ローファーかダービーか。紐一本で変わる秋の装いの幅と、靴下の合わせ方
秋になって素足にスニーカーという季節が終わると、足元に革靴を戻したくなる。そのときにまず迷うのが、紐の無いローファーにするか、紐を結ぶダービーにするかという選択だ。どちらも「きちんとしすぎない革靴」として扱われることが多く、店頭でも隣り合わせに並んでいる。ただ、この2つは成り立ちも、合わせやすい服の幅も、似合う靴下や裾の長さも、思っている以上に違う。 この記事では、ローファーとダービーの構造の違いから入り、それぞれがどんな靴から生まれたのかを短くたどったうえで、ソールの厚み、靴下、パンツの裾という3つの要素で履き分けを決めていく。最後に、秋の1週間を想定した組み合わせの表も置いておく。 紐があるかないか、それだけで靴の格が変わる 羽根の部分が甲の革の上に乗っているのが外羽根式、つまりダービーの目印(クリックでAmazonへ) Photo: Wikipedia-ce / CC0 革靴の格を大まかに並べると、いちばん改まっているのが内羽根式のオックスフォード、その次が外羽根式のダービー、さらにモンクストラップをはさんで、いちばんくだけた位置にローファーが来る。冠婚葬祭やきちんとした商談の場ではオックスフォード、普段のスーツやジャケパンならダービー、休日や柔らかい仕立ての服ならローファー、というのが基本の考え方だと思う。 オックスフォードとダービーの違いは、紐を通す「羽根」の付き方にある。オックスフォードは甲の革(ヴァンプ)の下に羽根が潜り込むように縫われていて、紐をほどいても羽根の根元が閉じたままになる。ダービーは逆に、羽根が甲の革の上に乗る形で縫い付けられているので、紐をゆるめると羽根が左右に大きく開く。写真の靴を見ると、羽根の縁の縫い目が甲の上に重なっているのが分かる。この「開く」構造のおかげで、ダービーは甲の高い足でも履きやすく、厚手の靴下を履いても紐で調整が効く。秋冬に出番が増える理由のひとつはここにある。 ローファーにはそもそも紐が無い。甲を覆うモカシン縫いの革と、履き口の形だけで足を留めている。脱ぎ履きが楽なぶん、サイズの調整は効かず、足に合う一足を選べるかどうかが履き心地をほぼ決めてしまう。紐を結ぶ手間がある靴と無い靴、この違いがそのまま「改まり方」の違いとして見られている、と考えると分かりやすい。 ペニーローファーはノルウェーの漁師の靴から始まった 甲のストラップに切れ込みのあるペニーローファー。積み上げた革のヒールとレザーソールが端正な横顔を作る(クリックでAmazonへ) Photo: Wikipedia-ce / CC0 ローファーの原型は、ノルウェー西部のアウルランという村の靴職人、ニルス・グレゴリウッソン・トヴェランゲルが作ったスリッポンにさかのぼる。彼はアメリカで靴作りを学んだあと故郷に戻り、地元の漁師が履いていた紐の無い靴と、アメリカ先住民のモカシンの縫い方を組み合わせた。1930年ごろに生まれたこの靴は、のちに「アウルランシューズ」と呼ばれるようになる。 この靴がアメリカで量産されるきっかけを作ったのが、G.H.バスだ。1936年に発売した「ウィージャンズ」は、名前そのものがノルウェー(ノルウィージャン)から取られている。甲のストラップにひし形の切れ込みがあり、1950年代の大学生たちがそこに1セント硬貨を挟んだことから「ペニーローファー」という呼び名が広まった。白い靴下とロールアップしたチノパンに合わせるアイビースタイルの定番になったのもこの頃だ。 ヨーロッパでは別の流れが育った。フランス・リモージュの靴メーカー、J.M.ウエストンは1946年に「180」というローファーを出し、1960年代のパリでは若者がこれを素足にジーンズで履くのが流行した。