KEITH 純チタン おちょこは、白酒のために生まれた旅する盃

錫、ガラス、と続けて器を見てきたところで、今回は毛色の違う一客を取り上げる。KEITHのチタン製おちょこ「Ti9304」。もともとは中国の白酒(バイジュウ)用に設計されたショットグラスだが、日本酒のおちょことして使う前提で眺めていく。 金型製造から始まったチタン専業ブランド KEITH 純チタン おちょこ 酒器 2個セット(Ti9304)Amazonで見る → KEITHは中国広東省仏山(フォシャン)を拠点とするメーカーで、正式には「Foshan KEITH Titanium Co., Ltd.」という。創業者Liu Minye氏が2001年にプレス金型の設計・製造業として立ち上げ、2004年に高級キッチン用品の分野へ進出、2005年からチタン製品の設計・開発・製造を本格的に始めたという経歴を持つ。2016年に法人名を「Keith Titanium Inc.」に改め、以後はチタンマグ・水筒・クッカー・カトラリー・弁当箱・茶器といった製品群を、アウトドア・登山・旅行・家庭用と幅広いカテゴリで展開している。ISO 9001:2015認証を取得したメーカーで、公式サイトのスローガンは「内なる探検家を解き放て」。金属加工の下請けからスタートし、チタンという素材一本で自社ブランドを築いてきた会社だと思う。 日本には2024年6月から株式会社YOCABITOが正規代理店として参入しているが、取扱ラインナップを見る限り主力はチタン製スキットルやカトラリー類で、このTi9304おちょこセットは正規代理店の取扱品としては見当たらなかった。Amazon.co.jpで流通している分は並行輸入品の可能性が高そうで、その点は購入前に頭に入れておいた方がいい。 逆さ台形のフォルムと、10mlという潔い容量 Ti9304は1個10ml、2個セットで構成されている。サイズは1個あたり約50×40×31mm、重量は約18.5g。すり鉢を逆さにしたような台形のシルエットで、底に向かって細くすぼまる形状が手のひらに収まりやすい。材質はグレード1の純チタンで、表面はマットな梨地仕上げ。ステンレスのような鏡面の華やかさはないが、金属というより石か鉱物のような落ち着いた質感がある。 10mlという容量は、日本酒のおちょことしてはかなり小ぶりな部類に入る。もともとは白酒をきゅっと飲み切る前提のショットグラスとして設計されているためで、日本酒用に転用するなら「ちびちび飲む晩酌用」というより「利き酒的に一口ずつ試す」用途の方がしっくりくる。 チタンという金属が酒器に向いている理由 チタンが酒器の素材として選ばれる理由は、表面に瞬時にできる酸化皮膜(不動態被膜)にある。この膜が内部を保護するため、通常の飲食用途で錆びることはまずない。金属イオンの溶出もほとんど起きず、万一溶出してもすぐに酸化して無害化される性質から、医療器具にも使われるほど生体適合性が高い金属だとされている。 個人的に面白いと思うのは、金属特有の匂いがほとんどしないという点だ。鉄を含むステンレスと違い、純度の高いチタンは無味無臭に近い金属だと言われていて、日本酒の繊細な香りを邪魔しにくい。比重もステンレスの6割程度と軽く、割れる心配もない。陶器のような手に伝わる温もりや、錫特有の「酒がまろやかになる」という体感的な効能は無いけれど、道具としての気安さでは頭ひとつ抜けている素材だと感じる。 陶器・ガラス・錫と比べたときの立ち位置 酒器の素材にはそれぞれ得意分野がある。陶器は熱をゆっくり伝えて燗酒に向き、ガラスは冷酒の涼しげな見た目を演出し、錫は熱伝導の良さで燗の温度変化を素早く伝える。チタンはこのどれとも違う立ち位置にいる。熱伝導率は低めで、熱燗を注いでも外側が瞬時に熱くなることはないが、陶器のようにじっくり温度を保つ保温力があるわけでもない。どちらかというと「温度に対して鈍感」という表現の方が近い。 Ti9304は単層(シングルウォール)構造なので、熱いお酒を注げば時間とともに外側にも熱が伝わってくる。スノーピークの「お猪口 Titanium」のような二重構造(ダブルウォール)モデルと比べると、この点でのやけど耐性は一歩譲る。その代わり構造がシンプルな分、価格は抑えめで、容量も10mlとコンパクトにまとまっている。 本領を発揮するのはアウトドアの食卓 チタン酒器の強みが最も生きるのは、屋内の晩酌よりもキャンプや登山の食卓だと思う。割れない、軽い、匂い移りしにくい、という三拍子は、荷物を絞り込みたいアウトドアの場面でこそ効いてくる。実際、キャンプ道具を扱うメディアでも日本酒とチタン酒器の組み合わせがたびたび紹介されている。家で使うにはやや簡素な見た目だが、外に持ち出す前提で見ると納得感のある道具だ。 熱燗・冷酒のどちらにも対応できる懐の広さも美点で、陶器やガラスのように用途を選ばない。ただし雰囲気作りという点では、装飾性のある陶器や漆器には及ばない。あくまで実用一辺倒の道具として割り切って使うのが向いていると思う。 価格と入手性 — 並行輸入の可能性も踏まえて KEITH 純チタン おちょこ 酒器 2個セット(Ti9304)Amazonで見る → KEITH公式サイトではTi9304は現行商品として販売されており、生産終了の様子はない。価格は米国の公式ストアで19ドル前後、Amazon.co.jpでは3,000円前後で取り扱われている。前述の通り日本の正規代理店の取扱リストには含まれていないため、国内で流通している分は並行輸入品とみて差し支えないだろう。正規保証や日本語サポートを重視するなら、その点は割り引いて考えた方がいい。 同ブランドには角型のチタンスキットルなど、同じ質感でまとめられる酒器周辺のアイテムも揃っている。おちょこ単体で試してみて気に入ったら、携行用のフラスコを合わせるのも面白そうだ。 白酒用のショットグラスとして生まれた道具を、日本酒のおちょこに読み替える。素材の素性から考えれば無理のある転用ではなく、むしろ「金属が主張しない」というチタンの美点がそのまま活きる組み合わせだと思う。家の食卓よりも、荷物を切り詰めたい旅先やキャンプ場でこそ本領を発揮する一客だ。 関連記事: BODUM DOUROを徳利として使う、ドウロ渓谷のぶどう畑を写した形 · 温度を止める徳利、ピーコックの真空二重構造 酒器セット · 曲がる錫が酒をやわらげる、能作 本錫100%酒器セット

2026年9月19日 · 1 分 · 52 文字 · kingsworksub-jpg