Cubase Pro 15のスコアエディターを読み解く、Doricoの譜面エンジンと15の新機能
SteinbergのCubase Pro 15は、2025年11月に登場したCubaseの最新メジャーバージョンだ。日本では2025年11月6日にダウンロード版の販売が始まり、2026年1月29日にはライセンス証書を同梱した「通常版」のパッケージも発売された。MIDIシーケンサーとして生まれ、録音・編集・ミックスまでを一台でこなすDAWへと育ってきたCubaseの中でも、最上位にあたるエディションになる。 今回はCubase Pro 15の機能の中から、とくにスコアエディターに焦点を当てたい。Cubase 14で、楽譜機能はSteinbergの楽譜作成ソフトDoricoの技術をもとに丸ごと作り直された。15ではその新しいスコアエディターに、書式設定や表示まわりの改良が少しずつ積み重ねられている。打ち込んだMIDIをそのまま楽譜にして、バンドメンバーやレコーディングの奏者に渡したい人にとって、ここはCubaseを選ぶ大きな理由になりうる部分だと思う。 前半でスコアエディターの仕組みと使い方、15での変化、弱点を詳しく見て、後半ではそれ以外の新機能、エディションと価格、動作環境までを整理していく。DAW全体の比較は「DAW 5本を比べる、机の上のオーケストラを誰に任せるか」にまとめているので、他のDAWとの違いが気になる人はあわせて読んでほしい。Cubaseを学ぶための書籍については「『CUBASE 15 & 15 PRO ユーザーガイド』を手元に、4週間で1曲を仕上げる」で取り上げている。 Cubase Pro 15の立ち位置と主な新機能 Cubaseのエディションは、上からPro、Artist、Elementsの3つ(ほかにハードウェア付属のAI、LEがある)。Proは、ミックスのサラウンド・イマーシブ対応、エクスプレッションマップ、高度なオーディオ編集など、プロの制作現場で使う機能をすべて含んだ最上位版だ。15で加わった主な新機能を、ざっと並べておく。 ステム分離(Pro): 2ミックスの音源を、ボーカル・ドラム・ベース・その他の4つにAIで分離する メロディック・パターンシーケンサー(Pro/Artist): パターンエディターに旋律用のモードが加わり、スケールやコードトラックに沿ったフレーズを生成できる 6種類の新しいモジュレーター: Random、Attack Decay、Morph LFO、Wavefold LFO、Crossfader、Sample & Hold エクスプレッションマップの全面刷新(Pro): スコアエディターやキーエディターとの統合、アーティキュレーションごとの発音タイミング補正など Omnivocal(ベータ版): ヤマハの歌声合成技術による歌声生成。キーエディターで歌詞を入力して歌わせる 新しい音源・エフェクト: Writing Room Synths、PitchShifter(±24半音)、UltraShaper(Pro)、ドラムマシンの新キット40種、Groove Agent SE 6 使い勝手の改良: プロジェクトのプレビュー付きの新しいHub、トラックリストでの音量・パン操作、オートメーションの「最後に触ったパラメーター」操作、クイック書き出し さらに、2026年に入ってからのメンテナンスアップデートでも機能が足されている。15.0.20ではオーディオを通してインサートも使えるフォルダートラックや、MixConsoleのグループの折りたたみが入った。15.0.30では、ProとArtistのユーザー向けにCelemonyのピッチ補正ソフト「Tonalic essential」が無償で提供されている。 スコアエディター — Doricoの技術で生まれ変わった譜面編集 Doricoの技術で描かれるCubaseのスコアエディター(クリックでAmazonの商品ページへ) Image: Steinberg Cubaseのスコアエディターは、Cubase 14で約30年ぶりに作り直された。土台になっているのは、Steinbergの楽譜作成ソフトDoricoの技術で、DoricoがMIDIファイルを読み込むときに使っている「採譜(トランスクリプション)エンジン」と同じものが、Cubaseの中で動いている。MIDIの演奏データから、拍子や調、声部の分かれ方を判断して、読みやすい楽譜を自動で組み上げてくれる仕組みだ。 画面を開くと、まず楽譜の見た目の美しさに目がいく。音符の間隔、連桁の角度、スラーのカーブ、強弱記号の位置といった「浄書」の品質はDorico譲りで、何も調整しなくても、そのまま印刷して譜面台に置ける水準の楽譜が出てくる。旧スコアエディターでは、見られる楽譜にするまでに細かな手直しが必要だったので、この変化はかなり大きいと感じた。 ただし、ここで押さえておきたいのは、このスコアエディターがあくまで「楽譜で見るMIDIエディター」として設計されていることだ。楽譜に並んでいる音符は、MIDIパートの中のノートそのもの。楽譜を編集すればMIDIが変わり、MIDIを編集すれば楽譜が変わる。Doricoのように「楽譜を作ること」自体を目的にしたソフトとは、出発点が違う。この性格を理解しておくと、できること・できないことの線引きがすっきり見えてくる。 なお、新しいスコアエディターはPro、Artist、Elements、さらにAIやLEまで、全エディションで基本的に同じものが使える。エディションによる差が出るのは、後で触れるエクスプレッションマップとの連携(Pro限定)くらいだ。 スコアエディターの開き方と画面構成 スコアエディターは、プロジェクトでMIDIパートを選んでから、メニューの「MIDI」→「スコアエディターを開く」で開く。キーボードショートカットはWindowsならCtrl+R、MacならCmd+R。環境設定によって、独立したウィンドウで開くか、プロジェクトウィンドウ下部のロワーゾーンに表示するかを選べる。打ち込みの合間にちらっと楽譜を確認したいときはロワーゾーン、楽譜をじっくり整えたいときは別ウィンドウ、という使い分けがしやすい。 画面は、おおむね次のような構成になっている。 ツールバー: 選択・入力・消去などのツールや、表示の切り替え 音符入力ツールバー: 音価(音符の長さ)の選択や、異名同音の切り替え 情報ライン: 選んだ音符の位置や長さ、ピッチなどを数値で確認・編集 Visibility(表示)パネル: どのトラックを楽譜に表示するか、どのレイアウトを使うかを選ぶ 左ゾーン: 記号を並べた「Symbols」タブと、移調・クオンタイズ・長さ調整などをまとめた「Note Functions」タブ スコア表示部: 楽譜そのもの 表示モードは2つある。印刷時のページ割りがそのまま見えるページ表示と、ウィンドウの幅に入るだけ小節を並べるフィル表示だ。打ち込み中はフィル表示で横に流して確認し、書き出し前にページ表示へ切り替えて、段の割り付けや改ページを確かめる、という流れが使いやすいと思う。複数のトラックを選んで開けば総譜として表示され、パート譜としてトラックごとのレイアウトも作れる。 ...