モニターアームで画面を浮かせると、机の奥行きとスピーカーの響きはどう変わるのか
制作机の上を見渡すと、いちばん広い場所を占めているのは、意外にもディスプレイの台座だったりする。画面そのものは薄いのに、倒れないように作られた台座は手前へ大きく張り出していて、鍵盤を奥へ押し込めない。スピーカーを置こうとすると台座の脚がじゃまをして、左右の間隔が思ったより狭くなる。机を買い替える前に、まずこの台座を見直してみる価値はあると思う。 モニターアームは、ディスプレイの背中のネジ穴に取り付けて、天板の端から伸ばした腕で画面を宙に支える道具だ。台座がなくなると、画面の下は何もない空間になる。そこへキーボードを滑り込ませることも、スピーカーの位置を数センチ単位で動かすこともできる。画面の高さと奥行きを、机の都合ではなく自分の目と耳の都合で決められるようになるのが、いちばん大きな変化だ。 この記事では、アームで画面を浮かせると机の上で何が起きるのかを、奥行きと音の反射の2つの面から説明し、そのあとで選ぶときに確かめる順番を並べる。最初に見るのは、ディスプレイの背中にあるネジ穴だ。 台座が占めている奥行きを数える 台座で立てたディスプレイ。画面は薄くても、台座が天板の手前側まで張り出しているPhoto: Luke Chesser lukechesser / CC0 まず、いまの机で台座がどれだけの奥行きを使っているかを測ってみてほしい。24〜27インチのディスプレイに付属する台座は、画面の奥から手前まで15〜25cmほどの奥行きを取るものが多い。画面を倒れにくくするために重心を低く前に置く設計なので、画面の真下だけでなく手前にも板や脚が伸びている。奥行き60cmの机なら、そのうち3分の1近くが台座に使われていることになる。 この奥行きが戻ってくると、机の上の配置はかなり変わる。キーボードやMIDI鍵盤を、画面の真下まで押し込める。手首を置く余裕が生まれ、マウスを動かす範囲も広がる。台座をよけるために左右へずらしていたスピーカーを、本来置きたかった位置へ戻せる。机の奥行きが足りないと感じていた人ほど、台座を外したときの広さに驚くと思う。 もうひとつの変化は、画面と目の距離を、机の奥行きとは関係なく決められることだ。画面までの距離は、腕を伸ばした長さ、おおよそ50〜75cmが目安とされる。台座で立てていると、画面の位置は机の奥の壁に押しつけるか、手前に引き出すかの二択になりがちで、奥行きの浅い机では近すぎ、深い机では遠すぎることがある。アームなら、画面を宙に浮かせたまま、ちょうどいい距離で止められる。 高さも同じだ。画面のいちばん上の線が、目の高さと同じか、少し下に来るのが首に負担をかけにくい位置とされる。台座の高さ調整は10cm前後の幅しかないものも多いが、アームは腕の角度で高さを変えるので、座る椅子や姿勢に合わせて画面を上下させやすい。夜に背もたれへ寄りかかってミックスを聴き直すときに、画面を少し引き寄せて下げる、といった動かし方も片手でできる。 机に反射した音は、わずかに遅れて耳に届く 台座で立てた2台のディスプレイ。台座と画面が、机の奥の段をほぼ占めているPhoto: Shixart1985 / CC BY 2.0 音の面で台座が問題になるのは、スピーカーと耳のあいだにある机の表面と画面が、どちらも音をよく跳ね返す硬い面だからだ。スピーカーから出た音は、まっすぐ耳に届く音と、机の天板で一度跳ね返ってから届く音に分かれる。跳ね返った音は遠回りをするので、まっすぐの音より少しだけ遅れて耳に着く。この2つが重なると、特定の周波数だけが打ち消し合って弱くなり、別の周波数では強め合う。周波数の表にすると櫛の歯のような凹凸ができることから、くし形フィルターと呼ばれる現象だ。 数字で考えると分かりやすい。