ジャズブルースのコード進行は、パーカーの3曲を順に聴けば1週間で耳に入る
ジャズを聴き始めてしばらくすると、「この曲はブルースです」という説明によく出会う。ところが、ロックやソウルで耳になじんだブルースと、ジャズのブルースは、同じ12小節のはずなのにどうも響きが違って聴こえる。コードの数が多く、どこが区切りなのかが分からないまま、気がつくと次のコーラスに入っている。私も長いあいだ、ジャズのブルースは「速くて複雑な何か」としか聴けなかった。 この記事では、その違いを1週間で耳に入れるための練習を組み立てる。使うのはチャーリー・パーカーのブルース3曲だけだ。素朴な形に近い「Now’s the Time」から始めて、同じ日に録音された「Billie’s Bounce」へ進み、最後にコードが細かく置き換えられた「Blues for Alice」にたどり着く。同じ12小節が少しずつ姿を変えていく様子を順番に聴くと、どこに手が加えられたのかが自然に分かってくる。 楽譜が読めなくても、楽器が弾けなくても進められるように書いた。必要なのは、曲を繰り返し再生できる環境と、指で小節を数える習慣だけだ。 なぜこの3曲を、この順番で聴くのか 1947年ごろ、ニューヨークのクラブでのパーカー(手前)とマイルス・デイヴィス(右奥)。1945年のサヴォイ録音でもこの二人が並んでいるPhoto: William P. Gottlieb / Public domain 「Now’s the Time」と「Billie’s Bounce」は、どちらも1945年11月26日、ニューヨークでサヴォイのために録音された。トランペットは当時まだ19歳のマイルス・デイヴィス、ベースはカーリー・ラッセル、ドラムはマックス・ローチという編成だ。同じ日、同じメンバー、同じヘ長調のブルースなので、比べる条件がそろっている。違うのは、メロディの性格と、その下で鳴っているコードの動かし方だけになる。 「Now’s the Time」は、短いフレーズを繰り返すリフ型のメロディで、パーカーのブルースの中でもいちばん覚えやすい。このリフは数年後、別のサックス奏者の「The Hucklebuck」としてそっくり使われ、1949年に大ヒットした。作曲者としてクレジットされたのはパーカーではなかったが、それだけ誰の耳にも残る、素朴で強い旋律だということでもある。 一方の「Blues for Alice」は、6年近く後の1951年8月に録音された。トランペットはレッド・ロドニー、ピアノはジョン・ルイス、ベースはレイ・ブラウン、ドラムはケニー・クラークで、いまは『Swedish Schnapps』という作品に収められている。こちらは同じ12小節の枠の中に、ほぼ2拍ごとにコードを詰め込んだ形になっていて、「バード・ブルース」と呼ばれる進行の代表として扱われている。 つまり、この3曲は、素朴な12小節から、ジャズらしい置き換えを経て、細かく再構成された12小節へ、という段階をそのまま並べたものになる。いきなり3曲目を聴いても、何が起きているのかはまず分からない。1曲目で枠を覚え、2曲目で最初の置き換えに気づき、3曲目でその置き換えがどこまで広がったかを確かめる。この順番が大事だと思う。 12小節を、4小節ずつ3つに分けて数える 練習を始める前に、ブルースの枠を確認しておく。ヘ長調のいちばん基本的なブルースは、4小節ずつの3つの段でできている。1段目はF7が4小節続き、2段目はB♭7が2小節、F7が2小節、3段目はC7、B♭7、F7が1小節ずつ並んで、最後のF7で一回りする。主和音、その4度上の和音、5度上の和音という3つしか使わない、ごく単純な形だ。 ジャズのブルースでは、この骨組みを残したまま、いくつかの場所に手が加えられる。よく見かけるのは次の4か所だ。2小節目で一度だけB♭7に寄り道する。6小節目にBの減和音をはさみ、ベースを半音で押し上げる。8小節目にD7を置いて、次のGm7へ向かう勢いをつける。そして9〜10小節目を、C7だけで済ませずにGm7からC7へと動かす。この「Gm7からC7」のように、2度の短7の和音から5度の属7の和音へ進む動きを、ジャズでは「ツー・ファイブ」と呼ぶ。 