1953年にはグッチが馬具の金具をあしらったホースビットローファーを出し、1950年にはアメリカのオールデンが甲に房飾りをつけたタッセルローファーを世に出している。ローファーは作業靴から始まりながら、わずか20年ほどで学生の靴、パリの若者の靴、そして大人の装飾的な靴へと枝分かれした。この幅の広さが、今でもローファーが合わせる服を選ばない理由だと感じる。 ダービーはプロイセン軍の靴から、甲の高い足のための靴へ 装飾の無いプレーントゥのダービー。外羽根が甲の上で左右に開き、紐で締め具合を調整できる(クリックでAmazonへ) Photo: Rainer Ersfeld / CC BY-SA 2.5 ダービーの成り立ちにはいくつかの説がある。もっともよく知られているのは、ナポレオン戦争の時代にプロイセンの元帥ゲプハルト・レベレヒト・フォン・ブリュッヘルが、兵士の足に合わせやすいよう羽根を甲の上に重ねたブーツを作らせたという話だ。アメリカで外羽根式の靴を「ブラッチャー」と呼ぶのは、この元帥の名前に由来している。イギリスでの「ダービー」という呼び名については、甲の高いダービー伯爵のために作られたという説や、19世紀の狩猟用の靴から来たという説があり、はっきりとは定まっていない。 どの説にも共通しているのは、「足の形に合わせて締め具合を変えられる実用的な靴」として生まれたという点だ。軍靴や狩猟靴の出自を持つので、もともとオックスフォードよりも頑丈で、ソールも厚めに作られることが多い。 現在も続く定番を挙げると、イギリスのチャーチが1974年から作り続けているプレーントゥのダービー「シャノン」や、1973年に生まれたウイングチップのダービー「グラフトン」がある。グラフトンはグッドイヤーウェルト製法にレザーのダブルソールという、いかにも英国らしい堅牢な作りだ。フランスのパラブーツ「ミカエル」は、ノルウィージャンウェルトという縫い方でソールを付けたチロリアン型のダービーで、雨の日にも気兼ねなく履ける。もっと身近なところでは、ドクターマーチンの3ホールシューズ「1461」も外羽根式のダービーで、1961年4月1日という発売日がそのまま品番になっている。同じダービーでも、ドレス寄りからワーク寄りまで振れ幅がとても大きい。 ソールの厚みが、合わせられるパンツを決める スエードに厚手のラバーソールを合わせたダービー。ソールの厚みが増すほど足元はカジュアルに寄る(クリックでAmazonへ) Photo: Wikipedia-ce / CC0 ローファーとダービーを履き分けるとき、紐の有無と同じくらい効いてくるのがソールの厚みだ。靴を真横から見たときのソールの厚さは、そのまま足元の「重さ」になり、どんな太さ・素材のパンツと釣り合うかを決める。 薄いレザーのシングルソールは、横顔がすっきりしていて、細身のスラックスや軽いウールのパンツとよく合う。歩いたときに足裏が地面の形を拾いやすく、軽くてしなやかなのが魅力だ。ただ減りは早く、雨の日にはあまり向かない。多くのローファーは、靴底をアッパーと中底ごと一本の糸で縫い付けるマッケイ(ブレイク)製法で作られていて、返りがよく軽い反面、水が染みやすい。端正なローファーは、晴れた日にきれいなパンツと合わせる靴だと考えておくと失敗しにくい。 レザーのダブルソールになると、ソールの縁が一段張り出して、靴全体に重みが出る。冷たい路面からの冷えも伝わりにくく、秋冬にはありがたい。フランネルやツイードのような起毛した厚手の生地、太めのウールのパンツとはこのくらいの重さの靴が釣り合う。ダービーの多くは、甲の革と中底をウェルトという細い革に縫い付けてから靴底を縫うグッドイヤーウェルト製法で作られていて、靴底の張り替えがしやすく、長く履き続けられる。 ラバーソールにもいくつか種類がある。イギリスのダイナイトソールは、小さな丸い突起が並んだ薄型のゴム底で、横から見るとレザーソールとほとんど変わらない。