緑色のガラス瓶に赤い星のロゴ、一流レストランのテーブルでよく見かける炭酸水がある。イタリア・ロンバルディア州の小さな温泉町で1899年から作られ続けているサンペレグリノを、隅々まで見ていく。
アルプスの麓、地下400メートルから

サンペレグリノの水源があるのは、ベルガモ県の温泉町サンペッレグリーノ・テルメ。この地の湧き水が薬効で知られるようになったのは13世紀ごろからで、1509年にはレオナルド・ダ・ヴィンチがこの水を調べに訪れ、論考まで残したという逸話が伝わっている。ベル・エポック期には温泉リゾートとして栄え、グランドホテルとカジノが建てられた歴史も持つ町だ。
水は地下およそ400メートルから汲み上げられ、石灰岩や火山岩の地層を通る過程でミネラルを蓄える。ボトリング会社としての創業は1899年、初年度の生産量はわずか35,343本(うち輸出5,562本)というから、今の規模から見れば驚くほど小さなスタートだったことになる。
「天然炭酸」ではあるけれど
サンペレグリノというと「天然の強炭酸」というイメージを持たれがちだが、正確には少し違う。水源そのものはほぼ無炭酸に近い状態で湧き出しており、炭酸ガスは同じ水源の、より深い地層から別途採取したものを精製・貯蔵し、ボトリングの際に改めて注入している。「天然に湧いている泡をそのまま瓶に詰めている」わけではなく、「同じ土地から採れたガスを、人の手で組み合わせている」というのが実態に近い。
ミネラル分はかなり豊富で、カルシウム164mg/L、マグネシウム49.5mg/L、重炭酸イオン243mg/L、硫酸イオン402mg/Lあたりが目立つ数値。日本の輸入元の表記では硬度638mg/Lとされていて、いわゆる超硬水に分類される。pHは水源で7.6、ボトリング後は5.7まで下がるという。
きめ細かい泡と、ミネラルに由来するどっしりとした口当たりが特徴で、ペリエのような鋭い刺激とは方向性が違うと感じる。塩味がうっすら効いていて、酸味は穏やかめ。喉の奥ではなく舌の奥側に効いてくる感覚があり、ここは好みが分かれるところだと思う。
星のロゴと、一流レストランの定番という立ち位置
緑色のガラス瓶は1899年のボトルデザインがベースになっている。フランスのヴィシー風のボトル型を使ったことから、サンペッレグリーノ・テルメが「イタリアのヴィシー」と呼ばれていた歴史にちなむ形だという。赤い五角星のロゴも創業当初からのもので、2003年に一度大きく刷新されている。瓶の首に巻かれた水色のレース模様のラベルは王冠を留めるワイヤーを覆う役割を兼ねていて、肩のラベルにはサンペッレグリーノの街並みとアルプスの稜線が描かれている。
このブランドが強く結びついているのが、一流レストランの世界だ。姉妹ブランドの非炭酸水アクア・パンナとともに「世界のベストレストラン50」のオフィシャルパートナーを長年務めていて、2019年には協賛120周年を同イベントで祝ったほど。ペリエやエビアンと並ぶ存在でありながら「食のプロが選ぶ水」という文脈で語られることが多いのは、このスポンサーシップの積み重ねが大きいのだと思う。
所有関係にも触れておくと、1997年にネスレ(当時のペリエ・ヴィッテル)に買収されるまでは独立系のブランドだった。ここ最近ではさらに動きがあって、ネスレは水・プレミアム飲料事業を「Peranel」として2025年に分社化し、2026年7月には米投資会社プラチナム・エクイティにその50%を売却すると発表している。買収完了は2027年前半の見込みで、サンペレグリノは今まさに所有構造が変わりつつあるブランドということになる。
日本での立ち位置と価格

日本には複数の輸入・卸ルートを通じて入ってきている。ワイン卸の株式会社モトックスが2017年7月から正規輸入元になったと発表しているほか、日仏貿易も自社サイトで取り扱いブランドとして紹介していて、業務用と一般小売とでルートが分かれているような形になっているようだ。
店頭では、レストラン向けにもなじみのあるガラス瓶と、家庭向けのPETボトルの両方が流通している。今回取り上げているPET500ml×24本のケースは、価格.com調べで3,000円台前半、ガラス瓶の同本数だと5,000円台後半〜6,000円台とかなり差があるので、日常使いならPET、少し格を出したい場面ならガラス瓶、と使い分けるのが現実的だと思う。生産終了や仕様変更の情報は見当たらず、2026年時点でも通常通り流通が続いている。
一流レストランの顔として名前が先行しがちなブランドだけれど、中身は「同じ水源のガスを丁寧に組み合わせて瓶に戻す」という、地味だけれど手間のかかる仕事の積み重ねでできている。ミネラルの効いた重めの泡が好みに合えば、割材としても単体でも長く付き合えるタイプの炭酸水だと思う。
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