10月も半ばを過ぎると、ジャケットの下に何を着るかで毎朝少し迷うようになる。シャツにネクタイを締めるほど改まった日ではない、かといってTシャツでは首元が寂しい。そういう日にいちばん頼りになるのがタートルネックだと思う。シャツの襟とネクタイという2つの部品を、ニットの首ひとつで置き換えられるからだ。
ただ、タートルネックにジャケットを羽織れば必ず締まって見えるかというと、そうでもない。厚手のニットを着込んで肩まわりが窮屈になったり、首の折り返しがジャケットの襟とぶつかってもたついたりすることもある。うまくいくかどうかは、ニットのゲージの細さ、首の高さ、そしてジャケットの下襟がつくる開きの3つでほぼ決まる。この記事では、タートルネックの成り立ちを短くたどったうえで、この3つを順に見ていき、最後に秋の1週間の着回しに落とし込んでいく。
襟を省いた首元に、何が残るのか

シャツとネクタイの組み合わせは、首元に「襟の角」と「結び目」という2つの山をつくる。ジャケットの下襟はその山を両側から挟むように開いていて、視線は自然と結び目に集まる。スーツの首元が引き締まって見えるのは、この縦に重なった要素がきちんと中心に揃っているからだ。
タートルネックにすると、襟の角も結び目も消える。代わりに残るのは、首を筒のように覆うニットの面と、その両脇を斜めに走るジャケットの下襟の線だけになる。部品が減るぶん、ひとつひとつの見え方が大事になる。ニットの表面がなめらかか、編み目がざっくり見えるか。首の筒がどこまで立ち上がっているか。下襟がどの高さから、どれくらいの角度で開いているか。シャツとネクタイなら細かな違いが隠れてしまうところが、タートルネックではそのまま表に出る。
写真は1967年11月、オランダのアムステルダム市立美術館で開かれた展覧会でのロイ・リキテンスタインだ。首にぴったり沿う細い編みのタートルネックに、杉綾織りのツイードジャケットを重ねている。ニットは平らでつやがあり、ジャケットは織り柄の凹凸が目立つ。この「なめらかなニットと表情のある上着」という対比が、襟もネクタイも無い首元を間延びさせずに見せている。半世紀以上前の写真なのに古びて見えないのは、部品が少ないぶん流行の要素が入り込む余地が小さいからだと感じる。
漁師と船乗りの仕事着から、知識人の黒へ

タートルネックはもともと、身なりを整えるための服ではなかった。19世紀の終わりごろには、漁師や船乗り、港や工場で働く人たち、それにスポーツ選手が着る実用の服として広まっていた。海の上で首から入り込む風を防ぎ、ボタンや襟のような引っかかる部品を持たない。写真の船乗り用のセーターも、首は高く、編み目は太く、腹には手を温めるための大きなポケットが付いている。動きやすさと暖かさだけを考えて作られた形だ。
これが装いとして見直されたのは1920年代のイギリスだった。劇作家で俳優のノエル・カワードがタートルネックを好んで身につけ、首元を開けたシャツが当たり前だった時代に、首を覆うニットを洒落た服として見せた。これをきっかけに、都会の中流層のあいだでも着られるようになったとされている。
20世紀の半ばになると、黒いタートルネックはヨーロッパの哲学者や作家、画家、映画俳優といった人たちと強く結びつく。ネクタイを締める勤め人の装いから一歩外れた、考える人や作る人の制服のような存在になった。1968年の映画『ブリット』では、スティーブ・マックイーンが青いタートルネックに茶色のツイードジャケットを重ね、刑事役でありながらネクタイを締めない姿を印象づけた。その後、スティーブ・ジョブズが三宅一生の黒いタートルネックを毎日のように着続けたこともよく知られている。
仕事着から始まって、知識人の服になり、ジャケットと組み合わせる大人の定番になった。この流れを見ると、タートルネックとジャケットの重ね着が「改まりすぎず、崩しすぎない」位置にある理由が分かる。ネクタイの代わりではあっても、ネクタイと同じ格を背負わされてはいない。そのぶん、ニットの選び方ひとつで印象がかなり変わる。
ゲージは「1インチに並ぶ針の数」で、上着の下では細いほど楽になる

