秋冬のコート選びで迷ったとき、素材や色より先に見ておきたいのが「着丈」と「肩のライン」だ。同じダークカラーのウールコートでも、袖の付き方ひとつで肩のシルエットがまったく変わる。肩から首元まで継ぎ目なくつながるラグラン袖のコートは、どこか緩やかで構えのない印象になり、肩で縫い合わされたセットイン袖のコートは、輪郭がはっきりして装い全体が引き締まる。

今回見ていくのは、トレンチコート、チェスターフィールドコート、バルマカーンコート、ダッフルコート、ピーコートの5型。どれも発祥は19〜20世紀の軍服や作業着にさかのぼる、歴史の長い型だ。それぞれの起源と、着丈・肩のラインの特徴、合わせやすい服を順に見ていく。

トレンチコート — 肩を濡らさないラグラン袖の起源

ベージュのトレンチコートを着た親子が歩道を歩いている様子
ベルトと複数のストラップが軍用コートの名残をとどめるトレンチコート(クリックでAmazonへ)
Photo: musicisentropy / CC BY-SA 2.0

トレンチコートの起源は、19世紀末にトーマス・バーバリーが開発した撥水性の高いギャバジン素材にさかのぼる。第一次世界大戦の塹壕戦で、イギリス陸軍の将校用コートとして正式に採用されたのが「トレンチコート」という名前の由来だ。肩のエポーレット(階級章を留める肩章)、銃の反動を受け止めるガンフラップ、雨を防ぐストームフラップなど、軍服由来の実用的なディテールが今も残っている。

着丈は膝丈が標準で、ウエストのベルトで絞るシルエットが基本形だ。肩のラインはラグラン袖で、肩に縫い目がなく袖が首元まで一続きになっている。これは雨が肩の縫い目から染み込むのを防ぐための設計で、結果として肩まわりに適度なゆとりが生まれ、着膨れしにくい。

合わせやすいのはネイビーやチャコールのスーツで、スリムフィットのスーツの上に着ると全体が洗練された印象になる。カジュアルに崩すなら、チノパンやデニムに合わせても違和感がない。スーツにもカジュアルにも対応できる懐の深さが、トレンチコートが長年定番であり続けている理由だと思う。

チェスターフィールドコート — ベルベットカラーの貴族趣味

20世紀初頭のチェスターフィールドコートを着た紳士のイラスト
ベルベットのカラーとダークトーンの生地が特徴のチェスターフィールドコート(クリックでAmazonへ)
Photo: Unknown author / Public domain

チェスターフィールドコートは、19世紀半ばのイギリス貴族、第6代チェスターフィールド伯爵の名を冠したコートだ。それまでの装飾過多なリージェンシー様式の服装から、よりシンプルで機能的なビクトリア様式への転換期に生まれ、1920〜60年代にかけて紳士の正装コートの定番として定着した。

最大の特徴は、黒ベルベットのカラーだ。紺や黒、チャコールといったダークトーンのウール生地に、襟元だけ異素材のベルベットを合わせることで、落ち着いた中にも華やかさが加わる。着丈は膝丈、肩のラインは通常のセットイン袖で、肩の輪郭がはっきり出るぶん、装い全体がきりっと引き締まる。ボタンは表に出さない比翼仕立てが伝統的な仕立てだ。

フォーマル〜ビジネスフォーマルの装いが主戦場で、ノッチラペルのスーツの上に羽織るのが王道の合わせ方になる。白シャツに黒ネクタイ、コートと同系色の革手袋を添えると、一段階フォーマル度が上がる。カジュアルに寄せる余地はあまりなく、どちらかというと「ここぞ」という日のためのコートだと思う。

バルマカーンコート — スコットランド発のゆるい防水仕立て

シンプルな襟のバルマカーンコートがハンガーに掛けられている
装飾を削ぎ落としたシンプルな襟もとが特徴のバルマカーンコート(クリックでAmazonへ)
Photo: 神奈義忠 / CC BY-SA 3.0

バルマカーンコートは、19世紀後半のスコットランド、インバーネス近郊のバルマカーンという地名が由来とされるコートだ。ふくらはぎまで届くロング丈と、プロイセン風の立ち襟、大きなスラッシュポケットを特徴とし、ツイードやギャバジンといった実用的な生地で作られることが多い。

肩のラインはトレンチコートと同じくラグラン袖で、肩に継ぎ目がない。これにより水の浸透を防ぎつつ、腕を大きく動かしても生地が突っ張らない。チェスターフィールドコートがかっちりした印象なのに対し、バルマカーンコートは全体にゆったりとしたシルエットで、肩の力が抜けたカジュアルな雰囲気になる。

