グレンチェックと千鳥格子を重ねてよいのはどんなときか、柄の大きさと色数で見分ける
秋になってツイードやフランネルの上着を出すと、柄物どうしを合わせたくなる場面が増える。グレンチェックのスーツに千鳥格子のネクタイを締めてみる、千鳥格子のジャケットに縞のシャツを入れてみる。ところが、鏡の前に立つと妙にうるさく見えたり、逆に柄がつぶれて何を着ているのか分からなくなったりする。無地のネクタイに替えると落ち着くので、結局いつも同じ組み合わせに戻ってしまう。 柄合わせには「柄は2つまで」「同じ種類の柄は重ねない」といった言い回しがたくさんあるが、覚えるほど迷いが増える気がしている。そこでこの記事では、判断の軸を2つだけに絞る。ひとつは柄の大きさ、もうひとつは色数だ。グレンチェックと千鳥格子という、秋冬にいちばん出番の多い2つの柄を例に、まず織りの仕組みと成り立ちを見て、そのうえで2つの軸をどう使えば重ねられるかどうかを見分けられるかを順に整理していく。 千鳥格子は、4本ずつの糸の入れ替わりでできている 1968年、アメリカのデザイナー、ボニー・カシンのコート。ひとつの柄が手のひらほどもある大柄の千鳥格子は、遠くからでも柄として目に飛び込んでくる(クリックでAmazonへ) Photo: Photographer for Rhode Island School of Design Museum of Art / CC0 千鳥格子は、英語ではハウンドトゥース(猟犬の歯)、フランスではピエ・ド・プール(雌鶏の足)と呼ばれる。尖った角が連なる形を、日本では千鳥が群れて飛ぶ姿に、英語圏では犬の歯に見立てたわけだ。呼び名は違っても、指しているのは同じ柄になる。 この柄は、模様を描いたりプリントしたりしてできるものではない。経糸と緯糸の両方に、濃い色の糸を4本、薄い色の糸を4本と交互に並べ、2本ずつ上下させる綾織りで織ると、自然にあのギザギザの形が浮かび上がる。織り方そのものが柄になっているので、糸の太さと本数を変えれば、柄の大きさもそのまま変わる。細い糸で織れば数ミリの小さな柄になり、太い糸で織れば写真のコートのような大柄になる。 起源は19世紀のスコットランド南部とされ、羊飼いや農家が着る丈夫な毛織物の柄として広まった。素朴な仕事着の柄が都会の装いに入ってきたのは20世紀に入ってからで、戦後にはクリスチャン・ディオールが好んで使い、香水「ミス・ディオール」の箱にもこの柄をあしらった。写真のボニー・カシンのコートのように、女性服では大柄の千鳥格子が主役になることも多い。 小さな千鳥格子は、英語ではパピートゥース(子犬の歯)と呼び分けることもある。この大きさの違いが、あとで見る柄合わせの判断にそのまま関わってくる。柄の形は同じでも、大柄と小柄では、着たときに目に入る印象がまったく違うからだ。 グレンチェックをよく見ると、千鳥格子が並んでいる グレンチェックの生地を近くで見ると、左下には千鳥格子がそのまま並び、右上には細かな縞の区画がある。この2種類の区画が交互に組み合わさって大きな格子をつくる(クリックでAmazonへ) Photo: Garik 11 / CC BY-SA 3.0 グレンチェックは、遠目には細い線で区切られた大きな格子に見える。ところが生地に顔を近づけると、写真のように区画ごとに柄が違っている。濃い糸と薄い糸を4本ずつ交互に並べた区画には千鳥格子が現れ、2本ずつ交互に並べた区画には細かな縞や小さな格子が現れる。この2種類の区画が縦横に交互に並ぶことで、大きな格子の輪郭が浮かび上がる仕組みだ。 つまりグレンチェックは、千鳥格子を部品として内側に抱えている柄だといえる。ここが柄合わせを考えるうえでいちばん大事な点だと思う。グレンチェックのスーツに千鳥格子のネクタイを合わせると、上着の中の小さな千鳥格子とネクタイの千鳥格子が、同じ形どうしで並ぶことになる。大きさが近いと、どちらがどちらの柄なのか目が区別できず、首元から胸のあたりがざわついて見える。逆に、大きさがはっきり違えば、同じ形であることがかえってまとまりを生む。 この「同じ形でも大きさが違えば共存できる」という考え方が、記事の後半で使う1つ目の軸になる。