ニットの厚さや編み目の細かさを表すのがゲージという数字だ。編み機の針床に、1インチ(約2.54センチ)あたり何本の針が並んでいるかを示している。針が多いほど1本1本の糸は細く、編み目は小さく、生地は薄くなめらかになる。数字が大きいほど細かい、と覚えておけばよい。
日本の売り場では、おおむね12ゲージ以上を「ハイゲージ」、3〜7ゲージあたりを「ローゲージ」と呼び分けることが多い。写真のように編み目の粒が表面に見えるくらいのものは、その中間からローゲージ寄りにあたる。1枚で着ると温かく、ざっくりとした風合いが魅力だが、ジャケットの下に入れると話が変わる。袖の中でニットが重なってもたつき、腕を曲げるたびに肘の内側に厚みがたまる。肩まわりも盛り上がり、ジャケットの肩線が本来の位置から浮いてしまう。
ジャケットの下に着るなら、ハイゲージのなかでもさらに細いものが向いている。たとえばイギリスのジョン・スメドレーは1784年にダービーシャーで創業した老舗で、いまも工場のある同地のリー・ミルズで、30ゲージのエクストラファインメリノを編んでいる。30ゲージは市販のニットのなかでもかなり細かい部類で、表面はほとんど布のように平らだ。タートルネックの定番「チャーウェル」は、この細い編みで首を二重に折り返した形になっていて、ジャケットの袖にすっと収まる。体に沿う細身の型と、ゆとりのある型が用意されているのも、上着と重ねる前提で作られている証拠だと思う。
そこまで細くなくても、14〜18ゲージくらいの薄手のウールなら、ジャケットの下でほとんど気にならない。逆に7ゲージ前後の厚手を合わせたいなら、肩幅や袖まわりに余裕のある柔らかい仕立てのジャケットか、ジャケットではなくコートや革の上着を選ぶほうが自然に収まる。ニットの厚さを決めてから上着を選ぶ、という順番で考えると失敗が少ない。
首の高さは3種類。折り返すか、立てるか
首の形にもいくつか種類がある。いちばん高いのが、首を長く編んでおいて二重に折り返すタートルネックだ。イギリスではポロネック、あるいはロールネックとも呼ばれる。折り返した状態で顎のすぐ下まで届き、首全体をすっぽり覆う。ジャケットと合わせたときにもっとも「襟の代わり」として働く形で、首元の存在感が強い。
次が、折り返さずに一重で立ち上がるモックネックだ。首の半分から3分の2くらいの高さで止まり、顎との間にすき間が残る。折り返しの厚みが無いぶん首まわりがすっきりして、ジャケットの襟ともぶつかりにくい。首が短めの人や、顎まわりを覆われると息苦しく感じる人には、こちらのほうが合うと思う。最近は国内のセレクトショップでも、ジャケットの下に着ることを前提にしたハイゲージのモックネックが定番として並んでいる。
もうひとつ、首の筒が上に向かって少し広がる形をファンネルネックと呼ぶ。じょうごのような形で、首に沿わずに立つので、ジャケットよりもコートの下で映える。
ジャケットとの相性で考えると、細身でテーラードな上着には折り返しのあるタートルネック、柔らかい仕立てや短めの上着にはモックネック、という使い分けがしやすい。折り返しのタートルネックを選ぶときは、折り返した部分の高さが首の長さの半分を少し超えるくらいに収まるものを選ぶと、顔まわりが詰まって見えにくい。首が長めの人なら、高めの折り返しでもバランスが取れる。
ジャケットの下襟の開きが、ニットの見える面積を決める

首の形が決まったら、次はジャケットの襟を見る。タートルネックと合わせるときに効いてくるのは、下襟がどこから開き始め、どれくらいの角度で広がっているかだ。この開きの大きさが、そのまま首元からのぞくニットの面積になる。
2つボタンのシングルのジャケットは、下襟がちょうど胸の中ほどまで開いて、ほどよい面積のニットを見せる。いちばん合わせやすい形で、迷ったらここから始めればよいと思う。3つボタンの上のボタンを返して2つボタンのように着る段返りの上着も、開きが少し高い位置から始まるぶん、首元が引き締まって見える。逆に、1つボタンや、ボタン位置の低い上着は開きが深くなり、ニットの見える面積が増える。細い編みのタートルネックならきれいに見えるが、厚手だと胸元のニットばかりが目立って重たくなりやすい。
下襟の幅も効いてくる。7〜8センチほどの標準的な幅なら、タートルネックの首の筒と釣り合う。細すぎる下襟だと首元の筒のほうが太く見えて上着が貧相に見え、太すぎる下襟だと首の筒が埋もれてしまう。下襟の付け根の縫い目の高さ(ゴージ)が高い上着は、首の筒との距離が近くなって、全体が縦に引き締まる。
ダブルのジャケットは、前を開けて羽織ると、ゆったりした下襟が首元を大きく縁取って、くだけた雰囲気になる。ボタンを留めると開きが狭くなり、ニットの見える面積が減って、きちんとした印象に寄る。同じ上着でも、留めるか開けるかで場面を選べるのはダブルの便利なところだ。
生地の組み合わせも忘れずに見ておきたい。写真のように畝のはっきりしたコーデュロイや、凹凸のあるツイード、起毛したフランネルには、なめらかなハイゲージのニットがよく合う。表情のある上着と平らなニットという対比が、首元に立体感をつくる。逆に、つるりとした細い番手のウールの上着に、ざっくりした厚手のニットを合わせる組み合わせは、上着とニットの格がちぐはぐに見えやすい。
色は「上着より明るいか暗いか」を先に決める

