カナディアンウイスキー4本、ライ麦が少なくても「ライ」と呼ばれる造りを飲み分ける
カナダのウイスキーを頼むとき、現地では「ライをください」と言えば通じるそうだ。ところが、そのグラスに注がれる酒の原料を調べてみると、ほとんどがトウモロコシでできている。ライ麦はほんの少し、銘柄によってはひと握り程度しか入っていない。それでも呼び名は「ライ」のまま、ラベルにも堂々と「カナディアン・ライ・ウイスキー」と書かれていたりする。 アメリカのライウイスキーなら、ライ麦が原料の51%以上という決まりがある。カナダにはその下限がない。この食い違いが気になって、カナディアンウイスキーの造り方を順にたどっていくと、ほかの国のウイスキーとはずいぶん違う考え方に行き当たった。原酒を一種類ずつ別々に蒸溜して別々に寝かせ、最後に組み合わせる。この「分けて造る」発想が、軽くて飲みやすいという定評の正体であり、同時に「ライ」という呼び名が生き残った理由でもあるように思う。 ここでは、まず名前と法律と製法を整理してから、性格の違う4本を並べる。いちばん身近なカナディアンクラブ、王室の訪問のために生まれたクラウンローヤル、ライ麦100%を単式蒸溜器で造るロット40、同じくライ麦100%なのに穏やかなアルバータ・プレミアム。評価は、軽さ・ライ麦のスパイス・甘さの厚み・割っての伸び・日本での入手性という5つの軸で整理した。 ライ麦の比率に下限がないのに、なぜ「ライ」なのか カナディアンクラブの12年。ラベルには「カナディアン・ウイスキー」とだけあるPhoto: User SElephant on zh.wikipedia / CC BY-SA 3.0 話は19世紀のはじめまでさかのぼる。当時、カナダでウイスキーを造っていたのは、多くが製粉業者だった。小麦を挽いて粉にし、余った穀物や売り物にならない屑を発酵させて蒸溜する。原料はもっぱら小麦で、できあがる酒はおとなしく、香りも淡いものだったらしい。 そこへ、ドイツやオランダから移ってきた人たちの好みが持ち込まれる。彼らは故郷でライ麦のパンや酒に親しんでいて、小麦の仕込みにライ麦を少しだけ混ぜることを覚えた。ほんの少しでも、ライ麦は香りの印象を大きく変える。胡椒のような刺激、乾いた香ばしさ、パンの皮のような風味。この味つけをした酒が評判になり、客は「あのライ麦の入ったやつ」を求めるようになった。こうして「ライ」という言葉が、カナダのウイスキーそのものを指す呼び名として定着していった。 その後、主原料は小麦からトウモロコシへと移っていく。トウモロコシのほうがアルコールを効率よく取れるからだ。けれど、ライ麦で香りをつけるという習慣は残り、呼び名もそのまま残った。いまのカナダの規則では、「カナディアン・ウイスキー」「カナディアン・ライ・ウイスキー」「ライ・ウイスキー」の三つが同じ意味の名称として認められている。ライ麦が何%入っていなければならない、という決まりはどこにもない。つまり「ライ」は原料の比率を示す言葉ではなく、歴史が残した愛称のようなものなのだ。 アメリカでライを名乗るにはライ麦51%以上が必要なので、同じ単語がまったく違う意味で使われていることになる。カナダの棚で「ライ」と書かれたボトルを見たら、原料の配合を示す言葉ではないと思っておいたほうがいい。もっとも、後で触れるように、本当にライ麦だけで造っている銘柄もあるので、話はそう単純でもない。 ベースとフレーバーを、別々に造ってから合わせる カナディアンウイスキーの造り方でいちばん特徴的なのは、原酒を一種類ずつ分けて造ることだ。スコッチのブレンデッドも複数の原酒を合わせるが、カナダの場合は一つの蒸溜所の中で、穀物ごと、蒸溜方法ごとに別々の原酒を仕込み、別々に熟成させ、最後に組み合わせるのが基本になっている。 組み合わせる原酒は、大きく二つの役割に分かれる。ひとつは「ベースウイスキー」。主にトウモロコシを原料に、連続式蒸溜機で高い度数まで蒸溜した原酒で、香りは軽く、味もすっきりしている。これを使い古した樽で寝かせることが多いので、樽の味も控えめに乗る。量としては製品の大部分を占め、土台として全体を支える役目を持つ。 もうひとつが「フレーバリングウイスキー」。ライ麦や大麦麦芽、ときにはトウモロコシも使い、低めの度数で蒸溜して、穀物の香りをたっぷり残した原酒だ。新しい樽や焼きを入れた樽で熟成させることもあり、こちらが香りと味の個性を受け持つ。ライ麦の刺激を持ち込むのは、主にこのフレーバリングの側である。 この二つを熟成後に合わせることで、作り手は配合を自由に調整できる。軽さを保ったまま香りだけを足したり、同じ原酒の比率を変えて別の銘柄を作ったり。ひとつの蒸溜所の中に、スコッチでいえば何十もの蒸溜所ぶんの原酒の幅を持てるのが強みだと思う。カナディアンウイスキーが「軽くて飲みやすい」と言われるのは、ベースの比率が高く、香りの強い原酒を少しずつ足していく設計だからで、香りが乏しいからではない。 