スピーカーの高音用ユニットと耳が、どちらも天板から40cmの高さにあり、両者の水平距離が1mだとする。まっすぐの音の道のりは1mちょうど、天板で跳ね返る音の道のりはおよそ1.28mになり、差は28cm。音の速さを秒速343mとすると、跳ね返った音は約0.8ミリ秒遅れて届く。道のりの差がちょうど波長の半分になる周波数で打ち消し合いが起きるので、最初の谷はおよそ610Hz、その次は1.8kHz付近、3kHz付近と、等間隔に谷が並ぶ。610Hzは声や楽器の胴鳴りが集まる帯域で、そこが痩せて聞こえると、ミックスで必要以上に中域を持ち上げてしまうことがある。 厄介なのは、この谷はイコライザーでは埋められないことだ。打ち消し合いは、跳ね返った音とまっすぐの音が空間で重なって起きているので、スピーカーに送る信号を持ち上げても、跳ね返る音も同じだけ大きくなり、谷は残る。しかも、頭を少し動かすだけで道のりの差が変わり、谷の位置もずれる。座り直すたびに中域の聞こえ方が違う、と感じるなら、机の反射を疑ってみていい。 対策は、反射する面を減らすか、反射の道のりを変えることだ。スピーカーを天板に直接置かず、台やスタンドで持ち上げ、少し下向きに角度をつけて机の手前の縁より前に出すと、天板で跳ね返る音の量が減る。ここで台座が残っていると、スピーカーの台を置く場所が足りなかったり、スピーカーを前に出すと台座とぶつかったりする。アームで画面を浮かせると、天板の上に置くものが減り、スピーカーの位置を決める自由が生まれる。 画面はスピーカーを結ぶ線より奥へ 左右のスピーカーと自分の頭が、1辺の長さの等しい正三角形をつくるように置くのが、近い距離で聴くスピーカーの基本の配置だ。高音用ユニットは耳の高さにそろえ、スピーカーの正面を自分の頭へ向ける。このとき気をつけたいのが、画面の位置だ。 画面は、左右のスピーカーの前面を結んだ線より奥に置くのが望ましい。画面がその線より手前、つまり自分に近い側へ出てくると、スピーカーから出た音が画面の表面に当たり、横から跳ね返って耳に届く。机の反射と同じように、まっすぐの音とわずかにずれた音が重なって、中高域に谷ができる。大きな画面ほど跳ね返す面積も広くなる。画面の位置を確かめるには、聴く位置に座ったまま、画面の表面に手鏡を当てて動かしてみるといい。鏡の中にスピーカーが見える場所が、音が跳ね返って耳に届く場所だ。 台座で立てていると、画面の奥行きの位置は台座の大きさと机の奥行きで決まってしまう。浅い机では、スピーカーを奥の壁際に寄せても、画面がスピーカーより手前に出てしまうことがある。アームなら、画面を机の奥の縁のさらに後ろまで引くこともできるし、スピーカーの少し上へ持ち上げて、音の通り道から外すこともできる。画面とスピーカーを同じ机に載せる以上、どちらかが譲る必要があるが、アームを使うと画面のほうが譲れるようになる。 画面を高く上げすぎると首に負担がかかるので、音のために画面を犠牲にする必要はない。スピーカーの高音用ユニットを耳の高さにそろえたうえで、画面の下の縁がスピーカーの上端と同じくらいの高さに来るように浮かせると、音の通り道と視線の両方を確保しやすい。ここから先は、そのアームを選ぶときに確かめることを、順番に見ていく。 最初に確かめるのはVESAのネジ穴 横長のディスプレイを背面の取り付け板で支えるアーム。画面の背中にあるネジ穴に、アーム側の板をネジで留めるPhoto: Kyu3a / CC BY-SA 4.0 アームを買う前にまず見るべきなのは、ディスプレイの背面だ。多くのディスプレイの背中には、正方形に並んだ4つのネジ穴がある。これはVESA(ビデオエレクトロニクス規格協会)が定めた取り付けの規格で、正式にはFDMIと呼ばれる。穴の間隔は75×75mmと100×100mmがもっとも一般的で、大きな画面では200×100mmや200×200mmもある。