見た目をドレス寄りに保ったまま雨の日にも履けるので、通勤用のダービーとの相性がよい。山のように深い溝が刻まれたコマンドソールや、柔らかい天然ゴムのクレープソールは、一気にカジュアルに振れる。こちらはデニムやコーデュロイ、チノパンといった太めで厚手のパンツと合わせたときに、足元だけ浮いて見えるのを防いでくれる。 まとめると、細身で薄手のパンツには薄いソール、太めで厚手のパンツには厚いソール。ローファーかダービーかを決める前に、まず合わせたいパンツの太さと生地の厚みを見る、という順番で考えると選びやすいと思う。 靴下は靴ではなくパンツに合わせる 柔らかいスエードのタッセルローファー。明るい色のローファーほど、靴下の色が目に入りやすい(クリックでAmazonへ) Photo: Peachyeung316 / CC BY-SA 4.0 靴下の色合わせでいちばん基本になるのは、靴ではなくパンツの色に合わせるという考え方だ。グレーのフランネルにはチャコールの靴下、ネイビーのスラックスにはネイビーの靴下、というように、裾から靴までを一続きに見せると脚が長く見え、靴そのものの形もきれいに浮かび上がる。ダービーでもローファーでも、迷ったらまずこの合わせ方に戻ればよい。 その上で、ローファーとダービーでは靴下の見え方が違う。ダービーは甲を羽根と紐が覆っているので、靴下が見えるのは裾と靴のあいだのわずかな部分だけだ。厚手のウールのリブソックスを履いても足元がもたつかず、紐で締め具合を調整できる。秋から冬にかけて、温かい靴下を気兼ねなく履けるのはダービーの強みだと思う。 ローファーは履き口が大きく開いているので、足の甲から足首にかけての靴下がよく見える。そのぶん、靴下で表情を変える余地が大きい。夏場や軽いチノパンの日には、くるぶしまで隠れる浅い靴下(フットカバー)を合わせて素足のように見せるのが定番だが、秋に入ったら、薄手のウールのリブソックスに切り替えたい。履き口からのぞく細いリブの凹凸が、ローファーのきれいな曲線を引き立ててくれる。 もう少し遊びを入れたいなら、白い靴下という選択肢もある。前の節で触れたように、1950年代のアイビースタイルでは、白い靴下にペニーローファー、裾を折り返したチノパンという組み合わせが定番だった。少し懐かしく、やんちゃな雰囲気が出るので、紺のブレザーやケーブル編みのセーターと合わせると、全体がまとまって見える。アーガイル柄の靴下も、ローファーの履き口からのぞく面積がちょうどよく、秋らしい色を足元に足したいときに便利だ。ダービーで同じことをすると柄がほとんど見えないので、遊びの靴下はローファーの日に回すとよいと思う。 裾の長さで、靴の見え方が変わる パンツの裾が靴の甲に当たってできるたるみを「ブレイク」と呼ぶ。このたるみの量によって、同じ靴でも見え方がずいぶん変わる。 ローファーと相性がいいのは、裾が甲にほとんど触れないノーブレイクか、わずかに触れる程度のクォーターブレイクだ。ローファーの見せ場は甲のモカシン縫いと履き口の曲線なので、裾がそこにかぶってしまうと、せっかくの形が隠れてしまう。細身のパンツを少し短めに仕立てて、靴下が数センチのぞくくらいにすると、ローファーの軽やかさがいちばんよく出る。 ダービーは、ブレイクの量にそれほど神経質にならなくてよい。羽根と紐の部分に適度な高さがあるので、裾が少し乗っても靴の輪郭がつぶれにくい。厚いソールのダービーなら、靴の高さが増すぶん、裾も気持ち長めにしておくとバランスが取れる。太めのウールパンツやデニムを、裾にゆとりを残して合わせられるのは、ダービーならではの懐の深さだ。 裾の後ろ側を前側よりわずかに長くしておくと、かかとの方へ流れるように落ちて、どちらの靴でも後ろ姿がきれいに見える。パンツを裾上げに出すときは、どちらの靴と合わせることが多いのかを先に決めておくのがおすすめだ。 ...