ただし、これはあくまで多数派のやり方だ。今回取り上げるカナディアンクラブは、この逆をいく。原酒を樽に入れる前に合わせてしまい、混ぜた状態で一緒に寝かせる。同じカナダの中に、まったく違う考え方の作り手が並んでいるのも面白いところだ。 3年熟成と9.09%、法律が許していること カナダの規則が定めるカナディアンウイスキーの条件は、意外と簡潔だ。穀物から造り、カナダ国内で糖化・蒸溜・熟成を行うこと。容量700リットル以下の木樽で3年以上熟成させること。度数は40%以上で瓶詰めすること。そしてカナディアンウイスキーらしい香りと味を持っていること。 ここで面白いのは、カラメルや香味づけを加えてもよいと明記されている点だ。スコッチでは色の調整に使うカラメル以外は認められていないので、この自由度の差は大きい。 なかでもよく話題になるのが、いわゆる「9.09%ルール」である。カナディアンウイスキーには、ほかの蒸溜酒やワインを全体の9.09%まで加えてよい、という決まりがある。加える蒸溜酒は2年以上樽で熟成させたものでなければならない。9.09という半端な数字は、11分の1にあたる。つまり、ウイスキー10に対して1までなら別の酒を足してよい、という考え方だ。この数字はアメリカ側の税制の事情と結びついて生まれたと言われているが、はっきりした経緯ははっきりしない部分も残っている。 実際に、この枠を使ってバーボンやシェリー、ワインを少量加えた銘柄も造られている。ずるいと見るか、表現の幅と見るか。ここは好みが分かれそうだが、私は後者だと受け止めている。ベースとフレーバーを別々に造り、最後に組み立てるという発想の延長に、ほかの酒も素材として使える余地が用意されている。カナディアンウイスキーは、最初から「組み立てる酒」として設計されているのだと思う。 前置きが長くなったが、この三つ、つまり呼び名と製法と法律を頭に入れたうえで、4本を見ていく。 カナディアンクラブ、樽に入れる前に混ぜるという例外 首に創業年の1858が入ったカナディアンクラブの定番ボトルPhoto: Chris Woodrich / CC BY 4.0 / Amazonで見る → カナダのウイスキーと聞いて、日本でまず思い浮かぶのはこの銘柄だろう。ハイラム・ウォーカーが1858年、デトロイト川を挟んでアメリカと向かい合うオンタリオ州ウォーカーヴィルで蒸溜所を開いたのが始まりで、いまはサントリーの傘下にある。日本でもサントリーが扱っていて、700mlの定番品はどこの酒屋でも見かける。 もとは「クラブ・ウイスキー」という名前で、紳士のクラブで飲まれる上等な酒という触れ込みだった。これがアメリカで売れすぎたために、地元の蒸溜業者が反発し、輸入品であることを明示させる動きが起きる。そこで名前に「カナディアン」がついた。国名を背負わされた結果、それがそのままブランドになったというのは、なかなかしゃれた成り行きだと思う。 造りの面でいちばんの特徴は、先に書いたとおり、原酒を樽に入れる前に混ぜてしまうことだ。トウモロコシを連続式で蒸溜したベースと、ライ麦やライ麦麦芽、大麦麦芽を使ったフレーバリングを、新しい原酒の段階で合わせ、バーボンに使った白樫の樽で一緒に熟成させる。カナダの多数派とは逆の順番である。熟成の途中で原酒どうしが馴染むので、角の取れた一体感が出やすい。そういう狙いだと理解している。 度数は40%、日本の定番品には熟成年数の表示がない。香りはバニラとカラメル、そこに穀物の甘さと、ほんのりとしたオーク。口に含むと軽く、甘さがさらりと広がって、ライ麦の刺激は最後にわずかに顔を出す程度だ。余韻は短く、すっと引いていく。これだけ聞くと物足りなく思えるかもしれないが、ハイボールにしたときの伸び方は見事で、炭酸で割っても味が痩せない。価格もサントリーの希望小売価格で税抜1,680円と手ごろだ。 同じシリーズには12年熟成のクラシックもあり、こちらは同じ40%でも甘さとオークがぐっと厚くなる。定番の軽さに物足りなさを感じたら、次の一本として手に取るといいと思う。 軽さ:5 / ライ麦のスパイス:2 / 甘さの厚み:3 / 割っての伸び:5 / 日本での入手性:5 クラウンローヤル、王室の訪問のために組まれた50の原酒 コニャック樽で仕上げた派生品のカスクNo.16。王冠の意匠は定番品と共通Photo: Flickr user: @joefoodie / CC BY 2.0 / Amazonで見る → 1939年、イギリス国王ジョージ6世と王妃がカナダを訪れることになった。君主がカナダの地を踏むのはこれが初めてで、当時のシーグラム社はこの訪問のために特別なウイスキーを用意した。それがクラウンローヤルの始まりである。王冠をかたどったボトルを紫の布袋に収めるという演出も、このときから続いている。贈り物として設計された酒らしい、華やかな出自だと思う。 ...