これを全部まとめると、F7、B♭7、F7、Cm7とF7、B♭7、B減、F7、Am7とD7、Gm7、C7、F7とD7、Gm7とC7、という並びになる。文字で読むと複雑に見えるが、骨組みは最初の3つの和音のままだ。耳で追うときも、細かい和音を全部聞き分けようとしないで、まず「いま何段目の何小節目か」を見失わないことを優先する。 数え方はシンプルでいい。曲に合わせて、1小節ごとに指を1本ずつ折っていく。4本で1段目、次の4本で2段目、最後の4本で3段目だ。12本数え終わったところで、ちょうどテーマや一人のソロの区切りがやってくれば、数え方は合っている。ずれていたら、テーマの頭からやり直す。これだけで、最初の1日はほぼ終わる。 1〜2日目、Now’s the Timeで12小節の枠を体に入れる 小節を数えるときに頼りになるのはベース。1拍ごとに一つずつ音を置くので、和音が変わる場所が聴き取りやすいPhoto: Meutia Chaerani - Indradi Soemardjan / CC BY 2.5 最初の2日間は「Now’s the Time」だけを聴く。目標は、テーマを聴きながら指で12小節を数え、テーマの終わりでちょうど12本目が来るようにすることだ。リフ型のメロディは同じ形を何度も繰り返すので、どこで段が切り替わるかがつかみやすい。テーマは2回繰り返されるので、2回とも数えが合えば合格にする。 1日目は、テーマだけを10回ほど繰り返し聴く。数えることに慣れてきたら、指を折るのと同時に、段の頭で小さく声を出してみる。「いち」「に」「さん」と段の番号を言うだけで、12小節が3つの塊として聴こえてくる。 2日目は、ソロに入ってからも数え続ける。パーカーのソロが始まるとメロディの手がかりが消え、数えを見失いやすくなる。このときに頼るのがベースだ。ウォーキング・ベースは1拍に1音ずつ歩くので、4つ数えれば1小節になる。ベースが主音のFへ戻ってくる場所を探すと、段の切れ目が見つかる。特に5小節目でB♭へ上がる瞬間は、響きが明るく持ち上がるのでわかりやすい。ここを目印に、ソロが何コーラス続いたかを数えられれば十分だ。 2日目の最後に、もう一つだけやっておきたいことがある。5小節目、9小節目、11小節目の頭で、ベースの音を小さな声で歌ってみる。音程が正確でなくても構わない。F、B♭、C、Fという根音の動きを声でなぞると、骨組みの3つの和音が体の中に入る。これが3日目以降の土台になる。 3〜4日目、Billie’s Bounceで2小節目と8小節目を聴く 同じ日に録音された「Billie’s Bounce」は、メロディの性格がまったく違う。「Now’s the Time」が同じリフを繰り返すのに対して、こちらは上下に大きく跳ね、休符の位置も不規則で、まさにビバップらしい旋律になっている。そのぶん、テーマを聴きながら小節を数えるのは少し難しくなる。 3日目は、まず1〜2日目と同じように12小節を数える。テーマの切れ目が分かりにくければ、ベースだけを追う。数えが合うようになったら、意識を2小節目に向ける。1小節目のF7から2小節目に入ったところで、一瞬だけ響きが明るく持ち上がり、3小節目でまたFへ戻ってくる場面があるはずだ。これがB♭7への寄り道で、5小節目の明るさを先取りしたような響きになる。「Now’s the Time」にはなかった変化として、耳で確かめておく。 4日目は8小節目に集中する。7小節目でFに戻ったあと、8小節目でベースが少し高いところへ移り、響きに張りが出る。ここで鳴っているのがD7で、次の9小節目のGm7へ引っぱる役目を持っている。続く9〜10小節目では、ベースがGからCへと動き、11小節目のFに着地する。これがツー・ファイブで、ジャズのブルースの終盤を形づくる動きだ。 この2日間で聴き取れなくても気にしなくていい。録音によって、ピアノが和音を細かく入れたり、逆にほとんど鳴らさなかったりするので、毎回同じように聴こえるとは限らない。大事なのは「2小節目と8小節目に何かが起きている」と、場所を特定できることだ。場所さえ分かれば、和音の名前はあとから付いてくる。 ...