タートルネックとジャケットの色合わせは、細かな配色理論よりも先に、ニットを上着より明るくするか、暗くするかを決めると考えやすい。
ニットを上着より暗くすると、首元が締まり、全体が落ち着いて見える。濃紺のジャケットに黒のタートルネック、グレーのツイードにチャコールのタートルネック、という組み合わせがこれにあたる。夜の食事や、少し改まった場に向いていて、ネクタイを締めたときに近い緊張感が出る。黒いタートルネックが「知識人の服」と呼ばれてきたのも、この暗い首元が顔をくっきり浮かび上がらせるからだろう。
ニットを上着より明るくすると、首元に光が集まり、顔色が明るく見える。紺やこげ茶のジャケットに、生成りやオフホワイト、薄いグレーのタートルネックを合わせる組み合わせだ。昼間の外出や、柔らかい印象を出したい日に向いている。前の節の写真の、生成りのニットに紺のコーデュロイという組み合わせは、まさにこの明るい首元の例になっている。
上着と同系色でまとめる方法もある。キャメルのジャケットにベージュのタートルネック、グレーの上着に薄いグレーのニット、というように色味をそろえ、明るさだけを変える。色数が減ってまとまりが出るぶん、生地の質感の違いが際立つ。写真のように、キャメルの太いリブ編みに黒い革の上着を重ねると、厚手のニットでも上着の側に張りがあるので、ニットがもたつかずに収まる。厚手のタートルネックを着たい日は、テーラードジャケットにこだわらず、革の上着やコートに切り替えるのもひとつの方法だと思う。
迷ったときの最初の1枚としては、黒、チャコール、生成りの3色のうちどれかを勧めたい。紺、グレー、茶色という定番のジャケットの色のどれとも喧嘩しにくく、明るさの調整だけで場面に合わせられる。
秋の1週間で着回すなら
ここまでの話を、秋のよくある場面に当てはめると次のようになる。
| 場面 | ジャケット | タートルネック | 首の形 | 明るさの関係 |
|---|---|---|---|---|
| 平日の打ち合わせ | 濃紺の2つボタン | 30ゲージ前後の黒 | 折り返しのタートルネック | ニットが暗い |
| 平日の内勤 | グレーのフランネル | 16ゲージ前後のチャコール | モックネック | ニットが暗い |
| ジャケットの日 | 茶色のツイード | ハイゲージの生成り | 折り返しのタートルネック | ニットが明るい |
| 休日の昼 | 紺のコーデュロイ | ハイゲージのオフホワイト | モックネック | ニットが明るい |
| 休日の外歩き | 黒の革ジャケット | ローゲージのキャメル | 厚手のロールネック | 同系の濃淡を外す |
| 夜の食事 | 紺のダブル(前を開ける) | 30ゲージ前後の黒 | 折り返しのタートルネック | ニットが暗い |
平日はハイゲージの暗い色を軸にして、上着の生地で季節感を出す。休日は明るい色のニットに表情のある上着を合わせ、厚手のニットを着たい日は上着を革やコートに切り替える。こう並べてみると、テーラードジャケットの下では細いゲージ、それ以外の上着では厚手も選べる、という線引きがはっきりしてくる。
最初の1枚を選ぶなら、30ゲージに近い細い編みの、黒かチャコールの折り返しのタートルネックを勧めたい。手持ちの紺やグレーのジャケットにそのまま合わせられ、シャツとネクタイの代わりとして平日にも使える。そこに生成りのモックネックを1枚足すと、休日の明るい首元まで一通りそろう。
シャツの襟とネクタイを外すと、首元に残るのはニットの面とジャケットの下襟の線だけになる。部品が少ないぶん、編みの細かさ、首の高さ、襟の開きという3つの選び方がそのまま見た目に出る。気温が下がって上着の生地が厚くなっていく季節に、ニットのほうは細く薄いものを選ぶ。その逆向きの調整が、タートルネックとジャケットの重ね着をきれいに見せるいちばんのこつだと思う。