5型の中でもっともカジュアルに振れる型で、厚手のセーターやデニムジャケットの上に軽く羽織るような着方が似合う。ジーンズやコーデュロイのパンツ、ブーツとの相性もよく、かっちりしたスーツよりも、普段着の延長線上で使いたいコートだと思う。

ダッフルコート — 手袋のまま留められるトグルボタン

グレーのウールダッフルコートがハンガーに掛けられ、トグルボタンが見える
革ひもとトグルで留める独特の前立てがダッフルコートの目印(クリックでAmazonへ)
Photo: Peachyeung316 / CC BY-SA 4.0

ダッフルコートは、1850年代にイギリスの製造業者ジョン・パートリッジが開発し、1890年代にイギリス海軍が採用したのが始まりとされる。第二次世界大戦中、フィールドマーシャル・バーナード・モンゴメリーが愛用したことから「モンティコート」という愛称でも知られるようになった。

もっとも特徴的なのは、木製またはホーン製のトグルを革ひものループに通して留める独自の留め具だ。極寒の甲板で手袋をしたまま着脱できるように考案された実用的な仕組みで、見た目のかわいらしさとは裏腹に、かなり機能性を突き詰めた設計になっている。厚手のウール生地、大きめのフード、膝上丈というボリューム感も、防寒着としての出自を物語っている。

肩のラインはセットイン袖で、肩の輪郭ははっきり出る。5型の中でもっともカジュアルな部類に入り、生成りのデニムや厚手のセーター、ブーツと合わせるのが定番だ。タートルネックのセーターにスラックスを合わせれば、ビジネスカジュアルの範囲にも寄せられる。

ピーコート — 甲板のロープに引っかからないダブル前立て

ネイビーのダブルブレストのピーコートを着用している様子
錨のボタンとダブルの前立てが特徴のピーコート(クリックでAmazonへ)
Photo: Kris Karlov / CC0

ピーコートの起源はさらに古く、17世紀のオランダの船員服にさかのぼる。「pij」という粗い厚手の布を指すオランダ語が名前の由来とされ、1857年にイギリス海軍が水兵用の制服として正式採用したことで広まった。前立てをダブルブレストにしたのは、甲板上のロープや作業具がボタンに引っかかりにくいようにという実用上の理由からだ。

厚手のメルトン素材、大きめのウッドボタンまたはメタルボタンが2列に並ぶダブルブレスト、膝上の短めの丈が基本形になる。肩のラインはセットイン袖で、肩の輪郭がしっかり出るぶん、短い着丈でもだらしなく見えない。5型の中では、もっとも幅広いシーンに対応できる万能選手だと思う。

スーツの上に着る場合は、コートとスーツの色をできるだけ揃えるのが基本マナーとされる。カジュアルに崩すなら、デニムにセーター、タートルネックにスラックスといった組み合わせが定番だ。短い着丈ゆえにボトムスのシルエットがそのまま見えるので、下に合わせるパンツの形には少し気を配りたい。

まとめ

型起源着丈肩のライン合わせやすい服
トレンチコート英国陸軍(WWI)膝丈ラグラン袖スーツ、チノパン
チェスターフィールドコート英国貴族(19世紀)膝丈セットイン袖フォーマルスーツ
バルマカーンコートスコットランドロング丈ラグラン袖セーター、デニム
ダッフルコート英国海軍膝上丈セットイン袖デニム、ブーツ
ピーコート英国海軍(水兵服)膝上丈セットイン袖デニム、スーツ

それで、結局どれを選べばいいのか

一着だけ選ぶなら、スーツにもカジュアルにも対応できるトレンチコートかピーコートが使い勝手がいい。フォーマルな場面が多いならチェスターフィールドコート、普段着中心でゆったり着たいならバルマカーンコート、防寒性と実用性を優先するならダッフルコートが向いている。

着丈と肩のラインという2つの軸さえ押さえておけば、色や素材で迷ったときも「このコートはどういう場面のために作られた型なのか」という判断基準に立ち返りやすくなる。自分の生活圏で着る頻度が高いシーンを思い浮かべながら、5型を見比べてみてほしい。

もう一つ覚えておきたいのは、どの型も元をたどれば軍服や作業着という実用品から生まれているという点だ。エポーレットもトグルボタンもダブルの前立ても、見た目のデザインである以前に、戦場や甲板という過酷な環境で機能するために考え出された仕組みだった。その機能美が時代を経て街着として定着し、今も色あせずに残っている。コートを選ぶときに、そうした成り立ちを少し意識してみると、同じ一着でも見え方が変わってくると思う。

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