24〜32インチ前後のディスプレイの多くは100×100mmだ。アームの取り付け板がどの間隔に対応しているかは仕様表に書かれているので、自分の画面の間隔と一致するかを先に確かめる。 ネジは75mmと100mmの間隔ならM4、つまり直径4mmのものが使われることがほとんどだ。アームに付属するネジは何種類かの長さがそろっていることが多く、画面の背中の形に合わせて選ぶ。長すぎるネジを無理にねじ込むと内部を傷めるおそれがあるので、手で軽く回して止まる長さを選び、最後に締める。背面が丸く膨らんでいたり、ネジ穴が凹んだ位置にあったりする画面では、付属のスペーサーを挟んで取り付け板が浮かないようにする。 背面にネジ穴がない画面もある。薄さやデザインを優先した一体型の台座の製品に多い。この場合、メーカー純正の変換金具が用意されていればそれを使い、なければ画面を挟み込んで固定する社外の変換金具を探すことになる。曲面の画面や、背面が特殊な形の画面は、変換金具が合わないこともあるので、買う前に製品名で対応を調べておくと安心だ。ネジ穴があるかどうかは、取扱説明書の仕様の欄に「VESA 100×100」のように書かれていることが多い。 重さは「スタンドを外した数字」で選ぶ 机の端に根元を固定し、関節のある腕で画面を支えるアーム。腕の中のばねが画面の重さと釣り合っているPhoto: Ben Scholzen / CC BY 2.0 ネジ穴が合ったら、次は重さだ。アームの腕の中には、画面の重さと釣り合うように力を返すばねが入っている。この釣り合いが取れていると、画面は指1本で上下に動かせて、手を離した位置でぴたりと止まる。アームの仕様に書かれた耐荷重は、このばねが釣り合いを取れる重さの範囲を示している。たとえばエルゴトロン LXは3.2〜11.3kg、Amazonベーシックのガススプリング式シングルアームは2.0〜7.0kgの範囲だ。 ここで使う重さは、台座を外した画面だけの重さだ。ディスプレイの仕様表には、台座込みの重さと台座なしの重さが並んで書かれていることが多い。台座は画面より重いこともあるので、台座込みの数字で選ぶと、実際に吊るす重さよりかなり重いアームを選んでしまう。 耐荷重には上限だけでなく下限もある。上限を超えると画面が少しずつ下がっていき、下限を下回るとばねの力が勝って画面が勝手に持ち上がる。軽いノートパソコン用の画面や小型の画面を、大型向けのアームに付けると、どれだけ調整しても止まらないことがある。自分の画面の重さが、範囲のちょうど真ん中あたりに来るアームを選ぶと、ばねの調整にも余裕が残る。画面の裏にウェブカメラや照明を付けるつもりなら、その分も足しておく。 ばねには、気体を封じたガスばね(ガススプリング)と、金属のコイルばねの2種類がある。ガスばねの製品は動きがなめらかで、手を離した位置に止まりやすい。コイルばねの製品は価格を抑えやすい一方、関節の締め付けで位置を保つものもあり、動かすたびに工具で締め直すことがある。画面をよく動かすなら、片手で動かせて止まる仕組みのものを選ぶと、毎日の使い心地がまるで違ってくる。どちらの方式でも、取り付けたあとに付属の六角レンチでばねの強さを調整し、画面が上にも下にも動かない位置を探す作業は必要だ。 クランプかグロメットか、天板の裏を見る アームの根元を机に固定する方法は、主に2つある。天板の端を上下から挟んで締め付けるクランプ式と、天板に開けた穴にボルトを通して固定するグロメット式だ。多くの製品は両方の部品が付属していて、机に合わせて選べる。 クランプ式は穴を開けずに取り付けられるので、賃貸の部屋や、天板を傷つけたくない机に向いている。ただし、締め付ける金具を天板の後ろ側に回すので、机と壁のあいだに数センチの隙間が要る。