グレンチェックと千鳥格子は、柄合わせの難しさと面白さを両方とも一番よく見せてくれる組み合わせだと感じている。 色についても見ておきたい。昔ながらのグレンチェックは、黒やこげ茶と白の2色で織られる。ここに赤茶や青の細い線を格子状に重ねたものがあり、この重ねた線をオーバーチェックと呼ぶ。2色のグレンチェックと、オーバーチェックで3色になったグレンチェックとでは、ほかの柄と合わせるときの難しさがかなり違う。これが2つ目の軸、色数の話につながる。 猟場の番人の服から、皇太子の名を持つ柄へ 1959年、ロンドンのテーラー、キルガー・フレンチ・アンド・スタンベリーが仕立てたグレン・アーカートチェックの三つ揃い。格子がごく細かく、少し離れると灰茶の無地に近く見える(クリックでAmazonへ) Photo: Staff photographer, RISD Museum of Art / CC0 グレンチェックの名前は、スコットランド北部インヴァネスシャーの谷、グレン・アーカートに由来する。1840年代、この地の領地を持っていたシーフィールド伯爵夫人が、領地で働く猟場の番人たちの服をこの柄の毛織物で仕立てさせたのが始まりとされる。もともとは、特定の土地で働く人たちの所属を示すための、いわば制服の柄だった。正式には「グレン・アーカートチェック」と呼ばれ、写真のスーツもその名前で記録されている。 この柄が別名の「プリンス・オブ・ウェールズチェック」を得たのは、英国王室との縁による。皇太子時代のエドワード7世が好んで着たことで知られるようになり、その孫で、のちにウィンザー公となるエドワード8世も皇太子時代にこの柄を愛用した。とくにウィンザー公は、赤茶などの色を重ねた大柄のグレンチェックを、ゴルフや旅先の装いにまで持ち込み、柄物の着こなしの手本として世界中に広めた。いまでは、オーバーチェックの入ったものをプリンス・オブ・ウェールズチェック、入っていない2色のものをグレンチェックと呼び分けることが多いが、店によっては同じ意味で使っていることもある。 写真の1959年のスーツは、同じグレン・アーカートチェックでも、格子がとても細かく、色も灰色と茶色の近い色どうしで織られている。トルソーから少し離れて見ると、柄というより灰茶色の無地に近い。グレンチェックと聞くと大柄の格子を思い浮かべがちだが、実際には大柄から無地に見えるほどの小柄まで幅がある。この幅の広さを知っておくと、ほかの柄と重ねるときの選択肢がぐっと増える。 1つ目の軸、柄の大きさは「離れて見たときに無地に溶けるか」で測る 細かな千鳥格子のツイードジャケットに、柄の入ったネクタイ。上着の柄は顔の近くでも織り目の質感に見え、ネクタイの柄のほうが先に目に入る(クリックでAmazonへ) Photo: Geoff Charles / CC BY-SA 4.0 柄の大きさを考えるときは、ひとつの柄がくり返す幅、つまり同じ形がもう一度現れるまでの長さを見る。千鳥格子なら尖った形ひとつ分、グレンチェックなら大きな格子ひと升分だ。この幅によって、柄はおおまかに3つの段階に分けられる。 ひとつ目は、くり返しの幅が5ミリに満たない小さな柄。腕を伸ばしたくらいの距離で見ると、もう柄としては見えず、織り目の質感や霜降りのような色むらに溶けてしまう。写真の男性の上着がちょうどこれで、近くで見れば千鳥格子だと分かるが、全体としてはざらりとした灰色の生地に見える。小さなパピートゥースや、前の節の1959年のスーツのような細かなグレンチェックもここに入る。 ふたつ目は、くり返しの幅が1〜2センチほどの中くらいの柄。普通の会話の距離で、はっきり柄だと分かる。ネクタイの小紋や細い縞のシャツ、一般的な千鳥格子のジャケットの多くがここにあたる。 みっつ目は、2センチを超える大きな柄。部屋の向こう側からでも柄として目に入る。大柄のグレンチェックのスーツや、ボニー・カシンのコートのような千鳥格子がこれだ。 柄を2つ重ねるときは、この段階が1つ以上離れていることを目安にするとよいと思う。小さな柄と中くらいの柄、中くらいの柄と大きな柄、という組み合わせなら、目がそれぞれの柄を別のものとして受け取るので、ぶつからない。同じ段階どうしを重ねると、2つの柄が同じ距離で同時に主張して、うるさく見える。 ...