジジ」は、同じ回路に制作機材がつながっていると入り込みやすい。逆に、別の回路にあれば、分電盤を経由するあいだにかなり弱まる。
自分の部屋のコンセントがどの回路にあるかは、分電盤の分岐ブレーカーに貼られた表示で分かることがある。表示が無ければ、作業中のデータを保存してパソコンを落としてから、分岐ブレーカーをひとつずつ切り、どのコンセントの電気が止まるかを卓上ライトなどで確かめるといい。制作机のコンセントが、冷蔵庫や電子レンジのある台所や、ドライヤーを使う洗面所と同じ回路なら、部屋の別の壁のコンセントに移すだけで改善することがある。
回路を新しく増やしたり、コンセントを移したりする工事は、電気工事士の資格がないとできない。持ち家なら電気工事店に相談し、賃貸なら管理会社の許可が要る。ここで扱うのは、いまあるコンセントの中から、どれを制作机に使うかを選ぶところまでだ。
アースと極性は、2つ穴のコンセントでも意識できる

日本の家の居間や寝室のコンセントは、2つ穴でアースの無いものがほとんどだ。アース端子付きのものは、台所や洗面所、エアコンの近くなど、水まわりや大きな家電を置く場所に多い。パソコンやオーディオ機材には3つ足のプラグが付いていることがあり、日本では2つ足へ変える変換アダプターと緑色のアース線が付いてくることも多い。
アースは、機材の筐体に漏れた電気を逃がすための安全のしくみで、ハム対策のためにあるものではない。アース端子のあるコンセントが制作机の近くにあればつないでおき、無ければ変換アダプターで2つ足にして使う。そのとき大事なのは、机の機材をすべて同じタップにまとめておくことで、一部の機材だけを別の場所のアースにつなぐと、それが新しい輪になることがある。アースを取るなら、机全体の基準を1か所にそろえる、という考え方を崩さないようにしたい。
もうひとつ、2つ穴のコンセントにも向きがある。よく見ると左右の穴の長さが違い、長いほうが接地側、短いほうが電圧のかかる側になっている。機材によっては電源プラグの片側に印や白い線が付いていて、接地側に差す向きを示している。向きをそろえることでハムがはっきり変わる場面はあまり多くないと思うが、グラウンドループの対策を一通り終えても残るわずかなうなりが、プラグの向きを変えると小さくなることはある。お金のかからない確認なので、最後に試してみる価値はある。
ノイズフィルター付きタップにできること、できないこと
ここまで来ると、オーディオ用やノイズフィルター付きの電源タップが何をするものかがはっきりしてくる。こうした製品が主に取り除くのは、電源線に乗ってくる高い周波数の雑音だ。家電のスイッチング電源やインバーター、調光器が出す、人の耳に聞こえる帯域よりずっと上の雑音を減らし、そこから機材の中で生まれるチリチリという音を抑える。雷などで電圧が急に跳ね上がったときに機材を守る、雷ガードの機能を持つものも多い。
一方で、50Hzや60Hzのうなりそのもの、つまりグラウンドループから来るブーンには、フィルターはほとんど効かない。原因が電気の質ではなく、機材どうしのつなぎ方にあるからだ。プロ向けの電源機器を作っているメーカー自身も、電源の整理とグラウンドループは別の問題だと説明している。フィルター付きのタップに替えてハムが消えたなら、たいていは、そのときに機材を1本のタップにまとめたことが効いたのだと思う。
それでも、制作机のタップは安いものでよい、というわけではない。日本の電源タップは合計1,500Wまでが一般的な上限で、パソコンとスピーカーとディスプレイくらいなら十分に収まるが、同じタップにドライヤーや電気ストーブを差すとすぐに超えてしまう。選ぶなら、合計の容量が表示され、雷ガードと、ほこりによる発火を防ぐ絶縁キャップ付きのプラグを備えたものが安心だ。プラグの根元にたまったほこりが湿気を吸って火花を出すトラッキングは、机の下のように掃除しにくい場所で起きやすいので、年に何度かはプラグを抜いて乾いた布で拭いておきたい。差し込み口ごとのスイッチは、使わない機材を切っておくのに便利で、音を出すときの電源を入れる順番の管理にも役立つ。
ハムを探すときは、ケーブルを1本ずつ抜く
最後に、ハムが出たときの探し方を順番にまとめておく。闇雲に機材を買い足すより、この順で原因を絞ったほうが早い。
まず、スピーカーにつながるケーブルを、インターフェース側から抜いてみる。それでもハムが続くなら、原因はスピーカー自体か、スピーカーの電源にある。止まるなら、インターフェースより手前のどこかから来ている。次に、インターフェースにつながるケーブルを1本ずつ抜き、どれを抜いたときに音が止まるかを確かめる。ノートパソコンなら充電器を抜き、デスクトップならディスプレイのケーブルやUSBハブを外す。どこか1か所で止まれば、そこが輪の一部だ。
原因の場所が分かったら、効きやすい順に試す。機材を1本のタップにまとめる、アンバランスのケーブルをバランスに替える、電源とオーディオのケーブルの通り道を分ける、グラウンドリフトを使う、プラグの向きを変える。ここまでで、ほとんどのハムは聞こえないくらいまで下がると思う。家電の動作に合わせて出る音だけが残るなら、そこで初めて、別の回路のコンセントへの移動や、ノイズフィルター付きのタップを考えればいい。
あわせて、電源を入れる順番も決めておきたい。入れるときは、パソコンやインターフェースなど音の出どころから先に入れ、モニタースピーカーは最後に入れる。切るときは逆に、スピーカーを最初に切る。こうすると、機材が立ち上がるときのポンという音がスピーカーに届かない。差し込み口ごとにスイッチの付いたタップなら、スピーカーの口を最後に入れるだけで済む。
机の配線全体をどう組むかは、映像編集とDTMを1つの机で兼ねるなら、画面は縦に積んでスピーカーを外へ逃がすでも触れている。スピーカーの置き場所から先に決めたい場合は、モニタースピーカーの置き方、6畳なら机を短い壁に向けるところからも参考になると思う。
まとめ
ハムノイズを減らすために、試す順番と、それぞれで効くものを並べておく。
| 順番 | やること | 効く雑音 |
|---|---|---|
| 1 | 音の高さと、何をしたときに変わるかをメモする | 原因の切り分け |
| 2 | 机の機材を1本のタップにまとめ、1つの壁のコンセントからとる | グラウンドループのブーン |
| 3 | ノートパソコンの充電器を同じタップに差す | USB経由のブーン・ピー |
| 4 | インターフェースとスピーカーをTRSかXLRのバランスケーブルでつなぐ | グラウンドループのブーン |
| 5 | 電源とオーディオのケーブルを分け、交わるところは直角にする | 電源コードからの誘導 |
| 6 | 途中のアンバランス機材にはグラウンドリフトを使う | 残った輪のブーン |
| 7 | 制作机のコンセントを、台所や洗面所と別の回路にする | 家電のプツッ・ジジジ |
| 8 | ノイズフィルターと雷ガード付きのタップを選ぶ | 高い周波数の雑音・落雷 |
| 9 | 2つ穴の長い側を接地側として、プラグの向きをそろえる | わずかに残るうなり |
電源タップは、ハムを消す道具というより、机の機材の基準を1か所にまとめ、安全に電気を配るための道具だと考えると選びやすい。つなぎ方を整えてから最後にタップを選ぶ。この順番を守れば、余計な買い物をせずに、静かな制作机に近づけると思う。