ハイボールの泡は注ぐ前に決まっている。炭酸水の強さ、液温、氷の表面で変わる口当たり
家でハイボールを作ると、最初のひと口はよくても、半分ほど飲んだところで泡が弱くなり、ただの薄いウイスキーの水割りのようになってしまうことがある。お店で飲む一杯は最後まで細かい泡が立ち続けているのに、何が違うのか。使っているウイスキーや炭酸水の銘柄が同じでも、この差は生まれる。原因の多くは、注ぐ前の準備、つまりグラスの中の温度と、氷の表面の状態にある。この記事では、炭酸の「強さ」を表すガスボリュームという単位、温度によって二酸化炭素(にさんかたんそ)の溶けやすさがどれだけ変わるか、氷がなぜ泡の出口になってしまうのかを数字で確かめ、そのうえで泡を最後まで残すための手順をまとめる。 先に結論、泡の持ちを左右する3つの条件 グラスに注いだ炭酸水を真上から見たところ。泡は液体の真ん中ではなく、壁や底に付いて育つPhoto: BrunoBrunan from Brasil / CC BY 2.0 最初に、この記事の結論を表にしておく。ハイボールの口当たりを決める要素はいくつもあるが、泡の細かさと持ちに直接効くのは、炭酸水そのものの強さ、グラスの中の温度、そして氷の表面の3つだ。表の数値のうち、二酸化炭素の溶ける量は1気圧の二酸化炭素に触れている純水での値で、ガスボリュームは飲料業界で使われている一般的な換算による。 条件 泡が抜けやすい状態 泡が残りやすい状態 目安となる数字 炭酸水の強さ ガスボリューム2.5前後の弱めの炭酸水 強炭酸をうたう炭酸水 1ガスボリュームは1Lあたり約1.96gの二酸化炭素 液温 常温のウイスキー、ぬるい炭酸水 ウイスキー・炭酸水・グラスをすべて冷やす 二酸化炭素の溶ける量は0℃で約3.35g/L、20℃で約1.69g/L 氷の表面 霜が付いた小さな氷、砕いた氷 大きくて表面がなめらかな透明の氷 氷の表面積が小さいほど泡の出口が少ない 混ぜ方 何度もかき混ぜる、炭酸水を氷に当てる 氷とグラスのすき間に注ぎ、縦に1回だけ混ぜる ウイスキー1に対して炭酸水3〜4 この表から言えるのは、炭酸の強い炭酸水を買ってくるだけでは足りないということだ。強い炭酸水でも、20℃近いグラスに注げば溶けていられる二酸化炭素の量はおよそ半分になり、霜の付いた氷に勢いよく当てれば、その場で泡になって逃げていく。逆に、炭酸の強さが中くらいの炭酸水でも、温度と氷を整えれば、最後のひと口まで泡はかなり残る。以下で、それぞれの理由を順に見ていく。 炭酸水の「強さ」はガスボリュームという単位で表す 強炭酸をうたうウィルキンソン タンサン。原材料は水と二酸化炭素だけPhoto: Verseau / CC BY-SA 4.0 炭酸の強さは、飲料業界ではガスボリューム(gas volume、GVと略す)という単位で表されることが多い。これは、液体1Lの中に、0℃・1気圧に換算して何Lぶんの二酸化炭素が溶けているかを示す数字だ。0℃・1気圧の二酸化炭素1Lの重さはおよそ1.96gなので、1ガスボリュームは「液体1Lあたり約1.96gの二酸化炭素」と言い換えられる。4ガスボリュームなら1Lあたり約7.8g、3ガスボリュームなら約5.9gになる。 一般的な目安として、ソーダ割り用のクラブソーダやトニックウォーターは2.5〜3.5ガスボリューム、コーラのような炭酸の強い清涼飲料は3.5〜4ガスボリューム前後とされる。日本で売られている炭酸水の多くは、ガスボリュームの数値をラベルに書いていない。たとえば宝塚の鉱泉から始まったウィルキンソン タンサンは、製造元のアサヒ飲料が「強炭酸」として売り出しているが、具体的なガスボリュームは公表していない。数字が分からないので、この記事では銘柄ごとの順位付けはせず、「強炭酸をうたうもの」と「そうでないもの」という大まかな分け方にとどめる。 ここで押さえておきたいのは、ハイボールにした時点で炭酸は必ず薄まるということだ。ウイスキー1に対して炭酸水4で割ると、グラスの中の液体のうち炭酸水は5分の4、つまり80%になる。仮に4ガスボリュームの炭酸水を使い、注ぐときに1つも泡を逃がさなかったとしても、グラスの中は約3.2ガスボリューム(1Lあたり約6.3g)まで下がる計算だ。1対3で割れば炭酸水は75%で、約3ガスボリュームになる。ウイスキーには炭酸が一切入っていないので、割る比率を濃くするほど、グラス全体の炭酸は弱くなる。 つまり、強炭酸の炭酸水を選ぶ意味は、「割ったあとにどれだけ余裕を残せるか」にある。2.5ガスボリュームの炭酸水を1対4で割ると、理論上でも2ガスボリュームしか残らない。ここから注ぐときの損失や、時間とともに抜けていく分を差し引くと、最初のひと口から泡が弱く感じられるのも無理はない。ハイボールで強炭酸の炭酸水が好まれるのは、ウイスキーで薄まる分を最初から見込んでいるからだと考えると分かりやすい。 冷たいほど二酸化炭素は溶けていられる、0℃と20℃でおよそ2倍 霜で白く曇るほど冷えたジョッキで出された日本のハイボール。グラスごと冷やすと液温が上がりにくいPhoto: Kentin / CC BY-SA 4.0 炭酸の強さと並んで泡の持ちを左右するのが、温度だ。気体が液体に溶ける量は、液体に触れている気体の圧力に比例し(ヘンリーの法則)、同じ圧力なら温度が低いほど多く溶ける。二酸化炭素の場合、1気圧の二酸化炭素に触れている水1Lに溶ける量は、0℃で約3.35g、10℃で約2.32g、20℃で約1.69gだ。0℃と20℃では、溶けていられる量がおよそ2倍違う。 水温 溶ける二酸化炭素の量(1気圧) 0℃を100としたとき 0℃ 約3.35g/L 100 10℃ 約2.32g/L 約69 20℃ 約1.69g/L 約50 この表と、さきほどのガスボリュームを並べると、炭酸の泡が出てくる理由が見えてくる。炭酸水は、工場で高い圧力をかけて二酸化炭素を押し込み、ふたで閉じ込めた飲み物だ。栓を開けて1気圧の空気に触れた瞬間から、液体は「溶けすぎた」状態になり、余った二酸化炭素が泡となって外へ出ようとする。グラスの中が約6.3g/L(3.2ガスボリューム)のハイボールなら、0℃で溶けていられる量の約1.9倍、20℃では約3.7倍の二酸化炭素を抱えていることになる。この「溶けすぎ」の度合いが大きいほど、泡は勢いよく、早く抜けていく。 ...