金属、陶器、そして色ガラス。酒器シリーズもだいぶ素材の幅が広がってきた。今回取り上げるのは、青森の伝統工芸「津軽びいどろ」から、祭りをモチーフにした一組「NEBUTA(ねぶた)酒器セット」。片口と盃のペアで、色そのものが主役になっている道具だと思う。


漁業用の浮き玉から始まったガラス工芸

アデリア 津軽びいどろ NEBUTA 酒器セット
アデリア(ADERIA) 津軽びいどろ NEBUTA 酒器セット(FS71551)Amazonで見る →

津軽びいどろを作っているのは、青森市の北洋硝子株式会社。もともとは1949年創業で、漁業用のガラス製浮き玉(浮き球)を作るメーカーだった。1973年ごろには国内生産量トップになるほど盛んだったというから、当時はかなりの規模だったのだろう。しかしプラスチック製の浮き玉が普及すると需要は一気に縮小していく。その転機に、浮き玉づくりで培った「宙吹き」の技術を食器やインテリアガラスに転用して始まったのが津軽びいどろだった。1977年のことで、1996年には青森県の伝統工芸品指定を受けている。

漁具メーカーが工芸ブランドに転じたという経緯を知ると、この酒器の見え方が少し変わってくる。もとは海で使われる道具のための技術が、今は食卓でお酒を彩るために使われている。素材や用途は変わっても、宙吹きという手仕事の核心は変わっていないというところが面白い。

ねぶた祭りの夜を、8色のガラスに落とし込む

NEBUTAシリーズは、その名の通り青森ねぶた祭りをモチーフにしている。毎年8月2日から7日にかけて開催されるこの祭りは、東北三大祭りの一つに数えられ、竹や木の骨組みに和紙を貼って極彩色に彩色した巨大な人形灯籠を山車に乗せ、夜の街を練り歩く。このセットは、そのねぶたの鮮やかな色彩と、祭りのフィナーレを飾る花火の夜空に映える色合いを、8色の色ガラスで表現したものだという。

津軽びいどろは絵付けを一切しない工芸で、色そのものの発色だけで表現するのが特徴になっている。型を使わない宙吹きの製法上、同じ色ガラスを使っても職人が竿を振るタイミングや溶け具合で模様の出方が微妙に変わる。この「ゆらぎ」が、和紙で作られたねぶた人形の質感とどこか通じるものがあるという説明を見て、なるほどと思った。工業製品のような均一さではなく、一つひとつ表情が違う道具だと捉えるのが正しい向き合い方なのだと思う。

片口250ml、盃85ml — 手のひらに収まるサイズ感

セットの内容は片口(お酒を注ぐための器)1個と盃1個。片口は最大径95mm×高さ95mmで満水容量250ml、盃は最大径74mm×口径74mm×高さ47mmで満水容量85ml、セット全体の重量は約485gとなっている。この数字だけ見ると片口としてはやや小ぶりで、晩酌1〜2杯分をゆったり注ぐのにちょうどいいサイズだと感じる。盃も85mlとおちょこよりは大きめで、ワイングラスのようにゆっくり傾けて色を眺めながら飲む前提の容量に思える。

化粧箱入りで届くので、贈り物として渡してもそのまま様になる。母の日・父の日・還暦祝いといった節目の贈答品として定番的に扱われているのも、このサイズ感と箱の見栄えが効いているのだろう。

熱燗ではなく、冷酒でこそ映える理由

扱い方について一つ大事な注意点がある。このセットは耐熱ガラスではないため、電子レンジや熱湯の使用は不可、食器洗浄機も非対応で手洗いが推奨されている。急激な温度変化に弱いガラスなので、熱燗を注ぐのは避けた方がいい。素直に冷酒用の器として使うのが正解だと思う。

冷酒との相性という点では、このセットはむしろ強みを発揮する。色ガラスは光を通したときに一番きれいに見える道具で、日の光や照明にかざすとグラデーションが浮かび上がる。冷たい日本酒を注いで、氷を思わせる涼しげな色合いと一緒に味わう使い方が、このガラスの発色を最も活かせる飲み方だと感じる。

アデリアというブランドの中での位置づけ

アデリア 津軽びいどろ NEBUTA 酒器セット
アデリア(ADERIA) 津軽びいどろ NEBUTA 酒器セット(FS71551)Amazonで見る →

「アデリア(ADERIA)」は石塚硝子株式会社とそのグループ会社が展開するガラス食器ブランドで、津軽びいどろの指定工場でもある。つまり津軽びいどろは、アデリアという大きなブランドの中の一系統という位置づけになる。シリーズは季節の情景を色ガラスで表現した「四季」、11色を揃える「にほんの色」など幅広く、NEBUTAは祭りと夏をテーマにした一群という立ち位置だ。同じ産地・同じ製法でも、シリーズによって表現したい情景が違うというのが、このブランドの奥行きだと思う。

6,600円という価格を、他のご当地ガラスと比べてみる

片口と盃のセットで6,600円という価格を、他の日本のガラス工芸と並べてみるとどうか。東京の伝統工芸である江戸切子のぐい呑みは5,000円程度から、凝ったものになると数万円台まで幅がある。沖縄の琉球ガラスのぐい呑みは単品で2,000円前後からが相場になっている。この2つと比べると、津軽びいどろのこのセットは江戸切子よりは手を出しやすく、琉球ガラスの単品よりは一段上のレンジに位置する、中価格帯のご当地ガラス工芸品というところに落ち着く。片口と盃の2ピースがセットで、化粧箱まで込みだと考えると、贈答用途では納得感のある価格だと感じる。

2026年9月時点で、公式のオンラインショップでも在庫あり・通常価格で販売されており、廃盤になっている様子はない。落ち着いて選べる現行商品だ。


浮き玉づくりの技術が、祭りの夜を映すガラスに変わった。そういう来歴を知った上で手に取ると、この酒器はただの色つきガラスではなく、青森という土地の記憶を宿した道具に見えてくる。熱燗には向かないという制約はあるけれど、冷たい酒を注いで光にかざす瞬間のために作られたと考えれば、その制約もむしろ潔い。

関連記事: 津軽びいどろ 片口あじさいに写した龍飛崎の紫陽花 · 湿地に咲く白い花を青いガラスに、津軽びいどろ みずばしょう酒器セット