机をぴったり壁に付けているなら、取り付ける前に少し前へ引き出しておく。天板の裏に補強の枠や引き出しがあると、金具が当たって挟めないこともあるので、机の下にもぐって裏側を見ておきたい。 グロメット式は、天板の好きな場所に根元を立てられる。配線用の穴がもともと開いている机なら、そこを使えることもある。机と壁のあいだに隙間を作れないときや、天板の真ん中寄りに根元を置きたいときに便利だ。 どちらの方式でも、天板の厚みと強さを確かめておく。対応できる天板の厚みは製品ごとに決まっていて、10〜60mm程度の範囲が多い。定規で自分の机の厚みを測り、仕様の範囲に収まっているかを比べる。もうひとつ気をつけたいのが、天板の素材だ。中が空洞の薄い板や、表面だけを化粧板で覆った柔らかい板は、重い画面を腕の先に伸ばしたときの力が一点に集まり、締め付けた部分がへこんだり割れたりすることがある。そういう机では、天板の上下に当てる補強板を挟むと、力が広い面に分散する。アームは画面の重さを腕の長さで増幅して根元に伝えるので、台座のときより机への負担は大きくなると考えておいたほうがいい。 取り付けたあと、高さと奥行きを決める順番 アームが付いたら、配置を決める順番を意識すると、行ったり来たりが減る。最初に決めるのは椅子の高さだ。足の裏が床につき、ひじが机の高さと同じくらいになるように座面を合わせる。次に、その姿勢でスピーカーの高音用ユニットが耳の高さに来るよう、スピーカーの台や角度を整え、左右のスピーカーと頭が正三角形になる位置を決める。音の位置を先に決めるのは、スピーカーは動かすたびに聞こえ方が変わり、画面のほうが後から合わせやすいからだ。 画面はそのあとに合わせる。左右のスピーカーの前面を結んだ線より奥に画面を引き、画面の上の線が目の高さと同じか少し下になる高さで止める。画面との距離は50〜75cmを目安に、文字が無理なく読める位置を探す。画面を少し上向きに傾けると、照明の映り込みが減ることもある。最後に手鏡を画面に当てて、聴く位置からスピーカーが映り込まないかを確かめる。映るようなら、画面をさらに奥へ引くか、角度を変える。 配線もこのときに整える。アームの腕には、ケーブルを沿わせて隠すための溝やクリップが付いていることが多い。画面を上下や前後に動かしてもケーブルが突っ張らないよう、関節のところで少し余裕を持たせて留める。電源と映像のケーブルを腕に沿わせ、そのまま天板の裏へ落とすと、机の上から線がほとんど消える。 すべてが決まったら、画面を少し動かしてみて、手を離したときに止まるかを確かめる。下がるならばねを強く、上がるなら弱く調整する。数日使ってから、もう一度高さと奥行きを見直すと、自分の座り方の癖に合った位置が見えてくることが多い。 まとめ アームを選んで取り付けるまでの確認を、順番に並べておく。 順番 確かめること 目安・ポイント 1 画面背面のVESAのネジ穴 75×75mmか100×100mmが多い。ネジはM4。穴がなければ変換金具 2 台座を外した画面の重さ 耐荷重の範囲の真ん中あたりに来るアームを選ぶ 3 ばねの方式 よく動かすならガスばねなど、片手で動かして止まる方式 4 固定方法 クランプは壁との隙間、グロメットは天板の穴が必要 5 天板の厚みと強さ 仕様の厚みの範囲内か。柔らかい板は補強板を挟む 6 スピーカーの配置 高音用ユニットを耳の高さに、頭と正三角形に 7 画面の位置 スピーカーを結ぶ線より奥へ。上の線は目の高さか少し下 台座をなくすと、机の上に戻ってくるのは奥行きだけではない。画面とスピーカーと自分の位置を、それぞれの理想に近いところで決め直す自由が戻ってくる。中域の聞こえ方が座り直すたびに変わる、鍵盤を置く場所が足りない、という悩みのどちらかに心当たりがあるなら、机を替える前に、まず画面を浮かせてみる価値があると思う。 ...